俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
武具店を出た足で俺は伯爵屋敷へと向かっていた。
新しい装備が身体に馴染んでいく感触を感じながら、街道を歩く。
ダークウルフの皮の胸当て。ハンターズソード。
重心がしっくり来る。いい買い物だった。
なにより見た目が冒険者らしくなった。
「まぁ、装備がかっこよくなっただけで、実力が上がったわけじゃないけどな」
俺は苦笑しながら歩く。
しばらく歩くと伯爵屋敷の正門が見えてきた。
いつもの門番さんが、俺の姿を見つけて手を上げた。
「今日も来てくれたか」
「こんにちは。今日もお邪魔します」
俺は軽く頭を下げた。
いつも通りの挨拶のつもりだった。
だが。
「なあ」
門番さんが、いつもと違う声で言った。
門番さんの目が、赤かった。
目元が潤んでいる。
泣いている……のか?
「どうかしましたか?」
「ソフィアお嬢様が……」
門番さんが声を詰まらせた。
一瞬、俺の心臓が跳ねた。
──まさか、悪いことが起きたのか、と。
「元気になられたんだよ……!」
でも次の言葉はそうではなかった。
「屋敷の中を歩けるようになられたんだ……!!」
門番さんの声が震えていた。
大きな体の無骨な彼が声を震わせている。
「ずっと寝たきりだったんだ……もう治らないんじゃないかって……みんなそう思ってたんだよ……」
俺は何も言えなかった。
ただ、聞いていた。
「アンタが月光蘭を持ってきてくれただろ。あれが効いたんだ……!」
門番さんが俺の手を両手で握った。
大きくてごつごつした手だった。
力が入っている。
「ありがとう……本当にありがとう……お嬢様のこと、俺たちはずっと心配で……」
門番さんの目から涙が一粒、頬を伝って落ちた。
月光蘭が効いたわけではない。
本当に効いたのは、老婆から買ったポーションだ。
(でも……今それを言う必要はない)
この人を不安がらせるだけだ。
老婆のポーションの正体もまだよく分からない。
真実を話すことで、余計な心配を生む。
それより今は──
「よかったです」
俺はそう言った。
「お嬢様が元気になってきたなら、それが一番です」
「ああ」
門番さんがもう一度、俺の手を強く握った。
「ありがとう、ありがとうな……」
俺は握り返した。
……本当によかった。
それだけは嘘じゃない。
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門番さんに送り出され、俺は屋敷へ向かう。
「レン様、お待ちしておりました……」
今日は使用人の人が出迎えて、応接間へと案内された。
そして応接間に着くなり……。
「おぉ、レンくん!」
大きな声が出迎えた。
革張りのソファから立ち上がったのはアドルフ・ヴァン・クロイツェル伯爵だ。
「お邪魔します。伯爵様」
「いやいや、堅苦しくなくていい! まあ座りなさい!」
伯爵が俺を応接間のソファへ促した。
テーブルの上には、すでに茶の用意がされている。
「実はね、レンくん」
伯爵が目を輝かせながら言った。
顔には隠しきれない喜びが滲んでいた。
「ソフィアの体調がよくなってきたんだよ……!」
門番さんから聞いた通りだ。
「ようやく薬が効いてきたのかもしれん……。昨日から起き上がれるようになって、今朝は廊下を歩いたんだ……!」
伯爵の声がわずかに掠れた。
伯爵が目を細めた。彼の目の奥に長い時間の重さが見えた気がした。
「だから……本当に嬉しくてね。それに君が来てくれたら更に元気になるだろう」
「俺なんかが来るだけで、お嬢様が喜んでくれるなら光栄です」
「いやいや、あの子にとって君は特別なんだ。冒険譚を聞かせてくれる外の世界を知っている人間だ。閉じ込められていたあの子にとっては……」
伯爵が言葉を選ぶように間を置いた。
「……光のような存在なんだろうと、父親ながら思う」
俺は何と返せばいいか分からなくて、黙っていた。
その時。
扉が、静かに開いた。
「レン様……!」
「!」
俺は顔を上げた。
そして思わず、立ち上がっていた。
ソフィア嬢。
彼女が扉の枠に手を添えながら、応接間に歩いて入ってきた。
歩いて。
自分の足で。
ゆっくりと。でも……確かに。
白いドレスの裾が、廊下からの光を受けて淡く輝いていた。
まだ細い。
まだ儚い。
でも、確かに違った。
今にも消えてしまいそうな印象が、少しだけ薄れていた。
目に光がある。
「ソフィアお嬢様、立って、歩いてるんですね」
俺の口から、思わずそのまま出た。
ソフィア嬢が小さく笑った。
「ええ……昨日から、少し歩けるようになりました」
その声は、前回より張りがある。
「まだふらふらしますけれど……」
「いいんです。十分です。それだけで」
俺は自分の声が少し上擦っているのに気づいた。
落ち着け。
でも……本当によかった。
心の底からそう思う。
鑑定スキルが、静かに反応した。
【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【基本情報】
名前:ソフィア・ヴァン・クロイツェル
種族:人間(貴族)
職業:伯爵家令嬢
身長:141cm
体重:38kg
スリーサイズ:B72/W52/H75
処女:Yes(純潔)
経験人数:0人
【身体状態】
状態:回復中
【心の声】
(レン様……来てくださった……)
(今日は歩いてここまで来られた……見てほしかった……)
(恥ずかしいけど……でも、見てほしかった……)
(レン様の顔が……なんか、ほっとした顔に見える……)
(嬉しい……)
【特記事項】
・ポーションの効果が確実に発現している
・ただし毒素が完全に抜けたわけではない
・無理な活動は禁物。歩行は短時間に留めること
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よかった。
本当に、効いている。
ソフィア嬢がゆっくりとソファに近づいてくる。
俺は思わず一歩前に出た。
「大丈夫ですか? 手を」
「……はい」
ソフィア嬢が俺の差し出した手に、細い指を乗せた。
ゆっくりと、ソファに腰を下ろす。
触れた手が少し震えていた。
でも温かかった。
前回、手が冷たかったことを俺は覚えている。
今日は違う。
生きているという温度がある。
「レン様……」
ソフィア嬢が俺を見上げた。
瞳がシャンデリアの光を受けてきらりと輝いた。
「今日も、冒険の話を聞かせていただけますか?」
俺は笑った。
「もちろんです」
今日の冒険譚は魔法使いの少年の話にした。
前世で読んだ漫画の筋書きを、この世界の言葉に置き換えながら。
魔法の才能がないと言われた少年が、独自の理論で魔法の常識を覆していく話だ。
俺は身振り手振りを交えながら話した。
山場では声を低くし、静かなシーンでは速度を落とす。
「そして少年は言うんです。俺には魔法の才能がない。だから魔法そのものを変えた、と」
ソフィア嬢が息を呑んでいた。
伯爵様も、身を乗り出すようにして聞いていた。
「それで、どうなったんですか?」
ソフィア嬢が掠れた声で聞いてきた。
「少年の魔法は誰にも理解されませんでした。でも、結果だけは誰にも否定できなかった。敵は倒された。仲間は守られた。それだけで十分だったんです」
またしばらくの間があった。
暖炉の薪が、パチリと弾ける音がした。
「素敵です」
ソフィア嬢が、静かに言った。
「才能がなくても、諦めなければ……世界を変えられるのですね」
「そう信じたい話です」
(戦って、傷ついて……それでも前に進んでいる……)
(私もいつかそんな風になりたいな……)
ソフィア嬢の心の声が聞こえる。
「いやぁ……」
伯爵が深く息を吐いた。
「レンくん、毎回思うが……君の話は本当に上手い。どこでそんな話を仕入れてくるんだね?」
「旅の中で聞いたり、読んだりしたものをかき集めているだけです」
「謙遜するものじゃない。話に引き込まれる力というのは、なかなか持てるものじゃない」
伯爵がソファに深く座り直し、改めて俺を眺めた。
そして──
「そういえば」
伯爵の視線が、俺の胸元で止まった。
「レンくん、前回よりも素晴らしい装備をしているな」
俺は思わず自分の胸当てを見下ろした。
「やはり月光蘭を見つけることができる冒険者ともなると、すぐに成長するものだな」
「いえ……これも伯爵様から頂いた報酬で装備を整えただけです」
俺はそう答えた。
本当はホーンラビットの討伐報酬で買ったものだが……まあ、それでいい。
伯爵が嬉しそうに頷いてくれるなら、その方がお互いにとっていい。
「ほほう、そうか。役に立ててくれたなら嬉しいよ」
伯爵が満足そうに目を細めた。
その時、俺はソフィア嬢の視線に気づいた。
彼女が俺を見ていた。
じっと見ていた。
「レン様……」
ソフィア嬢が、かすかな声で言った。
彼女の瞳が……輝いていた。宝石に光が射し込んだような、透き通った輝きだった。
ダークウルフの皮の胸当てに視線が動き、腰のハンターズソードへ動き、また俺の顔に戻ってくる。
(すごい……本当に物語の騎士様みたい……)
(鎧に剣……全然違う)
(格好いい……)
そんなに憧れの目で見られても、恥ずかしいのだが。
それに、俺は弱いし……。
(私もいつか……外の世界を見てみたい)
(でも今は……レン様の話を聞いているだけで、少し外の世界が見える気がする)
心の声が聞こえる。
胸が少し痛い。
この娘は、まだこんなに広い世界を知らないでいる。
病のせいでずっとこの屋敷の中だけで生きてきた。
……絶対に治す。
俺は心の中でそう決めた。
その時、俺は思い出した。
ポーション。
今日飲ませないといけない。
伯爵がいる前では難しい。
(どうするか……)
変に説明することになる。
何かうまい流れで、ソフィア嬢と二人になれないか……。
俺は自然を装いながら、頭を回転させた。
(なんとかポーションを飲ませたいけど……伯爵がいる時は無理か……どうすれば)
何か口実を作って部屋を変えるか。
いや、ソフィア嬢の体調を考えれば移動させるのは申し訳ない。
さりげなく伯爵に席を外してもらう方法は……
そんなことを考えていた時だった。
応接間の扉が開いた。
「……ぁ」
濃厚な薔薇の香りが、ふわりと漂ってきた。
豪奢なドレス。
胸元を大胆に開いた、深紅の布地。
イザベラ・ヴァン・クロイツェル。
彼女がそこに立っていた。