基本的に、保健の授業では相手を選ぶのは生徒の自主性に任せている。どちらかと言えば、男子は相手を選ばないのに対して、女子はじっくり相手を選ぶ。
これが単純に、「男子はヤリチンで女子は純愛派だから」と言い切ることはできない。
この授業の趣旨は、「男女の性の違いを自らの入れ替わりをもって体験することにある」ので、先の論法を挙げるなら、むしろ「入れ替わった女子」の方がヤリチンだし、「入れ替わった男子」の方が誰でも受け入れる、と言わなければ、男子に対して不公平であろう。
最初に言った通り、第一回の授業では、男子の反応は主に二分される。「誰とでもいい」を選ぶ男子と、具体的な女子の名前を挙げて希望する男子である。第二回目以降、すなわち「誰かが誰かと入れ替わって、セックスを体験した後」になると、「少なくともこの相手とは希望しない」という、いわゆるNGリストに名前が並び始める。
日頃から下ネタを連発して敬遠されていたり、とにかくセックスをしたいだけの男子はまず間違いなくNGリストに入る。どうかしたら、第一回目の時点でNGリスト入りをしている場合もある。
第二回目では、異性への審美眼はさらに厳しくなる。
いわゆる「顔がいいだけ」など、「一見魅力的に見える男子」はふるいにかけられ、それこそ、「もしそのセックスを経験していなかったら絶対に指名されないであろう男子」などの方が、優しいとか、セックスが上手いとか、または、紳士的に振舞ってくれるとかで、人気になっていく。
もちろん、第一回目の授業で「オクラホマ・ミキサー」のようにパートナーを入れ替えながらセックスしているわけではないから、「前評判」とでも言うべき、「この男子のここが良かった」という「カラダの相性の良さ」や「自分のために精一杯してくれた」という個人の体験がある程度同性の間で共有されているものだということは自明である。
逆に男子側も男子側で、なぜその子をNGリストに載せたかという理由を、女子ほどオープンではないが問われればある程度は答えてもらえる。
主な理由は、「自己中」とか「わがまま」、「自分が下手なことを上げて逆ギレしてきた」「ことあるごとに、『自分が本来の性別であった方がもっとうまくやれた』と言ってくる」とか、男女で共通しているのは、「性格の悪さ」や、極端な例であれば「性病を移されそう」などが主な理由として上げられたりする。
意外に思われるかもしれないが、「ちょいワル」や「不良」は、少なくとも入れ替わりセックスにおいては選ばれることは少ない。「乱暴にされそう」とか「自分の体を大事に扱ってもらえるとは思えない」などが理由として挙がる。
ゆえに、不良――ここでは文字通り、「素行不良」な男女は、お互いにその傾向がある相手をNGにしないために、ペアになりやすいと言える。
大空雄太と香川ミキコは、典型的な不良である。雄太は小学校時代に染めた金髪を未だに直すことができずに、いわゆるプリン頭のままである。ミキコは、親が美容師という理由で、何度も指導されているが、一向に髪にかかったパーマを直す気配がない。一方で生徒指導も、「髪の色で不良とわかるくらい『まんま』なのは今時珍しい」と皮肉交じりに言っている。
「へへ、雄太のカラダ」
ミキコは、自分の筋肉質の胸板を撫でて、よだれを垂らさんばかりに笑っていた。足はだらしなく開かれて、男性器からは既に先走り汁が垂れている。雄太も似たり寄ったりの下卑た笑みを浮かべて、自分の乳房を揉みしだきながら、なんとかその乳首を吸えないものか、胸をぎゅっと掴んで自分の口元に持っていこうと足掻いていた。
「うーわ、マンコくっさ」
雄太が笑いながら言った。自分の胸を自分で吸う、というのを諦めた彼が次にやったのは、自分の秘所に指を突っ込み、その指を掬って鼻に近づけるということだった。くっさ、くっさ、と囃し立てながら、笑い転げる。
ミキコの股間は縮れた陰毛が、へばりつくように割れ目を覆っている。その毛量や濃さに少しコンプレックスを感じていたらしいミキコが、顔を歪める。
「やめろって。ふざけんな」
「でも、チーズみたいな臭いがすんだよ、お前のマンコ。くっせ」
「は?」
ミキコが少し腰を浮かせた。ペニスが引っ張られるようになって、ぶらぶらと揺れる。
「なにこれ。タマタマが引っ張られる感じで、気持ち悪いんだけど」
「せっかくの入れ替わりだから、楽しめって」
「ま、ね」
「それにしても、マンコ」
雄太がまた笑いだす。ツボに入ったというか、それしか話題が見つからないかのようだが、それが相手の容姿を貶していることに、雄太は気づいていない。なんにせよ、ミキコからすれば笑い事ではない。すっと顔から笑みが消えて、言う。
「犯すぞ」
「できるもんならやってみ――」
言いかけた雄太は、そのまま口に肉棒を突っ込まれた。んぐっ、とえずく彼のパーマのかかった茶色の髪を掴んで、ミキコががしがしと、女の顔を道具のように使いながら叫ぶ。
「噛んだら殺す。絶対、殺す」
「んぐあっ、おっ、うぇっ」
喉深くまで突き立てられた肉の槍が、そのまま気道を犯しかける。ゲホゲホ、と咳き込もうとしても、口を無理やり開かされてむせることさえ許されない。頭は完全にがっちり押さえ込まれて、これまた自分のコンプレックスでもある、陰毛まで口に入ってくる始末である。歯が当たってぶちっとちぎれた陰毛が、舌の上で不快なダンスを踊る。
「うーわ、ぬるぬるした感じが、チンコのめくれたところ全部包んでる感じ……のどちんこに当たってんのかな」
喉の粘膜がぬるぬると温かくまとわりついてくるのに対して、口の中まで戻すと、途端に感触が硬くなる。このブツブツとした一つ一つがいわゆる細胞膜とか細胞壁とかそんな感じなんかな、と思っていると全身がキショく思える。
と、太腿の付け根のあたりにぶつかるようにして、雄太が突き飛ばしてきた。たたらを踏んだミキコのペニスがすっぽ抜ける。雄太が、猛烈に咳き込んだ。おえっ、と言いながら洗濯済みのシーツにぼたぼたと唾液をこぼす。
それを、男らしく強引に腕で拭った雄太の目は、少し据わっている。
「ふざけんなよ、おい」
声は低い。ミキコが出したこともないような声色で、本人のそれとも思えない。
「ふざけてんのは、アンタでしょ」
「マンコ、ちょっと弄っただけじゃねえか」
「じゃ、あたしはちょっとフェラさせただけ」
どちらも、目つきがおかしい。不良に限って、というわけではないが、素行不良は何かしら、機能不全の兆候であるとするなら、この二人は、「キレたら自分を止められなくなる」典型的な生徒だと言えた。そして、二人は互いが鏡のように相手に立ちふさがっている。
平気で、相手のコンプレックスを貶す。それが、相手の傷つくことだとわかっていない。わかっていないが、自分が同じことをされたら、歯止めが利かなくなる。
二人の暴走を止めたのは、隣の仕切りから聞こえてくる、んんんっ、という押し殺した声だった。冷房が稼働しているのに、ぬるま湯のようになっている体育館の空気だった。あちこちから聞こえてくる、女子の、途切れ途切れの呻き声と、男子たちの、すごい、やめらんない、止められない、ねえ、中に出していい、という、悲鳴のような切実な叫びだった。
んちゅ、んちゅ、と生々しい、水音が聞こえてくる。男のくせに、なんで、こんなに優しく包んでくれるん、という、媚びた男子の声が聞こえる。ねえ、私のこと好きって言って、という切羽詰まった男子の脅すような声に、大好きだよ、と優しく告げる、女子の声。
あたし、あんたと以外、したくない、という誰かの叫びが聞こえる。誰にも渡したくない、と吼える声。誰とでもやるんでしょ、とからかう、女子の声。
仕切りで、影や気配しかわからない状況で、音だけが生々しく響く。水音。粘ついた混じり合う音。股間を擦り合わせてくちゅくちゅ言わせて、男女が一つになっている。男子の声は、いつも聞いている声よりも、若干高い。おかまのような声、と言えばいいだろうか。一方で女子は、芯がちょっと凍った感じの、いつもより少し低い声。
「なんで、お前なんかが相手なんだよ」
周囲の、恋人でもないのに、甘ったるい感じの――少なくとも、心通い合わせた男女の混ざり合う吐息や鼓動、セックス、ピロートークといった、ありとあらゆる音が聞こえてきて、雄太は吐き捨てるように言う。パーマのかかった髪に指を巻き付けながら、今にも唾を吐かんばかりに相手を睨む。
「あたしだって、あんたで満足できてると思ってんの」
ミキコが言い返す。二人だけの空気は白けている。相手に全く満足できない。満足できないのに、体は勝手に反応している。
同じようなプレイに励んでいるものも、いるにはいるのかもしれない。でも、ミキコのようにいきなりディープ・スロートをさせるような真似はしないし、そもそも、入れ替わった相手の体を貶したり、笑ったりはしない。男子の多くは、性欲が衝動的なのを知っているから、多少の「おいた」は許してくれる。女子には、その許しが何よりも響く。
その文脈に従えば、雄太はまったくの異端である。
雄太は、腰をぐっと押して、無言で秘所を突き出した。ミキコもまた、ペニスを突き付ける。
「やれよ」
「言われなくたって、やるわよっ」
ミキコが突進する。はち切れんばかりの肉棒を、蜜壺に突き立てる。いぎっ、と雄太がシーツを逆手に握った。膣が十分にほぐれていない中に、荒々しいストロークが繰り返される。こわばったままの腹の中の肉が、ぎゅぎゅっ、と追い出そうとするように、一気に締まる。
「おふっ」
ミキコが呻いた。びゅっ、と小学生の水鉄砲のような射精が胎に出された。そして、それきりだった。
「出したのか?」
雄太は焦るわけでもなく、訝し気に尋ねた。自分の秘所は痛めつけられたけれど、それらしい何かはまったく感じられなかった。中に出すのも、勝手である。どうせピルを後で飲むだろうし、何なら、孕むのはミキコの自由だ。
ただ、膣から引きずり出された自分のペニスが、予想以上に縮こまっていることが、苛立たしい。射精どころか、寒さに縮まった時くらいにしか見ないようなサイズのイチモツである。
「なによ、あんたのカラダ。ソーローもいいところじゃない」
「違うし。……お前のやり方がなってねえんだよ」
「二回使って、二回ともこれ。アンタの体の欠陥でしょ。どう考えても」
そこまで言われれば、雄太だって、頭にくる。鼻の穴を大きく膨らませながら、憤慨して言う。
「だったらオマエのカラダ、なんだよ。全く気持ちよくもならないし、お前あれか。不感症だろ」
「はぁ?」
「不感症は大変らしいぞぉ?ぜんっぜん、気持ちよくなれないんだと。まぁ、体質だししゃあないとは思うけどさ」
「ざけんな」
雄太とミキコは見つめあった。お互い、鏡に向き合っているような気分だった。
「「死ね」」
鏡に言った。本来の自分の声より低かったし、高かった。鏡の自分は、自分が顔の、そんなところを動かしてもいないのに、勝手に動いた。そして、当たり前のように、自分の最も気にするところを、嘲笑ってきた。
雄太は裸のまま、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。ボタボタと、中出しされた精液が逆流するのも気にしない。太腿や脚、足の甲に垂れたそれを蹴飛ばしながら、股を開いたままぐびぐびと飲む。
ミキコもまた、萎びたペニスを触ろうともせずに、冷蔵庫から水を取り出し、一気に呷った。狭いベッドの上で、可能な限り距離をとって、座っていた。
周りのベッドが軋む音が、ずっと耳に入ってくる。思わず、枕元の時計を見る。時計の針は、ちょうど三十分を指している。
この授業が終わるまで、まだ、四十五分も残っているということだった。
でも、誰がこんな奴とセックスしたいだろうか。
隣のブースで、ベッドの上で抱き合っている男女がいた。カップルでもない二人は、これと言って目立つわけでもない、冴えない容姿の二人だった。その二人が、口づけをしたまま、互いの吐息を互いに送り込んで、相手の頬を膨らませていた。目尻は下がり、顔は楽しさと気持ちよさに、頬が緩んでいる。その状態で、じゃれ合って、上になったり下になったりして。互いに股間を擦り合わせていた。
その時。
「てめえ!」
女子の怒鳴り声がした。
「ふざけんな、この!」
男子が負けずと叫び返す。シャッ、とカーテンが動いたかと思ったら、留め具が次々に弾けていく。移動式のそれが、がしゃん、と倒れる音がした。
「おい、やめろ!」
すぐに教員が駆け寄って、制止する声が聞こえた。しかし興奮した二人は、相手が自分の体であることも忘れて、殴り合っていた。
「あの二人さ」
後になって、こんな話を聞いた。
「セックスしたくないし、散々自分を貶してきた相手に一矢報いようとしてさ。シックスナインの格好で、相手の顔面におしっこぶっかけたらしいわよ」
それ以来、ミキコと雄太は絶縁状態だった。ただ、毎度毎度、他に相手もいないから、組まされている。
二人にもプライドはあるから、他の生徒と同じように授業に参加する。
前戯もなしに突っ込んで、出す。残りの時間は、互いに顔も見たくもないのに同じベッドに座っている。
授業を続けると、雄太が暴れるので、一度、苦肉の策で入れ替わりなしでセックスさせた。
結局、いつも通りだった。前戯もなしに突っ込んで、出した。その日はミキコが暴れた。
鏡のような二人は、それでいて、相性は最悪であった。