俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
ベルがホーンラビットに向かって突進した。
ドドドドッ!
地面が揺れる。
オークの巨体が、猛スピードで駆ける。
ベルが拳を振り上げた。
そして──
ホーンラビットの横っ腹に、ベルの拳が叩き込まれた。
「よし!」
俺は思わず声を上げた。
やった。
ベルの一撃が決まった。
これで──
だが。
ホーンラビットは、すぐに立ち上がった。
「……!」
俺は息を呑んだ。
「まだ、倒れない……?」
ホーンラビットが、ベルを睨んだ。
赤い目がさらに光を増した。
怒っている。
そして──跳んだ。
すごい速度で。
ベルに向かって。
角を突き出して。
「ベル! 避けろ!」
俺が叫ぶ。
ベルが反射的に身体を捻った。
ギリギリで角をかわす。
だが──
ホーンラビットの後ろ足が、ベルの肩を蹴った。
「グ……!」
ベルが呻いた。
身体がよろめく。
ホーンラビットは着地するとすぐに反転した。
そして、再びベルに突進する。
速い。
速すぎる。
角と拳が、激しくぶつかり合う。
一進一退。
どちらも、譲らない。
「……!」
俺は唖然とした。
嘘だろ。
ベルと互角……?
ベルは強い。
オークだから力も強いし、戦闘慣れもしている。
それなのに……なんて強さなんだ。
激しい攻防が続く。
ベルの拳がホーンラビットの身体を捉える。
ホーンラビットの角がベルの腕を掠める。
お互いに傷を負いながらも、戦い続けている。
「くそっ……!」
俺は焦った。
このままじゃ、まずい。
ベルが疲弊してしまう。
俺もなんとかして援護しないと。
でも、どうやって?
俺には戦う力がない。
あるのは──
【鑑定】だけ。
メスにしか効かない鑑定。でも……あいつはオスだ。
完全に無力だ。
「くそっ……!」
俺は歯噛みした。
役立たず……!
この鑑定は本当に役立たずだ。
そして、俺も……。
「ブゴォォ!!」
ベルとホーンラビットが、激しくぶつかり合っている。
ベルの息が、荒くなってきている。
疲れてきているのが分かる。
まずい。
このままじゃ──
その時だった。
「ギ……ギギ……!」
小さな声が聞こえた。
俺は振り向いた。
リノだ。
「リノ……?」
リノが、何かをしようとしている。
その顔は、恐怖に引きつっていた。
でも、同時に──
強い意志が宿っていた。
(コワイ……コワイ……デモ)
(ベル、助ケナキャ……)
心の声が聞こえる。
リノが勇気を振り絞っている。
小さな身体で恐怖に震えながらも。
ベルを助けようとしている。
「リノ、危ない! 下がって──」
俺が叫ぶ。
だが、リノは止まらなかった。
「……ギィ!!」
リノが叫んだ。
その瞬間──
リノの手から、火が放たれた。
ボッ!
小さな火球。
弱々しい炎。
だが、確かに魔法だ。
火球が、ホーンラビットに向かって飛んでいく。
そして──
パシッ!
ホーンラビットの背中に当たった。
爆発はしない。
ダメージもほとんどない。
弱い魔法だ。
「……!」
ホーンラビットが、動きを止めた。
そしてリノの方を向いた。
赤い目がリノを捉えた。
グルルル……。
低い唸り声。
ホーンラビットが、リノに向かって一歩踏み出した。
注意がリノに向いた。
ベルから意識が逸れた。
「リノ!」
俺は叫んだ。
ホーンラビットがリノを狙っている。
小さな身体で、あの化け物の攻撃を受けたら──
即死だ。
間違いなく、即死だ。
「リノ、逃げろ!」
俺が叫ぶ。
だが、リノは動けなかった。
恐怖で、身体が固まっている。
小さな身体が、ガタガタと震えている。
(コワイ……コワイ……)
(動ケナイ……)
心の声が聞こえる。
リノが恐怖に支配されている。
俺の身体が、勝手に動いた。
考えるより先に。
俺はリノの前に飛び出していた。
「レン!?」
ベルの声が聞こえる。
でも、もう遅い。
ホーンラビットの角が、目の前に迫っている。
速い。避けられない。
次の瞬間だった。
「……っ!」
ものすごい衝撃音が響いた。
だが──
痛みはない。
俺は、目を開けた。
そこには……。
「ベル……!?」
ベルがいた。
俺とホーンラビットの間に割って入っていた。
ベルの太い腕が、ホーンラビットの角を掴んでいた。
力任せに止めている。
ギリギリギリ……。
ベルの腕が、震えている。
ホーンラビットが、角を押し込もうとしている。
ベルが俺を守ってくれた。
自分の身を挺して。
「グ……ウゥゥ……! オォォォッ!!」
ベルが呻き声を上げ、渾身の力を振り絞ってホーンラビットを正面から押し返した。
ズザザッ!
土煙を上げてホーンラビットが後方へ弾き飛ばされる。
二匹の間に再び距離が生まれ、互いの出方を窺うように激しい睨み合いが始まった。
ベルの額からは汗が流れ、必死に息を整えている。
(レン……守ル……)
(リノモ……守ル……)
何かをしないと。
何かできることを──
考えろ。
考えろ。
何か、方法があるはずだ。
俺にも、できることが──
その時だった。
俺の視界に、突然文字が浮かんだ。
【鑑定より緊急提案】━━━━━━━━━━━━━━━━
対象:レン(使用者本人)
状況分析:ホーンラビット戦闘継続中
ベルの疲弊度:67%(このまま継続すると10分以内に戦闘不能の可能性)
【推奨行動】
①今すぐ左手側の大木の後ろに回り込む
②地面に落ちている枯れ枝を拾う(長さ1メートル以上のもの)
③ベルが攻撃を仕掛けるタイミングに合わせ、ホーンラビットの右後ろ脚を枝で思い切り叩く
④ホーンラビットの注意を分散させることでベルの攻撃精度が上がる
注意事項
直接戦闘は厳禁。あくまで注意散漫を狙うこと。
レンの現在の戦闘力ではダメージを与えることは不可能。
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「……え?」
俺は目を瞬かせた。
ホーンラビットの弱点とかじゃない。
俺自身の動き方だ。
ベルを援護するために、俺がどう動けばいいか。
ありがたい。
本当に、ありがたい。
「……分かった!」
俺は小さく呟いた。
やってやる。
俺にできることをやってやる。
俺は鑑定の指示を頭に叩き込んで動いた。
まず、左手側の大木を確認する。
ある。
太い幹の木が、ホーンラビットの斜め後方に立っている。
俺は足音を立てないように慎重に動き始めた。
草を踏みしめる音を抑えながら。
息を潜めて。
ホーンラビットの視界に入らないように。
今、ホーンラビットの意識はベルに集中している。
二匹が激しく睨み合っている。
今がチャンスだ。
俺は大木の後ろへと回り込んだ。
木の陰に身を潜める。
ドクドクと心臓が鳴っている。
怖い。
怖いけど、動かないと。
俺は地面に目を落とした。
枯れ枝を探す。
長さ1メートル以上のもの。
……あった。
足元に、太めの枯れ枝が落ちていた。
俺はそっと枝を拾い上げた。
ずっしりとした重さ。
乾燥していて硬い。
これなら、振るえる。
俺は枯れ枝を両手で握りしめた。
掌に汗が滲む。
次は──タイミングだ。
鑑定の指示通り。
ベルが攻撃を仕掛けるタイミングに合わせて。
ホーンラビットの右後ろ脚を叩く。
俺は木の陰からそっと頭を出して、戦況を確認した。
ベルとホーンラビットが、まだ睨み合っている。
ベルの息が荒い。
汗が流れている。
疲弊しているのが、目に見えて分かる。
だが、目はまだ死んでいない。
強い意志が、その瞳に宿っている。
(レン、安全ナトコロニイルカ……)
ベルの心の声が聞こえる。
戦いながら、俺のことを気にしてくれている。
……本当にありがとう。
でも今は、俺がお前を助ける番だ。
俺は枝を握り直した。
ホーンラビットの位置を確認する。
右後ろ脚。
そこまでの距離は……3メートルくらいか。
走れば、すぐに届く。
だが、今は動くな。
タイミングを待て。
ベルが攻撃を仕掛ける瞬間を。
ドクドクドク……。
心臓の鼓動が、耳に響く。
待つ。
待つ。
待て。
その瞬間だった。
「オォォ……!!」
ベルが吼えた。
攻撃を仕掛けるタイミングだ。
ベルが全力で突進する。
ホーンラビットの意識が、完全にベルに向く。
今だ──!
「……!」
俺は木の陰から飛び出した。
全力で走る。
草を踏みしめ、地面を蹴る。
ホーンラビットの右後ろ脚に向かって。
3メートル。
2メートル。
1メートル。
俺は枝を思い切り振り上げた。
そして──
バシィン!!
ホーンラビットの右後ろ脚を、枝で力いっぱい叩いた。
俺の全力の一撃だ。
ダメージは……多分ない。
分かってる。
だが、それでいい。
「──!?」
ホーンラビットが、驚いたように動きを止めた。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
後方からの予想外の攻撃に、意識が乱れた。
ベルへの集中が、切れた。
その隙間が──
「今だ、ベル!!」
俺は叫んだ。
ベルが俺の叫びに反応した。
一瞬の迷いもなく。
ベルがホーンラビットに向かって全力で拳を放った。
「ブモォ!!!!」
ベルの拳が、ホーンラビットの顎を下から突き上げた。
渾身の一撃。
ホーンラビットの身体が、大きく宙に浮いた。
そして──
「ギ……イィィィ!!」
地面に叩きつけられた。
砂埃が舞い上がる。
「……!」
俺は息を呑んだ。
ホーンラビットが、地面に横たわっている。
動かない。
完全に、動かない。
赤く光っていた目が、閉じている。
……倒した?
倒したのか?
「……」
俺はホーンラビットをじっと見つめた。
ピクリとも動かない。
……倒した。
本当に、倒した。
「……やった」
俺は呆然と呟いた。
膝が笑っている。全身が震えている。
怖かった。
本当に、怖かった。
でも──
やった。
「レン!!」
突然、背後から声が聞こえた。
振り向く間もなく──
ベルが俺に抱きついてきた。
「うわっ……!」
オークの巨体が俺を包み込む。
ものすごい力で抱きしめられる。
胸が顔に押し付けられる。
……苦しい。
でも温かい。
「レン! レン! アリガトウ!」
ベルが興奮した様子で俺を抱きしめながら叫んだ。
「デモ、レン、飛ビ出シテ……ビックリシタ!!」
ベルが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「レン、怪我ハ?」
「大丈夫だ。お前こそ、怪我は?」
「ベルハ、平気!」
ベルが笑顔で答えた。
でも、腕に掠り傷がいくつかある。
「掠り傷あるじゃないか」
「コレクライ 平気!」
(レンガ心配シテクレテル……♡)
(嬉シイ……♡)
心の声が聞こえる。
まったく……。
俺は苦笑しながら、ベルの傷を確認した。
幸い、深い傷はない。
掠り傷だけだ。
よかった。
その時──
「ギ……ギギ……」
小さな声が聞こえた。
リノだ。
リノが、恐る恐るこちらに近づいてきた。
ホーンラビットが動かなくなったことを確認しながら、おそるおそる歩いてきた。
「リノ、大丈夫か?」
「ギ……」
リノが俺の足元まで来て、俺の服を掴んだ。
小さな身体が、まだ震えている。
(コワカッタ……)
(レン……ベル……ヨカッタ……)
心の声が聞こえる。
「リノ……お前のおかげで助かった」
「ギ……?」
リノが顔を上げた。
不思議そうな表情だ。
「お前が魔法を使ってくれただろう。あれで、ベルへの集中が乱れて……それで俺が動けた。お前がいなかったら、もっと苦しい戦いになってたよ」
「ギ……ギギ……」
(リノ……役ニ立ッタ……?)
(嬉シイ……)
リノの目が、じわりと潤んだ。
「ギ……♡」
リノが小さく笑った。
笑顔が、眩しかった。
「みんな、本当に、ありがとう」
俺はベルとリノの頭を、順番に撫でた。
二人が嬉しそうに声を上げた。
俺は横たわるホーンラビットを見た。
角は鋭く尖っている。
……これが討伐証明になるのか。
角を一本、持って帰らないと。
「これ、切れるのかな……」
俺は懐からナイフを取り出した。
そして、ホーンラビットの角の根元に目をやる。
先ほどのベルの強烈なアッパーカットのせいか、太い角の根元には深いヒビが入っていた。
「これなら……!」
俺はそのヒビの隙間にナイフの刃を深く差し込み、テコの原理を利用して思い切り体重をかけた。
メキ、メキメキッ……バキィッ!
鈍い音を立てて、角が根元からへし折れた。
俺はそれを持ち上げようとして──
「ぐっ……お、重い……」
鋭い角。俺の背丈くらいあるじゃないか……。
これをギルドに持って行けば、討伐完了として認められるはずだが……。
どうやって持っていけばいいんだ。引きずるしかないのか?
俺は立ち上がり、深く息を吐いた。
足がまだ震えている。
心臓がまだバクバクしている。
でも──
終わった。
とにかく、終わった。
「ベル、リノ。このウサギの肉、食べるか?」
俺が言うと、ベルの目が輝いた。
「タベル!!」
「ギギッ!!」
リノも嬉しそうに声を上げた。
……そうだよな。
これだけ大きいホーンラビットだ。
肉も相当あるだろう。
二人にとっては、ご馳走だ。
「じゃあ、洞窟の前で焼いて食べよう。リノ、また火を頼んでいいか?」
「ギ……!」
リノが元気よく頷いた。
俺はホーンラビットの巨大な死骸を振り返る。俺には到底運べない重さと大きさだ。
「ベル、悪いんだけど……お肉のほう、担いで運んでくれるか?」
「マカセテ!」
ベルは嬉しそうに胸を叩くと、巨大なウサギの身体を軽々と肩に担ぎ上げた。
俺は空を見上げた。
木々の間から見える青空。
俺は歩き出した。
獲物を背負ったベルと、ご機嫌なリノが、俺の隣を歩く。
さっきまでの恐怖が、少しずつ遠ざかっていく。
俺は自分の背丈ほどあるホーンラビットの角を、よいしょと引きずりながら歩いた。
重い。肉よりも……。