※この作品はR-18です。

管理されたい管理人   作:霧里

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タンタンとタンタンしたい

 

早朝・青波砦

 

霧被る山間に、柔らかな朝日が差し込んだ。

目を覚ました小鳥たちは、口々に朝を歌い、柔らかい囀りが響き渡る。

 

平和だ。実に。

 

けれど、静寂はいつだって破られるもの。

肌が震える。ビリビリと。鉄鍋とお玉を打ち鳴らす程度ならまだ可愛い。

銅鑼だ。銅鑼がドラドラ鳴っている。重たい余韻は尾を引いて、テンポを上げながら砦中に響き渡った。

 

「お嬢ぉぉぉっ!」

 

すわ敵襲か。寝息をかいていたタンタンは、ばっと跳ね起き、部屋の窓から身を乗り出した。

 

頭が痛い。

 

砦の周りをなんか黒いのが走り回っている。

しかも、銅鑼を打ち鳴らしながらだ。やかましいことこの上ない。いっそ水飛沫の方がマシとまで思う。飛び起きた砦の連中も、アレを追いかけ回してはいるものの、彪獣のような身のこなしに追いつけないでいるようだ。

 

溜息を一つ。大きく息を吸い込んだ。

 

パンっと両手で頬を打ち据えて、寝ぼけた頭を振り払う。

 

「うっせーぞっ、黒夜叉っ!!」

 

窓から飛び出し、屋根を伝い、走る。

 

眼下に黒い影を捉えたタンタンは、思い切りに足を突き出した。

 

どぉぉぉぉんっ!

 

腹に響く銅鑼の音。鉄の板に体が乗った瞬間、もう一度足を踏み鳴らした。

ドンガラガッシャン。銅鑼が転がり、跳ねていく。その裏側から聞こえてくる笑い声は、実に楽しそうだ。

 

「あははははっ。おはよう、大親分♪」

 

ゆらり。何事もなく立ち上がった黒夜叉は、唇で半弧を描き親指を立てた。

会えて嬉しい。気持ちは同じ筈なのに、どうにも噛み合わない。どんなにデカい水車にだって限度はあった。洪水のように溢れてくる好意に、そのまま押し流されてしまいそうだ。

 

「おはようじゃねーよ。なんなんだ朝っぱらから」

 

悪気は無い。分かってる。故に邪険にも出来ない。

集まってきた連中を散らして、とりあえず銅鑼は取り上げさせた。

 

「何って? 大親分が言ったんじゃないか。ドラ鳴らして走り回れって。伝わったかい? 私の誠意。ああ、そうだプレゼントもあるんだよ」

「プレゼントだぁ……」

 

流れ星。だったらどれほど良かったか。空から一直線に、砦の外れに落ちてくる。

身構えたのも一瞬。銅鑼に比べれば静かなもんだ。森の空気が僅かに揺らぎ、驚いた番獣達が遅れて飛び出してきた。

 

「お嬢ぉぉっ。エンドフィールドから大量の玉葉人参が!」

「持って返らせろっ!!」

 

滅多なことを言うものじゃないな。

 

1といえば10で返してくるし。何も言わなくたって助けてくれた。

受けた恩を思えば、一生かかっても返し切れるかどうか。それが歯がゆい。押し付けたタンタン券も、遊びの誘いや、おやつのおねだりばかり。それじゃあ、使われる方も困ってしまう。

 

ほんとに、どうしてコイツはこんなに……。それは、黒夜叉に限ったことでもなくて、砦の皆もよく着いてきてくれている。

 

だったら、余計そうだ。

 

お頭としての面子もあった。自分で言ったことを無しにはできない。

 

「おい黒夜叉っ。俺様は蹴っ飛ばすとも言ったよなぁ?」

「さあっ、こいっ!」

 

手のひらに拳を打ち付けて、怒ったふりをして見せる。わびの一つでも入れりゃぁ許したものを。

 

「こいじゃねーんだよ。なんでちょっと嬉しそうなんだ、気色悪ぃな」

「当然じゃないか。犬になれというなら、私はいつでも「ワン」と鳴ける所存だよっ。さぁ、なんでも命令してっ」

 

ずぃっと、下手に出た黒夜叉が踏み込んでくる。

抱きつかれて、腹に頬ずりをされた。引き剥がそうにも、へばり付いた水飛沫よりしぶとく剥がれない。

 

「怖い怖い怖い怖いっ。すり寄るなっ。タンタン券を押し付けるなっ。どうすりゃいいんだよ俺様はっ! お前らも見てねーで、コイツを剥がすの手伝えって」

「じゃあ、俺等は仕事にもどりますんで……」「お嬢たちはごゆっくりぃ♪」

 

あるいは気まずそうに。あるいは面白がりながら。

思い思いに散っていった部下たちは、遠巻きに眺めるばかりで当てになりゃしなかった。

 

「お前らっ、後で覚えてろ……。あ、こらっ。お前も何処に手ぇ突っ込んでんだ黒夜叉……いい加減にっ!!」

 

 

******

 

帝江号:製造室

 

「なんですか、それ?」

 

聞いてはいけないと思った。聞きたくもなかったけれど、無視をするにはあんまりだ。管理人の跡を追って製造室を覗き込んだペリカは、こめかみを押さえて十秒。ようやく疑問を口にできた。

 

「なにって? タンタン券だよ?」

「それは、そうです」

 

止めてほしい。不思議そうな顔をしないで。頭痛がひどくなりそうだ。

振り返った管理人に驚く様子はなく、実にあっけらかんとしたものだった。

 

どうして?

 

聞きたいのはそれ一つ。

 

「どうして『密造』してるのか、ということで……」

「だって意地悪言うんだもん、タンタンが。500枚集めないと使っちゃダメだとかさ」

「それは……あなたが雑に使っているからでしょう? 知りませんよ、バレて怒られても。庇いませんからね、私は」

「怒って……くれるかな?」

「はい?」

 

言ってる意味が分からなかった。

 

偽造タンタン券の山を崩した管理人は、寂しそうに肩を落とす。

 

「材質も、額面も、傷跡だって同じに作ったんだ。私にだって見分けが付かないんだよ? 偽物(コレ)。足りないのは思い出だけ。そんなの、誰が分かるもんか」

 

自嘲気味な吐露。

 

素直になったのは良いことだ。隠される方が腹が立つ。

 

「ねぇ、ペリカ。君にとって、今の私は……」

 

言わせてはいけない。いや、聞きたくなかった。

その答えを、私は持っていないから。思い出してもほしい。当然だ。けれど、今の彼女を否定したいかと言われればそうじゃない。思い出せないのなら、それでいい。日に日にそんな感情も強くなる。

 

パシンっ!

 

咄嗟に、口を塞ぐつもりで伸びた手は、思い切りに管理人の頬を打っていた。

 

「それ以上言うと引っ叩きますよ?」

「いったっ……ぇ? ぇぇ……。引っ叩いてから言うのはズルじゃん」

 

ごもっともだ。

 

頬を抑えた管理人。マスクの縁がキラリと光る。

ちょっと強く叩きすぎたかも? 反省はしても、後悔までは。下らないことを言う彼女が悪い。

 

「ズルいのは貴女もでしょう? そう言えば、私が何も言えないのを分かって」

「それは、そうなんだけど……」

 

犬の首輪を引くように、襟首を引き寄せる。

罪悪感からか、顔を背けた管理人は、私と目を合わせようとはしなかった。

 

「思い出の一つや二つで何をガタガタと。そんなの、いくらでも作ればいいじゃない。それとも管理人。貴女は、今日までのことも嘘にされるんですか?」

「そんな事言わないよっ。思ってなんかないっ」

 

飛び跳ねるように顔を上げた管理人。予想以上の反応に、少しだけ驚いた。

これで迷うようなら、もう一発引っ叩こうかと思っていたのだけれど……その代わり。

 

カツ……

 

踵を鳴らし、踏み込む。背後で製造室の扉が閉まり、後ろ髪が風に揺れた。

逃げ場を求めた管理人が一歩下がると、コンソールに浮かぶエラーの表示。

赤く明滅するその文字は、彼女の頬の色にそっくりだ。

 

「あの……ペリカ、観察官?」

「なんですか、管理人?」

 

様子を伺うような問いかけに、キッパリとした口調で返す。

伸ばしたつま先を、管理人の足の間に差し込んだ。たじろいだ彼女は、更に一歩下がって行き止まり。コンソールにお尻が乗ると、エラーの表示が切り替わった。歯噛みした印刷機が音を立てて停止する。

 

「観察官自ら風紀を乱すのは、管理人としては……そのぉ、ね?」

 

それは、そうかも知れない。言ってることは正しい。至極当然だ。

今の彼女に思う所はある。けれど、急ぐ話は何もなかった。言いたいことはこの一つだけ。

 

「今の貴女に一番言われたくない言葉ですね、それ……」

 

降参のポーズ。

 

私を押し返そうと、肩に触れた手が上がる。

手首を掴む。もう逃さない。線の薄い彼女の首筋に、そっと歯を立てた。

 

 

******

 

青波砦:タンタンの部屋

 

静かな夜だった。

 

川のせせらぎと、虫の鳴き声が重なって、今朝の喧騒を洗い流していくようだ。

 

「なぁ……黒夜叉?」

 

ベッドの上。膝枕をしていた彼女の頭を撫でる。

タンタン券まで使って何を頼むかと思えばこの程度。まったく使われないのも寂しいが、こうホイホイ使われるのももどかしい。こんなの、頼まれればいくらでも……は、しないか。渋々だ。絶妙な塩梅でイヤになる。

 

「お前はさ、親に会えたら……会いたいか?」

 

太ももに頬ずりをしていた黒夜叉は動きを止めると、少しだけ頭を持ち上げた。

視線はマスクの向こう側。でも、随分と気にさせてしまったの分かる。急に家族の話なんてして、そりゃ心配かけてもしょうがない。お節介なやつ。まだ何も言ってないのに、きっとまたゴチャゴチャと考えているんだろう。

 

「ちげーよ。兄貴のこととか、親父の話をしたいんじゃないんだ。お前んとこの奴らがさ、色々調べてくれるんだよ……それが、なんか悪いなって」

 

エンドフィールドに入って一つ分かったのは、お節介なのは何も黒夜叉に限った事じゃないこと。青小龍だって、白能面もそうだ。初対面の奴らですら、気を使ってくれる。注射をぶっ刺してくるあの野郎だって、俺様の体調を心配してくれているんだろう。

 

「お節介だったかな?」

「いや。ありがたいとは思うぜ。だけどよ……」

「急につれてこられても困る? 聞きたいことはあっても、聞くのが怖いとか?」

「心読めんのかよ、お前は……」

「大親分の顔に書いてるだけさ」

 

堪らず顔を拭ってみても、文字の跡は見つからなかった。

拾われた時と同じだ。今から捨てようってゴミに、可愛くリボンなんて結びはしない。手紙があった訳じゃないけれど、ただ邪魔になっただけじゃないはずだ……と、信じたい。

 

「私は……どうかな? 自分の経歴を眺めてみても、実感なんて湧かないし。両親ですって、いきなり顔を出されてもさ。家族って意味なら、大親分の方がよっぽど家族だよ、私にとってはね」

 

勘違いをしていた。

 

記憶が無いって意味なら、俺様にだって分かってやれる所はあるんじゃないか。

でも、親父がいて、兄貴がいて、砦の皆は家族みたいで。赤ババアも、まぁ数にいれてやってもいい。不足はあっても足りてないわけじゃなかった。

 

想像して、ゾッとする。

 

今この瞬間、全部を忘れて砦に放り出された自分。

お頭だの、お嬢だの、周りから持ち上げられても戸惑うだけだ。積み重ねのない責任に、覚悟なんて決まるはずもない。

 

「お前もさぁ……もう少し俺様を頼れよなぁ。なんでも出来ちまうからって、なんでもするなよ」

「だからこうして、慰めてもらっているんだろう?」

「てめぇ……まぁ、いいか」

 

頬ずりにもどった黒夜叉の頭を引き剥がそうとして、やっぱ止めた。

いつでもはしてやれない。ちょくちょく顔を出してはいても、すぐどっかにいっちまう。今日だってそう。たまたま時間が空いたのか、無理矢理時間を作ったのか知らないけど。

 

好きにさせとくか……。

 

コイツの頭を撫でられる機会も、そんな多くねーし。

 

会話はなかった。

 

頬ずりをして、頭を撫でる。思い思いに過ごす時間に夜は更けていく。

うつら、うつら、瞼は重くなり、ふわっと大きなあくびが漏れた頃。

 

手のひらに、タンタン券を押し付けられた。

 

「今度は何だよ?」

 

添い寝でもさせようってか? 今更床に放り出すなんてしねーし。勝手寝てくれとは思う。

 

「キス……しよ?」

「は?」

 

目が覚めた。一瞬で。なのに頭が真っ白だ。

カタカタと壊れた機械みたいに視線を下げるのがやっと。頬が熱くてしかたなかった。

 

クシャリ……

 

タンタン券が更に一枚。訳もなく黒夜叉を見下ろしていると、手の中にもう一枚と押し込まれる。

 

「ばっっっっっ……おまっ、押し込むな、押し付けんな、キ……すって、あれ、おま、ちゅ、ちゅーだろ? えっちすぎんだろ、そんな、は?」

 

慌てる俺様とは反対に、太ももに頭を乗せたままの黒夜叉は、不思議そうに小首を傾げていた。

 

「もしかして……大親分ってさ、ちゅーすると子供が出来るって思ってる?」

「……」

 

ニヤリ……

 

黒夜叉の口元が持ち上がったのを見るや、くるり、目が回っていた。

目の前には天井と、それを遮る彼女の顔。初めて見る素顔は意外と可愛らしくって、何処にでもいる普通の女の子って感じだった。

 

「それ……外していいのかよ?」

「タンタンとちゅーする時間くらいはね」

「……名前。いや、そもそもちゅーとか、しねーって」

 

勘違いをしていた。きっとそうだ。

ちゅーしたって子供は出来ない。そうでなきゃ「ためしてみよっか?」なんてさ。

 

タンタン券が3枚、タンタン券が4枚。

 

握りしめた手の中で、クシャリ、紙が潰れる音が響く。

 

「ちょっとだけ、ね? ちゅって、するだけだから」

 

ゾワゾワした。耳元で囁く声、拭き掛かる吐息が温かい。

心にそっと入り込んでくるようだ。頭を揺らす声音を拒めない。

 

タンタン券が5枚。

 

押し付けられて、指が開いていたことに気づく。

慌てて閉じると、黒夜叉の指と仲良く絡まった。まるで、恋人達がするみたいにだ。握り返され、引き込まれる。振りほどこうにも、離してくれない。

 

「好きだよ……タンタン」

「ひゃぁぇ……!!」

 

耳の先を啄まれた。パタパタ動かすと、跳ねた耳が唇を弾く。

柔らかかった。温かった。バクバクと鳴り響く鼓動の音が、耳の先から聞こえてくる。

 

「好き、好き、大好き……たーんたん♪」

「おま、やめ……まじ、で。これいじょうは、ぶっとば……ぁぅっ」

「はむっ♥」

 

好きの声が耳から離れない。言われるたびに胸が爆発しそうになる。

ベッドが軋む。黒夜叉を押し返そうとして、でもどうしてか黒夜叉に力負けしてしまっていた。

 

「ちゅって……しただろ。もうさっ、はなれ……」

「やだ」

「やだって……」

「だって、キスはココにするものでしょ?」

「ぅっ……」

 

アゴを持ち上げられ、指で撫でられた。

頬に触れた手を払おうとしても、首を振って逃げるのがやっとだ。

 

なんでだ?

 

どうして……。

 

イヤかと言われればイヤではない。でもそれは、したいと同じじゃない。

このままじゃ流される。驚かせるかもしれないが、中途半端な抵抗じゃもう誤魔化せなかった。

 

「それ、やめ……すきって、いうなぁ……」

 

でも、ダメ。

 

繰り返される「好き」の言葉。耳をくすぐる声音と吐息。

体を起こそうとして、お腹から力が抜けていく。離れたくない。繋いだ手が吸い付いたみたいだ。

 

「なんでさ? いつも言ってるだろう? 大好きだよって。ね? タンタン」

「ぅ、ぁ……。みみ、たべんなぁ……」

 

顔が熱い。何も、考えられなくなる。

いま、俺様の顔には何が書いてあるんだろう? 見られたくなくて顔をそらせば、耳を差し出す形になった。

 

ちゅっ……

 

好きと言われて、水音が弾ける。交互に、交互に、繰り返しながら、だんだんと近づいてきた。黒夜叉の唇が頬に落ちる。一つ、また一つ。足跡を残すように俺様の唇のすぐ横へ。

 

思わず唇を引き結んでしまった。

 

次に、ちゅっと弾けたときには、きっともう俺様たちの唇は重なっていて。

キス……。黒夜叉と、でも……。腹は決まらない。コイツが何を考えてるのかも分からない。

 

握ったタンタン券の感触が、嫌に生々しかった。

 

これは、ズルだろ。本当に俺様のこと、好きでしてくれるんならさぁ……。

それに、なんか手慣れてるのも腹が立つ。唇には触れてもらえなかった。

からかうように通り過ぎ、首筋からその下へ逃げていく。

 

スルリ……スルリ……

 

流れるように、寝間着が脱がされた。

気づけばお互いに素っ裸。ますます止めるタイミングを見失う。

 

「おまっ、待てよっ、マジで。まてって……」

「?」

「不思議そうな顔すんじゃねーっ! 俺様が間違ってるみてーだろっ!!」

「だって、タンタンが可愛いから」

「大親分だっ。可愛いとか……そんな」

 

うっとりしてた。俺様が多少強がってみせた所で火に油だ。

「ひゃっ」唐突に、変な声まで出てしまった。胸の先を指で弾かれ、肩が跳ねる。

一瞬、目の前が真っ白になった。大きな溜息。それと一緒に、体の強張りが抜けていく。

 

手……ちっちぇんだ。

 

揺れた膨らみを、明らかに持て余してた。

こんな小さな手で、いつも剣を振り回してんのかよ。下手をすれば、棒っきれを振り回して遊んでる子どものほうがまだ。

 

小指、薬指、中指と。指が沈んで、伸びた人差し指が、また先端に。

分からなくなった。さっきまで何を考えていたっけ? 指で先っぽを転がされると、頭の中がゴチャゴチャになる。

 

確かなのは、握りしめたタンタン券の感触だけ。

見られたくなくて、両腕で顔を隠す。鼓動の音がやけに煩い。乱れた吐息が口元に纏わりつく。くすっと、聞こえてきたのはきっと黒夜叉の笑い声だ。

 

触れられた肌が熱い。

 

瞼を閉じたせいで、余計に気が向いてしまう。

 

胸を揉んでいた手がお腹へと。伸びた小指がおヘソの穴に入り込む。注射の針を刺されたみたいだ。爪で引っ掻かれ、鋭い刺激に腰が引けてしまう。

 

おかしいんだ。ダメなのに、もっとって。頭の隅っこでさ。

 

とんっと、下腹を指で叩かれた。汗が吹き出すような感覚が広がって、頬の熱が、だんだんと目尻に上がってくる。温かいのが、熱くなって、全身が熱に浮かされた。じっとしてられない。ベッドに背中を擦り付けるみたいに体が動く。

 

こんな情けない所、黒夜叉に見られたくない。

目指したのは、かっこよくて、頼りになる大親分。可愛いとか言われても、からかわれてるようにしか聞こえない。深呼吸して、鼓動を落ち着ける。手繰り寄せた気を取り直して、力を入れ直そうとした時だった。

 

ちゅっ……

 

唇が弾ける音。

 

「好き」の言葉が蘇る。

 

思わず伸びた手が、黒夜叉の頭を抑えつけた。

 

「そこっ、なんでっ。だめ……だってマジで、やめっ……きたな」

「タンタンに汚い所なんてないよ?」

「そこでしゃべんなぁっ……!!」

 

いつから、だったんだろう。

 

自分の体が自分のものじゃなくなっていく。

 

足の間に黒夜叉がいた。頭を突っ込んで何をしてるのかと思えば、また唇が弾けた。ちゅっ……。水音が響いて、頭の裏で火花が散った。背筋を伝って、駆け上がってくる刺激に目が回る。ますます熱くなった下腹から、グツグツと音がするみたいだ。

 

「でてるって、でてるからぁ……。漏れ……俺様、吸うなよ、そんなの」

 

足に力が入らなかった。閉じようとしても、腰から下が動かない。

黒夜叉の唇が股間に触れるたび、お腹の熱が漏れ出してくる。我慢しようにも、止められなかった。甘く痺れて、溶け出して……流される。なんだこれ、気持ちいいのか? 初めての刺激を、どう受け止めていいのか分からない。

 

「大丈夫だよ、タンタン。おもらしとかじゃないからさ」

「じゃあ、なんなんだよ……これ。くろや……しゃ、ひゃぁぁっ♥」

 

クスリと、微笑んだのが見えた気がした。

 

止めろというまもなく触れられて、頭の中がひっくり返る。

声を上げると、少しだけスッキリした。水辺で大声を出すのと同じだ。でも、モヤモヤは晴れない。お腹はどんどん重たく、熱くなって。胸が苦しい、涙が滲む。

 

「黒夜叉……くろやしゃぁ……俺様っ、もう……っ」

 

 

 

 

時間が止まったみたいだ。

 

目の前が霞んで、意識にボヤける。

 

タンタン。タンタン。

 

全力で走り抜けた後みたい。体を包む倦怠感は、だけど波に揺られるように心地が良かった。乱れた呼吸も少しずつ収まって、胸の苦しさも軽くなっていく。

 

「大丈夫かい?」

 

薄く引かれた黒夜叉の唇に、視線が吸い込まれる。伸びた舌先が、きらめく雫をペロリと舐めた。全身をくまなく、恥ずかしい所まで触れられたのに、そこはまだ。ここだけ、なんで? キスしよ?……そういったくせに。

 

「なん……で?」

「?」

 

ああ、ダメだ。

 

我慢できない。

 

何もされないのが辛すぎる。唇が冷たいんじゃない。他が熱くなりすぎて、頭おかしくなる。

 

「不思議そうな顔すんじゃねぇっ! 人の体好きにして、全部おかしくしやがって。なのに、なんでだよ。するんだろ? してくれよ……いやじゃないからさぁ」 

 

何が何だか分からない。訳も分からず涙が溢れた。

情けない所を見せている。自覚はあっても止められなかった。

 

「ごめんね、タンタン。ちょっと、意地悪だったね」

 

胸の真ん中に指を置かれる。

 

とくんっと、鼓動が高鳴った。

 

「……ぁっ」

 

次に弾けた水音は、唇が重なる音だった。

 

 

*******

 

翌朝。

 

まだ空も白み始めた頃。ガサゴソと聞こえた音に、タンタンは目を覚ます。

寝ぼけ眼に浮かんだ顔は、誰だっただろう? ちょっと寒い。さっきまで隣にあった温もりが遠のくようだ。肌寒さに身を寄せると、面影は霞んで消えていた。

 

布団を被り直し、丸くなる。

代わりに思い出したのは、昨夜の出来事だ。素っ裸で寝ていれば、そりゃ寒い。

それでも温かったのは、きっと二人で寝ていたからで。

 

「おい黒夜叉」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「声ぐらい掛けてけよ。起きた時いないと……なんか、アレだろ?」

 

言葉にできなかった。寂しい……のはそうだけど。形にならない不安が胸に広がって、寝起きの不機嫌に繋がっていた。

 

「ごめんね、タンタン……」

 

ベッドが軋む。黒夜叉の気配が近づいてくる。

 

「あっ、ちょっ、そういうんじゃ……まてって、あ、んっ」

 

頬に唇が落ちた。少し強引に顔を向けられると、今度は唇へ。

 

「じゃあ、行ってくるね?」

 

顔を見れなかった。頬が熱い。俺様の顔にはきっと「好き」って書いてある。

 

「タンタン券……」

「?」

「次に偽物掴ませたら……許さねーからな。欲しけりゃ言えよ、ちゃんとさ」

「きづいた……の?」

「あ? そりゃ分かるだろ」

 

不思議そうだった顔が驚きに変わる。悪戯にしては手が込んでいても、それだけだ。むしろ、どうしてバレないと思ったのか。500枚。本当に用意して脅かそうとでもしたんだろう。山積みにしたタンタン券を前に、得意げにしている姿が目に浮かぶ。

 

「は? え? あ、おい……まてまてまてっ。仕事じゃねーのかよ」

 

まるで、時間が巻き戻ったみたいだ。

途中まで着替えていた服を脱ぎ捨てた黒夜叉が、布団の中に潜り込んできた。

 

「うん。だけど、タンタンが悪い。タンタンが可愛いのが悪い。仕事と俺様、どっちが大事なのって言われたら、そりゃさ、そりゃね?」

「バっカじゃねーのかっ! そこまでは言ってねぇっ絶対!!」

「書いてあったの、顔に。書いてなくても書くだけさ。私頑張るから」

「頑張んなっ。さっさと行っちまえって、この、やめ……ほんと、マジ……ぁっ」

 

いっちゃった。

 

「寂しい」「行かないで」「大好き」1回や2回じゃ許してくれない。

黒夜叉が満足するまで、ずっと、ずっとだ。すっかりと日が昇って、ようやく解放してくれた。白能面から通信が来なかったら、どうなってたか。散々弄ばれた体は未だに言うことを聞いてくれず、黒夜叉が出ていった後も動けないまま。

 

「行ってくるね?」

 

名残惜しそうに、それでも笑顔で手を振って。

一人、残された部屋は静かだった。それこそ、余計なことまで考えてしまうほどに。「続きはまた今度……」黒夜叉の声がグルグルと頭の中を回っていた。

 

続きって何だ?

 

キスだけでもあんなになるのに……

 

想像だけが膨らんで、大きくなる。悶々とした感情に指が掛かりそうになったとき、部屋の外から話し声が聞こえてきた。

 

「お嬢、まだ起きてこないの?」

「あーいいから、今はいいから」

「え、なんで?」

「ほら、さっき黒夜叉が……なんかツヤツヤしてたじゃない?」

「あ、あぁぁ……あー。えらく機嫌良さそうだったよね。じゃあ、朝の声って……」

「まあ、そういうわけだから。しばらくしたら起きてくるでしょ」

 

出られねぇ……。

 

どんな顔して、俺様は……。

 

 

*******

 

おまけ

 

帝江号:製造室。

 

魔が差した。遊び心とも言うべきか。

放置されていたタンタン券密造施設を解体しようとして、ペリカの手が止まる。

額面を少し変えただけ。悪戯に作ったペリカ券を明かりに透かして自嘲した。

 

「何を、やってるんでしょうね」

 

これを管理人に渡して、どうしようというのか。その場でデートに誘われて終わりそうな気もする。そんなのいつだって……。けれど、最近はそうでもないのか。忙しさにかまけて、食事の時間ですらすれ違っていたように思う。

 

口実には、なるのかな。

 

抜き取った一枚を懐に忍ばせた。

 

「みぃっちゃった」

 

はっと振り返ると、そこにはチェンの影。

さっと、ペリカの横をすり抜けると、コンソールに指を滑らせていた。

 

「チェンっ。いつから……いえ、待って下さいこれは、違うんです」

「違わない違わない。いやぁ、ペリカさんも可愛い所ありますなぁ」

「だから……。って、それは……貴女」

 

チェンの手には額面の変わったタンタン券。言ってしまえばチェン券だ。

 

「あははっ。作ってみると、結構恥ずかしいねコレ」

「……ノーコメント」

「渡さないの?」

「別に……そういうつもりじゃ」

「そっか……」

 

意外とあっさり引き下がるものだ。

もう少しからかわれるものかと、身構えてはいたけれど。チェン券を手にした彼女は、何を言うでもなく出口に向かう。

 

「じゃ、ココから先は競争だね♪」

 

にかっと、悪戯な笑顔が残る。ヒラヒラと揺れる尻尾を見送った。

だから、別に、違うというのに。渡すつもりなんて、そんな……。

廊下を覗き込むと、小走りに駆けていくチェンの背中があった。それに、必要なのは、順番じゃなくてタイミング。早ければ良いというものでもない。まあ、でもそう。後々になって勝ち誇られるのも面白くはなかった。

 

「うひゃぁぁっ!?」

 

廊下に響くチェンの悲鳴。そのすぐ横に雷が落ちた。

 




タンタンより、ロッシのほうが一人遊びの経験多そうな不思議。

ご覧いただきありがとうございました。

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【R18】アイマスをエッチな目で見るやつ(作者:猪熊夜離)(原作:アイドルマスター)

アイマスの衝動的に思いついたやつを投下していくコーナー。不定期。▼作者の嗜好が曲がってるので、ストレートなイチャラブすることは少ないです。▼いつまで続くか分からないけどまとめた方が探しやすいかと思って。▼現在の最新投稿は『島村卯月はエロマッサージ師さんにエッチなことされても寝たふりする悪い娘です』です。▼https://syosetu.org/novel/2…


総合評価:1474/評価:8.55/連載:10話/更新日時:2023年04月21日(金) 00:48 小説情報

【R18】息抜きロドス(作者:ね。@skeb募集中)(原作:アークナイツ)

アークナイツのR18純愛二次小説です。▼※無断転載禁止▼※AI利用禁止


総合評価:25/評価:-.--/連載:6話/更新日時:2026年10月10日(土) 00:00 小説情報

【R18】アークナイツ:不本意姦短編集(作者:片腕チェーンソー)(原作:アークナイツ)

アークナイツの不本意姦の短編集です▼pixivでも投稿しています


総合評価:59/評価:-.--/短編:17話/更新日時:2026年08月20日(木) 21:00 小説情報


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