俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
街の門を抜けて森へと続く道を進む。
引き車はガラガラと音を立てながら、俺の後ろをついてくる。
荷物が重いが車輪のおかげで随分と楽だ。
……まぁ、舗装された道以外だと意外と引くのキツいけど……それでも持つよりはマシだ。
マルタさんに感謝しないとな。
青空の下、緑の木々が揺れている。
鳥のさえずりが聞こえて、心地よい。
昨日のイザベラの一件で沈んでいた気持ちが少しずつ晴れていく。
森の入口が見えてきた。
そこには──
「レン」
ベルだ。
その隣には──
「ギギッ!」
小さな影が走ってくる。
子供ゴブリンのリノが昨日よりも元気そうに駆けてくる。
「おお、二人とも」
俺は手を振った。
ベルが俺の前で止まり、満面の笑みを浮かべた。
「レン オハヨウ!」
「おはよう、ベル」
「レン、来テクレタ ベル、嬉シイ」
ベルが尻尾を嬉しそうに振っている。
(レン……今日モ会エタ……♡)
(嬉シイ……嬉シイ……♡)
心の声が聞こえる。
そして──
「ギギッ! ギッ!」
リノが俺の足元に駆け寄ってきた。
昨日よりも表情が明るい。
恐怖に怯えていた目が、少しだけ光を取り戻している。
「リノ、おはよう」
「ギギ……!」
俺がリノの頭を撫でるとリノは嬉しそうに目を細めた。
昨日はまだ警戒していたが、今日はもう慣れてくれたようだ。
「ベル、リノの様子はどうだった?」
「ウン リノ、元気」
「そうか、それはよかった」
俺はリノを見つめた。
昨日よりも生気がある。
まだ痩せているが目に力が宿っている。
ベルと一緒にいることで、安心できているようだ。
「ベル、リノ、今日は色々持ってきたぞ」
「ギ……?」
リノが首を傾げた。
俺は引き車を指差した。
「毛布とか、ランタンとか、それから……」
俺が肉の包みを持ち上げると──
「ニク!」
ベルの目が輝いた。
「ニク ニク! レン、ニク持ッテキテクレタ」
ベルが興奮して飛び跳ねた。
地面がドスンドスンと揺れる。
ベルが感動している。
毎日のことだけどな。
……俺に会う前は何食ってたんだろ?
やっぱりブタだから木の実とか……?
「ギギッ!」
リノも嬉しそうに声を上げた。
「ベル、この引き車を引っ張ってくれないか?」
「ウン マカセテ」
ベルが引き車の持ち手を掴んだ。
そして──
ひょいっ。
羽のように軽々と引き車を持ち上げた。
「おお……」
さすがオークの怪力だ。
俺が苦労して引いていた引き車を、ベルは片手で楽々と扱っている。
……いや、それ引くものだからね?持つものじゃないからね?
まぁ、障害物が多い森の中を引けるわけないし、これでいいか。
「レン、洞窟ニ行ク?」
「ああ。そこで、色々と準備をしよう」
「ワカッタ 行コウ」
ベルが先頭を歩き、俺がその後に続く。
リノは俺の足元についてきた。
森の中を進む。
木々の間を抜けて、獣道を進む。
ベルが道を覚えているのか、迷うことなく進んでいく。
しばらく歩くと──
見覚えのある洞窟が見えてきた。
ベルとリノが暮らしている洞窟だ。
「着イタ」
「ああ」
洞窟の入口は暗く、冷たい空気が流れている。
中に入ると薄暗い空間が広がっていたが、広間は光るキノコで淡く光っていた。
ベルが作ったらしい簡易的な寝床がある。
草を敷き詰めただけの質素なものだ。
これじゃあ寒いだろうな。
「よし、ここを快適にしよう」
俺は引き車から荷物を降ろし始めた。
まず、防水布を床に敷く。
ざっ。
大きな布が洞窟の床を覆った。
これで湿気を防げるだろう。
「オオ……」
ベルが感心したように見ている。
次に毛布を三枚取り出した。
「ベル、これはお前の毛布だ」
「ベルノ……?」
ベルが目を輝かせた。
俺はベルに大きな毛布を渡した。
ふわふわの羊毛の毛布だ。
「フワフワ……! アッタカイ……!」
ベルが毛布を抱きしめた。
(レン……ベルニ、コンナイイモノ……♡)
(嬉シイ……嬉シイ……♡)
心の声が聞こえる。
「それから、リノにも」
「ギ……?」
俺は小さめの毛布をリノに渡した。
「これはお前の毛布だ。夜、寒かったら使うんだぞ」
「ギギ……」
リノが毛布を受け取り、顔を埋めた。
「ギ……♡」
リノが初めて見せる本当に幸せそうな表情。
よかった。
「それから、これは魔法のランタンだ」
俺は魔石をはめ込んだランタンを取り出した。
魔石に魔力を流すと──
ぽわっ♡
柔らかな光が洞窟を照らした。
光るキノコはあるが、これだけじゃ少し暗かったしな。
「ヒカリ……!?」
ベルが驚いたように目を見開いた。
「スゴイ! 明ルイ!」
「これがあれば、夜も明るいだろ」
俺はランタンを洞窟の壁の出っ張りに置いた。
洞窟全体がほんのりと明るくなる。
一気に温かい雰囲気になった。
「それから、食器も持ってきた」
俺は木製の皿と椀、スプーンとフォークを取り出した。
「ナニコレ……?」
「これで食事をするんだ。手づかみより衛生的だろ。……多分」
ベルが不思議そうに食器を見つめている。
まあ、ベルは普段手づかみで食べるからな。
でも、少しずつ人間の文化に触れてもらうのもいいだろう。
……でもフォークとかスプーン持てるのかな?
「それから──リノ」
「ギ?」
俺は小さな服を取り出した。
茶色のシャツと黒いズボン。
「これ、お前に買ってきた。着てみるか?」
「ギ……!?」
リノが驚いたように目を見開いた。
服……?
という表情をしている。
ゴブリンは普段ボロ布みたいなものしか身につけない。
ちゃんとした服なんて、リノにとっては初めてだろう。
「ほら、着てみろ」
俺はリノに服を渡した。
リノが戸惑いながらも、シャツを着ようとする。
──ただ、着方がわからないようだ。
「ベル、手伝ってやってくれ」
「ウン!」
ベルがリノの服を着せてやった。
しばらくして──
「……できた」
リノが服を着た姿を見て、俺は思わず笑顔になった。
小さな子供がちゃんとした服を着ている。
まだボサボサの髪と痩せた体つきだが、それでも随分と人間らしく見える。
「似合ってるぞ、リノ」
「ギ……!」
リノが嬉しそうに自分の服を見つめた。
(嬉シイ……)
心の声が聞こえる。
俺は洞窟を見回した。
防水布が敷かれた床。
三枚の毛布。
魔法のランタンの柔らかな光。
食器が並べられた簡易的な棚。
そして新しい服を着たリノと毛布を抱きしめているベル。
随分と住みやすくなったんじゃないだろうか。
まぁまだ最低限だけどな。
「よし、これでだいぶ快適になったな」
「ウン レン、アリガトウ」
ベルが感謝の言葉を述べた。
「ギギッ!」
リノも嬉しそうに俺の足にしがみついてきた。
俺はリノの頭を優しく撫でた。
「これからも、困ったことがあったら言ってくれ。できる限り助けるから」
「ウン ベル、レン、ダイスキ」
(レン……優シイ……♡)
(ズット一緒ニイタイ……♡)
ベルの心の声が聞こえる。
そして──
「ギ……ギギ……」
リノが何かを言おうとしている。
そして──
「レ……レン……」
小さな声で、俺の名前を呼んだ。
!
リノが、初めて俺の名前を呼んだ。
小さな手には、確かな感謝と信頼が込められていた。
俺は深呼吸をして、気持ちを切り替えた。
……ゴブリンでも、喋れるんだな。
リノは言葉を理解しているし感情も豊かだ。
俺はリノの頭を撫でながら、ベルを見た。
「さて、せっかく肉もあることだし……焼いて食べようか」
「焼ク? ナニソレ 生デハヤク食ベタイ」
「焼いたらもっと美味しくなるんだぞ」
「エッ? モット?」
ベルが驚いたように目を見開いた。
「そうだ。火を通すと、肉の甘みが出て、香ばしさも加わる。楽しみにしててくれ」
「ワカッタ 楽シミ!」
ベルが嬉しそうに尻尾を振った。
「ギギッ!」
リノも期待した様子で俺を見つめている。
「よし、じゃあまずは火を起こさないとな」
俺は洞窟の外へ出た。
周囲に落ちている枝や枯れ木を集める。
乾燥している木を選んで、焚き火用の薪を用意した。
「レン、何スル?」
「火を起こすんだ。これで肉を焼く」
「オオ……」
ベルが感心したように見ている。
俺は洞窟の入口近くに石を並べて、簡易的な炉を作った。
その中に小枝と薪を積む。
よし、準備はできた。
さあ、火を──
……あれ?
俺は手を止めた。
火、どうやって起こすんだ?
この世界には、ライターもマッチもない。
前世では当たり前にあったものが、ここには存在しない。
火打ち石……?
いや、持ってない。
摩擦……?
木と木を擦り合わせて火を起こすアレか?
でも、あれって相当難しいって聞くぞ……。
俺は焦り始めた。
せっかくいいところを見せようと思ったのに……。
馬鹿か俺は。火起こしなんてできないじゃないか。
どうしよう。
「レン……?」
ベルが不思議そうに俺を見つめている。
「あ、ああ……ちょっと、火を起こす道具がなくて……」
俺が困った顔をしていると──
「ギギ……」
リノが俺の前に歩み出た。
「リノ?」
リノが薪を指差して、何かを言おうとしている。
「ギ……ギギ……」
そして──
リノが小さな手を薪に向けた。
「……ギィ」
その瞬間──
ぼっ!
薪に火が灯った。
「えっ……!?」
俺は目を見開いた。
魔法……!?
リノが、魔法を使った!?
「リノ……お前、魔法が使えるのか!?」
「ギギ……」
リノが恥ずかしそうに俯いた。
俺は驚愕した。
ゴブリンが魔法を使えるなんて……!
いや、待てよ。
確かにこの世界には魔法があるようだ。エマさんも魔法が使えるみたいだし。
でも、ゴブリンは知能が低くて魔法を使えるイメージがない。
少なくとも、俺が倒してきたゴブリンたちは武器を振り回すだけの野蛮な生物だった。
でも、リノは違う。
リノは知能が高い。
言葉を理解し、感情を持ち、そして──魔法まで使える。
……もしかして。
リノはゴブリンの中でも特別なんじゃないか?
頭が良くて魔法の才能もあって。
だから、他のゴブリンから疎まれたのかもしれない。
異質な存在として虐められていたのかもしれない。
そう考えると、リノがあんなに怯えていた理由がわかる気がする。
俺はリノの頭を優しく撫でた。
「リノ……ありがとう。助かったよ」
リノが嬉しそうに目を細めた。
(レン……喜ンデクレタ……)
(嬉シイ……)
心の声が聞こえる。
「スゴイ リノ、ナンカダシタ」
ベルも驚いている。
「ああ、リノはすごいんだ。賢いゴブリンなんだよ」
「スゴイ リノ、カシコイ!」
ベルがリノを褒めた。
「ギ……♡」
リノが照れくさそうに笑った。
火が順調に燃えている。
これなら肉を焼ける。
「よし、じゃあ肉を焼こう!」
俺は肉の包みを開けた。
新鮮な赤身の肉がどっさりと入っている。
マルタさんが選んでくれただけあって、質がいい。
俺は適当な大きさに肉を切り分けて、木の枝に刺した。
そして、火の上にかざす。
じゅうっ……♡
肉から脂が滴り、火が揺らめく。
香ばしい匂いが立ち上ってくる。
「オオオ……!!」
ベルの目が輝いた。
「イイ匂イ……!!」
「ギギッ!」
リノも興奮している。
俺は慎重に肉を回しながら焼いていく。
表面がこんがりと焼けて、いい色になってきた。
「よし、焼けたぞ」
俺は焼けた肉を木の皿に載せて、ベルに渡した。
「ハイ、ベル。食べてみて」
「ウン」
ベルが肉に齧りついた。
もぐもぐ……。
その瞬間──
「!!!」
ベルの目が大きく見開かれた。
「オイシイ!! スゴク、オイシイ!!」
ベルが感動したように叫んだ。
「コレ 生ノニクヨリ、ズット美味シイ!!」
(ウマイ……ウマイ……!!♡)
(コンナ美味シイモノ、初メテ……!!♡)
心の声が聞こえる。
ベルが幸せそうに肉を頬張っている。
よかった。
喜んでくれたみたいだ。
「リノも、食べてみるか?」
「ギギ……!」
俺は小さめに焼いた肉をリノに渡した。
リノが恐る恐る肉を口に運ぶ。
もぐっ。
「……!」
リノの目が輝いた。
「ギ……ギィ!!」
リノが嬉しそうに肉を食べている。
(美味シイ……!)
(コンナノ、初メテ……!)
心の声が聞こえる。
二人とも、本当に喜んでくれている。
俺も自分の分を焼いて、食べてみた。
──うん、美味い。
シンプルに塩も何もつけてないけど、肉本来の旨みが引き出されている。
マルタさんの肉は本当に質がいいんだな。
塩と酒があれば最高だったんだが……次は持ってこようかな?
「レンモ、美味シイ?」
「ああ、美味しいよ」
「ヨカッタ!」
ベルが嬉しそうに笑った。
俺たちは火を囲んで、肉を焼きながら食べ続けた。
ベルは次々と肉を平らげていく。
さすが大食いのオークだ。あっという間になくなりそうだ。
リノも少しずつ、でも確実に肉を食べている。
痩せた身体に栄養が行き渡るといいな。
火の温かさ。
焼き肉の香ばしい匂い。
ベルとリノの幸せそうな顔。
温かい雰囲気に包まれていた。
(……なんだか、家族みたいだな)
俺とベルとリノ。
種族も違うし、血も繋がってないけど。
でも、こうやって一緒に食事をしていると、本当の家族みたいに感じる。
「レン、コレ、スゴク嬉シイ……♡」
ベルが満面の笑みで言った。
「ミンナデ、ゴハン食ベル……幸セ……♡」
(レント一緒……嬉シイ……♡)
(ズット、コウシテイタイ……♡)
心の声が聞こえる。
「ギギ……レン……♡」
リノも小さな声で言った。
(レン……優シイ……)
(ベルト、レント、一緒……幸セ……)
リノの心の声も聞こえる。
俺は温かい気持ちになった。
「こちらこそ、ありがとう。二人とも」
俺は笑顔で答えた。
火がパチパチと音を立てている。
落ち着くな。
ここには、人間の欲望もない。
あるのは、無垢な感情と静寂だけだ……。