俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
街を出て暫く。
広大な草原が目の前に広がっていた。
背の高い草が風に揺れて、銀色の波紋を描いている。遠くには山脈が霞んで見え、空は抜けるように高い。
──いい天気だ。
絶好の冒険日和。
そう思いたいところなのだが。
「ちょっと、遅い!もう少しペース上げられないの?」
五歩先を歩くリーシャが、ちらりと振り返った。
銀色の髪が風に流れる。 切れ長の瞳が、苛立ちを隠しもしないでこっちを見ている。
「すみません……荷物が重くて……」
俺は息を切らしながら答えた。
背中には二人分の補給品が詰まった革袋。水筒、保存食、応急手当の薬草、予備の矢束──リーシャの分まで全部俺が担いでいる。
なぜかって?
『荷物持ちくらいはしなさいよ。パーティの役割分担でしょ?』
と、出発前に有無を言わさず押し付けられたからだ。
Aランク冒険者の荷物を、Eランクの俺が背負っている。 絵面が完全に従者だった。
足が重い。 ダークウルフの皮の胸当ても歩き続けると地味に体力を削ってくる。
ていうかこれなら別に軽い装備でもいいな。どうせ俺、戦わないし……。
リーシャはというと、軽装の旅装束に弓を背負っただけ。 足取りは軽やかで、草原を歩いているというより滑っているようだった。
エルフの身体能力はやっぱり人間とは違うのだろうか。
「……」
と、その時。
草原の脇を通りかかった冒険者のパーティが、俺たちを見て立ち止まった。
「おい、あれ……」
小声。 だが、俺の耳には届いた。
「銀髪のエルフ……弓を背負ってる……まさか」
「疾風のリーシャじゃないか?」
疾風?
俺は思わずリーシャの背中を見た。
「Aランクの弓使いだろ。単独でBランクのダンジョンをクリアしたっていう……」
「マジかよ。生で見るの初めてだ」
「──で、隣の奴は誰だ?」
視線が、俺に向いた。
「なんであんな弱そうなのが一緒にいるんだ」
「荷物持ちじゃね?」
「荷物持ちは重要な役割だし、リーシャ相手ならBランク以上の荷物持ちじゃないと務まらないと思うけど……」
ヒソヒソ声。 でも全部聞こえてる。
……荷物持ち、重要なの?
まぁでも……荷物を紛失したら冒険中だと死に直結するからな。重要なんだろう。多分。
しかし……そんな超重要な役割を任せてくれるってことは、彼女は俺のことをかなり信頼している……?
(いや、んなわけないか。ただ単に荷物を押し付けただけだろ)
リーシャは周囲の声など聞こえていないかのように、前だけを向いて歩いている。
その時、リーシャの心の声が聞こえた。
(また言われてる。いつものことだけど)
(どうせ「なんでソロじゃないんだ」とか「男を連れてる」とか思ってるんでしょ)
(うるさいわね……私の勝手でしょ。こいつが遅いのは事実だけど)
(でも、ちゃんとついてきてる。文句も言わずに)
褒められてるのか貶されてるのか微妙なラインだ。
無言で歩くのもなんなので、俺はおずおずと口を開いた。
「リーシャさん。疾風って呼ばれてるんですか?」
リーシャの足が一瞬だけ止まった。
そしてすぐに歩き始めた。
「誰がそんなこと言ってたの」
「さっきすれ違った冒険者が」
「勝手につけられた二つ名よ。私は頼んでない」
声はそっけない。 だが──
(べつにかっこいい二つ名とか思ってないし)
(思ってないけど……こいつが知ったのは……ちょっとだけ……)
耳の先端が、うっすらと赤くなっていた。
「かっこいい二つ名じゃないですか」
「うるさい!さっさと歩きなさい!」
リーシャが早足になった。
俺は重い荷物を背負い直して、必死についていく。
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草原を一時間ほど歩いた。
目的地の丘陵地帯が近づいてきた。
なだらかな丘が連なり、その間に深い草地が広がっている。 ところどころに岩が露出していて、身を隠せる場所が多い。
風が強くなった。 草がざわざわと鳴っている。
リーシャが足を止めた。
「ここね、クエストの魔物がいるのは」
彼女が弓を背中から外し、弦を張った。 弓の弦がピンと張り詰めた音を立てる。
「ウィンド・ウルフ。風属性の魔狼よ。体長は大型犬の倍くらい。群れで動いて風の魔法で獲物を追い詰める」
リーシャが淡々と説明した。
「速い。強い。そして頭がいい。Cランクのパーティ程度じゃ歯が立たないわね」
Cランクが歯が立たない?
じゃあ俺だと瞬殺されるじゃないか……。
「えーっと……それをソロで?」
「当たり前でしょ。規定がうるさいから、仕方なくアンタを連れてきただけ」
ストレートに言ってくれるな。
「アンタは後ろにいなさい。絶対に前に出ないで。戦闘は私がやる」
女性を矢面に立たせるのは情けないが……でも、いつもベルに守って貰ってるし今更か。
「了解です」
「それと──」
リーシャが俺を見た。
「足手まといになるなら、その場で伏せて動かないで。下手に動かれる方が邪魔だから」
俺は素直に頷いた。
実際、その通りだ。 Eランクの俺がウィンド・ウルフとやらに勝てるわけがない。
ていうかそこら辺の野犬にすら勝てない。……いや、今は装備があるから野犬には勝てるか……?
「行くわよ」
リーシャが丘の斜面を登り始めた。 足音がしない。草を踏む音すら最小限に抑えている。
……すごいな。
俺も後に続いた。 こっちは草を踏むたびにガサガサ鳴る。もう隠密とかそういう次元じゃない。
丘の頂上に着いた。
リーシャが身を低くして、眼下を見下ろした。
「いた」
俺も隣に伏せて、下を覗いた。
丘の麓の窪地に──いた。
灰色の毛皮。 鋭い牙。 大型犬の倍はある巨大な狼。
ウィンド・ウルフだ。
一匹、二匹……五匹、八匹……。
「十二匹」
リーシャが小声で言った。
「群れとしては中規模ね。ボスがどこかにいるはず」
俺は目を凝らした。
十二匹の狼が、窪地の中で休んでいる。
その時──俺の鑑定が反応した。
……メスだ。
群れの中にメスの個体がいる。
鑑定が自動発動して、エロステータスが見え始め──
いや、今はそれどころじゃない。
俺は戦闘に使える情報だけを拾おうと、意識を集中させた。
「リーシャさん、作戦は?」
「高所から狙撃。まず外側の個体から落として数を減らす。七匹くらい仕留めたら突撃して残りを掃討するわ。あの程度の魔物なら、接近戦でも余裕だし」
シンプルで力強い作戦だった。Aランクの自信がそこにある。
とんでもなく巨大な狼の群れ……俺には化け物の群れにしか見えないのだが、彼女にとっては雑魚らしい。
「始めるわよ」
リーシャが矢を番えた。
弓が引かれる。 細い腕に信じられないほどの張力がかかっているのが分かる。
──そして。
ヒュンッ!
矢が放たれた。
音が遅れて聞こえるほどの速度。
丘の下で、一匹が崩れ落ちた。 声すら上げずに。
一射必殺。
「っ……!」
俺は息を呑んだ。
見えなかった。矢の軌道が見えなかった。
リーシャが腕を動かしたと思った次の瞬間には、もう狼が倒れていた。
「──二匹目」
リーシャが次の矢を番える。 動作に一切の無駄がない。
ヒュンッ!
また一匹。 首を射抜かれて、音もなく倒れる。
「三匹目」
群れがざわめき始めた。 仲間が倒れたことに気づいたのだ。
だがリーシャの手は止まらない。
「四」
ヒュンッ!
「五」
ヒュンッ!
「六」
──六匹。
わずか十数秒で、六匹のウィンド・ウルフを仕留めた。
俺は、ただ見ていた。
これが──Aランク。
(──すげぇ)
疾風の異名を持つ弓使い。
弓を引く動作。矢を放つ瞬間。次の矢に手を伸ばす流れ。 全てが一つの動きとして繋がっていて、途切れることがない。
美しい、と思った。
純粋に。
「七匹目──」
リーシャが矢を番えた瞬間。
残りの六匹が一斉に動いた。
「来たわね」
ウィンド・ウルフたちが四方に散開する。 丘を駆け上がってくる個体。横に回り込む個体。
そして……
「アォォーン!!!」
遠吠えと共に、ウルフたちは風の魔法を纏い始めた。
毛皮の周囲に渦巻く風。 体の周囲の空気が歪んでいる。
「気付かれるのが早かったわね……しょうがないか」
リーシャが再び矢を放った。
ヒュンッ!
──逸れた。
風に弾かれて矢が狼の脇を通り過ぎる。
「チッ」
リーシャが短く舌打ちして即座に二射目を放つ。 今度は風の流れを読んで、わずかにずらした。
ヒュンッ!
命中。 七匹目が倒れた。
風で逸らされる矢を、風の流れを計算してなお当てる。 化け物じみた技術だ。
だが──残りの五匹が、もう丘の斜面を駆け上がってきていた。
速い。
風の魔法で加速した狼たちが、猛烈な勢いで接近してくる。
リーシャが弓を背中に戻し、腰の短剣を抜いた。
「接近戦ね。上等よ」
リーシャが丘を駆け下りた。
俺は──動けなかった。
動くなと言われている。 足手まといになるなと言われている。
だから俺は、丘の上から見ていた。
「はっ!」
リーシャが一匹目の狼の横を滑るように躱し、短剣で首筋を切り裂く。
二匹が背後から飛びかかる。
リーシャは振り返りもせずに身を沈め、狼の腹の下を潜り抜けながら脇腹を切った。
九匹目。
リーシャが短剣を逆手に持ち替え、狼の顎を下から切り上げた。
十匹目。
──強い。
圧倒的に強い。
ベルの力任せの戦い方とは全く違う。
技術。判断力。身体能力。全てが高次元で組み合わさっている。
残り二匹。
二匹のウィンド・ウルフが、リーシャを挟むように左右から迫った。
同時攻撃。
「っ!」
右から来た狼を短剣で捌きながら、左の狼の牙を紙一重で避けた。
避けた──が。
「くっ……!」
着地の瞬間、足が滑った。
丘の斜面。 草に隠れた石。 リーシャの右足首が、不自然な角度で曲がった。
「あっ……!」
バランスが崩れる。
その隙に、左の狼が再び飛びかかった。
リーシャは体勢を崩しながらも短剣を振り、狼の前脚を切って退けた。
十一匹目は前脚を負傷しただけで、まだ動いている。
そして最後の一匹も、体勢を立て直してリーシャを睨んでいた。
リーシャが片膝をついた。
右足首を庇っている。
「捻ったわ。最悪!」
残り二匹のウィンド・ウルフが、じりじりとリーシャを囲み始めた。
左右から。 挟み撃ち。
(ま、まずい……俺も加勢するか……!?)
そう思い、前に出ようとした時だった。
俺の鑑定が爆発的に反応した。
「!?」
正面の茂みの向こう。
何かがいる。
丘の窪地の奥──深い草地の中に隠れていた存在が、動き出そうとしている。
鑑定結果が流れ込んでくる。
【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【基本情報】
種族:ウィンド・ウルフ(メス)
年齢:8歳
体長:通常個体の約2倍
【戦闘情報】
戦闘力:通常個体の4倍以上(Bランク相当)
風魔法:上位風刃を使用可能
特記:極めて凶暴。群れの中で弱った個体を自ら殺して食う習性あり 。仲間すら捕食対象とする残忍な個体
【身体情報】
体重:140kg
左前脚:古傷あり(過去の縄張り争いで負傷) →左方向への踏み込みがわずかに遅れる
右眼:視力低下(白濁が見られる) →右側の死角が大きい
【現在の行動】
草地に潜伏し、戦況を観察していた
群れが壊滅しつつあるが、救援する気はない
弱った仲間を餌にする機会を窺っていた
リーシャの負傷を見て、獲物と判断
【心の声】
(アノ銀毛ノエルフ……傷ヲ負ッテイル……今ナラ……食エル)
【警告】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
対象は極めて危険
風刃の直撃を受ければ即死の可能性あり
ただし右眼の視力低下と左前脚の古傷が弱点
右側から攻撃すれば対応が遅れる
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