個室が用意されていた。体育館のパーテーションで作られた、即席のものだ。
僕と隣の席の、相沢さんは、お互いちらっと相手を見て、すぐに視線をそらす。今日は保健の授業の実技だった。
昨今は男女平等が叫ばれている。男子も女子も、それぞれの体を平等に知っておくべきだという論理に基づいて、保健の授業では、セックスの実技と、互いに性別を変えたセックスが準備されていた。
要するに、入れ替わりである。一般に隣の席の男女が体を交換して体を重ねる。
「ごめんね、こんな愛想のない女でさ」
「え」
僕はまじまじと相沢さんの方を見る。膝のうえで手を揉んでいた彼女は、何でもないという感じで髪をさっとかき上げた。
「それを言ったら僕だって、こんな冴えない男の体で申し訳ないよ」
「いいんじゃない?君、結構顔立ち整ってる方だし。センスを磨けばましになるんじゃないかな」
割とズバズバ言われている。僕は苦笑して、相沢さんはまた髪をかき上げた。
「じゃ、やろっか」
「え」
「あ、ほら、今のは……早く、済ませちゃおうってこと!」
顔を赤らめた相沢さんが少し早口になる。二人きりになるだけで、こんな風な姿が見られるとは思わなかった。
成績優秀の、少しクールな女の子。いつも事前に受け答えを用意しているんじゃないかってくらい言葉に詰まることもなく。
そして、何より、スタイルがよい。ブレザーの着こなしは、なんだか男子より様になっている。少し斜めになったリボンタイも、少し気だるげな王子様感があって、かっこいい。
そんな相手と入れ替わるというのだから、それはプレッシャーを感じるというものだ。
配られた赤い錠剤を口に入れる僕の手は微かに震えていた。それから、急いでペットボトルの水を飲み干す。遅れて相沢さんが、同じように入れ替わり用の薬を口に運んだ。それから、本当に何気ない仕草で僕の手からペットボトルを奪うと、コクコク、とラッパ飲みした。
「え、今のは」
「間接キス」
と相沢さんがつぶやく。
「でも今さらでしょ。これからもっとすごいこと、するんだし」
並んでベッドに腰掛けている状態で、相沢さんがギュッと僕の手を握ってきた。思わず、握り返す。彼女はふふっと笑った。
「震えてるよ。童貞って、そんな感じなの?」
「え」
「でも残念。今日は君の番じゃなくて、私の番だから」
薬が効き始めたらしい、くら、とちょっとしためまいのようなものを感じて、僕は一瞬、目を閉じた。
「気づいた?」
「僕」が少し心配そうに、こちらをのぞき込んでいた。
いつもより、身体が熱い気がした。相沢さんの体温だろう。ゆっくりと視線を落とす。ブラウスをはねのけようとするかのような、視界を邪魔する胸。それが要するにおっぱいであることに気づくまで、やや時間がかかった。
「うう……」
「どうしたの?」
覚悟はしていたのだが、全然足りなかった。思わず顔を手で覆う。僕はこれから相沢さんに、女の子として抱かれるのか。そう思うと、恥ずかしくって仕方がない。
「顔が熱いよ……」
「そ?私はさっきまでの君みたいに、ちょっと震えが止まらないかな」
しばし、会話が途切れる。早いグループはもうセックスを始めているらしい。喘ぎ声、いた、痛いっ、と愛撫が十分じゃなかったらしい元男子の声。すげー、おっぱいデケェ!と叫んでいる女子に、バカ叫ぶな、と響く野太い声。
無理やりのフェラは禁止です、というラミネート加工された注意書き。セックスするときは相手を尊重しましょう、相手の意思を大切にしましょう、云々……。
「始めよっか?」
「あ、うん、ええと……」
「なに?」
「よ、よろしくお願いします」
声が上ずった。「僕」はそんな僕の様子をポカンとして見ていたけれど、やがて、くすっと笑った。
ハンガーを手に取って、ブレザーを引っ掛ける。相沢さんが黙々と服を脱いでいく。それに遅れないようにと僕もブレザーに手をかけたのだが、相沢さんに制止されてしまった。
「脱がしたいから、待って」
「ぬ、脱がしたい……?」
僕の問いに答えず、相沢さんはぱっぱと制服を脱いで、下着以外を丁寧に吊るしてくれた。彼女のクセらしい、髪をさっとかき上げようとして……その手は空を切る。相沢さんは、股間の一物の感触になれないらしかった。
「君の、なんていうか、すごいね」
「そうかな……?」
一応トランクスに隠されてはいるけれど、所詮は薄い布切れだ。勃起しているのは、どうしても丸わかりだった。
「じゃ、おいで」
相沢さんが僕に言う。立ち上がった僕をいったん軽く抱きしめてから、彼女は僕の方に手を伸ばした。ブレザーのボタン、ブラウスのボタン、スカートのホック。パサリパサリと服が床に落ちるたびに、相沢さんが神妙な顔で、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「熱い、ね」
「でも、それより……そのっ」
「恥ずかしい?」
僕は何度も頷く。相沢さんがくすりと笑う。
「大丈夫。ちゃんと、リードするから」
バンザイして、と言われるがままに手を挙げる。相沢さん抱きつくようにしてブラのホックを外す。途端に、胸が大きく弾んだ。咄嗟に腕で下乳を押さえるようにして、前屈みになる。ピッタリとフィットするショーツも、これから脱がされるのだろうと思うと、つい内股になってしまう。
「もう、いちいちかわいいんだから」
「わざとじゃないよっ」
「そう。だから余計にたちが悪いの」
相沢さんが傅いて、僕のショーツに手をかける。スルスルと降りていくショーツと、形を取り戻そうとするかのようなお尻。体全体がすうっと外気に触れて、僕はもじもじと体をこすり合わせた。
相沢さんがくるくるに丸まったショーツを軽く指先で回して、ぽいと床に投げ捨てた。横になっていいよ、という指示通りに、ベッドに横になる。これか、相沢さんに抱かれる。少し憂いを帯びた感じの自分の顔が迫ってくる。
まず最初に、胸を触られた。反応を確かめるような、柔らかな手つき。彼女自身が磨き上げた大きな胸を、僕の体を使って触れている。ゆっくりゆっくり、円を描くように丁寧な愛撫が始まる。
「恋人いる?」
「い、いないけど」
「よかった。じゃ、キスもできるね」
言うなり彼女はちゅ、ちゅ、と啄むような口づけで、さっと僕の唇を奪ってしまった。間接キスにファーストキス。それは予想だにしない早さで、でも確実に、僕よりもかっこいい女子に奪われてしまう。
口づけが、身体に落ちていく。鎖骨や胸。相沢さんもやはり胸が気になるのか、かなり執拗に、徹底的に胸を愛撫していた。乳首を口に含み、舌で転がす。チュウチュウと吸い上げて少し勃起させると、今度は軽く歯を立てる。なんだかくすぐったい、未知の感覚だった。
「相沢さん、慣れてる?」
「慣れてない」
ぶっきらぼうな答えに、はて、と首を傾げる。少し僕を睨んだ彼女は、ため息とともに、
「私のこと、遊び人だと思ってない?」
「あっ、いや、そういう意味じゃ……」
「にぶちん。私だって童貞として、ヴァージンの女の子を頑張って気持ちよくさせようと一生懸命なのに」
「ご、ごめんなさい」
彼女が胸に吸い付いてくる。少し怒りが込められて、乱暴だった。たちまち胸が唾液まみれになる。んく、んく、と何かを飲み込むように彼女の喉仏が上下しているのがわかった。
「ええと、次はーー」
相沢さんが、じっと、こちらの股間に視線を落とす。慣れてきたら、相手の性器を口で愛撫することも考えてみましょう、という注意書きの一文が思い出される。相沢さんはこの日のために丁寧に処理をしたのか、あそこのまわりはつるつると光っていた。
「今回は、やめとこっか」
「う、うん」
「じゃあ私も、ベッドに乗るから」
そう言って相沢さんが、隣に倒れ込んできた。二人の視線が交差する。しばらく無言で見つめ合っていた。僕の顔は、多分上気して、真っ赤になっていたと思う。そんな僕をじっくり観察してから、やがて相沢さんが、僕の股間に指を這わせた。
「んっ」
今までで一番、ダイレクトに刺激が届いた。無意識のうちに隠そうと、庇おうとする太ももを押しのけるようにして、グリグリと指が容赦なく、でも無理のない程度にこちらの体の中に滑り込んでいく。
「いざこうやると、勝手が違って……」
「えと……大丈夫?」
「君、ホントに天然じゃない?」
相沢さんがあきれた様子で呟いた。そのままVサインを作るようにして、腟内をひっかく。反応があったら今度は、手首を返してまたくいくい、と指でひっかく。確実に僕は、相沢さんの手で絶頂に導かれつつあった。
「たぶん、もう、いいと思う」
相沢さんにそう言ったのは、僕自身がもう、彼女の愛撫に耐えられなかったからだ。そう?と首をひねった彼女がペットボトルに口をつける。
「じゃ、ええと……いくわよ」
彼女がトランクスを脱ぎ捨てた。僕の喘ぎ声や、汗とシャンプーのニオイ、密着した異性の体から無意識に発せられた誘惑の数々に、僕の体は完全に仕上がっていた。ペニスが体育館の天井めがけて隆起している。
僕は膝をゆっくりと折った。Mの字を意識して、股を開く。股間の秘裂がゆっくりと開かれて、ぬらあっ、と糸を引いた。相沢さんがまた、ごくっと唾を飲んだ。彼女が僕の太ももに自分の太ももを押し付けるようにして、大きく前かがみになった。少し腰を浮かすと、ちょうどペニスが、股間にコツン、とぶつかった。
「あ、相沢さん?」
「な、なによっ?」
「あの……優しく、してね?」
「っ」
返答はなかった。ただ、思いの外ゆっくりとペニスが入ってきたから、彼女の優しさを、よく噛み締めることができた。ずるるっ、とペニスが一気に奥の方まで貫き、そして、止まった。異物に貫かれている、という感覚は、何とも形容しがたい。あ、うう、と僕はうめきながら体をそらす。相沢さんが、子供のように僕の胸の谷間に顔を押し込んで、グリグリと埋める。
「だいすきっ」
微かに、そんな声が聞こえた気がした。僕はいつもより優しい気持ちで、彼女に体を預けた。しばらくして身を起こした相沢さんが、本格的に腰を振り始める。足を肩のあたりに引っ掛けて、ぐい、ぐい、と腰を押し付ける。衝撃が、逃げない。ペニスが入ってくるたびに、僕の体は全身で、それを締め上げていた。んっ、はっ、と自然、僕の息は荒くなる。相沢さんもそうだった。ああっ、と短いうめき声とともに、何度も額を拭う。パンッ、パンッ、と腿と腿の肉がぶつかり合う音が響いている。奥へ。奥へ。剛直のくせに人体の一部位だからと言わんばかりに、亀頭はスムーズに向きを変え、膣を犯しながらそこに寄り添い、こちらの体もペニスの通り道を覚えようと柔軟に形を変えていた。ぎしっ、ぎしっ、とベッドが軋む。
よだれが止まらない。こぼれていることには気付けるのに、拭き取る余裕がない。あう、と僕が呻いていると、相沢さんが唇をまた奪ってきた。抽送に合わせた乱暴な、貪り方。おへそのあたりがきゅうっと縮こまって、被虐的な喜びに体が震えるのがわかる。
「ああ、くっそ、かわいいなぁ……」
相沢さんの言葉は、少しだけ悔しそうだった。同時に、自慢げでもあった。
相沢さんの腕が、僕の足を解放した。瞬間に僕は、彼女の腰に足を巻きつけていた。瞠目する彼女に、緩んだ笑みを見せつける。
あなたの全部を受け止めます。だから、安心して。
そんな思いは、少しでも伝わっただろうか。相沢さんが最後のスパートをかける。お互い、もう喘ぎ声を殺す余裕もなかった。音波のようなそれを発しながら、ぎしぎしとベッドを揺らす。膣に攻め込む槍が、ブルブルと震えているのがわかる。僕の足も、ガクガク、と震えて、今にも崩れ落ちそうだった。
泣き笑いの顔が、互いを見つめ、果てると分かっていて、なおやめられない。
「「んんんんっ!」」
僕らは揃って、絶頂を迎えた。
「これ、毎度毎度これなら、死んじゃう……」
僕はベッドに身を預けながら言った。
「私も死ぬかと思ったわよ。こんな……腹上死するかと思った……」
相沢さんが呟いた。
お互いに軽口やら憎まれ口やら叩きながら、それでいて、僕らは、お互いに握った手を決して離さない。少しだけ元気になった相沢さんのチンポが、僕のアソコにすりすりと、また擦り付けられる。
「また死ぬような目に遭いたいの……?」
「いいじゃない。いや……?」
「イヤじゃないから、困ってる」
相沢さんが、口づけをした。そしてまた、ペニスを槍のように構えた。
「大好き」
相沢さんが、恥ずかしそうに顔を赤らめて、子供のように弾んだ声で言った。