※この作品はR-18です。

TS娘が支配欲の強い先輩に無理やり孕まされる話   作:世界一位

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5話

 幼い頃の僕は、女の子みたいだと周りの大人たちからよく可愛がられていた。

 幼稚園の休み時間も、泥だらけになって走り回る男の子たちより、女の子たちとおままごとやお絵かきをして過ごす方が好きだった。争いごとがなくて、優しくて。そこは僕にとって、とても穏やかで居心地の良い場所だったから。

 

 けれど、成長するにつれて、無邪気な同性の言葉が僕を刺すようになった。

 

「お前、男のくせに女とばっか遊んでて変なの!」

 

 悪気のない、けれど鋭い男の子の言葉。

 それは、僕の中に初めて「自分は周りの男の子とは違うんだ」という小さな焦りを植え付けた。

 

 以来、僕は少し背伸びをして、男の子らしい遊びの輪に混ざるようになった。

 それはそれで楽しかった。けれど、大きな声で威嚇し合ったり、取っ組み合いをして擦り傷を作ったりするのは、どこか少しだけ息が詰まって、疲れてしまう自分がいた。

 ふとグラウンドの隅で、女の子たちが静かにおままごとをしているのを見ると、胸の奥でほんの少しだけ、チクッと後ろ髪を引かれるような感覚があった。あっちの優しくて穏やかな世界の方が、本当は僕の性に合っているんじゃないかって。

 

 でも、すぐにそのささいな違和感を打ち消した。僕は男の子なんだから。

 みんなみたいに、男らしくならなきゃ。

 そんな焦燥感を抱えていた僕が見つけたのが、男の子たちの間で人気があったテレビ番組の『ヒーロー』だった。

 テレビの中のヒーローは、人を助け、親切にし、みんなから好かれていた。

 

(そっか。これを真似すればいいんだ)

 

 困っている人を助け、自分を犠牲にしてでも誰かの役に立つ。そうすれば、本当は男の子らしさなんて欠片もない僕でも、立派な『男の子』として認めてもらえる。

 それからの僕は、家族の手伝いを率先して引き受けたり、友達の世話を焼いたりと、とにかく周りの人たちに尽くすようになった。

 

 誰かのために動き、必要とされている間だけは、胸の奥にある「自分は周りの男の子とは違うのかもしれない」という不安な隙間が、あたたかな充足感で満たされていく気がしたから。

 

「雪兎は本当に優しいね」「いつも助かるよ、ありがとう」

 

 そうやって感謝され、向けられた愛情に応えるように世話を焼くたびに、自分がここにいていいのだと許されたような気がして、ひどく安心したのを覚えている。

 

 ……でも、なんであんなに必死になって、みんなの真似をしてまで「普通の男の子になろう」としていたんだろう。

 今となっては、最初のきっかけなんて、まるで夢の中の出来事みたいにぼんやりとしていて、うまく思い出せない。

 

 ――ふと、そんな遠い昔の記憶が、熱に浮かされた脳裏をよぎった。

 

「……ん、ぁ……」

 

 快感で少しの間だけ飛んでいた意識が、ゆっくりと現実へ引き戻される。

 窓の外からは、文化祭の準備に追われる生徒たちの賑やかな喧騒が、ひどく遠い場所の出来事のように微かに聞こえていた。

 ここは校舎の離れにある特別棟。その最奥に位置する生徒会室は、分厚い扉の内側からしっかりと鍵がかけられ、完全に外界から遮断されている。

 この閉ざされた密室にいるのは、響也さんと僕の二人きり。

 

 ぼんやりとした視界が焦点を結ぶより先に、鼻腔を突く強烈な匂いにはっと気がついた。

 汗と、むせ返るような濃密な雄の匂い。そして、密室に充満する生臭い精液の匂い。それを嗅いだ瞬間、酷使されて気怠いはずの僕の身体がビクッと条件反射のように震え、たっぷりと白濁を注ぎ込まれたばかりの下腹部がきゅんと甘く疼いた。

 

「……どうしたの、ゆき。手が止まっているよ」

 

 頭上から降ってくる、低くて甘い声。

 瞬きをして目の前の景色を確かめると、僕の顔のすぐ目の前には、つい先ほどまで何度も僕を貫き、お腹の奥を限界まで満たし続けた響也さんの猛々しい肉棒がそそり立っていた。

 度重なる情事の後だというのに、それはまだ硬さを保ち、先端の鈴口からは残り汁と透明な蜜をとろりと溢れさせている。

 

「あ……ごめんなさい、響也さん……」

 

 熱に浮かされた頭のまま、僕は慌ててご奉仕――行為後の『お掃除』を再開するために、ごく自然にその巨大な塊へ手を伸ばし、そっと指先で包み込んだ。

 昔の僕なら、男のそんなものを目の前に突きつけられたら、悲鳴を上げて逃げ出していただろう。

 けれど、響也さんに抱かれるようになってから数ヶ月。幾度となくこの『お掃除』を命じられ、当たり前のように繰り返してきた今の僕は、その生々しい形やむせ返るような匂いに対して、不思議と嫌悪感も抵抗感も湧かなくなっていた。

 それどころか、手のひらの中でビクン、と熱く脈打って動くのを、ほんの少しだけ面白いとさえ感じ始めている。

 

 ちゅっ――。

 

 僕は柔らかな先端に、小鳥がついばむようにそっと唇を落とした。

 かすかな水音が跳ねる。

 先ほど僕の中に吐き出されたばかりの精液の残り香と、少しの苦みに、強烈な刺激臭。決して美味しいものではないはずなのに、唇を触れ合わせるだけで、なぜだか身体の芯がじんじんと甘く発熱していく。

 

(……綺麗に、してあげなきゃ……)

 

 今はただ、目の前にいるこの人を綺麗にして、気持ちよくさせてあげたい。僕の奉仕で、役に立ちたい。

 そんな純粋な思いから、僕はもう一度、今度は少しだけ口を開いて、先端にぴったりと唇を押し付けた。

 

 ちゅぷっ、んちゅっ……♡

 

 太い竿を小さな両手で優しく包み込んで、熱い先っぽに何度もキスを落とす。

 男の人のおちんちんを扱いて、こんな卑猥な変態行為を、息をするように自然にできている自分がいる。昔の僕なら絶対にあり得ないのに、今はなんの違和感もなく、むしろ嬉々として受け入れてしまっている。

 

(僕、すっかり……女の子になっちゃってる……)

 

 熱に浮かされた頭の片隅でそう実感するけれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

 ちゅむっ、れろぉっ……♡

 

 やわらかい舌を這わせると、傘のように張ったカリ首の独特な形が、なまぐさい味と一緒にはっきりと口のなかに伝わってくる。

 

(このおちんちんが、いつも僕の中をぐちゃぐちゃにして……すっごく、気持ちよくしてるんだよね……)

 

 そう思うと、なんだか少しだけ悔しいような、甘えたいような不思議な気持ちになって。僕は尖らせた舌先で、一番敏感そうなカリの裏側を、えいっ、えいっ♡と仕返しするように小突いていじめてみた。

 

 すると、手のひらのなかで、大きなおちんちんがビクリッ!と熱く跳ねる。

 僕の意地悪にやられてビクビクしているみたいなその素直な反応が、なんだかたまらなく可愛くて、無性に愛おしくなってしまう。

 

(ふふっ……♡ どう? きもちいい? きもちいい……?)

 

「……ん。いい子だ。すごく上手だよ、ゆき」

 

 響也さんの大きな手が、僕の頭を優しく撫でる。

 ――その瞬間だった。

 

(あ……っ♡)

 

 頭を撫でられた刺激が完全にスイッチになり、僕の脳内で何かが弾けた。

 もっと。もっと褒めてほしい。もっと撫でてほしい。

 尽くせば尽くすほど与えられるその『ご褒美』に、僕の身体はパブロフの犬のように歓喜し、理性という蓋をあっさりと吹き飛ばしてしまった。

 

 ちゅ、ちゅ、ちゅぷっ、んちゅうぅっ……♡

 

 恥じらいも躊躇いも消し飛び、僕は無我夢中でキスの雨を降らせ始めた。

 カリ首の溝を舌先でなぞり、こびりついた白濁と溢れ出す先走りの粘液を残さず舐め取っていく。口内にはどっと涎が溢れ、響也さんの肉棒をぬらぬらと濡らしながら、さらに激しく吸い付いていく。

 

「よしよし、いいお口だ。……っ、ゆき、ちょっと待て。またイきそうだ……」

 

 ズチュ、ズチュチュッ!と貪るようにしゃぶり続ける僕の頭を、響也さんが少しだけ引き剥がそうとする。

 

「またナカに出してあげるから、一回口を離し――」

 

 響也さんが何かを囁いている。でも、その言葉すらも、今の僕の耳にはまったく届いていなかった。

 頭の中は、目の前の熱い肉棒をしゃぶり尽くすことでいっぱいだ。口を離すどころか、僕は逃がすまいと両手でしっかりと太い竿をホールドし、さらに喉の奥深くまで咥え込んでしまった。

 

 んぐぅっ、ずちゅぅっ……♡

 

 その瞬間。手のひらで握りしめた硬い竿が、限界を報せるようにビクビクと大きく震えだした。

 同時に、喉の奥にすっぽりと収まっている大きなカサの部分が、はち切れんばかりにブワッと一回り大きく膨れ上がったのが、お口の粘膜越しにはっきりとわかる。

 

(あ……っ♡ 来るっ……♡ 響也さんの熱いの、いっぱいくるっ……♡)

 

 もうすぐ、僕のお口のなかが『しあわせ』でいっぱいになる。

 その期待だけでお腹の奥がキュンキュンと甘く疼いて、僕はご褒美をねだるように、さらに強く思いきり頬をすぼめて吸い付いた。

 

(いいよっ……♡ このままだしてっ♡ だしてっ♡)

 

「くっ……ダメだ、ゆき、そのまま……っ、出るッ!」

 

 ――ドクンッ!!

 

「んぐっ、んぐぅっ……♡♡」

 

 限界を迎えた響也さんの身体が大きく跳ね、僕のお口のなかに、ものすごい量の熱い白濁が勢いよく解き放たれた。

 ビュクン、ビュクンッ!と、口のなかで荒々しく脈打って、どくどくと吐き出し続ける大きなおちんちん。

 ふつうならむせ返ってしまうような生臭い匂いも。頭がすっかりふやけきった今の僕にとっては、たまらなく嬉しいご褒美だった。

 

(あぁっ……♡ すご、い……せーし、いっぱい射精(れ)てる……っ♡)

 

 ごくり、ごくりと喉を鳴らして、あつい精液をぜんぶ飲み干していく。

 やがて、ビクビクと激しく跳ねていた動きが、だんだんとゆっくりになっていく。

 

 とくんっ……、とくんっ……、とくんっ……。

 

(あ……♡ おちんちん……おとなしくなってきた……♡)

 

 僕は、がんばってくれたおちんちんを労うように、舌の腹を使ってうっとりとやさしく包み込んだ。

 ただ、僕のぜんぶを使って、この人を癒やしてあげたい。もっともっと、気持ちよくなってほしい。

 

 れろぉっ、ちゅむっ、ちゅぷぅっ……♡

 

 いっぱい出して敏感になってる先っぽを、やさしく、ねっとりと舐めしゃぶる。

 

「……ふぅ。よしよし、偉いね。ゆきのお口、すごく気持ちよかったよ」

 

 響也さんの大きな手が、僕の頭をよしよしと優しく撫でてくれる。

 

(えへへ……♡ 響也さん、ほめてくれた……っ♡)

 

 頭を撫でられる心地よさと、響也さんの役に立てたという甘い充足感。ご主人様に褒められたことがどうしようもなく嬉しくて、自然と頬がだらしなく緩んでしまう。

 ご奉仕して、綺麗にしてあげて、喜んでもらって、撫でられる。そのあまくて幸せなループのなかで、僕はとろけるような恍惚に浸っていた。

 からっぽで純粋なよろこびだけで、僕のからだも心も、たまらなく幸せに――。

 

 ――ちゅぽっ。

 

「あ……」

 

 唐突に。

 お口のなかを甘く満たしていた熱い塊が、引き抜かれた。

 ぽっかりと空いてしまったお口に、冷たい空気が流れ込んでくる。僕は(あ……待って、まだ……っ)と名残惜しそうに、思わず遠ざかるおちんちんを追って、ちゅっ、と唇を突き出してしまった。

 

「もういいよ、ゆき。綺麗になったからね」

 

「……っ!」

 

 頭上から降ってきた、いつも通りの涼やかな声。

 その言葉を聞いた瞬間。ドロドロに溶けきっていた僕の意識が、冷水を浴びたようにハッと覚醒した。

 

(ぼ、僕……いま、なにを……っ!?)

 

 我に返った途端、自分がとんでもなく卑猥な音を立てて、よだれまみれで男の人のモノに夢中になっていたという現実が、津波のように押し寄せてくる。

 顔から火が出るほど、一気に頬が真っ赤に染まった。

 慌てて口元を拭い、うつむいて震える僕を見て、響也さんが意地悪く目を細める。

 

「……そんなに俺の精液、美味しかった?」

 

「ち、ちがいっ……! これは、お掃除をしろって言われたから……っ!」

 

「ふふっ。でも、引き抜いた時、すごく名残惜しそうな顔をしてたよ? ……ゆきがそんなにチンポを好きなら、これからは毎日、たっぷり食べさせてあげる」

 

「す、好きなんかじゃ……っ!」

 

 頭の中では、全力で否定していた。こんな生臭いもの、好きになるわけがない。ただ命令されたから、仕方なくお掃除をしただけだ。

 そう必死に言い聞かせているのに。

 

(……あ、まだ、少しお汁が垂れてる……)

 

 僕の目は、響也さんの股間で濡れて光っているおちんちんから、どうやっても視線を剥がすことができなかった。

 理屈では「ぜんぜん好きじゃない」と強がっていても。僕のメスに書き換えられた身体は、次にそれを咥えさせてもらえる時間を、すでにお腹の奥で甘く待ち望んでしまっていたのだ。

 

「……ほら、いつまで見ているんだい。そろそろ着替えるよ。軽音部の連中が待っているからね」

 

 響也さんが呆れたように、けれどどこか満足げに笑いながら、乱れた制服のズボンを直す。

 その言葉に、僕は弾かれたように顔を上げた。

 

「あ……っ、そうでした! 文化祭のライブの準備が……っ」

 

 今週末に開催される文化祭で、僕たち軽音部は体育館のステージでライブを行うことになっている。

 すっかり飛んでいた『本来の日常』と自分の役割を思い出し、僕は床に散らばっていた衣服を――拾い上げる前に、響也さんに向き直った。

 

 そのまま立ち上がってしまえば、ナカにたっぷり注がれた響也さんの熱い精液が、外へだらしなくこぼれ落ちてしまう。

 だから僕は、その場に膝立ちになると、きゅっと腰を反らせた。そして、白濁で濡れた股間を、響也さんが処置しやすいように目の前へと突き出して見せる。

 

「響也さん……『蓋』、お願いします」

 

「ふっ。偉いな、ゆきは。ちゃんとわかってる」

 

 響也さんがポケットから取り出したのは、ピンク色をした小さなローターだった。

 ほら、力抜けよ。そう囁かれながら、ひんやりとした無機物が僕のタプタプのナカへと滑り込んでいく。

 

 ぬちゅっ……、ずちゅぅっ。

 

「あっ♡ あっ……んっ……♡」

 

 溢れそうになっていた精液が奥へ押し戻され、ローターが蓋をするようにぴったりと入り口を塞ぐと、僕の身体は条件反射のように甘く震えた。

 学校や外でナカに出されるたびに行われる、いつもの手順。最初は、お腹におもちゃを入れたまま私生活を送るなんて絶対に嫌だったけれど、精液がこぼれて困るよりはマシだと受け入れているうちに、すっかりこの感覚にも慣れきってしまった。

 当たり前の日常としてその処置を終えた僕は、急いで下着を身につけ、プリーツの入ったスカートを穿いた。

 

 けれど、立ち上がった瞬間。下腹部にズン、と今までとは違う重たい違和感が走った。

 

(……あぅ。お腹の奥が、まだ響也さんのでタプタプしてる……)

 

 先ほどまで響也さんに何度も中出しされたせいで、僕のお腹の奥は、重たい白濁液で満たされている。歩くたびに、それが子宮の奥で生温かく揺れ、蓋をしているローターがコツコツと内壁を叩くのがわかった。

 スースーと風通しのいいスカートの下で、股の間にじっとりとした不快感と微かな熱を抱えたまま、僕は響也さんの後ろを歩いて生徒会室を出た。

 


 

「お疲れ、響也! 雪兎も、生徒会の手伝いサンキュな!」

 

 軽音部の部室のドアを開けると、ギターやベースのチューニング音が鳴り響く、いつもの騒がしい空間が広がっていた。

 本番を数日後に控え、部室の中はライブに向けた部員たちの熱気でむせ返るようだ。

 

「やあ、待たせたね。生徒会の仕事が少し長引いてしまったんだ。機材のセッティングは終わったかい?」

 

 部室に足を踏み入れた響也さんは、いつもの王子様のような涼しい顔で部員たちに声をかけた。僕もその後に続いて、少しだけ火照った顔を隠すように自分の持ち場へと向かう。

 

「よっしゃー! 今年のライブは俺のギターで全校生徒を熱狂させてやるぜ!」

 

「バカ大樹、1年生はまだ出番ないだろ! アンプの線も繋がってないぞ!」

 

「いいんだよ、俺のソウルはもうステージの上なんだよ! 誰かシールド取ってくれー!」

 

 別クラスの部員である佐藤大樹が、出番もないのに自分のギターを抱えて誰よりもはしゃぎ回っている。

 同じ1年生の仲間が忙しそうに、そして楽しそうに準備を進める中、僕はひらりとしたスカートの裾を整え、両膝をきゅっと閉じて熱い息を吐き出した。

 

 一年生の僕は、今年の文化祭ライブでステージに立つ予定はない。けれどその分、ライブに出演する先輩部員たちのサポートで、本来なら目が回るほど大忙しのはずだった。

 大樹たちや、ステージでスポットライトを浴びる響也さんが最高のライブをできるよう、誰よりも役に立ちたかったのに。

 

「あ、雪兎! 悪いんだけど、そこのアンプ、ステージ袖まで運ぶの手伝ってくれない?」

 

「え? あ、うん! 僕がやるよ!」

 

 同級生の部員に声をかけられ、僕はいつものように、なんの迷いもなく駆け寄った。

 アンプはかなり重量があるけれど、男の僕ならこれくらいなんてことはない。みんなの役に立ちたい一心で、僕は取っ手をしっかりと握り、持ち上げようとぐっと腰に力を入れた。

 

(……んっ、)

 

 その瞬間、なんだか今日はやけに身体が重かった。いつもなら平気で持ち上げられるはずなのに、腕にうまく力が入らない。

 

「ふぅ……」

 

 思わず小さくため息が漏れて、僕は持ち上げかけたアンプを、ゆっくりと床に下ろしてしまった。額にはうっすらと汗が滲んでいる。

 

「悪い雪兎、やっぱ一人じゃ重かったか? なんか今日、ちょっと疲れてるみたいだけど」

 

「ご、ごめん……ちょっと今日、疲れやすくて……ふぅ……」

 

 少しだけ顔が熱い。疲れのせいだろうか。なんだかお腹の奥がぽかぽかと温かくて、妙に気怠いのだ。

 

「どうしたんだい、ゆき。……少し顔が赤いじゃないか。無理はよくないね」

 

 ふいに、横からかけられた涼やかな声。

 いつの間にか隣に来ていた響也さんが、自然な動作で僕の肩を引き寄せた。

 その体温を感じた瞬間、僕の身体はホッとしたように、少しだけ力が抜けてしまう。

 

「今日はもう、力仕事はしなくていい。そこのパイプ椅子で、少し休んでいるといいよ」

 

「はい……すみません……」

 

 響也さんに頭を優しく撫でられ、僕は大人しく部屋の隅の椅子に腰を下ろした。

 

「あらあら、雪兎さん。顔が真っ赤よ? 大丈夫かしら」

 

 ふいに頭の上に優しい感触を覚え、顔を上げると、そこには担任であり軽音部顧問でもある女性教諭が、聖母のような笑みを浮かべて立っていた。

 

「……あ、先生。すみません、少し貧血気味みたいで……」

 

「いいのよ、無理は禁物。響也くんが心配してここに座らせてくれたんでしょう? ふふ、本当に彼は貴方を片時も離したくないみたいね」

 

 先生は慈愛に満ちた目で、部員たちに指示を出している響也さんの背中を見つめた。

 

「前にもお話ししたけれど、彼のような真っ直ぐな情熱は、広い心で受け止めてあげるのが一番よ。それができるのは、特別な魅力を持った貴方だけなんだから」

 

 先生が同意を求めるように視線を向けると、隣にいた女子の先輩も、羨望の混じった溜息をつきながら頷いた。

 

「ほんと、見てるこっちが当てられちゃう。響也先輩にここまで執着させるなんて、雪兎ちゃんも、先輩の愛に、もっともっと応えてあげなきゃね」

 

 そう言って、先輩がひらりと隣に座り、僕の肩を抱くようにして顔を近づけてきた。

 

「……? あれ、雪兎ちゃん。なんか……すっごくいい匂いするね? 石鹸……じゃなくて、もっとこう、甘くて濃い……」

 

 くん、と先輩の鼻が僕のうなじのあたりで動く。

 その瞬間、僕の背筋に氷を押し当てられたような衝撃が走った。

 

(――っ!!)

 

 心臓が、耳元でうるさいほどドクンドクンと跳ねる。

 全身から血の気が引き、指先がガタガタと震え出した。

 いい匂いなんて、そんなわけがない。今の僕の肌には、さっきまで全身に浴びせられた響也さんの汗と、拭き取りきれなかった白濁の匂いが、べっとりと染み付いているはずなんだ。

 

「あ、これ……桐島先輩のコロンかな? 先輩と同じ匂いがする。雪兎ちゃん、先輩の制服でも借りたの?」

 

「えっ……あ、あはは……そ、そう、かも……です。ちょっと、汚れちゃって……っ」

 

 僕は引き攣った笑顔を浮かべながら、必死に誤魔化した。

 先輩は「やっぱり仲良しだねぇ」と無邪気に笑っているけれど、僕は生きた心地がしなかった。

 響也さんの匂いが、僕自身の匂いを上書きして、周囲にまで放たれている。自分が響也さんのモノだと周囲に宣伝しているような羞恥心と、バレてしまう恐怖に、僕は膝の上で拳をきつく握りしめることしかできなかった。

 

(……どうしようっ、どうしようっ)

 

 生きた心地がせず、今すぐこの場から消えてしまいたい。そう願った瞬間、救いの神のような明るい声が響いた。

 

「あ、雪兎ちゃん、ちょうどいいところに! ダンスの伝説の話、もう聞いた?」

 

 割り込むように入ってきたのは、同級生の麻衣だった。

 この追及から逃れられるなら、今はどんな話題でもいい。彼女の登場は、僕にとってまさに渡りに船だった。僕は縋るような思いで、勢いよく麻衣の方へと向き直った。

 

「えっ……? な、何を……ですか?」

 

 内心の動揺を必死に押し殺して問い返すと、麻衣は待ってましたとばかりに身を乗り出してきた。

 

「何って、後夜祭のキャンプファイヤーのダンスだよ! 一緒に踊った男女は『永遠に結ばれる』っていう有名な伝説。身も心も、一生ずっと一緒なんだって」

 

 麻衣が身を乗り出して、興味津々といった様子で覗き込んでくる。すると、それを聞いていた顧問の先生も、どこか遠くを見るような目でうっとりと頬を緩めた。

 

「ええ、本当にロマンチックな伝説よねぇ。火の粉が舞う中で愛を誓い合うなんて、何度見ても素敵な光景だわ」

 

「そうですよ! 一生、身も心も一人の人に捧げるなんて、女の子の憧れじゃない。……まあ、雪兎ちゃんの場合は、もう心も身体も響也先輩にガッチリ掴まれちゃってるみたいだけどね」

 

 女子の先輩が声を潜めて、悪戯っぽく笑いながらからかってくる。

 部室のあちこちでは、大樹たちが「シールドが足りねえ!」だの「アンプが重い!」だのと馬鹿騒ぎをして準備に追われているけれど、今この一角だけは、女子特有の甘く密やかな熱を帯びた空気が流れていた。

 

(一生、身も心も一人の人に捧げるって……)

 

 正直、令和の時代にしてはちょっと価値観が古い気もする。今の世の中、もっと自由で多様な生き方があるはずなのに、この学校の人たちは、みんなどこか「女の子」の役割を盲信しているようなところがある。

 

 けれど、そんな冷めたツッコミを内心で入れているくせに。

 そうやって僕を「響也さんの隣にふさわしい女の子」として扱う彼女たちの言葉が、今の僕には驚くほど滑らかに、そして甘く胸に染み込んでくる。

 

 僕はもう、否定する言葉を何一つ持っていなかった。

 

「女子部員はみんな、響也先輩が誰を誘うか注目してるんだよ。……やっぱり、一番近くにいる雪兎ちゃんなのかなーって。どうなの? 約束とかしてないの?」

 

「そ、そんな……。僕なんかが、響也さんとそんな、大勢の前で踊るなんて……」

 

 想像しただけで、心臓がトクンと跳ねた。大勢の生徒が見守る中、炎に照らされながら響也さんに手を取られる自分。それは、僕たちが『特別な関係』であることを公に認められるようなものだ。

 

(……嫌だ、なんて……思わないんだ……)

 

 男だった僕が、先輩とそんな風に扱われるなんて、本当なら「嫌だ」とか「おかしい」と思うはずなのに。今の僕の心には、そんな拒絶感は欠片も湧いてこなかった。それどころか、そんな風にみんなの前で『響也さんの彼女』として扱われることを想像して、どこか誇らしく、甘く照れている自分さえいる。

 

「……っ、……な、ないです……そんなこと、あるわけないです……っ。もう、みんなでからかわないでくださいっ」

 

 真っ赤になって俯く僕を見て、みんなが「可愛い~!」とさらに笑い声を上げる。からかって離れていく彼女たちの背中を見つめながら、僕は熱い吐息を漏らした。

 

 永遠に結ばれるなんて、そんなの、ただのオカルトだし、あの性欲の強い響也さんと一生一緒なんて身体が持たない気がする。

 それに……永遠に結ばれるってことはつまり、響也さんの、その、お、お嫁さんになるってことで、僕にはまだピンとこない。

 響也さんに抱かれる度に、自分が少しずつ『女の子』になっていく実感はあるけれど。でも、女の子になればいつか来るって授業で習った『アレ』だって、僕にはまだ一度も来ていないのだ。

 

 だから、自分が本当の意味で一人前の女の子の身体になって、誰かと結ばれるなんて……どこか現実感がなくて、ずっとフワフワしたまま過ごしてきたのだ。

 そう、思っていたのに。

 

(……やっぱり、今日……ちょっとだけ体調、変かも……)

 

 制服のスカートの上から、そっと自分の下腹部を押さえる。

 風邪の熱っぽさとも違う、お腹のずっと奥の方が、ぽかぽかと温かくて、微かに重だるいような不思議な感覚。

 

 それは、さっきまで何度も注ぎ込まれ、自分の奥底に溜まっている響也さんの精液が、ドロリとした確かな質量を持って、僕の内側をじりじりと浸食しているような……そんな、なまめかしい充足感だった。

 

 身体の奥底で、何かがゆっくりと目を覚まそうとしている。

 そんな、言葉にできない小さな違和感だけが、そこにあった。

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