俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
「……っ」
息が止まった。
何だこれは。
今まで見てきた鑑定結果とはまるで違う。
エロステータスじゃない。
これは。
──これは化け物のステータスだ。
魔子爵オルベリア。
殺害人数40万人以上。
懸賞金、金貨2500万枚。
「全員食ってやる」──
悍ましい心の声が、頭の中に響いている。
どうして?
俺の【鑑定】はエロステータスしか見えないんじゃないのか?
何故、この化け物の詳細だけ見えるんだ?
(な、なんだ……これは……)
俺は無意識に後退った。
足がガクガクと震える。
冷や汗が背中を伝う。
やばい。
やばいやばいやばい。
こいつは本物の化け物だ。
俺が太刀打ちできる相手じゃない。
なんでこんな化け物がこの街にいる……!?
「……? レンさん、どうかなさいましたか?」
セラが怪訝そうに俺を見た。
「お顔が真っ青ですよ……?」
「あ、いや、その……」
俺は必死に平静を装った。
バレてはいけない。
こいつに──オルベリアに俺が何かを見抜いたことを悟られてはいけない。
「……」
リリアの姿をしたオルベリアが俺を見ている。
大きな瞳。
あどけない表情。
だが、その奥に──
底知れぬ闇がちらりと見えた気がした。
「す、すみません。ちょっと体調が……」
「まあ、大丈夫ですか? お水を持ってきましょうか?」
「いえ、大丈夫です。今日は帰ります。ポーションは明日取りに来ますので……」
俺は逃げるように、教会の扉へ向かった。
「お大事になさってくださいね、レンさん」
セラの声が背中に響く。
そして──
「また来てね」
リリアの声だった。
小さな可愛らしい声。
──それと同時に、心の声が聞こえる。
(クイタイ……人間を……食いたい……ひっ……ひひっ……)
俺の脳裏に死神の声が響き渡った。
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教会を出た俺は、その場に立ち尽くした。
まだ足が震えている。
心臓がバクバクと暴れている。
……どうする。
どうすればいい。
化け物が、この街にいる。
よく分からないが、英雄とやらと戦って負傷して、今は人間を襲う気がないらしいが……。
でも、傷が癒えたら──
街の人間が全員殺される。
カレンさんも。
ミレーヌさんも。
エマさんも。
マルタさんも。
全員──
俺は拳を握りしめた。
Fランク冒険者の俺に何ができる?
戦う力なんてなにもない。
俺一人では何もできない。
だけど──
だけど黙って見ていていいのか?
このまま何もせずに街が滅ぶのを待つのか?
それが明日か、一週間後か、一ヶ月後かは分からない。
でも、いつか必ずその時が来る。
その前に、何か手を打たないと──
俺は走り出した。
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冒険者ギルドに飛び込んだ。
息が切れている。
心臓がバクバクと暴れている。
カウンターにはエマさんがいた。
「あら、レンさん! どうされたんですか? すごい汗ですよ?」
エマさんが心配そうに俺を見た。
胸が揺れる──いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「エ、エマさん……ちょっと、相談が……」
「相談ですか? どうぞ、何でも言ってください」
エマさんがニコッと微笑んだ。
(レンさんが私に相談……!)
(嬉しい……頼りにされてるのかな……♡)
心の声が聞こえる。
だけど今はエマさんのエロい妄想に付き合っている場合じゃない。
「あの……実はとある人を鑑定したんですけど……」
「え?」
エマさんが首を傾げた。
「人を……鑑定……ですか?」
「はい。俺の鑑定スキルで、その人を見たら──」
「レンさん」
エマさんが俺の言葉を遮った。
「鑑定スキルは人間には効きませんよ?」
「──え?」
俺は固まった。
「鑑定スキルは物や魔物にしか効かないんです」
「……」
「人間には効きません。理由は分からないけど……」
エマさんが説明を続ける。
「だから人を鑑定するなんて不可能ですが……」
──なんだって?
鑑定は人間には効かない……?
今までのことを思い出す──。
『使い方は簡単です。対象を見て鑑定と念じるだけで──』
女神エリシアは対象と言った。てっきり俺は対象に人間も含まれていると思っていた。
だけど……一言も人間を鑑定出来るとは言ってない。
それに、エマさんと初めて会った時に言っていた言葉──
『鑑定士さんは需要が高いんですよ。アイテムの真贋を見極めたり、魔物の弱点を調べたり……』
そうだ。彼女も人間のステータスを見れるだなんて言ってなかった。
でも……。
俺は確かに人間のエロステータスを見ることができる。
(どういうことだ……?)
俺の【鑑定】はエロステータスを見れるだけの変なスキルだと思っていた。
普通の【鑑定】は人間の普通のステータスを見れると思ってた……。
──それが、違う?
「で、でも魔族は……」
「魔族?」
エマさんが目を丸くした。
「魔族はもちろん人間の天敵ですけど……鑑定で見分けられるなんて聞いたことないです」
「……」
「もし鑑定で魔族が分かるならとっくに魔族狩りに使われてますよ。魔族は人間の擬態が上手くて、見抜くのは至難の業ですから」
エマさんが丁寧に説明してくれる。
(レンさん、どうしたんだろう……)
(なんか変なこと言ってる……疲れてるのかな……)
(最近、働きすぎじゃないかしら……心配……)
心の声が聞こえる。
……そうか。
俺の鑑定はこの世界の常識から外れている。
普通の鑑定スキルでは人間も魔族も見ることはできない。
だから──
俺が「あの見習いシスターは魔族だ」と言っても誰も信じない。
それどころか「人間を鑑定できる」なんて主張したら俺自身が怪しまれる。
異端者扱いされるかもしれない。
最悪、魔族とやらの手先だと疑われる可能性すらある。
「あの……レンさん? 大丈夫ですか?」
エマさんが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「い、いえ……何でもないです……」
「本当ですか? お顔が真っ青ですよ?」
「大丈夫です。ありがとう……」
エマさんが心配そうにしている
(レンさん、疲れてそう……)
(無理しないでほしいな……)
(私がお世話してあげたい……♡)
心の声が聞こえる。
……俺だけが真実を知っている。
あの教会に悍ましい人食いの魔族がいること。
そして、彼女の傷が癒えたらこの街の人間が全員食い殺されること。
でも、誰にも言えない。
言っても信じてもらえない。
いや、取り敢えず言ってみるだけでも……。
──だめだ。俺はこの街に来て日が浅い。
信用もない俺が告発したところで碌な結果にならないような気がする……。
じゃあ匿名で誰かに伝えるか……?手紙とかで。
でも、匿名の情報なんて誰が信じてくれるんだ。
(……考えるのは後だ)
「エマさん、ありがとうございました。今日は帰ります」
「え、もうですか? 疲れてるみたいだし、お水でも……」
「いえ、大丈夫です」
俺はそう言ってギルドを出た。
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宿への帰り道。
俺は一人で歩きながら考えていた。
俺の鑑定スキルはこの世界の常識から外れている。
人間のエロステータスが見える。
心の声も聞こえる。
そして──魔族のステータスまで見える。
普通の鑑定スキルでは絶対に見えないものが俺には見える。
この世界で唯一、魔族の正体を見抜ける存在。
それが俺なんだろう。
──でも、なんで?
なんで物と魔物は鑑定できて人間や魔族は鑑定できないんだ?
じゃあ動物は出来るのか?俺の鑑定はリスを鑑定できた。普通の鑑定は……?
人間や魔族を鑑定出来る俺の鑑定は一体なんなんだ?
それに、何故……エロステータス以外の悍ましいステータスが見えたんだ……?
「……」
色々考えても答えは出ない。
確かなのは……
俺はFランク冒険者。
強そうな相手を倒す力なんて、ない。
ゴブリンにすら勝てないんだ。
どうする?
どうすればいい?
……考えろ。
俺にできることを考えろ。
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月明かりの宿に到着した。
「お帰りなさい、レンさん」
ミレーヌさんが笑顔で出迎えてくれた。
「お顔の色が悪いですけど、大丈夫ですか?」
「ちょっと、疲れて……」
「まあ、大変。今日は早く休んでくださいね」
ミレーヌさんが心配そうに俺を見た。
(レンくん、無理してないかしら……)
(私にできることがあれば、何でもしてあげたいのに……)
(お風呂、沸かしておこうかな……)
心の声が聞こえる。
ミレーヌさん……。
この人も何も知らない。
この街が滅ぶかもしれないことを。
「……ありがとうございます。夕食は部屋に運んでもらえますか?」
「もちろんです。少し待っててくださいね」
俺は自分の部屋に向かった。
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部屋に入りベッドに腰を下ろした。
頭の中を情報が駆け巡る。
魔子爵オルベリア。
殺害人数40万人以上。
懸賞金2500万金貨。
英雄との戦闘で負傷し、現在回復中。
回復率35%。完治までの日数は不明。
完治したら──この街の人間を、全員食う。
俺は天井を見上げた。
……どうする。
俺に何ができる?