俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
月明かり亭の扉を押し開けると、暖かい空気と、煮込み料理の匂いが俺を包んだ。
カウンターの奥で布巾を畳んでいたミレーヌさんが、顔を上げた。
「お帰りなさい、レンさん」
いつもの笑顔。
穏やかな茶色の瞳。
でも──
俺には見えてしまう。
その目の奥が、いつもより少しだけ揺れているのが。
【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━【リアルタイム】━━
【心の声】
(よかった……帰ってきてくれた)
(今日は遅かった……どこに行ってたんだろう)
(聞きたい……でも、聞けない……私はレンくんの何でもないから……)
【発情・ホルモン状態】
現在の感情:安堵70%・不安30%
特記事項:最近、帰宅が遅かったことへの不安が蓄積している
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……。
胸が、少しだけ痛くなった。
「遅くなりました」
「いいえ。お仕事だったんでしょう?」
ミレーヌさんが微笑んだ。
責めていない。
でも笑顔の裏で何を考えているか、俺には全部見えていた。
─それが余計に胸に刺さる。
「あの……」
ミレーヌさんが、そこで俺の全身に視線を向けた。
そして、目が止まった。
胸当てに。腰の剣に。
「レンさん……その装備」
「ああ、今日新調したんです」
「まあ……」
ミレーヌさんが俺の前に立って、ダークウルフの皮の胸当てをじっと見る。
それからハンターズソードに視線を移して。
また俺の顔に戻ってきた。
(かっこいい……)
(前より、ずっと……♡)
ミレーヌさんの頬に、うっすら赤みが差していた。
「に、似合ってます……♡」
少し照れたように、小声で言った。
「ありがとうございます。実はランクがEランクに上がったから装備を新調したんです」
「Eランクに……?前に言ってたけど、もう上がったんですね!」
ミレーヌさんが俺を見た。
嬉しそうに。
誇らしそうに。
でも──瞳の奥に、さっきとは違う色がよぎった。
【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━【リアルタイム更新】━━
【心の声】
(レンくん、ランクが上がって、装備も良くなってどんどん強くなっていく……)
(お金も稼げるようになったらもっと良い宿に移るかもしれない)
(強くなったら……この街を出て行くかもしれない……)
(私みたいな年増の女将なんて……もう必要なくなるかもしれない……)
(レンくんは……ここにいてくれるのかな……)
【感情状態】
不安度:急上昇中
自己評価:低下傾向
特記事項:レンの成長を喜ぶ気持ちと、「置いていかれるかもしれない」という恐怖が同時に発生している
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ミレーヌさんが少しだけ、視線を落とした。
布巾をまた手に取って、なんでもないふりをしながら畳み始めた。
「夕食、温めますね。少し待っていてください」
声はいつも通りだった。
でも、さっきより少しだけ静かだった。
鑑定が静かに反応した。
【鑑定より推奨行動】━━━━━━━━━━━━━━━━
【現在の状況分析】
ミレーヌはレンの成長を喜びつつも、「自分が必要とされなくなる恐怖」に囚われ始めている。自己評価が低く、年齢差への引け目を感じている。放置すると不安が蓄積し、長期的な関係に影響が出る可能性がある。
【推奨行動】
今すぐ言葉で安心させること
距離を詰めること(身体的接触が有効)
「ここを離れるつもりはない」という意思を明確に伝えること
★推奨台詞★
「どこにも行きませんよ。俺の帰る場所はここですから」
【注意点】
遠回しな言葉では伝わらない。直接的に言うこと
ミレーヌは「察してほしい」タイプではなく「言葉で確認したい」タイプ
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……鑑定、具体的すぎるだろ!
まぁでも……助かった。俺は女性の機微が疎いからな……。
彼女を安心させてあげたい。
俺はミレーヌさんの背中に声をかけた。
「ミレーヌさん」
「はい?」
振り返った瞬間だった。
俺は一歩詰めて、そのまま抱きしめた。
「……っ!?」
ミレーヌさんの身体が、ぴんと固まった。
手の中の布巾が、床に落ちる音がした。
「レ……レンさん?」
「少しだけ、このままで」
俺はそう言った。
ミレーヌさんの肩越しに、宿の暖かい空気が満ちているのを感じた。
暖炉の火の音。
煮込み料理の匂い。
ミレーヌさんが、自分でも気づいているのかいないのか。
少しずつ、俺の背中に手を回してきた。
「……レンさん♡」
小さな声で呼んだ。
「どこにも行きませんよ」
俺は静かに言った。
「装備が変わっても、ランクが上がっても。俺の帰る場所はここですから」
しばらく、何も聞こえなかった。
暖炉の薪が、パチリと弾けた。
「どうして、分かったんですか」
掠れた声だった。
「私が……心配してたこと」
俺は少し笑った。
「勘です」
嘘だけど。
ミレーヌさんが、俺の背中に回した手に少し力を込めた。
【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━【リアルタイム更新】━━
【心の声】
(レンくん……)
(どこにも行かないって……言ってくれた……)
(私なんかの宿が……帰る場所だって……)
(嬉しい……嬉しくて……泣きそう……)
(年甲斐もなく……こんなに嬉しいなんて……♡)
【感情状態】
不安度:急激に低下
幸福度:急上昇
依存度:レンへの愛着が更に深まっている
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「レンさんって、ずるい。そういうことを……さらりと言うから」
声が、わずかに揺れていた。
泣いているのか、笑っているのか。
たぶん、両方だと思った。
「ごめんなさい。夕食、温めますね。今日は遅かったから……お腹が空いているでしょう」
ミレーヌさんが、俺から離れた。
その目は少し赤かった。
でも笑っていた。
さっきより、ずっと柔らかい笑顔で。
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──翌朝になった。
目が覚めると、一階から良い匂いが漂ってきていた。
パンの焼ける匂い。
スープの匂い。
ベーコンを炙る匂い。
月明かり亭の朝だ。
「うーん、よく寝た……」
俺は伸びをして身体を起こした。
昨日の疲れがきれいに抜けている。
この宿のベッドは、なぜかいつも眠りが深い。
布団の質なのか、それとも別の何かなのか。
深く考えるのはやめておく。
顔を洗って一階に下りた。
食堂に入ると朝の光がテーブルを明るく照らしていた。
ミレーヌさんが鍋をかき混ぜていた。
「おはようございます、レンさん」
振り返って、笑った。
昨日の夜の揺れは、もうどこにもなかった。
穏やかな朝だった。
……穏やかなのは、朝だけかもしれないけれど。
俺はご飯を食べ終え、椅子を引いて立ち上がった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、レンさん♡」
ミレーヌさんの声が背中を送り出した。
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冒険者ギルドの扉を押し開けた。
朝の時間帯だが、すでに何人かの冒険者が来ていた。
掲示板の前に集まっている連中、カウンターで手続きしている連中。
いつもの喧騒。
俺はエマさんのいるカウンターへと向かった。
「レンさん! おはようございます!」
エマさんが顔を上げた瞬間、いつも通りの笑顔で──
そのまま俺の全身に視線が止まった。
「そ、その装備……!」
エマさんの目が胸当てから剣へ、また胸当てへと忙しく動いた。
「新調したんです。昨日」
「ダークウルフの皮……ですか? 胸当て」
「よく分かりましたね」
「受付の仕事してたら自然と覚えるんです、素材の種類くらいは」
エマさんが少し照れたように言いながら、また俺を見た。
(かっこいい……前より、ずっとかっこいい……!)
(こういう人が私のことを……もし……♡)
(だめだめ、仕事中!)
エマさんが咳払いをして、受付嬢の顔に戻った。
「今日はどんな依頼をお探しですか?」
「できれば効率よく稼げるやつを」
エマさんが頷いて、依頼票をパラパラとめくり始めた。
「レンさんなら……そうですね」
エマさんが一枚を抜き出した。
「ダンジョン中層の魔物素材の採取依頼です。Cランク推奨で、報酬は金貨15枚。素材の質によってはボーナスも出ます」
Cランク推奨。
……無理だな。俺Eランクだぞ。
「えーっと……他には?」
「ではこれなんかどうでしょう。魔狼の群れの討伐です。Cランク向けで報酬は金貨20枚」
魔狼の群れ。
……無理だな。ていうか、なんでCランクのクエストを勧めてくる……?
「もう少し、安全なやつで」
「えっ? でもレンさんならBランクとかも行けると思いますけど……」
行けるわけないだろ!そもそも冒険者ランクより上のクエストなんて受けれるのだろうか。
「あの、エマさん。俺は本当に弱──」
その時だった。
「なんで!? 私、Aランクなんだけど!?」
ギルドの奥のカウンターから、甲高い声が飛んできた。
「?」
思わず視線が向いた。
離れたカウンターに一人の女性が立っていた。
銀色の髪。尖った耳。大きな瞳。
あどけない顔立ちだが、目つきは鋭い。
小柄な身体に、旅装束。背中に弓。
ギルドの職員に向かって、明らかにイライラした様子で声を荒げている。
「で、ですから……このクエストはBランク以上のパーティが必須要件でございまして、Aランクと言えどもソロでは規定上受理が──」
「あーもう! BランクのクエストなんてソロでAランクなら余裕に決まってるじゃない! 融通利かないなぁ、もう!」
銀の髪がふわりと揺れた。
ギルドの中が、少し静まった。
ちらちらと周囲の冒険者たちが視線を向けている。
俺はエマさんに小声で言った。
「……ああいう人と関わるのは大変そうですね」
「そ、そうですねぇ……あはは……」
俺とエマさんが小声でそんなことを話していた時。
銀髪の女性がこちらを振り返った。
視線がぶつかった。
「……ん?」
向こうも意外そうな顔をした。
俺も固まった。
……。
銀の髪。尖った耳。大きな目。
百二十七年分のつんとした目つき。
エルフ……。
「あ」
俺の口から、思わず声が出た。
Aランク冒険者。
百二十七歳のハイエルフ。
ツンデレで男性不信で、オークのことが大嫌いな。
リーシャ・シルヴァーウィンドだ。