※この作品はR-18です。

俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~   作:フレキシブルコーギー

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50.今日も、冒険の話を聞かせていただけますか?

 武具店を出た足で俺は伯爵屋敷へと向かっていた。

 

 新しい装備が身体に馴染んでいく感触を感じながら、街道を歩く。

 ダークウルフの皮の胸当て。ハンターズソード。

 

 重心がしっくり来る。いい買い物だった。

 なにより見た目が冒険者らしくなった。

 

「まぁ、装備がかっこよくなっただけで、実力が上がったわけじゃないけどな」

 

 俺は苦笑しながら歩く。

 しばらく歩くと伯爵屋敷の正門が見えてきた。

 いつもの門番さんが、俺の姿を見つけて手を上げた。

 

「今日も来てくれたか」

 

「こんにちは。今日もお邪魔します」

 

 俺は軽く頭を下げた。

 いつも通りの挨拶のつもりだった。

 

 だが。

 

「なあ」

 

 門番さんが、いつもと違う声で言った。

 門番さんの目が、赤かった。

 目元が潤んでいる。

 

 泣いている……のか?

 

「どうかしましたか?」

 

「ソフィアお嬢様が……」

 

 門番さんが声を詰まらせた。

 

 一瞬、俺の心臓が跳ねた。

 

 ──まさか、悪いことが起きたのか、と。

 

「元気になられたんだよ……!」

 

 でも次の言葉はそうではなかった。

 

「屋敷の中を歩けるようになられたんだ……!!」

 

 門番さんの声が震えていた。

 

 大きな体の無骨な彼が声を震わせている。

 

「ずっと寝たきりだったんだ……もう治らないんじゃないかって……みんなそう思ってたんだよ……」

 

 俺は何も言えなかった。

 ただ、聞いていた。

 

「アンタが月光蘭を持ってきてくれただろ。あれが効いたんだ……!」

 

 門番さんが俺の手を両手で握った。

 大きくてごつごつした手だった。

 力が入っている。

 

「ありがとう……本当にありがとう……お嬢様のこと、俺たちはずっと心配で……」

 

 門番さんの目から涙が一粒、頬を伝って落ちた。

 

 月光蘭が効いたわけではない。

 本当に効いたのは、老婆から買ったポーションだ。

 

(でも……今それを言う必要はない)

 

 この人を不安がらせるだけだ。

 老婆のポーションの正体もまだよく分からない。

 真実を話すことで、余計な心配を生む。

 

 それより今は──

 

「よかったです」

 

 俺はそう言った。

 

「お嬢様が元気になってきたなら、それが一番です」

 

「ああ」

 

 門番さんがもう一度、俺の手を強く握った。

 

「ありがとう、ありがとうな……」

 

 俺は握り返した。

 

 ……本当によかった。

 

 それだけは嘘じゃない。

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 門番さんに送り出され、俺は屋敷へ向かう。

 

 「レン様、お待ちしておりました……」

 

 今日は使用人の人が出迎えて、応接間へと案内された。

 そして応接間に着くなり……。

 

「おぉ、レンくん!」

 

 大きな声が出迎えた。

 革張りのソファから立ち上がったのはアドルフ・ヴァン・クロイツェル伯爵だ。

 

「お邪魔します。伯爵様」

 

「いやいや、堅苦しくなくていい! まあ座りなさい!」

 

 伯爵が俺を応接間のソファへ促した。

 テーブルの上には、すでに茶の用意がされている。

 

「実はね、レンくん」

 

 伯爵が目を輝かせながら言った。

 顔には隠しきれない喜びが滲んでいた。

 

「ソフィアの体調がよくなってきたんだよ……!」

 

門番さんから聞いた通りだ。

 

「ようやく薬が効いてきたのかもしれん……。昨日から起き上がれるようになって、今朝は廊下を歩いたんだ……!」

 

 伯爵の声がわずかに掠れた。

 伯爵が目を細めた。彼の目の奥に長い時間の重さが見えた気がした。

 

「だから……本当に嬉しくてね。それに君が来てくれたら更に元気になるだろう」

 

「俺なんかが来るだけで、お嬢様が喜んでくれるなら光栄です」

 

「いやいや、あの子にとって君は特別なんだ。冒険譚を聞かせてくれる外の世界を知っている人間だ。閉じ込められていたあの子にとっては……」

 

 伯爵が言葉を選ぶように間を置いた。

 

「……光のような存在なんだろうと、父親ながら思う」

 

 俺は何と返せばいいか分からなくて、黙っていた。

 

 その時。

 

 扉が、静かに開いた。

 

「レン様……!」

 

「!」

 

 俺は顔を上げた。

 そして思わず、立ち上がっていた。

 

 ソフィア嬢。

 

 彼女が扉の枠に手を添えながら、応接間に歩いて入ってきた。

 

 歩いて。

 自分の足で。

 

 ゆっくりと。でも……確かに。

 白いドレスの裾が、廊下からの光を受けて淡く輝いていた。

 

 まだ細い。

 まだ儚い。

 

 でも、確かに違った。

 今にも消えてしまいそうな印象が、少しだけ薄れていた。

 

 目に光がある。

 

「ソフィアお嬢様、立って、歩いてるんですね」

 

 俺の口から、思わずそのまま出た。

 

 ソフィア嬢が小さく笑った。

 

「ええ……昨日から、少し歩けるようになりました」

 

 その声は、前回より張りがある。

 

「まだふらふらしますけれど……」

 

「いいんです。十分です。それだけで」

 

 俺は自分の声が少し上擦っているのに気づいた。

 落ち着け。

 

 でも……本当によかった。

 心の底からそう思う。

 

 鑑定スキルが、静かに反応した。

 

【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

【基本情報】

名前:ソフィア・ヴァン・クロイツェル

種族:人間(貴族)

職業:伯爵家令嬢

身長:141cm

体重:38kg

スリーサイズ:B72/W52/H75

処女:Yes(純潔)

経験人数:0人

 

【身体状態】

状態:回復中

 

【心の声】

(レン様……来てくださった……)

(今日は歩いてここまで来られた……見てほしかった……)

(恥ずかしいけど……でも、見てほしかった……)

(レン様の顔が……なんか、ほっとした顔に見える……)

(嬉しい……)

 

【特記事項】

・ポーションの効果が確実に発現している

・ただし毒素が完全に抜けたわけではない

・無理な活動は禁物。歩行は短時間に留めること

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 よかった。

 本当に、効いている。

 

 ソフィア嬢がゆっくりとソファに近づいてくる。

 

 俺は思わず一歩前に出た。

 

「大丈夫ですか? 手を」

「……はい」

 

 ソフィア嬢が俺の差し出した手に、細い指を乗せた。

 ゆっくりと、ソファに腰を下ろす。

 

 触れた手が少し震えていた。

 

 でも温かかった。

 

 前回、手が冷たかったことを俺は覚えている。

 今日は違う。

 生きているという温度がある。

 

「レン様……」

 

 ソフィア嬢が俺を見上げた。

 瞳がシャンデリアの光を受けてきらりと輝いた。

 

「今日も、冒険の話を聞かせていただけますか?」

 

 俺は笑った。

 

「もちろんです」

 

 今日の冒険譚は魔法使いの少年の話にした。

 前世で読んだ漫画の筋書きを、この世界の言葉に置き換えながら。

 

 魔法の才能がないと言われた少年が、独自の理論で魔法の常識を覆していく話だ。

 

 俺は身振り手振りを交えながら話した。

 山場では声を低くし、静かなシーンでは速度を落とす。

 

「そして少年は言うんです。俺には魔法の才能がない。だから魔法そのものを変えた、と」

 

 ソフィア嬢が息を呑んでいた。

 伯爵様も、身を乗り出すようにして聞いていた。

 

「それで、どうなったんですか?」

 

 ソフィア嬢が掠れた声で聞いてきた。

 

「少年の魔法は誰にも理解されませんでした。でも、結果だけは誰にも否定できなかった。敵は倒された。仲間は守られた。それだけで十分だったんです」

 

 またしばらくの間があった。

 暖炉の薪が、パチリと弾ける音がした。

 

「素敵です」

 

 ソフィア嬢が、静かに言った。

 

「才能がなくても、諦めなければ……世界を変えられるのですね」

 

「そう信じたい話です」

 

(戦って、傷ついて……それでも前に進んでいる……)

(私もいつかそんな風になりたいな……)

 

 ソフィア嬢の心の声が聞こえる。

 

「いやぁ……」

 

 伯爵が深く息を吐いた。

 

「レンくん、毎回思うが……君の話は本当に上手い。どこでそんな話を仕入れてくるんだね?」

 

「旅の中で聞いたり、読んだりしたものをかき集めているだけです」

 

「謙遜するものじゃない。話に引き込まれる力というのは、なかなか持てるものじゃない」

 

 伯爵がソファに深く座り直し、改めて俺を眺めた。

 

 そして──

 

「そういえば」

 

 伯爵の視線が、俺の胸元で止まった。

 

「レンくん、前回よりも素晴らしい装備をしているな」

 

 俺は思わず自分の胸当てを見下ろした。

 

「やはり月光蘭を見つけることができる冒険者ともなると、すぐに成長するものだな」

 

「いえ……これも伯爵様から頂いた報酬で装備を整えただけです」

 

 俺はそう答えた。

 

 本当はホーンラビットの討伐報酬で買ったものだが……まあ、それでいい。

 伯爵が嬉しそうに頷いてくれるなら、その方がお互いにとっていい。

 

「ほほう、そうか。役に立ててくれたなら嬉しいよ」

 

 伯爵が満足そうに目を細めた。

 

 その時、俺はソフィア嬢の視線に気づいた。

 

 彼女が俺を見ていた。

 じっと見ていた。

 

「レン様……」

 

 ソフィア嬢が、かすかな声で言った。

 彼女の瞳が……輝いていた。宝石に光が射し込んだような、透き通った輝きだった。

 

 ダークウルフの皮の胸当てに視線が動き、腰のハンターズソードへ動き、また俺の顔に戻ってくる。

 

(すごい……本当に物語の騎士様みたい……)

(鎧に剣……全然違う)

(格好いい……)

 

 そんなに憧れの目で見られても、恥ずかしいのだが。

 それに、俺は弱いし……。

 

(私もいつか……外の世界を見てみたい)

(でも今は……レン様の話を聞いているだけで、少し外の世界が見える気がする)

 

 心の声が聞こえる。

 胸が少し痛い。

 

 この娘は、まだこんなに広い世界を知らないでいる。

 病のせいでずっとこの屋敷の中だけで生きてきた。

 

 ……絶対に治す。

 

 俺は心の中でそう決めた。

 その時、俺は思い出した。

 

 ポーション。

 

 今日飲ませないといけない。

 伯爵がいる前では難しい。

 

(どうするか……)

 

 変に説明することになる。

 何かうまい流れで、ソフィア嬢と二人になれないか……。

 俺は自然を装いながら、頭を回転させた。

 

(なんとかポーションを飲ませたいけど……伯爵がいる時は無理か……どうすれば)

 

 何か口実を作って部屋を変えるか。

 

 いや、ソフィア嬢の体調を考えれば移動させるのは申し訳ない。

 

 さりげなく伯爵に席を外してもらう方法は……

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 応接間の扉が開いた。

 

「……ぁ」

 

 濃厚な薔薇の香りが、ふわりと漂ってきた。

 

 豪奢なドレス。

 胸元を大胆に開いた、深紅の布地。

 

 イザベラ・ヴァン・クロイツェル。

 

 彼女がそこに立っていた。

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