丑三つ時とは良く云ったものだ。
確かにこの時間帯は、人外が跳梁跋扈している。
但し…それは畏れ戦く正体不明なアヤカシではなく、魔術師と英霊という感触のあるより悍ましいもの………。
暗い陰鬱とした木々に囲まれた中にあるのは、異形の住み処『間桐』の館。
そこにある一際異彩を放ち、瘴気を帯びた蔵がある。
ー蟲蔵ー大小様々な虫がいる。
決して自然界にいない、魔術で創造された悍ましい〟蟲〝が飼育され、餌になる人間が産まれ最期を迎える、マキリの淫逸で醜悪な全てがある場所だ。
そんな場所に向かう人間がいる。
少女だ。
否、幼女と云っていいだろう。
名は間桐桜−かつては遠坂桜と呼ばれていた−この館の、新たなる生け贄。
虚の様に暗く感情が落ちた目で、蔵を目指し歩いて行く。
手に持つランタンが、やがて目的の蟲蔵を仄かに照らす。
硝子を外しふぅーと息少し吹き掛け灯りを消す。
入り口にランタンを置き錆びた扉を開けると、ひんやりとした空気が身を震わす。
硝子を外しふぅーと息少し吹き掛け灯りを消す。
暗さもあいまって底が見えない。
だが、少女ー桜ーは迷わずに一つ一つ階段を降りて行く、桜は馴れているのだ。
この階段を降りる事では無く…ソコに着く事に馴れているのだ。
この闇に!
無数に蠢く淫虫どもに!
最早桜に恐れる理由もなければ、感じる正常な心もない。
今…あるのは…?
桜にさえ判らない。
「おじさん」
一番深い蟲蔵の底にたどり着いた桜は、その中心に蹲る幽鬼のごとき何かに話かけた。
「おじさん…今日は終わり…」
「あぁ…桜ちゃん…ありがとう」
彼の名は間桐雁夜。
桜の義理の叔父で、唯一桜が間桐でなかった頃から、桜を大事にしてくれる人間ー…だった。
(もう違う人みたい)
桜がそう思うのも無理はなかった、最初に出会った頃の彼は髪も黒く瞳は両方とも見え、身体は健常だった。
だが今はどうだろう。
髪は白く片目は濁り見えなくなって、半身は蟲の影響で自由が利かなくなっていた。
その様は老人だ。
かつて雁夜はこの地獄から逃げだす事に成功した、だが必死で逃げ延びたというのに進んでまたこの地獄に戻って来た。
「ごめんね…」
雁夜に聞こえない様に呟く。
青年は未だ愛する女性の為に、この責め苦に耐えているのだ。
幼心に桜はなんとなくだが察する。
雁夜の恋心に。
母・葵への想いに幼心になんとなくだが察していた。
桜はなんだか申し訳なくなって思わず謝ってしまった。
狂った責め苦は、雁夜の中にずっと消える事なく燻っていた情念を引き摺り出し、本来の目的と過去の思いとを混同させた。
【愛し子の解放と仇敵の死】
破綻した願いに気付かない。
桜の幸せを望む一方で、少女の家族の死を望む。
哀しみの連鎖に成り立つ幸福に、安寧があるのだろうか?
正す者など…居ない。
少なくとも、雁夜も桜もこの聖杯戦争に参加している者の中には。
ただ、桜は予感がある。
この先自分も雁夜も、もうどうにもならないのだと。
「ごめんね」
悲しかった。
救いは来ない。
徒労にしかならない。
残るのは変わらない毎日だ。
少女は謝るしか出来ない。
せめて苦痛を少しでも減らせればと、こうして傍にいる。
「おじさん大丈夫?」
「あ…うん…桜ちゃんは先にっ…戻ってていいからっっ…」
苦しいのだろうか?息が荒い。
声も途切れ途切れに答える、顔も常ならば蒼白いのに赤く染まっている。
心配になった桜が身体に触ると、震えていた。
「……っ!?」
ビクンっと反応する。
桜は理解した、これは明らかに…、
「つらいんだね」
雁夜は欲情していた。
蟲達に嬲られた熱がまだ去ってはおらず、その上まだ魔力も足りない。
護るべき少女にその事を指摘され、いたたまれなくなり身体を隠す様に縮こまる。それを見て嬉しくなる。
自分も出来る事があった、彼の苦痛を和らげる方法が頭に浮かび知らず頬が僅かに緩む。
「私のあげる」
瘢痕のある頬に口づけする。
「ちょっ桜ちゃん!?」
蟲達による蹂躙の為か、力が入らない。
だが雁夜は制止する。
桜が己の為に自らの魔力を分けると云った。
魔術師として見習いですらない調整中の桜と、急造の魔術師である自分では高度な魔術も扱えなければ、魔術師同士の魔力の受け渡しの方法もろくに判らない。
そんな自分達に出来る魔力供給は限られている。最もシンプルにかつお互いに傷つかない方法…。
【粘膜摂取及び性交渉による魔力供給】
身体を傷付け血液からも摂取可能だが、得られる魔力が微量では話にならない。
高濃度の魔力を持つ魔術師なら、それでも足りるであろうが。
二人のうち一人は素質は高いが魔術をよく知らない子供な上、知る唯一の供給方法はにわかではあるが知識を持つ元・一般人。
どう考えても、最も効率的なのはそれしかなかったのだが。
状況が状況とはいえ、世間一般に考えればそれは犯罪行為。
雁夜は、そこまで外道に堕ちるつもりはない。
(生粋の魔術師なら抵抗ないんだろうがな)
侮蔑とある意味感心した雁夜は、その代表格の時臣と臓硯を思い浮かべ嘲笑う。
桜は、黙ってワンピースを脱ぐ。
それに雁夜はぎょっとした。
「桜ちゃん!?やめるんだ、俺は平気だから!!」
慌てて止める。
だが、桜は止めないどころか下着まで脱いで、生まれたままの姿になり、雁夜の身体に密着する。
「おそろいだね」
一瞬何の事かと思いきや、今更ながら己も全裸だと気付き全身真っ赤にする。
「こっこれは仕方なく…っ…いいから止めて早く服を着て?桜ちゃん」
そっと脱いだばかりのワンピースを渡す。
何故か桜の顔をみれず、俯いてしまう。
下を向いたせいで、桜の下半身が見えた。
■■■■
呆然とあるはずのないものを秘所に付けた桜を見る。
「…桜ちゃん…それ…」
指先が震えてしまう。
何故少女にそんなものがと青ざめていると、桜が疑問に答える。
「大丈夫、この淫虫に手伝ってもらうから…魔力あげれるよ…?」
そこで雁夜はあらためて在るはずのない陰茎を見る。
「蟲…なの?」
あのね おじさん わたしうれしい
だいすき だいすき
わたしだけ みて
わたしを あげるだけじゃ たりない
おじさんがほしい
おなか すきました
おじさん たべたいな
わたしで いっぱいに
なって
くるしくないよ
いたくないよ
こわくないよ
だいすき おじさん だいすき おじさん
わたしと おなじ
うれしい
にげるなんて ゆるさない わたしいじょうに くるしめばいい
■■■■
呆然とあるはずのないものを秘所に付けた桜を見る。
「…桜ちゃん…それ…」
指先が震えてしまう。
何故少女にそんなものがと青ざめていると、桜が疑問に答える。
「大丈夫、この淫虫に手伝ってもらうから…魔力あげれるよ…?」
そこで雁夜は、あらためて在るはずのない陰茎を見る。
「蟲…なの?」
組み敷く彼は、脱力し抵抗の意志は無い様だが、念には念を。
「でてこい…」
桜が一言命じると、巨大な百足に似た蟲が、何匹か暗闇から這い出てきた。
全長は成人男性の平均的身長、胴回りは雁夜より太い。
四方八方から這い出て来た蟲は、雁夜の両手を交差させ、自身を固く巻き付け足を開かせたまま片足ごとに蟲が巻き付き、動かぬ様に尻尾は地中に深く埋め杭の代わりとなっている。
結果的に雁夜は、より下半身を晒す事になった。
「もう…赦して…っ」
幽かに出た声は驚く程情けなく、震えていた。
今、この場に於いて支配権は桜にある。
庇護すべき対象にここまでされれば、如何に反骨精神溢れる雁夜とはいえ、正直限界なのだ。
「大丈夫、大丈夫だよ…おじさんが喜んでくれる為にね…私すごいのもってきてるの…だからね?泣かないで……」
雁夜に聖母の様な慈しみの言葉と、労りを見せる少女の態度に、ほんの少し安堵する。
「嫌だっていってたのは…全部だすから…」
雁夜から身体を離しひざ立ちになると、大きく開かれた彼の尻穴に手を入れ、今まで胎内で好き勝手に暴れていた淫虫達を、勢いよく引き摺り出していく。
「ふぎぃぃぃ-----!!!」
忘れていた悍ましい感覚に、情けない声が洩れる。
数分かけすべて排出されるまで、悲鳴は途絶える事なく蟲蔵に谺した。
■■■■
(身体…ぴくりとも動きゃしね―…)
四肢を投げ出し、雁夜は精も根も尽き果てていた。
巻き付いている蟲もそんな雁夜を察してか、先程よりは拘束は緩やかだ。
涙も悲鳴も最早涸れていた。
もうこれ以上の地獄はないだろうと、疲労困憊の身体はゆっくりと眠りにつこうとした頃、桜の鈴のような声が耳元で囁く。
「ダメ……まだ起きてて、おじさん?」
「桜…ちゃん…」
「まだちゃんと魔力供給してないよ…」
絶句した。
あれだけ責め立てたというのに、この少女はまだ足りないというのだ。
蟲に嬲られるなら良い、けれど…この少女・桜にこれ以上されるのは…耐えられない…大切な大切な少女にされるのは勘弁して欲しい。
もう穢れて欲しくない。そんな想いで一杯だった。
しかし、桜にそんなものは関係ない。
あくまで雁夜の一方的な想いだ。
だからこそ桜は、臓硯に渡された『蟲』を使う事ができるのだ。
躊躇いもなく…慈悲もなく、ただ淡々とほんの少しのお返しとして……。
例えそれが雁夜に取って、何よりの苦痛になるとしても……。
それができる程桜は〟間桐〝になっていた。
桜は己の濡れそぼった秘所を指で割り開き、雁夜に突っ込んだ淫虫とはまた別の蟲をそこからひきだした。
「本当は私…使うつもりなかったの、淫虫だけにしたかった…でも……おじさんツライみたいだから…〇〇〇さんにしてもらうね」
今この子はなんといったのか?
蟲?
使う?
〇〇〇さん?
その名は、聞き取れ無かった。
訳が判らない。
霞みがかった頭は纏まった思考にたどり着けない。
判らない、分からない、解らない、わからない、ワカラナイ…。
まさか誰か拐ってきたのか?
雁夜は、必死で言葉の意味を考える。
「よくみて」
だが、桜の声でそれは中断された。
「くち開けて?」
「口?」
「うん、おおきく開けて?いくよ」
勢いよく、雁夜の口腔に取り出した〟蟲〝を突っ込む。
雁夜がえづいても、お構い無しに〟蟲は胎内に侵入を果たす。
気持ち悪さが落ち着いてきた頃、桜が雁夜の腹に手を当て魔方陣を描く。
「ゲヘっゲホゥっっ〜〜〜さっさく桜ちゃん〜ゲっ何を…!?」
「なかから気持ちよく魔力供給するの…」
魔術詠唱が始まる。
少女が唱えるのは、長い魔術詠唱が出来ない為に、臓硯が桜用にアレンジしたごく短いものだ。
桜の稀有な属性と魔力と、蟲があればこそ可能なもの。
「Эмбрион(胎児)・родьΙ(出産)」
詠唱が終わった途端、雁夜の腹が異様に膨れ上がる、肉割れが急激に起こり痛みで身体が弓なりに反る。
「あぁぁぁ--------!!!!!!!!!!」
限界まで膨れた腹の下、正確には皮膚の下にある筋肉と、内膜に包まれた内臓で仕込まれた〟蟲〝が暴れている。
ひとしきり暴れると、大人しくなり不審に思った雁夜が、なんとか目線だけ己の腹に向けると、雁夜の不健康な肢体から腹水が溜まった様にぼってりとした腹のその上に赤い線が走る。
何の痛みもなくその線はゆっくりと拡がり…、
(…妊婦の…帝王切開か…よ…)
当事者である雁夜は、ぼんやりとそんな事を考え半ば逃避していた。
この有り得ない現実に。
だが、忘れてはならない、容赦のない現実は、更に醜悪な事実を突きつけるものだ…。
「みて?生まれる…」
抑揚のない桜の声に促され、開いた腹を見る。
出てきたのは巨大な蛹。
蛹が腹からすっかり出きったと同時に、開いていた雁夜の腹は、まるで何事無かった様に綺麗に治癒していた。
既に麻痺していた雁夜は、蝶でも羽化するのかとジッと蛹を見つめる。
ピリ ピリリ ピリ
蛹から乾いた音がする。
雁夜の胎内に侵入した〟蟲〝は、彼の柔らかい内臓の隙間に温められ、体外に出る頃には蛹にまで成長していた。
そして…今まさに羽化しようとしているのだ。
「とても良いのだってお祖父様がいってたよ、おじさん」
「良いもの?」
「うん」
だが、忘れてはいけない。
その術を授けた相手を。
外道というのも生温いあの老獪を。
最悪の魔術師は…ー最低な『キメラ』を産み出す魔術も持っていた。
臓硯は、それを桜に教えたのだ。
蛹が羽化した。
「あぁ…そんな…っ嘘だろっっ…!?」
驚きで目いっぱい瞳を見開いた雁夜を、傍で見る。
「うれしい?うれしいはずだよ」
淡く微笑み桜は『それ』を撫でる。
「そっくりでしょう?」
蛹の中身は、蝶では無かった。
蛹の中身は…………、
「…葵…さん…」
『アオイ』は微笑んだ。