「……ふむ。四肢を切り落とさなきゃ動かせないなんて、あちらの世界の技術者は想像力が欠如していたのか、あるいはただのサディストだったんだろうね」
ゼネラル・レビルの第7ハンガー。ユウゲツ・ヒカリは、眼前にそびえ立つ深紅の高機動機――サイコ・ザクを見上げて、不敵に鼻を鳴らした。
巨大なプロペラント・タンクと、武装の詰まったコンテナが山のように積まれた異様なシルエット。かつてはパイロットの神経を機械に繋ぐために「四肢の切断」を強いた呪われた機体だが、今ユウゲツの目の前にあるのは、アナハイムが改良を重ねた「完成形」だ。
「所長、システムチェック完了しました。脳波トレース感度は良好。義足も義手も不要……所長のニュータイプ能力を、機体のOS側が『五感』として翻訳するように調整してあります」
80名の精鋭部下を率いるチーフメカニックが、誇らしげに胸を叩いた。
「ただし、脳への負荷は通常の3倍です。20連勤明けの体には毒ですよ」
「毒こそ薬だよ。……さあ、大気圏突入の火祭りに、華を添えてあげようじゃないか」
2. リンク・スタート
ユウゲツは五体満足のまま、最新のプラグスーツを纏ってコックピットに滑り込んだ。
ハッチが閉じ、全天周モニターが「真っ赤な世界」を映し出す。艦外はすでに大気圏突入の摩擦熱でプラズマの海と化していた。
「脳波接続(リンク)・スタート。……リユース・P・デバイス、エミュレート開始」
瞬間、ユウゲツの脳内に爆発的な情報の濁流が流れ込む。
手足の感覚が消え、代わりにザクの指先、スラスターの一基一基、さらには背負ったバズーカの弾頭の一つ一つが「自分の体」の一部として認識される。
「……あ、あはは! これだよ! 脊髄が痺れる。この情報量、このレスポンス! コーディネイターもナチュラルも関係ない、機体と私が『一人の人間』になった気分だ!」
彼女の瞳が、強化人間特有の怪しい輝きを放つ。義足など不要。彼女の卓越した意志(サイコミュ)が、直接駆動系を支配していた。
3. 大気圏の狩人
「ゼネラル・レビル、第7ハッチ開放! サイコ・ザク、出るぞ!」
燃え盛る大気圏の壁の中へ、深紅の影が飛び出した。
本来、MSが大気圏突入中に戦闘を行うなど自殺行為だ。だが、サイコ・ザクの圧倒的な推力と、ユウゲツの直感的な姿勢制御が、物理法則をねじ伏せる。
「……見つけた。野次馬は掃除しておかないとね」
ユウゲツの視界に、ザフトの降下カプセルを援護していたジンが数機、レーダーに映る。彼らは大気圏突入という極限状態で、自在に舞い、自分たちに向かってくる「真っ赤な炎の塊」を見て、それがMSであることさえ信じられなかった。
「な……なんだあれは!? 隕石じゃない……人型だ!」
「――遅いよ。君たちの反応速度じゃ、私の指先の動き(スラスター噴射)にすら追いつけない」
ユウゲツは念じるだけで、サブアームを自在に操り、背部のジャイアント・バズを二挺同時に構えた。
プラズマの炎を切り裂いて放たれた一撃は、重力と空気抵抗を完璧に読み切り、ジンの脚部スラスターを精密に粉砕する。それはユウゲツにとって、デバイスの同期精度を測るための単なる「キャリブレーション(微調整)」だった。
4. 砂漠へのランディング
「所長、もう限界です! 機体の冷却システムが黄色(イエロー)に! これ以上遊ぶと、地上に降りる前に焼き鳥になりますよ!」
「わかっているよ……。でも、最高の気分だ。この機体、正式採用(ラインナップ)に加えておきなさい」
ユウゲツは不敵に笑うと、ザクを強引に反転させ、ゼネラル・レビルの着艦デッキへと滑り込ませた。
機体全体から噴き出す冷却ガス。ハッチが開くと、ユウゲツは汗を拭いながら降り立ち、駆け寄る部下たちに言い放った。
「……さて。重力の底での仕事が始まる。部下たち、次はグスタフ・カールとベースジャバーを出す。砂漠の虎に、アナハイムの『面圧』ってやつを叩き込んでやるよ」
「了解、所長!!」
部下たちが一斉に動き出す。
義足も犠牲も必要ない。ただ圧倒的な技術と、それを使いこなす狂気があれば、この世界の戦場は彼女の「遊び場」でしかなかった。