※この作品はR-18です。

自慰的な機械仕掛けの神   作:パワーワード大好きおじさん

7 / 9
作中で一番可愛い。異論は認めないこともない。


07. 『とある科学の超電磁砲』より 佐天涙子

「エロが関係すれば全能の能力かぁ……」

 

 

乾いた呟きが、人気のない路地裏の湿った空気に溶けて消えた。

自分の口から出た言葉でありながら、あまりの馬鹿馬鹿しさに現実感が追いつかない。

掌を見つめると、そこには先ほどまで感じていた、あの男の指先のイヤらしい熱がこびりついているような気がした。

 

目の前に突然現れた怪しい男が、自分に与えた能力。対価は、胸。

揉まれるという屈辱的な行為と引き換えに手に入れたのは、『愛撫掌握(エロハンド)』などという、口にするのも憚られる名称の能力だった。

 

「……ははっ」

 

喉の奥から、乾いた笑いが漏れ出した。

学園都市の底辺、レベル0としての日常。強大な力への憧れは、常に胸の奥で燻っていた。

けれど、まさかこんな形でそのきっかけを掴むことになるとは。

 

意識を内側へと向けてみる。

得体の知れない力が、血管の深層をどろりと流れているのが分かった。説明された内容は、およそ既存の超能力の概念を逸脱している。身体機能の爆発的な向上、空間を超越した干渉、さらには因果や時間の改変。この都市に君臨するレベル5の怪物たちですら成し得ない「神の領域」の力。

 

ただし、そこにはあまりに不条理で、あまりに卑猥な条件が横たわっている。

――エロが関係すること。

 

指先を曲げ、虚空を掴む。

もし、この指が何らかの性的な意図を孕んで動くならば、私はこの世界の理さえも捻じ曲げられるというのか。

 

じわりと、こめかみを冷たい汗が伝い落ちる。

路地裏を吹き抜ける風が、スカートの裾を頼りなく揺らした。

手に入れた全能の感触と、それを起動するために必要な羞恥の予感。その狭間で、心臓の鼓動が不規則に、そして激しく脈打ち始めるのを、止めることはできなかった。

 

じわり、と掌に熱が灯る。

 

先ほどまで感じていた男の指の感触。それをなぞるように、自分の手で左の胸をそっと包み込んでみた。薄い制服の生地越しに、柔らかい肉の弾力が伝わってくる。ほんの少しの好奇心と、得体の知れない期待感。意識の隅で、いやらしい想像が鎌首をもたげた。

 

その瞬間だった。

 

「っ……、ぁ……!?」

 

背筋を、暴力的なまでの衝撃が駆け抜けた。

それは電撃という言葉すら生ぬるい、脳髄を直接灼き焦がすような苛烈な快感。

視界が白く明滅し、思考の回路が瞬時にショートする。

 

肺から酸素が押し出され、声にならない悲鳴が唇からこぼれ落ちた。指先に込めたわずかな力が、能力という触媒を通して、数千倍の官能へと変換されて肉体を叩き伏せる。

 

膝の力が、糸が切れた人形のように失われた。

湿ったアスファルトの地面に、がくがくと震える膝をつく。それだけでは足りず、前のめりに崩れ落ち、両手で自分を抱きしめるようにして蹲った。

 

「はっ、ぁ、ふ……っ!♥」

 

荒い呼吸が、熱い呼気となって路地裏の冷気を切り裂く。

指先ひとつ動かすだけで、全身の神経が極彩色の火花を散らす。

身体の芯がどろどろに溶け出し、内側からせり上がってくる熱に、意識が遠のく。

 

これは、ただの超能力じゃない。

今は、「エロ」という概念を燃料にして、私の存在そのものを強制的に「悦び」の極致へと変質させてしまった。

 

地面に這いつくばったまま、私は自分の震える指先を凝視した。

何気ない一撫で、一握り。その程度の些細な「エロ」が、これほどのエネルギーを引き出してしまうというのか。

 

「これ……やっばい、……っ、あぁ……♥」

 

指先が自分の体に触れるたびに、腰が不随意に跳ねる。

絶望的なまでの快楽の濁流に呑み込まれながら、私は恐怖と、それ以上の陶酔に震えていた。

 

まずい、こんなところで……落ち着かなくては……!

そう思った瞬間、沸騰していた脳髄に、不意に冷や水が浴びせられたような感覚。

 

あれほど荒れ狂っていた熱狂が、嘘のように引いていく。心臓の激しい鼓動は凪ぎ、指先に宿っていた痺れるような官能は、まるで幻影だったかのように指の間から零れ落ちた。

 

「……えっ?」

 

しゃがみ込んだまま、呆然と声を漏らす。

視界を白く染めていた快楽の残滓すら残っていない。

全身を支配していたのは、底の抜けたような静寂と、奇妙なほど冴え渡った冷静さだ。

 

「……落ち着いた。……っていうか、落ち着きすぎ?」

 

路地裏の湿った空気の匂いや、遠くを走る車の走行音。それらが驚くほど鮮明に鼓動の隙間に入り込んでくる。感情の昂ぶりが一切削ぎ落とされ、鏡のように平坦な精神状態。

それは、かつて噂に聞いたことのある、男性が絶頂の後に迎えるという「賢者タイム」と呼ばれる境地に近いのかもしれない。

 

エロが関係すれば全能。

その定義は、単に淫らな快感を与えるだけではないのだ。欲求を爆発させることも、逆にそれを完全に鎮めることも、この「エロ」という因果の範疇にあるというのか。

 

「そっかー……。こんなことまで、できちゃうんだ……」

 

膝についた砂を払い、ゆっくりと立ち上がる。

先ほどまでの醜態が自分でも信じられないほど、今の頭の中は冷静な思考で満たされていた。

だが、その冷静な思考の端々で、理解してしまう。

この静かな状態さえも、あの凄まじい快感という激しさを前提とした機能に過ぎないと。

 

スカートの皺を伸ばしながら、自分の掌を見つめ直した。

今は何の熱も持たないただの少女の手だ。しかし、ひとたび「エロ」というスイッチを入れれば、この手は世界の理さえも愛撫し、弄ぶことができる。

 

「エロハンド……ね」

 

乾いた呟きは、先ほどよりもずっと確信を帯びていた。

この力があれば、学園都市のどんな不条理も、どんな壁も、私の前では意味をなさないのかもしれない。

 

 

思考の連鎖が、一瞬にして断絶した。

 

 

「……えっ?」

 

瞬きをひとつ。

視界が激しく明転し、次の瞬間には、見慣れた寮の自室の光景が目の前に広がっていた。

足裏に感じるのは、アスファルトの硬さではなく、クッションフロアの柔らかな感触。

鼻腔を突くのは路地裏の湿った埃の匂いなどではなく、自分の部屋に漂う、微かな石鹸と柔軟剤の香りだ。

 

あまりの出来事に、思考が停止する。

つい数秒前まで、私はあの薄暗い路地の中にいたはずだった。

 

「帰って……きた?」

 

呆然と呟き、後ろを振り返る。そこには確かに、いつもの扉がある。

距離にして数キロメートル。公共交通機関を使っても三十分はかかる道のりを、私は文字通り一歩も歩まずに踏み越えていた。

 

混乱する脳裏で、先ほどまでの思考を必死に手繰り寄せる。

 

家へ帰ろうとした。落ち着きたかった。そして――

何より、もっと自分の身体を使って、この恐ろしくも甘美な能力を確かめたかった。

「オナニーしたい」という、十代の少女としてはあまりに直截的で、破廉恥な欲求。

 

「……嘘。……今の、テレポート?」

 

いや、それとも違う。

空間を跳躍したというよりは、過程そのものが世界から削り取られたような感覚。

「早く帰って、自分を慰めたい」という切実なエロスの欲動が、目的地に辿り着くまでの退屈な「移動」という因果を握り潰し、望んだ結末だけを目の前に引き寄せたのだ。

 

「オナニーしたいから、急いで帰った……その結果だけを?」

 

頬に、じわりと熱が戻ってくる。

先ほどの賢者タイムのような静寂が、羞恥心によって急速に侵食されていく。

自分の欲望の強さが、物理法則さえも屈服させた。その事実に、胃の奥がキュンと鳴るような、形容しがたい高揚感が込み上げた。

 

「そっか……。こんなことまで出来ちゃうんだ……。」

 

静まり返った自室。

窓から差し込む夕闇が、床に長い影を落としている。

私は震える手で、ゆっくりと制服のボタンに指をかけた。

 

「……確かめなきゃ。……この力が、どこまで私をめちゃくちゃにするのか」

 

独り言は、誰に聞かれることもなく空気に消えた。

心臓の鼓動が、再びあの暴力的なリズムを刻み始めていた。

 

 

カーテンを閉め切り、密室となった自室の静寂の中で、制服を一枚ずつ脱ぎ捨てていく。

 

床に落ちた布地の柔らかな音さえ、今の鋭敏な感覚には大きく響いた。

下着までをすべて取り払い、一糸纏わぬ姿で姿見の前に立つ。

鏡の中には、見慣れているはずの、けれどどこか熱を帯びた少女の輪郭が映し出されていた。

 

「……うん。悪くない、よね」

 

自画自賛に近い呟きが漏れる。

まだ幼さの残る肩のラインから、緩やかにくびれた腰、そして年相応に瑞々しさを保った肌の質感。自分で自分の肢体を眺めるという行為そのものが、微かな羞恥を呼び起こし、それが能力の呼び水となって肌の表面を粟立たせる。

 

視線を滑らせていくと、太ももの内側に赤く腫れた小さな虫刺されの跡を見つけた。

無意識に、指先でそこを軽く掻く。

 

「あ……っ」

 

ただの痒みを抑えるための動作のはずだった。

だが、指が肌をなぞった瞬間、脳を突き抜けるような甘い痺れが奔った。

それは先ほどの暴力的な快感の縮小版のような、けれど純度の高い「悦び」の断片。

 

驚いて指を離すと、そこにあったはずの赤みは、まるで最初から存在しなかったかのように消え去っていた。陶器のような滑らかな肌が、夕闇の中で白く発光しているように見える。

 

「ハハハ……」

 

乾いた笑いが、狭い部屋に反響した。

虫刺されを治す。そんな些細な事象でさえ、この能力は「エロ」というフィルターを通すことで、因果を書き換えてしまう。痒みを快感へ、傷を治癒へ。

 

「……本当になんでもありなんだ。エロが関係しさえすれば」

 

鏡の中の自分と目が合う。

頬は上気し、瞳は潤んでいる。自分の身体を愛で、慈しみ、そして淫らな快感に浸るという目的がある限り、この部屋は今、世界で最も自由で、最も背徳的な実験場と化していた。

 

私は、ゆっくりと自分の両手で、自らの肩を抱くように触れた。

指先が肌の上を滑るたび、言葉にできないほど濃厚な期待が全身を駆け巡り始める。

 

鏡に映る自分の肢体。その柔らかな膨らみに、震える指先をそっと沈めた。

 

「っ……あ、は……っ♥」

 

先ほどまでの「賢者タイム」が嘘のように、掌から伝わる肉の温かみが、即座に脳を灼く甘美な痺れへと変換される。自分で自分を愛撫するという背徳的な行為が、能力の炉心に火を点けた。指を動かし、ゆっくりと円を描くように揉みほぐすたび、全身が熱く脈打ち始める。

 

ふと、鏡の中の自分と目が合った。

佐天涙子という一人の少女のスペック。同年代の中では恵まれている自負はあった。

けれど、学園都市を見渡せば、もっと上には上がいる。

 

「……もう少し、……ね」

 

欲望が、形となって溢れ出した。

「もっと魅力的な体になりたい」という、乙女としての、そして性的な存在としての根源的な欲求。それが『愛撫掌握』のトリガーを深く引き絞る。

 

瞬間、掌の中で肉が脈動した。

熱い。内側から細胞が急速に分裂し、再構築されていくような、未知の感覚。

それは痛みではなく、むしろ骨の髄までとろけるような心地よさを伴っていた。

ぐい、ぐいと、掌を押し返す弾力が増していく。皮膚が突っ張り、乳房の重量が確実に増していくのが、手に取るように分かった。

 

「あ、あはは……すご……本当に、大きく……っ」

 

視覚的にも、触覚的にも、私は今、「成長」していた。

だが、あまりに急激な変化に、一瞬の正気が頭をもたげる。

 

「待って、……これじゃあ、明日から制服が着れなくなっちゃう……!」

 

慌てて意識を切り替えた。

「元に戻れ」という、事象の巻き戻し。

再び快感の波が身体を突き抜け、膨らみかけた肉が急速に萎んでいく。

だが、完全に元通りにする直前、私は邪な誘惑に負けてしまった。

 

「……でも、せっかくだし。……ちょっぴり、……ほんのちょっぴりだけ」

 

指先に、甘い期待を込める。

ほんの数ミリ、あるいは数センチ。自分にしか分からない、けれど確実な「進化」。

微かな熱と共に、私の胸は理想のラインをなぞるようにして、以前よりもわずかに、けれど確実に瑞々しいボリュームを湛えて静止した。

 

鏡の中の私は、少しだけ誇らしげで、そしてそれ以上に、自らの肉体を改造してしまった背徳感に頬を染めていた。

 

 

鏡の中の自分。その、理想の形に整えた胸から視線を下げ、今度は露わになったウエストのラインに指を這わせる。

 

指先が滑らかな肌の上を滑るたび、微かな熱が指紋の隙間から伝わってきた。

この指先一つで、肉体の組成さえも自在に書き換えられる。

その事実に、背筋が薄ら寒いほどの高揚感に震える。

 

「これって……体重とかも、自由自在ってこと?」

 

今の自分の数値に特段の不満があるわけではない。けれど、この『愛撫掌握』の理屈なら、脂肪の増減も、筋肉の密度さえも、性的な意図さえ介在すれば「全能」の範疇なのだ。

 

ふと、恐ろしい想像が脳裏をよぎる。

もしこの力を、自分以外に向けたら?

ダイエットに励む誰かの体重を、指先ひとつの「愛撫」で劇的に減らしてあげることも――

あるいはその逆、悪戯心で、女性にとって悪夢のような数値を肉体に刻みつけることも。

 

「……っ、やば。今の考え、ちょっと戦争起きるかも……」

 

ぶんぶんと首を振り、毒にも薬にもなる万能の力に戦慄する。この街のレベル5たちが振るう「暴力」としての力とは質の違う、もっと根源的で、残酷なまでの支配力。

 

気を取り直すように、大きく深呼吸をした。

だが、呼吸は荒く、視線は吸い寄せられるようにして、自分自身の股間へと落ちていく。

 

「……確かめなきゃ。私自身の、一番……敏感な場所」

 

羞恥心で耳たぶまで真っ赤に染まりながら、恐る恐る手を伸ばした。

震える指先が、自身の秘部――湿り気を帯び始めたその割れ目に触れる。

 

「あ、…………っ!!!」

 

刹那。

世界が、音を立てて崩壊した。

 

先ほど胸を揉んだ時の快楽など、ただの微風に過ぎなかった。指先が粘膜をなぞった瞬間、純度100パーセントの、剥き出しの「絶頂」が脳幹を直撃する。

視界は真っ白に染まり、立っていることさえ許されないほどの衝撃が、肉体の芯を突き抜けた。

 

「ぁ、が……っ! あ、あああぁぁぁぁぁっ!!♥♥♥」

 

叫びは声にならず、ただ熱い呼気となって漏れる。

自分の指が、己の聖域を蹂躙する。その行為に込められた自己愛と背徳が、能力の出力を限界まで跳ね上げた。全身の細胞がひとつ残らず悲鳴を上げ、甘い痺れの中で溶けていく。

 

腰が、意思とは無関係に激しく折れた。

支えを失った身体が鏡にぶつかり、鈍い音を立てて崩れ落ちる。

床に這いつくばりながら、私はただ、暴力的なまでの快楽の濁流に身を任せるしかなかった。

 

一撫ででこれなら、もし、これ以上を自分に許してしまったら。

私は、私という人間の形を保っていられるのだろうか。

 

視界がちかちかと明滅し、焦点が定まらない。

床の冷たさが、火照りきった肌にはかえって毒のように熱を煽った。私は這うようにして、数メートル先のベッドへと手を伸ばす。指先がシーツの端を掴んだ瞬間、その布地の摩擦さえもが、電気のような痺れとなって脊髄を駆け上がった。

 

「はっ、あ……ふぅ、っ……」

 

重い鉛のような身体をどうにか引きずり上げ、マットレスに倒れこみ身を任せる。

乱れた呼吸を整えようと、必死に自分に言い聞かせた。コントロールするんだ。

この暴力的なまでの出力を、もっと、こう……生活に馴染むような、穏やかなものに。

 

シーツをたぐり寄せ、裸の肌を包み込む。

柔らかな綿の感触。それが肌を撫でるたびに、脳裏に「心地よい」という情報の断片が、甘い滴となって滴り落ちる。

 

「……そう。これ……これくらいで、いい……っ」

 

意識を集中させる。

狂おしいまでの絶頂を求めるのではなく、陽だまりの中にいるような、あるいは温かい湯船に浸かっているような、深淵から湧き上がる安らぎ。

それを「快感」の定義として能力に流し込む。

 

「んッ♥……あ……ふふ、っ……♥」

 

じわり、と。

背中から腰にかけて、とろけるような熱が広がった。

それは神経を焼き切る雷ではなく、全身を優しくマッサージされるような、陶酔に近い感覚。シーツと肌が擦れるたびに、微かな、けれど確実な悦びがさざ波のように押し寄せ、四肢の強張りを解いていく。

 

「そう、……こういう、良い感じで……っ♥」

 

あまりの心地よさに、思わずシーツに顔を埋める。

自分の内側から溢れ出す全能の力が、今は私を壊すためではなく、ただ至福の眠りへと誘う子守唄のように優しく拍動している。

 

だが、気づいてしまう。

この「心地よさ」さえも、普通の人間が一生かかって味わう幸福の総量を、数秒で使い果たしてしまうような、あまりに贅沢で退廃的なものだということに。

 

「ああ、……ダメだ……っ。これ、……クセになっちゃう、……っ♥」

 

意識の輪郭が、甘い霧の中に溶けていく。

指先ひとつ、思考ひとつで、世界で最も甘美な場所を作り出せてしまう。

その全能感に抱かれながら、私は抗うことのできない悦楽の沼へと、深く沈み込んでいった。

 

安らぎの微睡みの中に、猛毒をひと滴垂らしてみる。

ほんの少し、指先に「悦び」の出力を上乗せするイメージを重ねた。

 

「おほぉぉぉッ!?♥」

 

弾けるような絶頂が、脳髄の奥底を直接抉り取った。

穏やかなさざ波だった快感は、瞬時に全てを飲み込む大津波へと変貌し、私の理性を粉々に粉砕して押し流していく。

 

「だめ、……これ、は……っ! あ、あぁぁぁ……っ♥」

 

言葉が意味をなさなくなる。思考が白濁し、視界の端々で火花が散る。

ダメだ、と警鐘を鳴らす自分はもうどこにもいなかった。頭の中が甘い泥に浸かったように重く、そして信じられないほど軽く、空っぽになる。馬鹿になった。

そう、私は今、全能の力を手に入れた、ただのメスに成り下がっていた。

 

シーツを剥ぎ取り、汗ばんだ肌を露わにする。

自分でも信じられないほど、手が、指が、飢えた獣のように自分の身体を貪り始めた。

 

「ん、んんっ……ふ、あぁぁ……っ♥」

 

理想の形に整えたばかりの胸。その先端、赤く熟した果実のような乳首を、人差し指と親指で無慈悲に捩り上げる。能力を介した刺激は、神経を一本ずつ引き抜かれるような鮮烈な感触となって脳を灼く。

 

さらに指は下り、自身の最奥へと迷わず突き刺さった。

溢れ出した愛液が指の節々を濡らし、粘膜がぶちぶちと卑猥な音を立てて蠢く。一掻きするたびに、腹の底がキュンと震え、耐え難いほどの熱量が脊髄を駆け上がる。

 

「あ、ぁ……お尻、も……っ♥」

 

自分でも引くほどの背徳感。けれど、止められない。

空いた方の手が、禁忌の場所――窄まりへと伸びる。指先がその薄い粘膜をなぞり、押し広げるようにして侵入を試みる。

異物感さえも、この能力は極上のスパイスへと変換してしまった。

 

「ひ、あぁっ! すご、い……っ! ここ、も……きもち、いい……っ!♥」

 

全身の孔という孔から、甘い蜜が溢れ出すような感覚。

胸を揉み、股間を抉り、窄まりを弄る。

鏡の前で少女としての体裁を保っていた私は、もういない。

ベッドの上で、自分の指先がもたらす無慈悲なまでの全能の快楽に、ただただ悶え、狂い、壊されていく。

 

肉体と能力が完全に同調し、部屋の中には、ただ湿った水音と、壊れたような甘い悲鳴だけが、いつまでも、いつまでも響き渡っていた。

 

脳の奥底が沸騰し、思考の輪郭がドロドロに溶け出している。それなのに、どこか醒めた自分がその惨状を俯瞰しているような、奇妙な二重意識。

 

「……っ、ふぅ、あ……っ。大丈夫、……なのかな、これ……」

 

微かな理性の残滓で、己の身を案じる。これほどの過剰な快楽を、未成熟な少女の肉体が受け止めきれるはずがない。心臓が破裂するか、脳の血管が焼き切れるか。

そんな恐怖が頭をよぎった瞬間、能力が「私の健康」という因果を強引に上書きした。

 

内側から湧き上がる、底知れないバイタリティ。

どれだけ激しく身を悶えさせ、絶頂を繰り返しても、筋肉が疲弊する気配すらない。

むしろ、愛撫を重ねるたびに細胞のひとつひとつが活性化し、無尽蔵の体力が泉のように溢れ出してくる。脳は熱狂の渦中にありながら、論理回路だけは氷のように冷徹に、「異常なし」という信号を送り続けていた。

 

「うっわ……全部、オッケーなんだ。病気も、疲れも……エロが関係してれば、無敵……っ♥」

 

その保証を得たことが、最後の枷を外した。

恐怖が消え、後に残ったのは純粋な好奇心と、身体の芯を焼き尽くすような飢餓感。

 

「安心、しちゃった……。だったら……もっと、もっと……っ♥」

 

シーツを爪で引き裂かんばかりに強く握りしめ、再び自分の肢体に指を沈める。

もはや愛撫という生ぬるいものではなかった。自分自身を開発し、彫り込み、快楽の極致へと至るための、狂気じみた探求。

 

乳房を強く絞り上げ、指先で先端を弾くたびに、視界に極彩色の火花が舞う。

股間に沈めた指は、自身の粘膜を愛撫しながら、同時に体内を流れるエネルギーを直接操作し、神経の感度を限界以上にまで引き上げていく。

 

「あ、はぁぁぁ……っ! あ、あ、あああぁぁぁぁッ!!♥」

 

腰が弓なりに反り、背筋がシーツから浮き上がる。

無尽蔵の体力が、終わることのない絶頂を可能にしていた。一度の絶頂が収束する前に、次の、さらに巨大な波を自分自身で引き起こす。

 

理性の冷徹な観測は、もはや快楽の深さを測定するためだけの道具と化していた。

自分を見失わないように。そう願ったはずの心は、今や「全能の絶頂」という名の心地よい泥沼の中に、自ら進んで深く、深く潜り込んでいく。

 

 

乱れきった呼吸の合間に、ふと正気の欠片が脳裏をよぎった。

 

「はっ、ぁ……いま、何時……?」

 

焦点の定まらない瞳で、壁にかかった時計を仰ぎ見る。

あれほど濃密で、永遠にも感じられた快楽の時間。

体感では数時間が経過し、喉が枯れるほどに声を上げ続けていたはずだった。

近隣の住民に、この淫らな叫びを聞かれていたとしたら。

学園都市での、佐天涙子としての平穏な日常は、今この瞬間をもって終わってしまう。

 

だが、その懸念は、沸き上がる全能の確信によって即座に打ち消された。

 

「……あは、そっか。……そっか、そうだよね」

 

時計の針は、私がこの部屋に「転移」した直後の時刻から、ほとんど動いていなかった。

数分、あるいは数十秒。

濃縮されたエロスの時間が、物理的な時間の流れを強引に引き留めていたのだ。

さらに意識を外側へ向ければ、部屋の壁が、私の羞恥心に呼応するようにして、あらゆる音を遮断する完全な不可侵領域へと変質しているのが分かった。

 

これが、私の『パーソナルリアリティ(自分だけの現実)』。

エロという極めて個人的で、秘めやかな衝動を基点にして、世界を、時間を、因果を私の都合の良いように書き換える力。

 

その全容を理解した瞬間、脳内に、パズルの最後の欠片が嵌まるような衝撃が走った。

これまで得体の知れない熱として暴れていた力が、従順に、私の意志の元に静まり返る。

 

「……掌握、した」

 

ベッドの上に横たわったまま、私は自分の掌を、今度は力強い視線で見つめた。

もはや、快楽に振り回されるだけの少女ではない。私は、この淫らな全能を御す主だ。

 

私は何だってできる。

この指先一つで、誰かを絶頂の果てに廃人にすることも、世界の理を愛撫して歪めることも、文字通り自由自在。

 

「……だからこそ、ちゃんと自分を持ってなきゃ、ね」

 

火照った肌をシーツで覆い、ゆっくりと上体を起こす。

瞳に宿っていた熱狂は消え、そこにはレベル0としての日常を愛していた、いつもの佐天涙子の芯の強さが戻っていた。

強大な力は、使い方を間違えれば、自分自身や、大切な友人たちとの関係をも壊しかねない。

 

私は、このあまりに不謹慎で、あまりに強力な力を隠し持ちながら、これからどう生きていくべきなのだろうか。

 

窓の外には、変わらぬ学園都市の夜景が広がっていた。

 

 

 

 

血の匂いと、焦げたコンクリートの臭いが混じり合う。

 

「アイテム」のリーダー、麦野沈利の右腕から放たれた『原子崩し(メルトダウナー)』の閃光は、無慈悲にフレンダ・セイヴェリュンの胴体を貫き、その細い体を上下に分断した。

 

本来ならば、そこで終わるはずだった。

フレンダという少女の命は、その瞬間、絶望とともに散るはずだった。

 

だが、断面から内臓がこぼれ落ちる直前、異変は起きた。

 

「あ……、あはっ……!?♥」

 

悲鳴ではない。それは、喉の奥からせり上がるような、狂おしくも甘い喘ぎ。

フレンダの瞳が大きく見開かれ、どろりと濁った快楽の色に染まる。

密かに佐天涙子から授けられていた、呪いにも似た加護――

『愛撫掌握(エロハンド)』による、生きる意志があるかぎり致命傷を快感へと置換し回復する生存機能が発動したのだ。

 

切断された脊髄、破壊された細胞のひとつひとつから、致死量を超える「絶頂」という名のエネルギーが噴出する。

大きく脈打ったフレンダの肉体が、物理法則を無視して引き寄せられ、再結合していく。

傷口は一瞬で塞がり、吹き飛んだはずの血肉は極上の粘膜のように潤いを持って再生された。

 

「……な、に……?」

 

麦野が絶句する。

目の前で真っ二つになったはずの体は、地面に崩れ落ちるどころか、頬を真っ赤に染め、腰をガクガクと震わせながら立ち上がった。

 

「ふ、ふぁ……っ!?♥ お、おほぉ……!!♥」

 

再び放たれる緑の閃光。麦野の困惑は殺意へと変わる。

フレンダの腕が飛び、肩が削れ、腹に穴が開く。

しかし、そのたびにフレンダは、まるでこの世のあらゆる悦楽を凝縮したような嬌声を上げ、のけ反り、股間から愛液を撒き散らし……即座に「完治」する。

ダメージが大きければ大きいほど、傷が深ければ深いほど、再生のための快感は跳ね上がり、彼女をさらなる高みへと突き落とす。

 

「やめ……麦野、やめてぇ……っ。これ、死ぬより、ひどい……っ!♥」

 

涙目で懇願するフレンダだが、その体は絶頂の余韻でぴくぴくと震え、甘い香りの汁が全身から噴き出している。

不死身。だが、それはあまりにも破廉恥で、冒涜的な光景だった。

 

「……っ。何なのよ、それ……。気持ち悪い……!」

 

麦野沈利は、かつてない戦慄を覚えた。

殺しても殺しても、極上の快楽に浸りながら立ち上がってくる少女。

その異常な「生」への執着に、学園都市最強の一角である彼女でさえも、生理的な嫌悪と恐怖を禁じ得なかった。

麦野は忌々しげに舌打ちすると、それ以上触れるのを恐れて、背を向けてその場を去った。

 

 

 

数日後。

とある学区、いつもの公園のベンチ。

 

「……っていう、話だったんですけど。いやー、役に立ってよかった」

 

佐天涙子は、いつも通りの呑気な笑顔で、目の前の少女に缶ジュースを差し出した。

仲良くなったフレンダのために、どうしようもない致命傷を受けると、諦めない限り絶頂してダメージを打ち消す加護をこっそり与えていたことをネタばらししたのだ。

ちなみに、既に他の何人かに与えていたりもする。

 

だが、フレンダの反応は、佐天の予想とは全く異なるものだった。

 

「………………」

 

フレンダの顔は、熟れすぎたトマトのように真っ赤だ。

あの時、麦野の前で自分がどんな声を出し、どんな姿を晒したか。

その記憶が、鮮明に脳裏をよぎる。

 

「よくも……よくも、あんな……っ!」

 

「えっ、フレンダさん?」

 

「この、エロハンドーーーーー!!」

 

パァン! と、乾いた音が公園に響き渡った。

フレンダの渾身の往復ビンタが、佐天の頬に炸裂する。

右、左、右、左。

プロの傭兵顔負けの速度で繰り出される平手打ち。

 

「ひゃうっ!? ちょっ、痛っ、あ、あはっ!?」

 

ビンタの衝撃さえも能力で快感に変わりそうになるのを、佐天は必死に堪えるが、フレンダの手数は止まらない。

数十発の往復ビンタを浴び、ようやくフレンダが肩で息をしながら手を止めた時、そこには無残な姿の佐天がいた。

 

佐天の頬は、まるでアンパン男のように膨れ上がっている。

いつもの凛々しい美少女の面影はどこへやら、ふっくらと丸くなった顔で、佐天は涙目でフレンダを見上げた。

 

「……ひどいですよ、フレンダさん。せっかく助かったのに……」

 

「うるさい! 助け方に限度があるって言ってるの! 結果的に、麦野に変態だと思われちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」

 

膨れた頬を抑えながら、佐天は「あはは……」と情けなく笑うしかなかった。

確かに命は救ったが、乙女のプライドを粉々にした代償は、案外高くついたようだった。

 

いまフレンダの目の前で、自分が喘ぎながら顔を治したら、どんな顔をするだろう。

そんなことをちょっぴり考える佐天涙子なのであった。




佐天さんの頬はパンパン(これが言いたかっただけ)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。