「……はぁ。また民間人を盾にして逃げているのか、連合の連中は。発想が一年戦争(むかし)から変わってないな」
ゼネラル・レビルの艦橋。ユウゲツ・ヒカリは、モニターに映るアークエンジェルと、その後方を頼りなく飛ぶ避難シャトルを見て、心底退屈そうに鼻を鳴らした。
周囲では、80名の精鋭部下たちが忙しなくコンソールを叩いている。彼らはすでに、この宙域の重力変動とザフト軍の配置を完全に把握していた。
「所長、ザフトのクルーゼ隊が仕掛けてきます。どうします? 降下の邪魔ですが」
「邪魔なら排除するまでだ。……ただ、あのシャトルを落とされると寝覚めが悪い。20連勤明けの休日に、子供の泣き声を聞きたくないからね」
ユウゲツは立ち上がり、男装のジャケットを羽織った。
「メッサー1番、2番。露払いに出ろ。私はスタインで出る。……ああ、それとチーフ。艦の自動防衛システムを深度4まで上げろ。近づくブリキ缶は、警告なしで撃墜していい」
「了解、所長! 腕が鳴りますよ!」
2. イザークの激情、技術の壁
戦場では、イザーク・ジュールのデュエルが怒りに燃えていた。
ヘリオポリスで受けた屈辱。正体不明の「白い機体」に手も足も出なかったことが、エリートとしての彼のプライドをズタズタに引き裂いていたのだ。
「どこだ……どこにいる! あの時の小僧(ユウゲツ)めッ!」
イザークはアークエンジェルを追いつつ、周囲を血走った眼で索敵する。そこへ、再びあの不遜な声が通信回線をジャックした。
『――そんなにキョロキョロして、忘れ物か? 猛犬くん』
「貴様ぁっ!!」
デュエルのセンサーが、上空から高速で接近する熱源を捉える。
純白の原石――シナンジュ・スタインだ。
イザークは反射的にビームライフルを連射するが、シナンジュは最小限の推力偏向だけでそれらを「紙一重」ですべて回避した。
「当たれ……当たれぇぇッ!」
『無駄だと言っただろう。君のトリガーハッピーな射撃は、予測の範疇だ。……それより、そのシャトルを狙うのはやめなさい。美しくない』
「うるさい! 兵士を隠れ蓑にする卑怯者に、慈悲などあるか!」
イザークは強引にデュエルをシャトルの方へ向け、足の5連装ミサイルポッドを起動しようとした。
だが、その瞬間。
シナンジュ・スタインが、重力に引かれ始めた低軌道で「瞬間移動」したかのような加速を見せた。
「――お仕置きが必要だね、未熟者」
ユウゲツの冷徹な一言とともに、シナンジュの脚部がデュエルの右肩を、そのまま蹴り抜いた。
3. 圧倒的蹂躙
「がっ……あぁぁっ!?」
フェイズシフト装甲の上から、骨を伝うような衝撃がイザークを襲う。
シナンジュ・スタインはそのままデュエルの背後に回り込み、ビーム・トンファーを展開。
一閃。
デュエルのバックパックのスラスターノズルだけが、精密に切り裂かれた。
「な……!? 出力が、落ちる……!?」
『スラスターの噴射角制御ユニットを焼いた。これで君は、まっすぐ飛ぶことすらできない』
「ふざけるな! まだだ、まだ……!」
もがくデュエルに対し、ユウゲツは冷たく追撃する。
メッサー2機が左右から現れ、大型のロング・ビーム・ライフルをデュエルの足元に叩き込んだ。
爆圧で姿勢を崩したデュエルに対し、シナンジュはライフルの銃身を、まるで「杖」のようにデュエルのコックピットハッチの直上に突き立てた。
『大人しく帰れ。……それとも、今すぐこの世界の技術力の限界(スクラップ)になりたいか?』
「く……っ! おのれぇぇ……!」
モニター越しに、ユウゲツの冷酷な、しかしどこか見下すような瞳と視線が合った気がして、イザークは屈辱に奥歯を噛み締めた。
4. 変わらぬ結末、新たな因縁
アスランのイージスが援護に入り、強引にデュエルを回収して後退していく。
それを見送りながら、ユウゲツはフッと息を吐いた。
「所長、シャトルは無事です。アークエンジェル、大気圏突入を開始します」
部下の声に、ユウゲツはモニターの端で、安堵して震えるストライクの姿を捉えた。
キラ・ヤマト。彼がこの戦場で見せた必死さは、ユウゲツの乾いた技術者魂を、ほんの少しだけ刺激した。
「……ま、せいぜい頑張りなよ、コーディネイターの少年。君がその機体を使い潰す頃には、私たちがもっとマシなのを『売り込み』に行ってあげるからさ」
ユウゲツはシナンジュ・スタインを反転させ、ゼネラル・レビルへと戻る。
背後では、地球の重力に引かれたアークエンジェルが、真っ赤な摩擦熱の光に包まれて落ちていく。
「さて、次は砂漠か。……チーフ、Ξ(クスィー)のミノフスキー・フライトの最終チェックを。重力の底で、あの『虎』とやらを査定しに行くぞ」
「了解、所長! 20連勤明けのボーナス、たっぷり稼がせてもらいますよ!」
不敵に笑う部下たちの声。
ゼネラル・レビルは、燃え盛る大気圏を悠然と突き進み、新たな戦場へとその巨大な爪を伸ばしていった。