俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
俺は宿屋の前に立った。
疲れた身体を引きずりながら、扉に手をかける。
ギィ……。
扉が軋む音が響いた。
俺は中に入った。
そして──
「レンさん!!」
突然、誰かが俺に飛びついてきた。
「うわっ……!?」
俺は驚いて、よろめいた。
柔らかい感触が、俺の胸に押し付けられる。
いい匂い。
そして──
「レンさん……! レンさん……!」
震える声。
泣きそうな声。
俺は抱きついてきた相手を見下ろした。
ミレーヌさんだ。
「ミレーヌさん……?」
俺が戸惑いながら呼びかけると、彼女は俺をさらに強く抱きしめてきた。
「よかった……! 本当に……よかった……!」
彼女の声が、震えている。
俺の胸に、温かいものが染みてくるのを感じた。
涙だ。
ミレーヌさんが、泣いている。
「どうして……」
俺が尋ねると、彼女は顔を上げた。
目が赤い。
涙で濡れている。
「レンさん……昨日の夜から……ずっと帰ってこなくて……」
ミレーヌさんが震える声で言った。
「心配で……心配で……仕方なかったんです……!」
彼女が俺の服を、ぎゅっと握りしめた。
「魔物に……襲われたんじゃないかって……」
「あ……」
俺はハッとした。
そうか。
俺、朝帰りなんて初めてだった。
いつもは夕方か夜には帰ってきていたのに、今日は朝まで帰ってこなかった。
ミレーヌさんは俺が冒険者だから……魔物にやられてしまったんじゃないかって、ずっと心配していたんだ。
(レンくん……無事でよかった……!)
(もう……どうなってるかと思った……!)
(怪我はしてない……? どこか痛いところは……?)
心の声が聞こえる。
ミレーヌさんが、本気で心配してくれていたことが伝わってくる。
俺は胸が痛んだ。
「ごめんなさい、ミレーヌさん……心配かけて……」
俺はミレーヌさんを優しく抱きしめた。
「俺は無事です。怪我もしてません」
「本当に……?」
ミレーヌさんが涙目で俺を見上げた。
「本当です」
俺は優しく微笑んだ。
ミレーヌさんがホッとしたように、俺の胸に顔を埋めた。
「よかった……本当に……よかった……」
彼女が安堵のため息をついた。
俺はミレーヌさんの頭を撫でた。
いい匂い。
彼女の温もりが、俺の疲れた心を癒してくれる。
(ああ……やっぱりミレーヌさんは優しいな……)
俺は心の中で呟いた。
そうしてしばらく抱き合っていると──
ミレーヌさんが、ふと顔を上げた。
「……あれ?」
彼女が不思議そうに俺を見つめた。
「どうしました?」
俺が尋ねると、ミレーヌさんは俺の胸元に鼻を近づけた。
クンクン……。
「レンさん……香水みたいな匂いが……」
──ギクリ。
俺の心臓が、バクンと跳ねた。
(ま、まずい……!)
薔薇の香水。
まさか、イザベラの匂いがうつって……!
そうだ、一晩中抱き合っていたんだから匂いが移っていても不思議じゃない。
くそっ……!
俺は必死に平静を装った。
「こ、香水ですか……?おかしいなぁ……」
「ええ……甘い匂い……薔薇のような……」
ミレーヌさんが首を傾げた。
(これ……女性の匂い……?)
(レンくん……どこかで女性と……?)
心の声が聞こえる。
まずい、気づかれてる!
俺は焦った。
(鑑定! なんとかして言い訳を……!)
俺は心の中で鑑定スキルに呼びかけた。
だが──
何も表示されない。
(あれ? でない?)
俺は驚愕した。
(ど、どうして……!)
いつもなら、こういう時に助けてくれるのに。
なんで今回は何も表示されないんだ!?
俺は必死に考えた。
言い訳。
何か言い訳を。
ミレーヌさんが、じっと俺を見つめている。
不安そうな、疑いの眼差し。
俺は必死に口を開いた。
「あ、あの……それは……」
「……」
ミレーヌさんが黙って待っている。
俺は冷や汗をかきながら、続けた。
「え、えっと……昨日、貴族の屋敷に行ってたんです……」
「貴族の……屋敷……?」
ミレーヌさんが目を見開いた。
俺は頷いた。
「はい……その……知り合いの貴族の方から、相談されて……」
俺は必死に嘘をついた。
「それで、屋敷に呼ばれて……色々話してたら……朝になってしまって……」
「そう……なんですか……」
ミレーヌさんが、少し納得したような表情を浮かべた。
だが、まだ完全には信じていない様子だ。
(貴族の屋敷……?)
(でも……この匂い……やっぱり女性の匂い……)
心の声が聞こえる。
まだ疑われている。
俺はさらに続けた。
「その……屋敷の中って、すごく香水の匂いが強くて……」
俺は必死に説明した。
「だから、きっとそれが服に染み付いちゃったんだと思います」
「そう……ですか……」
ミレーヌさんが、少し寂しそうな表情を浮かべた。
(貴族の屋敷……)
(きっと……綺麗な女性がたくさんいたんでしょうね……)
(レンくん……もしかして……いや、でも……レンくんのことだから、色々と頼りにされてるのよね……きっと……)
心の声が聞こえる。
俺は彼女の肩を掴んだ。
俺は真剣な眼差しで、ミレーヌさんを見つめた。
「ミレーヌさん。──心配かけてごめん」
「レンさん……」
ミレーヌさんの瞳が潤んだ。
(レンくん……♡)
(そんなこと言われたら……♡)
心の声が聞こえる。
ミレーヌさんがようやく安心したようだ。
俺はミレーヌさんを優しく抱きしめた。
ミレーヌさんがようやく笑顔を見せてくれた。
「よかった……♡」
彼女が俺の胸に顔を埋めた。
俺はホッとした。
なんとか……誤魔化せたようだ。
でも危なかった。
本当に危なかった。
俺はミレーヌさんを抱きしめたまま、心の中で呟いた。
(これからは、気をつけないと……)
しばらく抱き合った後、ミレーヌさんが顔を上げた。
「レンさん、お疲れでしょう? お部屋でゆっくり休んでください」
「ありがとうございます」
俺は彼女から離れて、階段に向かった。
「何か必要なものがあったら、いつでも呼んでくださいね」
「はい」
俺は階段を上って、自分の部屋へと向かった。
ギィ……。
扉を開けて、部屋に入る。
そして──
扉を閉めた。
バタン。
俺はベッドに倒れ込んだ。
「はぁ……」
ため息が、自然と漏れた。
疲れた。
本当に疲れた。
イザベラとのこと。
ミレーヌさんへの言い訳。
全部、疲れた。
俺は天井を見つめながら、呟いた。
「イザベラはなんとかした……」
彼女はもう、ソフィアお嬢様に毒を盛らない。
約束してくれた。
「次はポーションの継続投与と……」
老婆のポーションをソフィア嬢に飲ませなきゃならない。
何回か飲ませて、完治させる必要がある。
またあの店に行かなくちゃ。
「あぁ、そうだ……ベルとリノにも会いに行かないとな……」
二人のことも気になる。
洞窟でちゃんと過ごせているだろうか。
「それと……ギルドでも色々仕事をしたりして……むにゃ……」
俺の意識が、だんだんと薄れていく。
疲れが一気に押し寄せてきた。
目が重い。
もう無理だ。
俺は目を閉じた。
そして──
深い眠りに落ちていった。
────────────────────────────────────────
翌日。
俺は宿屋を出て、ギルドに向かった。
昨日は依頼を受けなかったから、今日はちゃんと依頼を受けようと思っていた。
ギルドの扉を開ける。
ギィ……。
いつも通りの活気ある雰囲気。
朝から冒険者たちが依頼ボードの前に群がっている。
俺はカウンターに向かった。
そこには──
「あ、レンさん! おはようございます!」
エマさんがいた。
今日もいつも通りの笑顔だ。
「おはようございます、エマさん」
俺が挨拶すると、エマさんがパッと顔を輝かせた。
「レンさん! お待ちしてました!」
「え?」
「お伝えしたいことがあって……!」
エマさんが興奮した様子で身を乗り出した。
胸がカウンターの上に乗っかって、さらに強調される。
……いや、今はそこを見ている場合じゃない。
「何でしょうか?」
俺が尋ねると、エマさんが満面の笑みで言った。
「レンさん、おめでとうございます! Eランクへの昇格が認められました!」
「え?Eランクに?」
俺は思わず聞き返した。
「はい! 正式に審査が通りました! レンさんは今日からEランク冒険者です!」
エマさんが嬉しそうに拍手した。
周囲の冒険者たちも、チラチラとこちらを見ている。
「おい、あの新人、もうEランクかよ」
「マジか……早すぎだろ」
「確か、街に来てまだ一ヶ月も経ってないんじゃないか?」
ざわざわと、噂が広がっていく。
俺はなんとなく居心地が悪くなった。
Eランクに昇格……か。
これで俺もEランク……。
「……」
だけどいまいち凄さが分からないな。
Eって新人が見習いくらいになったくらいの差じゃないか……?
でも、エマさんは言う。
「Eランクに一生上がれない人もいるくらいなんですよ。それをレンさんは一人で、こんな短期間で……」
エマさんが俺を見つめる。
その瞳には尊敬の色が浮かんでいた。
崇敬の眼差し。
キラキラとした目で、俺を見つめている。
(レンさん……本当にすごい……)
(こんなに早くEランクに昇格するなんて……)
(やっぱり、才能があるんだ……♡)
心の声が聞こえる。
……でも、俺はなんとなく居心地が悪い。
才能……?
違う。
全然違う。
全部……ベルのお陰だ。
薬草を見つけまくったのだって、月光蘭を見つけたのだって、リーシャさんを見つけたのだって──
全部ベルのオークの力で成し遂げたものだ。
俺はただついていっただけ。
ベルが鼻を使って薬草を探してくれた。
ベルが森の中を案内してくれた。
ベルが魔物から守ってくれた。
俺は何もしていない。
それなのに評価されているのは俺だ。
ベルの存在は誰も知らない。
……なんだか、申し訳ない気持ちになる。
でも、本当のことを言うわけには行かない。
「……ありがとうございます」
俺は小さく頷いた。
あまり嬉しそうな顔はできなかった。
複雑な気持ちだ。
すると──
エマさんの表情がさらに輝いた。
(あ……)
(レンさん……Eランク程度じゃ喜ばないんだ……!)
心の声が聞こえる。
(普通の冒険者ならすごく喜ぶのに……)
(レンさん、全然驚いてない……)
(もしかして、本当は別の国の高ランク冒険者で、この国の冒険者ランクもすぐに上がれるって思ってるのかも……!?)
(そうだとしたら……かっこいい……♡)
違います。
単なる雑魚です。
多分エマさんより弱いです。
俺は心の中で訂正したが当然エマさんには聞こえない。
彼女は俺を勘違いしたまま、さらに目を輝かせている。
「それでは、こちらが新しいギルドカードです」
エマさんがカウンターの上にプレートを置いた。
以前のFランクのプレートとは、色が違う。
「これからは、Eランク向けの依頼も受けられますよ」
「ありがとうございます」
俺はカードを受け取った。
手のひらに、ずっしりとした重みを感じる。
……これでEランク冒険者か。
感慨深いような、でも実感が湧かないような。
複雑な気持ちだ。
「それと……」
エマさんが少し声を潜めた。
「Eランク以上が閲覧できる資料室のエリアに入れますよ」
「!」
俺は顔を上げた。
Eランク以上の閲覧エリア。
魔族についての詳しい情報が載っているかもしれない場所。
以前、俺が入れなかった場所。
「今日から、レンさんもあちらを利用できます」
「そうですか……ありがとうございます」
俺は心の中でガッツポーズをした。
よし。
これで、魔族についてもっと詳しく調べられる。
オルベリアについて。
魔子爵という階級について。
どうすれば倒せるのか。
弱点は何なのか。
それを知る手がかりが、Eランクの資料室にあるかもしれない。
「あの、エマさん。今日、資料室を使ってもいいですか?」
「もちろんです! どうぞご自由に」
エマさんが笑顔で答えた。
「ただ、依頼の方は……」
「あ、依頼も受けます。何かいい依頼ありますか?」
「そうですね……」
エマさんが依頼ボードの方を見た。
「Eランク向けの討伐依頼がいくつか出ていますよ。報酬も以前より高いです」
「討伐依頼……」
俺は少し考えた。
討伐依頼は戦闘が必須だ。
まぁ、戦うのはベルだけど。
俺は相変わらずついていくだけ。
「どんな魔物ですか?」
「えっと……ホーンラビットの群れと、ウルフの群れ、あとはゴブリンの小規模な集落ですね」
エマさんが依頼書を並べた。
ホーンラビット、ウルフ、ゴブリン。
どれも俺が森で見かけたことのある魔物だ。
……ゴブリン、か。
リノのことを思い出す。
あの小さなゴブリンの女の子。
今はベルと一緒に洞窟で暮らしている。
ゴブリンを討伐するのは、なんとなく気が進まない。
でも、リノを虐めていたのもゴブリンだ。
ゴブリンにも色々いるんだろう。
悪いゴブリンもいれば、リノみたいに無害なゴブリンもいる。
「……ホーンラビットの討伐にします」
もちろんゴブリンとウサギに命の違いなんてない。人間も……。
でも、なんとなくホーンラビットの依頼を受けた。
「わかりました。では、こちらの依頼書をどうぞ」
エマさんが依頼書を渡してくれた。
報酬は銀貨80枚。
Fランクの依頼と比べると、かなり高い。
勿論……危険度も高いんだろう。
「頑張ってくださいね、レンさん」
「はい、ありがとうございます」
俺は依頼書を受け取り、カウンターを離れた。
さて。
依頼は受けたが、まずは資料室に行こう。
オルベリアについて調べないと。
────────────────────────────────────────
資料室に到着した。
本棚がびっしりと並んでいる。
そして──
奥にある重厚な木製の扉。
制限付き閲覧エリアへの入り口。
今日からは、俺も入れる。
俺は扉の前に立った。
深呼吸をする。
そして、扉に手をかけた。
ガチャ。
扉が開いた。
鍵はかかっていない。
Eランク以上のギルドカードを持っていれば、自由に入れるようだ。
俺は扉をくぐった。
中は──
思っていたより広かった。
一般閲覧エリアよりも本棚の数が多い。
そして本の質も違う。
古い本。分厚い本。革装丁の本。
明らかに貴重な資料が保管されているのが分かる。
「おお……」
俺は思わず声を漏らした。
これなら魔族についての詳しい情報が載っているかもしれない。
俺は本棚を見て回った。
魔物図鑑【上級編】
魔法理論書
歴史書【魔族大戦】
冒険者列伝
そして──
魔族概論。
「これだ」
俺は魔族概論という本を手に取った。
分厚い本だ。
重い。
俺は近くの机に座り、本を開いた。
ページをめくる。
そこには──
魔族についての詳細な情報が記されていた。
────────
【魔族の階級制度】
魔族には厳格な階級制度が存在する。
階級は以下の通り。
・魔王
・魔大公
・魔公爵
・魔侯爵
・魔伯爵
・魔子爵
・魔男爵
・一般魔族
階級が高いほど魔力と戦闘力が強大である。
爵位持ちの魔族は通常の冒険者では太刀打ちできない。
Aランク以上の冒険者や英雄の力が必要とされる。
────────
俺は息を呑んだ。
魔子爵以上は通常の冒険者では太刀打ちできない……。
Aランク以上、もしくは英雄の力が必要……。
オルベリアは魔子爵。
つまり俺みたいなEランクの冒険者じゃ絶対に勝てない。
「くそっ……」
俺は唇を噛んだ。
やっぱり俺一人じゃどうにもならない。
誰かに助けを求めないと──
でも、誰に?
ギルドに報告したところで、信じてもらえない。
人間や魔族を鑑定できるなんて言ったら、俺自身が疑われる。
「……英雄、か」
英雄がいればオルベリアを倒せるかもしれない。
でも、英雄ってどこにいるんだ?
そもそも、英雄って何だ?
俺はページをめくり続けた。
そして──
英雄についての記述を見つけた。
────────
【英雄とは】
人間を遥かに超える力と寿命を持ち、魔族を討伐する使命を帯びている存在。
人間の姿形をしているが、人間とは種族が違う上位存在である。
────────
俺は本を閉じた。
……書かれているのはこれだけ……。
これじゃ、意味がない。何も分からない。
それに……人間じゃないってどういうことだ?
人間とは種が違うって……。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題なのは、英雄はどこにいるのかすら書いてない。
(エマさんに聞けばなんとかなるだろうか……?)
いや、そんなことを聞きまくればオルベリアに俺が英雄を探しているという情報が伝わるかもしれない。
聞くなら……必要最低限、それも信頼できる人に聞かないと……。
(オルベリアは、今も教会で傷を癒している)
完治するまでまだ時間がある。
だけど、いつ完治するかは分からない。
もしかしたら明日かもしれない。
一週間後かもしれない。
一ヶ月後かもしれない。
分からない。
だから──
定期的に監視しないと。
鑑定でオルベリアの回復具合を確認しないと。
そして、もし完治しそうになったら──
何か手を打たないと。
……何を?
俺に何ができる?
分からない。
でも、何もしないわけにはいかない。
「……」
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
落ち着け。
焦っても仕方ない。
まずは、できることをやろう。
俺は本を棚に戻し、資料室を出た。
今日は依頼をこなそう。
ホーンラビットの討伐だ。
ベルとリノに会いに行かないと。
「……ん?」
不意に気付く。
資料室の奥……そこに、鉄製の扉がある。
もしかして、あれはDランク以上が入れる扉とか?
「あそこなら何かが分かるかも……」
だけど、まだ俺はEランクだ。
まずは、あの扉に入れるようになることを目指そう。
俺は気持ちを新たに、資料室を出た。
取り合えず……
まずは肉を買って、ベルとリノに会いに行こう。