TB-3は久しぶりに実家に帰った。空中補給に特化した輸送機になるらしい。
Su-15はなぜか朝からべったりだ。私達が営倉を出て極東重鋼学連の街に出るのを看守が指をくわえて見ていた。今日は訓練がお休みらしい。政治犯がこんなに自由でいいのか……?
「君の休暇なのに良いのか?」
「良いんですよ」
買ったものを運びながら並んで話す。尻尾は隠すことを諦めて邪魔にならないよう緩く折り畳んだ。
「お似合いです、バックラッシュ」
「そう?フラゴン」
紺色のセーラー服をどこからか持ってきたSu-15……フラゴンは私を街に連れ出した。ちなみにバックラッシュ、というのは私のコードネームらしい。
「アレとかどうですか?」
石畳の道路に屋台が出店している。それもずらーっ、と。今日は祭日だったのだろうか。
「ん」
後でお土産でも買って帰ろう、とは思いつつりんご飴を頬張る。うん、美味しい……なぜだか涙が出てきた。
「大丈夫ですか?口の中を噛んだり……」
「大丈夫……それはない」
「そうですか……」
隣りに居るDOLLSが副官だったなら、といつも思う。可能性は充分ある。けれど確証はない。
「ん?」
視界の端を何かが通った。恐ろしく早い。
「何かが通ったな」
「そうですね」
「追うか?」
「辞めておきましょう」
「了解した」
いつの間にか腕を組まれていた。尻尾がなければ見れば姉妹に見えるかもしれない。
「楽しいですか?」
「ああ、楽しいよ」
「本当に?」
「本当さ、君は?」
「楽しくないわけないじゃないですか!」
「そうか……それは良かった」
「むう……」
頬を膨らませるフラゴンに可愛いなとは思いつつ、副官だったらなぁと思う……しかし、引き摺るのは失礼だ、今くらいは……。
「……もしかして副官さんの事、考えてたり……します?」
「……なっ……!」
「私じゃ……駄目、ですか?」
「君はその……」
「副官じゃないから駄目、ですか?」
「そもそも付き合ってすら……」
「ここまで言っても駄目なら本物ですね、はぁ……」
「……すまん」
「いえ良いですよ〜私は振られましたよ〜だ」
「……」
「副官さんのどこが好きだったんです?」
今更になってフラゴンの頬が赤く染まっている事に気がついた。
「私を変な奴だと差別せずに受け入れてくれた事」
「そ、そう……」
目を逸らすフラゴン。私は変な事を言ってしまっただろうか。
「彼女には世話になってばっかりだった。失って、ようやく分かったよ」
袖をクイ、クイ、と引っ張られる。
「その……もし副官さんが目の前に居たらどうします……?」
「巻き込んでしまった事を謝りたいね」
「そんな……私は好きで……」
「ん?」
ん?あっ……。
「あ、いえ、何でも……無いです……」
「そうか……」
顔を真っ赤にしたフラゴンはそれっきり終始こっちを見てくれなかった。
帰りの列車をホームで待つ。日が沈みかけていてグラデーションが綺麗だった。
「ありがとう、フラゴン」
「バックラッシュ……いえ、代理人。私は……」
「……副官なんだろう?君は」
「……はい」
「ありがとう、今日は楽しかった。巻き込んでしまってすまない」
「あの……」
「なんだろ……んっ!」
フラゴンに急にキスされた。唇と唇が重なる。そしてすぐに離れた。
「謝らないでください。ずっと好きでした、代理人。貴方がDOLLSになってもそれは変わりません。ずっと……一緒に居てほしいです……このまま時間が止まって欲しいくらい……」
お互いの体温を感じるくらい強く抱き締め合っていた。そして列車が来ると自然と離れて席に並んで座った。手を重ねて到着を待った。自然とうたた寝が始まる。寄りかかられて、支えて……幸せは何でもない日常に宿る。つまりこういう日だろう。
まだ帰ってもいないのにすっかり日が沈んでしまった。牢屋まではまだ掛かるだろう。ふとフラゴンが口を開いた。
「その……バックラッシュ、まだ帰りたくない……と言ったら、引いちゃいますか……?」
上目遣いで見上げてくる元副官を可愛いなと思いつつ、足はいつの間にか宿に着いていた。
余る給料から料金を払い、一部屋借りる。
「お風呂に入っておいで」
「その……一緒じゃ駄目ですか?」
「え?それは流石に……」
「バックラッシュも女の子なんですし、髪のお手入れをしないと……」
そう言って着ぐるみ剥がされ、浴室に連れて行かれた。
風呂椅子に座らされ、前から抱擁される。人肌……ではないが人肌はこんなに暖かったのか……。
「代理人、私が貴方を好きになった理由……知りたいですか?」
「……聞かないわけには行かないな」
「覚えてますか?行方不明になったDOLLSの捜索作戦のこと」
「ああ。覚えてるよ」
それはまだDOLLSが取り替えの効く消耗品と位置づけられていた頃。副官の初陣でもあったか。
「誰も見捨てない、全員連れて帰る、そう言った将校が居ました。貴方です。そして有言実行した将校が居ました。それも貴方です」
「……そうだな」
「現場のDOLLSから何と呼ばれていたか知っていますか?"お父さん"、ですよ」
「そうなのか……」
「Su-15が言っていました。間違いないです」
「彼女は……今どこに?」
「今の私がそうです」
「へ?」
耳の後ろでSu-15が囁く。
「ずっとなりたかったんです、貴方の恋人に」
無意識に引き剥がそうとした、けれどそれは叶わず畳み掛けられる。
「貴方の副官も私も今は2人で一人……代理人、2人まとめて愛してくれますか?」
「……ああ」
そうか……君は……。
「ちゅ……んっ……」
風呂桶は長身気味の2人で入るにはやや狭く、ましてや尻尾があると入りにくかった。それでも向き合って2人の身体を押し込みながら入る。
「……もしも、ですが勘違いしないでくださいね、私は貴方に一途な異性愛者です」
「わかってるよ」
「貴方が私達の代理人だから、です」
「……知ってる」
ファーストキスはレモンの味、とはよく聞くが確かに爽やかな味であった。そしてその爽やかな味は2度目以降もそうで。
お風呂のなかで私達はもつれ合った。
結果、2人して茹で上がり……キス以上の事を何もできず、眠気に抵抗してみたりするも気絶するように寝てしまった。
そして朝。先に起き、セーラー服を着て寝顔を見ながら起きるのを待つ。帰ったらまた出撃と訓練の毎日が待っている。けれど、そこに副官が……Su-15が居るのなら不満は無い。
「おはようございます……代理人……夢じゃない……」
「おはよう、フラゴン」
口付けを交わして夢ではない事を互いに確認しあい、宿を後にする。
自分の営倉に帰ったのはお昼だった。
Su-15"フラゴン"
重戦闘機であり、中距離戦闘を得意とする。私に近づく不届き者の迎撃でとても助かっている。
─
副官
私が唯一好きだった人間。そして今はSu-15と一緒になった。それだけ書けば充分だろう。
作者より
最近、多忙だったりなんだったりで正気度が少しずつ低下してます……何とか書ききれるかなぁこれ……