※この作品はR-18です。

俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~   作:フレキシブルコーギー

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55.──で、隣の奴は誰だ?

 街を出て暫く。

 

 広大な草原が目の前に広がっていた。

 

 背の高い草が風に揺れて、銀色の波紋を描いている。遠くには山脈が霞んで見え、空は抜けるように高い。

 

 ──いい天気だ。

 

 絶好の冒険日和。

 

 そう思いたいところなのだが。

 

「ちょっと、遅い!もう少しペース上げられないの?」

 

 五歩先を歩くリーシャが、ちらりと振り返った。

 

 銀色の髪が風に流れる。 切れ長の瞳が、苛立ちを隠しもしないでこっちを見ている。

 

「すみません……荷物が重くて……」

 

 俺は息を切らしながら答えた。

 

 背中には二人分の補給品が詰まった革袋。水筒、保存食、応急手当の薬草、予備の矢束──リーシャの分まで全部俺が担いでいる。

 

 なぜかって?

 

『荷物持ちくらいはしなさいよ。パーティの役割分担でしょ?』

 

 と、出発前に有無を言わさず押し付けられたからだ。

 

 Aランク冒険者の荷物を、Eランクの俺が背負っている。 絵面が完全に従者だった。

 

 足が重い。 ダークウルフの皮の胸当ても歩き続けると地味に体力を削ってくる。

 

 ていうかこれなら別に軽い装備でもいいな。どうせ俺、戦わないし……。

 

 リーシャはというと、軽装の旅装束に弓を背負っただけ。 足取りは軽やかで、草原を歩いているというより滑っているようだった。

 

 エルフの身体能力はやっぱり人間とは違うのだろうか。

 

「……」

 

 と、その時。

 

 草原の脇を通りかかった冒険者のパーティが、俺たちを見て立ち止まった。

 

「おい、あれ……」

 

 小声。 だが、俺の耳には届いた。

 

「銀髪のエルフ……弓を背負ってる……まさか」

 

「疾風のリーシャじゃないか?」

 

 疾風?

 

 俺は思わずリーシャの背中を見た。

 

「Aランクの弓使いだろ。単独でBランクのダンジョンをクリアしたっていう……」

 

「マジかよ。生で見るの初めてだ」

 

「──で、隣の奴は誰だ?」

 

 視線が、俺に向いた。

 

「なんであんな弱そうなのが一緒にいるんだ」

 

「荷物持ちじゃね?」

 

「荷物持ちは重要な役割だし、リーシャ相手ならBランク以上の荷物持ちじゃないと務まらないと思うけど……」

 

 ヒソヒソ声。 でも全部聞こえてる。

 

 ……荷物持ち、重要なの?

 

 まぁでも……荷物を紛失したら冒険中だと死に直結するからな。重要なんだろう。多分。

 

 しかし……そんな超重要な役割を任せてくれるってことは、彼女は俺のことをかなり信頼している……?

 

(いや、んなわけないか。ただ単に荷物を押し付けただけだろ)

 

 リーシャは周囲の声など聞こえていないかのように、前だけを向いて歩いている。

 

 その時、リーシャの心の声が聞こえた。

 

(また言われてる。いつものことだけど)

(どうせ「なんでソロじゃないんだ」とか「男を連れてる」とか思ってるんでしょ)

(うるさいわね……私の勝手でしょ。こいつが遅いのは事実だけど)

(でも、ちゃんとついてきてる。文句も言わずに)

 

 褒められてるのか貶されてるのか微妙なラインだ。

 

 無言で歩くのもなんなので、俺はおずおずと口を開いた。

 

「リーシャさん。疾風って呼ばれてるんですか?」

 

 リーシャの足が一瞬だけ止まった。

 

 そしてすぐに歩き始めた。

 

「誰がそんなこと言ってたの」

 

「さっきすれ違った冒険者が」

 

「勝手につけられた二つ名よ。私は頼んでない」

 

 声はそっけない。 だが──

 

(べつにかっこいい二つ名とか思ってないし)

(思ってないけど……こいつが知ったのは……ちょっとだけ……)

 

 耳の先端が、うっすらと赤くなっていた。

 

「かっこいい二つ名じゃないですか」

 

「うるさい!さっさと歩きなさい!」

 

 リーシャが早足になった。

 

 俺は重い荷物を背負い直して、必死についていく。

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 草原を一時間ほど歩いた。

 

 目的地の丘陵地帯が近づいてきた。

 

 なだらかな丘が連なり、その間に深い草地が広がっている。 ところどころに岩が露出していて、身を隠せる場所が多い。

 

 風が強くなった。 草がざわざわと鳴っている。

 

 リーシャが足を止めた。

 

「ここね、クエストの魔物がいるのは」

 

 彼女が弓を背中から外し、弦を張った。 弓の弦がピンと張り詰めた音を立てる。

 

「ウィンド・ウルフ。風属性の魔狼よ。体長は大型犬の倍くらい。群れで動いて風の魔法で獲物を追い詰める」

 

 リーシャが淡々と説明した。

 

「速い。強い。そして頭がいい。Cランクのパーティ程度じゃ歯が立たないわね」

 

 Cランクが歯が立たない?

 

 じゃあ俺だと瞬殺されるじゃないか……。

 

「えーっと……それをソロで?」

 

「当たり前でしょ。規定がうるさいから、仕方なくアンタを連れてきただけ」

 

 ストレートに言ってくれるな。

 

「アンタは後ろにいなさい。絶対に前に出ないで。戦闘は私がやる」

 

 女性を矢面に立たせるのは情けないが……でも、いつもベルに守って貰ってるし今更か。

 

「了解です」

 

「それと──」

 

 リーシャが俺を見た。

 

「足手まといになるなら、その場で伏せて動かないで。下手に動かれる方が邪魔だから」

 

 俺は素直に頷いた。

 

 実際、その通りだ。 Eランクの俺がウィンド・ウルフとやらに勝てるわけがない。

 

 ていうかそこら辺の野犬にすら勝てない。……いや、今は装備があるから野犬には勝てるか……?

 

「行くわよ」

 

 リーシャが丘の斜面を登り始めた。 足音がしない。草を踏む音すら最小限に抑えている。

 

 ……すごいな。

 

 俺も後に続いた。 こっちは草を踏むたびにガサガサ鳴る。もう隠密とかそういう次元じゃない。

 

 丘の頂上に着いた。

 

 リーシャが身を低くして、眼下を見下ろした。

 

「いた」

 

 俺も隣に伏せて、下を覗いた。

 

 丘の麓の窪地に──いた。

 

 灰色の毛皮。 鋭い牙。 大型犬の倍はある巨大な狼。

 

 ウィンド・ウルフだ。

 

 一匹、二匹……五匹、八匹……。

 

「十二匹」

 

 リーシャが小声で言った。

 

「群れとしては中規模ね。ボスがどこかにいるはず」

 

 俺は目を凝らした。

 

 十二匹の狼が、窪地の中で休んでいる。

 

 その時──俺の鑑定が反応した。

 

 ……メスだ。

 

 群れの中にメスの個体がいる。

 

 鑑定が自動発動して、エロステータスが見え始め──

 

 いや、今はそれどころじゃない。

 

 俺は戦闘に使える情報だけを拾おうと、意識を集中させた。

 

「リーシャさん、作戦は?」

 

「高所から狙撃。まず外側の個体から落として数を減らす。七匹くらい仕留めたら突撃して残りを掃討するわ。あの程度の魔物なら、接近戦でも余裕だし」

 

 シンプルで力強い作戦だった。Aランクの自信がそこにある。

 

 とんでもなく巨大な狼の群れ……俺には化け物の群れにしか見えないのだが、彼女にとっては雑魚らしい。

 

「始めるわよ」

 

 リーシャが矢を番えた。

 

 弓が引かれる。 細い腕に信じられないほどの張力がかかっているのが分かる。

 

 ──そして。

 

 ヒュンッ!

 

 矢が放たれた。

 

 音が遅れて聞こえるほどの速度。

 

 丘の下で、一匹が崩れ落ちた。 声すら上げずに。

 

 一射必殺。

 

「っ……!」

 

 俺は息を呑んだ。

 

 見えなかった。矢の軌道が見えなかった。

 

 リーシャが腕を動かしたと思った次の瞬間には、もう狼が倒れていた。

 

「──二匹目」

 

 リーシャが次の矢を番える。  動作に一切の無駄がない。

 

 ヒュンッ!

 

 また一匹。 首を射抜かれて、音もなく倒れる。

 

「三匹目」

 

 群れがざわめき始めた。 仲間が倒れたことに気づいたのだ。

 

 だがリーシャの手は止まらない。

 

「四」

 

 ヒュンッ!

 

「五」

 

 ヒュンッ!

 

「六」

 

 ──六匹。

 

 わずか十数秒で、六匹のウィンド・ウルフを仕留めた。

 

 俺は、ただ見ていた。

 

 これが──Aランク。

 

(──すげぇ)

 

 疾風の異名を持つ弓使い。

 

 弓を引く動作。矢を放つ瞬間。次の矢に手を伸ばす流れ。 全てが一つの動きとして繋がっていて、途切れることがない。

 

 美しい、と思った。

 

 純粋に。

 

「七匹目──」

 

 リーシャが矢を番えた瞬間。

 

 残りの六匹が一斉に動いた。

 

「来たわね」

 

 ウィンド・ウルフたちが四方に散開する。 丘を駆け上がってくる個体。横に回り込む個体。

 

 そして……

 

「アォォーン!!!」

 

 遠吠えと共に、ウルフたちは風の魔法を纏い始めた。

 

 毛皮の周囲に渦巻く風。 体の周囲の空気が歪んでいる。

 

「気付かれるのが早かったわね……しょうがないか」

 

 リーシャが再び矢を放った。

 

 ヒュンッ!

 

 ──逸れた。

 

 風に弾かれて矢が狼の脇を通り過ぎる。

 

「チッ」

 

 リーシャが短く舌打ちして即座に二射目を放つ。  今度は風の流れを読んで、わずかにずらした。

 

 ヒュンッ!

 

 命中。 七匹目が倒れた。

 

 風で逸らされる矢を、風の流れを計算してなお当てる。  化け物じみた技術だ。

 

 だが──残りの五匹が、もう丘の斜面を駆け上がってきていた。

 

 速い。

 

 風の魔法で加速した狼たちが、猛烈な勢いで接近してくる。

 

 リーシャが弓を背中に戻し、腰の短剣を抜いた。

 

「接近戦ね。上等よ」

 

 リーシャが丘を駆け下りた。

 

 俺は──動けなかった。

 

 動くなと言われている。 足手まといになるなと言われている。

 

 だから俺は、丘の上から見ていた。

 

「はっ!」

 

 リーシャが一匹目の狼の横を滑るように躱し、短剣で首筋を切り裂く。

 

 二匹が背後から飛びかかる。

 

 リーシャは振り返りもせずに身を沈め、狼の腹の下を潜り抜けながら脇腹を切った。

 

 九匹目。

 

  リーシャが短剣を逆手に持ち替え、狼の顎を下から切り上げた。

 

 十匹目。

 

 ──強い。

 

 圧倒的に強い。

 

 ベルの力任せの戦い方とは全く違う。  

 

 技術。判断力。身体能力。全てが高次元で組み合わさっている。

 

 残り二匹。

 

 二匹のウィンド・ウルフが、リーシャを挟むように左右から迫った。

 

 同時攻撃。

 

「っ!」

 

 右から来た狼を短剣で捌きながら、左の狼の牙を紙一重で避けた。

 

 避けた──が。

 

「くっ……!」

 

 着地の瞬間、足が滑った。

 

 丘の斜面。 草に隠れた石。 リーシャの右足首が、不自然な角度で曲がった。

 

「あっ……!」

 

 バランスが崩れる。

 

 その隙に、左の狼が再び飛びかかった。

 

 リーシャは体勢を崩しながらも短剣を振り、狼の前脚を切って退けた。

 

 十一匹目は前脚を負傷しただけで、まだ動いている。

 

 そして最後の一匹も、体勢を立て直してリーシャを睨んでいた。

 

 リーシャが片膝をついた。

 

 右足首を庇っている。

 

「捻ったわ。最悪!」

 

 残り二匹のウィンド・ウルフが、じりじりとリーシャを囲み始めた。

 

 左右から。 挟み撃ち。

 

(ま、まずい……俺も加勢するか……!?)

 

 そう思い、前に出ようとした時だった。

 

 俺の鑑定が爆発的に反応した。

 

「!?」

 

 正面の茂みの向こう。

 

 何かがいる。

 

 丘の窪地の奥──深い草地の中に隠れていた存在が、動き出そうとしている。

 

 鑑定結果が流れ込んでくる。

 

 

【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

【基本情報】  

 種族:ウィンド・ウルフ(メス)  

 年齢:8歳  

 体長:通常個体の約2倍

 

【戦闘情報】  

 戦闘力:通常個体の4倍以上(Bランク相当)  

 風魔法:上位風刃を使用可能

 特記:極めて凶暴。群れの中で弱った個体を自ら殺して食う習性あり 。仲間すら捕食対象とする残忍な個体

 

【身体情報】  

 体重:140kg  

 左前脚:古傷あり(過去の縄張り争いで負傷) →左方向への踏み込みがわずかに遅れる  

 右眼:視力低下(白濁が見られる) →右側の死角が大きい

 

【現在の行動】  

 草地に潜伏し、戦況を観察していた  

 群れが壊滅しつつあるが、救援する気はない  

 弱った仲間を餌にする機会を窺っていた  

 リーシャの負傷を見て、獲物と判断

 

【心の声】

(アノ銀毛ノエルフ……傷ヲ負ッテイル……今ナラ……食エル)

 

【警告】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━   

 対象は極めて危険   

 風刃の直撃を受ければ即死の可能性あり   

 ただし右眼の視力低下と左前脚の古傷が弱点   

 右側から攻撃すれば対応が遅れる  

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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