俺の鑑定スキルがなんかおかしい ~女性のエロステータスが丸見えなんだが~ 作:フレキシブルコーギー
素材回収を終えた頃には、日が大きく傾いていた。
西の空がオレンジ色に染まり、草原が金色に輝いている。
「ふぅ……これで全部か」
俺は革袋を持ち上げた。ウィンド・ウルフの毛皮と牙がずっしりと重い。
胸元には三匹の赤ちゃんウルフ。別の革袋の中に毛布を敷いて、その中に入れている。
「はぁ。そんなの持って帰らなかったら、もっと牙とか毛皮とか持って帰れるのに……」
リーシャがぶつぶつと文句を言いながら、弓を背負い直して──
「っ……」
足を引きずった。
「大丈夫ですか?」
「平気よ。ちょっと捻っただけ」
リーシャが強がって歩き始めた。
だが、明らかに右足をかばっている。一歩ごとに微かに顔をしかめている。
さっきの魔法で無理に動いたせいだろう。ただの捻挫が悪化している。
五歩。十歩。
リーシャの歩調が、どんどん遅くなっていく。
「……っ」
足が止まった。
「リーシャさん」
「平気だって言ってるでしょ……!」
振り返ったリーシャの目が、少し潤んでいた。
街まではまだ距離がある。日も暮れ始めている。
夜の草原を、足を痛めた状態で歩くのは危険すぎる。
「リーシャさん」
「何よ」
「街まではまだ遠いです。日も暮れてきた。──俺が普段使ってる安全な場所があるんです。そこで休みましょう」
リーシャが俺を睨んだ。
「……安全な場所?」
「洞窟です。光るキノコで明るいし、水場もある」
「……」
リーシャが足元を見た。右足首が腫れ始めている。
「……仕方ないわね」
小さく呟いた。
「でも、自分で歩けるから──」
一歩踏み出した瞬間、リーシャの膝が折れた。
「っ!」
俺は咄嗟にリーシャの身体を支えた。
「離し──」
「離しません。このまま歩いたら悪化しますよ」
「で、でも……」
「俺の背中に乗ってください」
「は……っ!?」
リーシャが目を見開いた。
「お、おんぶされろって言ってんの!?」
「はい。足が痛いなら歩かない方がいい」
しばらくの沈黙。
そして──リーシャの細い腕が、俺の首に回された。
軽い。
驚くほど軽い。
鑑定で知っていたが、実際に背負うとそれ以上に軽く感じた。ハイエルフの身体は見た目以上に華奢なのかもしれない。
彼女の体温が背中を通じて伝わってくる。
「あっ──」
リーシャの腕に力が入った。落ちないようにぎゅっと首にしがみつく。
「大丈夫。落としませんよ」
「わ、分かってるわよ……!」
俺はリーシャを背負い、荷物を片肩にかけて歩き始めた。
正直──重い。
ウィンド・ウルフの素材とハイエルフと、三匹の赤ちゃんウルフ。
合計で相当な重量だ。
Eランクの体力ではきつい。足がガクガクする。
でも。
「重いでしょ」
リーシャが小さく聞いてきた。
「全然」
嘘だった。めちゃくちゃ重い。
「嘘ばっかり。汗だくじゃない」
「これは……体質で……」
「はいはい」
背中で、リーシャの肩が微かに震えた。
笑った。
そして──背中に、何かが当たっている……?
いや。
当たっていない。
ほとんど、何も感じない。
Aカップだし……。
仕方ない。
だが──心臓の鼓動だけは、はっきりと伝わってきた。
ドクン、ドクン、と。
リーシャの心臓が、速く打っている。
鑑定が反応した。
【鑑定結果】━━━━━━━━━━━━【リアルタイム】━━
(背中……あったかい……男の人の体温って、こんなに……)
(127年生きてきて、おんぶなんてされたことない……)
(ていうかこいつ、人気のないところに連れていくって言ってたわよね。洞窟って……まさか私を……襲うつもり……?)
(いくら私が魅力的だからって……そんなの……)
(……いや、でも、こいつになら……)
(いやいやいやいや!!何考えてるのよ私!!)
(初対面じゃないけど……お互いのこと何も知らないし!?)
(でもさっき赤ちゃんを守ろうとした時の目は……あれは……)
(ていうか胸、当たってないよね……小さいから大丈夫よね……)
(……でも逆にそれが恥ずかしいっていうか……)
(なんで私こんなこと考えてるの!?!?)
【身体状態】
心拍数:急上昇中
体温:上昇
顔面紅潮:極度
右足首:腫脹継続中(だが本人は足のことを完全に忘れている)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この人の頭の中、忙しすぎないか。
一人で暴走して一人で否定して一人で恥ずかしがって一人で妄想して。
しかも「いくら私が魅力的だからって」って──誰もそんなこと言ってないんだけど。
自意識が高いのか低いのか分からない。
俺は内心で盛大にため息をつきながら、黙って歩き続けた。
背中のリーシャが、もぞもぞと動いた。
「ねぇ」
「はい」
「その……洞窟って、本当に安全なの?」
「ええ。何度も使ってます」
「他に誰もいないのよね?」
「えーっと……」
その質問には、正直に答えるか迷った。
「……まぁ、大丈夫ですよ」
曖昧に濁した。
(やっぱり二人きりになるつもりね……)
(洞窟で……二人きり……)
(暗い洞窟で、この男と……)
(……しょうがないわよね。足が痛いんだし。選択肢がないんだし)
(べ、別にドキドキなんてしてないし……)
してるだろ。心拍数急上昇中って鑑定に出てるぞ。
森に入った。
夕日の最後の光が木々の間から差し込んで、地面にオレンジ色の斑点を作っている。
「あとどのくらい?」
「もう少しです」
リーシャがまた黙った。
しばらく歩くと、彼女の頭が俺の肩に傾いてきた。
「……リーシャさん?」
「起きてる……」
嘘だ。声がとろんとしている。
戦闘の疲労と、魔法の反動と、足の痛みと。
それに加えて──背中の温もり。
意識が沈んでいくのも無理はない。
「リーシャさん、もう少しで着きますよ」
「……ん」
リーシャの頭が完全に俺の肩に預けられた。
銀色の髪が頬に触れる。かすかに甘い匂い。
そして──耳。
エルフの長い耳が、俺の首筋のすぐ横にある。
【弱点部位:耳を舐められると完全に力が抜ける】
【感度:SS】
近い。
やばいくらい近い。
吐息がかかったらアウトな距離だ。
俺は息を殺して、慎重に歩いた。
──絶対に耳に息をかけるな。
「……すー……」
完全に寝てしまった。
Aランク冒険者がEランクの男の背中で寝ている。
なんだかすごい状況だ。
でも──悪い気はしなかった。
その時。
足元で、何かがトコトコとついてきていることに気づいた。
「キュゥ」
見下ろすと。
ウルフの赤ちゃんが──三匹ともいつの間にか袋から這い出して、俺の足元をちょこちょこと歩いていた。
いつの間に出てきたんだ。
「キュゥ」「キュゥ」「キュゥ……」
三匹が俺の足にまとわりつくように歩いている。
歩幅が小さすぎて、俺の一歩についていくのが精一杯だ。でも必死についてきている。
「……お前ら」
可愛い。
くそ、可愛い。
俺はため息をつきながら、三匹を片手で拾い上げて──赤ちゃんウルフ用の袋に戻した。
「おとなしくしてろ。着いたら何か食わせてやるから」
「キュゥ……」
なんだその甘えた声は。
背中にリーシャ。胸に赤ちゃんウルフ三匹。肩に素材の詰まった革袋。
俺は満身創痍で歩き続けた。
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岩場が見えてきた。
光るキノコの淡い青白い光が、洞窟の入り口から漏れている。
「着いた……」
俺は疲労困憊の足を引きずりながら、洞窟に近づいた。
すると──
ドスン。
地面が揺れた。
この感覚。この重量感。
「レン」
洞窟の奥から、巨大な影が飛び出してきた。
「レン 来タ ベル、待ッテタ」
ベルだ。
ベルが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
地面がドスドスと揺れる。
その振動で──
「……ん?」
背中のリーシャが目を覚ました。
寝ぼけた目をゆっくりと開ける。
「……んん?」
そして。
目の前に。
2メートル超の巨大なオークが。
満面の笑みで。
駆け寄ってきているのが見えた。
「……」
数秒の沈黙。
リーシャの身体が、石のように固まった。
さらに──
「ギギッ レン」
洞窟の奥から、もう一つの声。
小さな緑色の影がちょこちょこと走り出てきた。
大きな目。緑色の肌。茶色のシャツと黒いズボン。
リノだ。
リノが嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。
「レン レン」
ベルとリノが左右から俺を出迎えている。
オークとゴブリンが。
にこにこしながら。
「……」
「…………」
「……………………」
(待って)
(待って待って待って待って)
(なんでオークがいるの。ていうかあの時のオーク?)
(ゴブリンまでいる。なにこれ)
(なんで嬉しそうなの。なんで名前呼んでるの)
(こいつの安全な場所って)
(こいつの安全な場所って!!)
そして──
リーシャの口から。
森じゅうに響き渡る、絶叫。
「ここオークとゴブリンの巣じゃないのーーーーーーッ!!!!」