異世界迷宮でTS転生した俺に男の娘奴隷ハーレムを!! 作:毛のないおじさん
《自殺の決意をする前に》
ウェブサイトのバナーにその文字を見つけ、俺は目を見開いた。
それはある小説で読んだ事のある言葉だ。
『異世界迷宮でハーレムを』
その作品で主人公が異世界に行くきっかけがそのバナーだったはずだ。
なぜそれが俺の目の前に現れた?
……これはひょっとしたら、小説の世界に行けるかもしれない。そうすれば、俺も美少女ハーレムを作れるかも。
男として生まれてン十年、モテたことはなかった。女の子と肌の触れ合いができたのは、そういうお店に行ったときのみ。
……だが、物語のなかでなら。
そんな期待からそのバナーをクリックすると、原作と同じように異世界の選択をする画面になった。
色々あるな……。でも原作の知識を活かすためには同じ世界がいい。
さすがに細かいところは覚えていなかったので、原作を本棚から持ってきて、サイトに表示された項目を読みながら選んでいく。
文化の数、国の数、戦争の頻度……。
原作で明記されていない項目を選ぶ時は緊張したが、まあ最悪少しなら違っても仕方ない。
そうして進めていくと、今度はボーナスポイントの設定画面になる。
来た。ここからが本番だ。
心臓が妙に早くなる。
なにせボーナスポイントは異世界生活の鍵と言っていい。ハーレムのために妥協は許されないのだ。
振り直しを選ぶ度にボーナスポイントが変化する。
15、18、21、17、26、33、25……。
低い数字が続く。
何回も、何回も、何回も……。
俺は取り憑かれたように振り直しをクリックし続け、99を狙っていく。
61、58、72、43……。そこそこ高い数字が出ることもあるが、99以外には興味はない。
何時間も、何時間も俺はクリックし続ける。
……出ない。
カチ、カチ、カチ、カチ……。
クリックする音が続く。
気がつけば部屋が暗くなってきた。日が沈んできたのだろう。
だが構わない。ハーレムを作れるというのだ。妥協はできない。まだまだ俺はやれる。
そう言い聞かせ、またクリックを続ける。
カチ、カチ、カチ、カチ……ピッ!
ん?
パソコンから電子音が鳴った。
それはクリックする音しか聞こえなかった部屋によく響いた。
マウスから一度手を離し、画面をよく見てみる。
《連続クリックキャンペーン!》
《思ったようにボーナスポイントが出ないあなたに!》
《今ならボーナスポイントを好きに選べます!》
俺はパチクリと目を瞬かせた。
そんなの原作にあったっけ? 原作通りに進めていたはずなのに……。
俺は混乱したが、ふと気付く。
いや、原作よりはるかに時間が経っている気がする。つまりはそれだけ何回もクリックしたわけで……。
これはひょっとして、救済措置ってやつだろうか?
画面にはまだ文字が並んでいる。
《ただし!》
《異世界に旅立つ時、あなたに変化があるかも知れません》
《それでも良ければこちらを選んで下さい》
むう……。
俺は悩んだ。どんな変化があるのか書いていない。
ひょっとして種族がランダムとかだろうか。あるいは容姿を変えられちゃったり?
うーん……。
だがボーナスポイントを振り直すのに疲れてきたのも確かだ。
……ボーナスポイントがあれば、なんとでもなるか。
いい加減、何時間もの振り直しに疲れた俺は、そちらを選ぶ事にしたのだった。
ちょいちょいちょい、とボーナスポイントを割り振っていく。
最初に村襲撃イベントが起こると予想して、ボーナス武器6を始め、即戦力となるボーナス防具を選んでいく。経験値系は魔物と戦い始めてからでいい。
後はセカンドジョブと、鑑定と、キャラクター再設定。
何よりキャラクター再設定があれば、後でいくらでも変えられるからな。何も恐れる必要がない。
《警告!》
《あなたはこの世界を捨て異世界で生きることを選択しました》
《二度とこの世界に帰ってくることはできません》
《続けますか?》
《はい いいえ》
そして全て選び終わると、警告文が表示された。
連続クリックキャンペーンを除けば、ここまで全て原作通りと言えるだろう。
俺は《はい》を選ぶ。
《最終警告!》
《本当に二度と帰ってくることはできません》
《それでも続けますか?》
《はい いいえ》
もしこれがジョークサイトなら、ここではいを選んだところで何も起こらない。
だが本物だったら……俺は本当にこの世界から消え、異世界で生きていく事になるのだろう。
俺は大きく息を吸って、自分に問いかけた。
本当に行くのか? 安全な日本を捨てて、異世界へ?
……行く。
これは、チャンスなんだ。
ひょっとしたら、死ぬかもしれない。でも、異世界に行けば、ボーナスポイントというチートを得られる。
「俺だって、異世界迷宮でハーレムを作りたい!」
カチ。
クリックとともに、俺の意識は遠のいていった。
気が付けば、俺は藁の上で眠っていた。
辺りを見回せば、漫画でしか見たことのないような、馬小屋の中に俺はいた。
「っっっしゃあ!!!」
異世界だ!
間違いない、俺も異世界に来ることができたんだ!
俺は喜びの声を上げ、拳を突き出し……。
……?
そして、自分の腕が妙に細いことに気がついた。
いやそれだけじゃない、さっき出した声は妙に高い声じゃなかったか?
俺は自分の体を確かめる。
最上 優 女 17歳
村人Lv1
鑑定が発動し、情報が表示された。
……女? 17歳?
何かの間違いかと目をこすり、だが何度見ても、鑑定には女、17歳と書いてある。
視線をそらし、辺りを鑑定してみる。
《馬》《藁》《窓》《柱》《デュランダル》……。
もう一度、自分を鑑定する。
最上 優 女 17歳
村人Lv1
変わらない。
男 ン十歳だったはずの俺は、何故か女と表示されている。
恐る恐る、自分の体を確かめてみた。
髪が長くなっている。
筋肉が柔らかくなっている。
デカいおっぱいがついている。
腰が細い。
ケツがデカい。
なにより、ちんちんがなくなっている。
間違いない。
「TSしてるーー!!」
声も可愛らしくなっていた。
はー。
俺はデカいため息をつきながら、辺りに落ちているボーナス装備たちを身に着けていった。
ハーレムが作れると思ったのになー……。
原因はアレだろう。連続クリックキャンペーン。
ボーナスポイントを99にするかわりに、性別や容姿が変化してしまったということなんだろう。
若くてスタイルがいいのは良い変化だが……ちんちんをなくしてしまったのはあまりにも辛い。
そもそも奴隷は金で買える。ならば、モテないオッサンだった俺でも美少女ハーレムを作ることはできたはずだった。なのに……。
「ちんちんなくしちゃ、異世界来た意味がないだろうよ……」
はあ。十何度目かのため息をつきながら、俺はようやく装備をつけ終わった。
「……ん?」
その時、外が騒がしくなってきたのに気がついた。
馬小屋を出て外を確認すると、盗賊が襲撃してきたようだ。
「あー……盗賊襲撃イベントか……」
テンションが下がりきった俺は、ぼんやり馬小屋の陰から眺めていた。
英雄のジョブを取るためには必須のイベントと言えるのだが……。
TSしたショックで、やる気が出ないのだ。
もう英雄なしで生きてもいいんじゃないかなあ。
「……逆に考えるんだ。そう、逆に。女になってしまった俺が、この上さらに英雄のジョブを取りこぼす。その意味を」
女になってしまったというマイナス。
そこにさらに英雄を失うというマイナス。
俺はもう元の世界には戻れず、この世界で生きていかねばならないのだ。
ならば、せめて英雄という力は持っていないといけないのでは?
「……行くか」
やる気は出ない。
だが、英雄のジョブは取りこぼせない。
俺はノロノロと盗賊達の元へ向かった。