俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
「あ、あの……大丈夫ですか?」
エルフの女性──リーネが心配そうに近づいてきた。
俺は必死で動揺を押さえ込む。
7年間セックスしてないとか、亡夫との思い出とか、耳が性感帯とか、そんな情報いきなり見せられても困るんだが!?
しかも子供が欲しかったが叶わなかったとか、切ない情報まで混じってるし……
「あ、はい、大丈夫です。ちょっと迷子になってしまって……」
何とか声を絞り出す。
リーネは俺の服装を見て、小さく首を傾げた。
「見慣れない服ね。遠い国からいらしたの?」
「えーと、はい。すごく遠いところから……」
嘘は言っていない。異世界=現代日本とこの世界は、確かにすごく遠い。
(やっぱり旅人さんね。それにしても、装備も持たずにこんな森の奥まで……無謀というか、何か事情がありそうだわ)
心の声が聞こえてくる。いやだから、聞こえないでくれ。
「この森は迷いやすいの。それに、奥の方には魔物も出るわ」
リーネの表情が少し曇る。
「もしよかったら、わたくしの家にいらっしゃらない? 森の入り口まで案内もできるし、何か事情があるなら相談に乗れるかもしれないわ」
(この人、なんだか放っておけない雰囲気があるのよね。昔の夫に少し似ているからかしら……いえ、そんなはずはないわ。でも……)
彼女の心の声は、どこか寂しげで、それでいて温かかった。
未亡人。7年間の孤独。子供を望んでいたが叶わなかった過去。
そんな情報が、俺の脳裏でぐるぐると回っている。
彼女は明らかに善意で声をかけてくれている。それは心の声を聞いていれば分かる。
だがこのまま彼女についていってもいいのだろうか?
俺はこのとんでもないスキルのせいで、彼女のプライバシーを丸裸にしてしまっている。
それでも──
今の俺には、彼女の申し出を断る選択肢などなかった。
「……ありがとうございます。お言葉に甘えて、お邪魔させていただきます」
俺は立ち上がり、軽く頭を下げた。
リーネは安心したように微笑む。その笑顔は、森に差し込む木漏れ日のように柔らかかった。
「よかった。無理に引き止めるつもりはなかったけれど、このまま放っておくのは心配だったの」
(ああ、よかった。素直に受け入れてくれて……久しぶりに誰かと話せるのは嬉しいわ)
心の声が聞こえてくる。やっぱり孤独だったんだな、この人。
「あ、俺……私は、黒崎蓮と申します。レンと呼んでください」
異世界で「黒崎」という苗字が通じるかは分からないが、とりあえず名乗っておく。
「蓮……レン。素敵な名前ね。わたくしはリーネ・フォレストリア。リーネと呼んでちょうだい」
(レン……いい響き。なんだか、呼びやすい名前だわ)
リーネは嬉しそうに俺の名前を口にした。
不思議な感覚だ。彼女の心の声が聞こえるから、表情だけでは分からない本音が分かる。
今、彼女は本心から俺との出会いを喜んでいる。
7年間の孤独。人恋しさ。
そんな背景を知っているからこそ、その喜びの深さが分かってしまう。
「こっちよ、ついてきて」
リーネは薬草の入った籠を持ち直し、森の中を歩き始めた。
俺は彼女の後を追う。
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森の中の道は、言われなければ絶対に分からないような獣道だった。
木々の隙間を縫うように、リーネは慣れた足取りで進んでいく。
「この森に住んで、もう長いんですか?」
沈黙が気まずくて、俺は何気なく話しかけた。
「ええ、もう……155年になるかしら」
「ひゃくごじゅう……」
思わず声が裏返る。155年。
そうだ、彼女はエルフだ。鑑定結果によれば342歳。人間とは時間の感覚が違う。
「驚いた? あ、そうね。人間の感覚だと長いわよね」
リーネはくすりと笑った。
「エルフにとっては、まだまだ若い方よ。わたくしなんて、まだ成人して間もない頃にここに来たのだから」
(155年……夫と一緒に来て、夫を看取って、それからずっと一人……)
心の声が聞こえる。
155年前に亡き夫と共にこの森に来た。そして7年前に夫を亡くし、それ以来ずっと一人。
エルフの時間感覚でも、7年間の孤独は短くないのだろう。
「あ、あそこよ」
リーネが前方を指さした。
木々の間から、小さな家が見えてきた。
いや、「家」というより「隠れ家」といった方がふさわしいかもしれない。
大きな木の根元に溶け込むように建てられた、こぢんまりとした木造の家。
壁には蔦が絡まり、屋根には苔が生え、まるで森の一部のように自然に佇んでいる。
窓辺には色とりどりの薬草が干してあり、煙突からは細い煙が立ち上っていた。
「ここがわたくしの家よ。狭いけれど、ゆっくりしていって」
リーネは戸口に立ち、俺を中に招いた。
(久しぶりにお客様が来るわ。掃除はちゃんとしてあったかしら……あ、ベッドのシーツは昨日替えたばかりだから大丈夫ね)
心の声が可愛らしい。
俺は軽く頭を下げて、家の中に足を踏み入れた。
中は外観から想像するより広く感じられた。
入ってすぐにリビング兼キッチンがあり、奥にはベッドルームがあるらしい扉が見える。
天井からは乾燥した薬草の束がいくつもぶら下がっていて、空気にはかすかに甘い草の香りが漂っていた。
家具は全て木製で、使い込まれて艶が出ている。暖炉には小さな火が灯っていて、室内は心地よい温かさに包まれていた。
「どうぞ、そこに座って。今、お茶を入れるわね」
リーネは籠を置くと、手際よく湯を沸かし始めた。
俺は勧められた椅子に腰を下ろす。
改めて室内を見回す。
壁には棚があり、そこに薬草の瓶がずらりと並んでいた。どうやら彼女は薬草師──このファンタジー世界でいうところの錬金術師か何かのようだ。
そして、棚の隅に小さな額縁が飾ってあることに気づいた。
そこには一枚の肖像画。
金髪のエルフの男性だ。優しげな顔立ちで、穏やかな微笑みを浮かべている。
多分、亡くなった夫だろう。
「お待たせ」
リーネが湯気の立つカップを二つ持ってきた。
俺の前にカップを置き、自分も向かい側に座る。
「ハーブティーよ。身体が温まるから、よかったら飲んで」
「ありがとうございます」
カップを手に取り、一口飲む。
ほんのり甘く、どこか懐かしい味がした。緊張が少しほどける。
「それで、レンさん……いえ、レンでいいかしら?」
「はい、呼び捨てで大丈夫です」
「ありがとう。それで、レン。どうしてあんな森の奥に一人でいたの? 何か事情があるのなら、話してくれない?」
リーネの碧眼が、心配そうに俺を見つめてくる。
(この子、何か深刻な事情を抱えているみたい。力になれるなら、なってあげたいわ……)
心の声が聞こえる。
彼女は本当に善良な人だ。見ず知らずの俺を心配してくれている。
だが、俺は正直に話すべきだろうか?
『異世界から転生してきました、女神にバグったスキルを押し付けられました、そのせいであなたのエロステータスが丸見えです』
……いや、無理だ。頭のおかしいやつだと思われるのが関の山だ。
かといって、嘘をつくのも気が引ける。
「えーと、実は……」
俺は曖昧に言葉を濁す。
どこまで話すか。どう説明するか。
考えあぐねていると──
「無理に話さなくてもいいのよ」
リーネが優しく微笑んだ。
「誰にでも、話せないことはあるわ。落ち着いたら、ゆっくり整理すればいい」
(昔の夫もそうだった。辛いことを話すのに時間がかかる人だった。この子も、きっとそうなのね……)
彼女は俺を責めない。急かさない。
ただ静かに待っていてくれる。
その優しさが、胸に染みた。
「……ありがとうございます」
「いいのよ。それより、お腹は空いていない? 簡単なものなら作れるけれど」
言われて気づく。確かに空腹だ。
異世界に来てから何も食べていない。いつの間にか日も傾き始めている。
「すみません、お言葉に甘えて……」
「遠慮しないで。客人をもてなすのは、久しぶりだから」
(本当に久しぶり。7年ぶりかしら、誰かにご飯を作るの……)
リーネは嬉しそうに立ち上がり、キッチンに向かった。
俺はその後ろ姿を見つめる。
長い金髪が腰のあたりで揺れている。質素な緑のワンピースは身体のラインを隠しているが、それでも豊かな胸と腰のくびれは分かる。
そして、何より目を引くのは──あの長い耳。
鑑定結果が脳裏をよぎる。
【弱点部位:長い耳を優しく撫でられると理性崩壊】
いやいやいや、何を考えてるんだ俺は。
助けてもらった恩人に対して、そんな目で見るな。
俺は頭を振って邪念を払い、ハーブティーを一口飲んだ。
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リーネが作ってくれたのは、野菜とキノコのスープと、黒パンだった。
質素だが、素材の味が生きていて美味しい。特にスープは身体が芯から温まる。
「おいしい……」
思わず呟くと、リーネの顔がぱあっと明るくなった。
「本当? よかった。久しぶりに誰かのためにご飯を作ったから、ちゃんとできているか心配だったの」
(嬉しい……褒められるの、久しぶり……)
心の声が聞こえる。
そうか。7年間一人で暮らしていれば、褒められる機会もなかったのだろう。
料理を作っても食べるのは自分だけ。「美味しい」と言ってくれる人もいない。
そんな寂しさが、彼女の心の声から伝わってきた。
「本当に美味しいです。素材の味がしっかり出ていて、優しい味がします」
「まあ……そんなに褒められると照れるわ」
リーネは頬を赤らめて俯いた。
その仕草が、やけに可愛らしい。
(この子、優しいのね。昔の夫を思い出すわ……でも、あの人とは違うけれど、なんだか……温かい気持ちになる)
心の声が聞こえるたびに、俺の胸が疼く。
彼女は無意識のうちに、俺を「亡き夫」と重ねている。それは俺の容姿が似ているからではなく、きっと「一緒に食事をする」という行為自体が、彼女の中で大切な思い出と結びついているからだ。
食事は穏やかな雰囲気の中で進んだ。
リーネはこの森の話、薬草の話、時折やってくる行商人の話などを、楽しそうに語ってくれた。
俺は相槌を打ちながら、彼女の話に耳を傾ける。
異世界の知識を得られるのはありがたい。そして何より、彼女と話していると心が落ち着いた。
やがて食事が終わり、リーネがカップを片付け始めた。
「さて、レン。今夜はここに泊まっていきなさい」
「え、でも……」
「森を夜に歩くのは危険よ。魔物も出るし、道に迷ったら大変。明日の朝、森の出口まで案内するわ」
(本当は、もう少し一緒にいたいだけなのだけれど……いえ、これは相手のためよ。そう、相手のため)
心の声が可愛らしい。
リーネは自分の本音を誤魔化そうとしている。でも、心の声は正直だ。
彼女は俺と一緒にいたいと思っている。7年ぶりの「誰か」の存在が、彼女の孤独を癒しているのだ。
「……すみません。重ね重ねお世話になります」
「いいのよ。ベッドはわたくしので寝て。わたくしはソファで──」
「いえ、それは駄目です。俺がソファで寝ます」
「でも……」
「リーネさんは明日も薬草採りがあるんでしょう? 俺は若いから大丈夫です」
押し問答の末、俺がソファで寝ることに決まった。
リーネは予備の毛布を持ってきてくれて、ソファに敷いてくれた。
「何かあったら遠慮なく起こしてね。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい。今日は本当にありがとうございました」
リーネは微笑んで、奥の寝室に消えていった。
俺はソファに横になり、天井を見上げる。
激動の一日だった。
トラックに轢かれて死に、女神に出会い、バグったスキルを押し付けられ、異世界に転生し、エルフの未亡人に拾われた。
これからどうなるのか、全く分からない。
だが、今夜は温かい場所で眠れる。優しい人に助けてもらえた。
それだけで十分だ。
俺は目を閉じ、ゆっくりと意識を手放していった。
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深夜。
ふと、物音で目が覚めた。
「……ん……んっ……」
微かな声。
最初は何の音か分からなかった。だが、耳を澄ませると──
「……っ……はぁ……んん……♡♡」
それは、寝室の方から聞こえてくる。
甘い、押し殺したような声。
俺の脳裏に、鑑定結果の一部が蘇る。
【オナニー頻度:月1回程度】
【最後のオナニーからの経過時間:12日】
まさか。
いや、でも。
俺は息を殺して、暗闇の中で耳を澄ませた。