天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
「いい加減に、しろぉっ!」
バァンと執務室のドアを開け放つなりコツコツとこちらに歩み寄ってくる少女に、僕は思わず瞠目する。
以前エレンの影武者であるカリーナに会ったことがあるが、彼女はあくまでも外見が似ているだけだった。
しかし、目の前の少女は、エレンに似ているのはもちろんのこと、その雰囲気もどことなく似ている。しかしおかしなことに、肌が黒い、というわけでもないのに、体には変な陰りが見えていて、今にも影の中に溶け込んでしまいそうな雰囲気を醸し出している。
「エレン?」
「あー、その、えっとねぇ」
エレンに振ったが、なんだか歯切れが悪い。闖入者である彼女の方に視線を戻せば、僕の目の前まで迫っていた。
いやそもそも、彼女はこの離宮にどうやって入ってきたというのだろう。僕とエレンは性に目覚めたばかりの爛れた大学生のように、ここにこもってセックス三昧だけれど、当然ながら身分は普通の大学生とは異なる。ボディチェックはもちろんのこと、幾重にも待ち受けている防犯対策を突破しなければ、ここまで入ってこられないはずだ。
それこそ友人だから、という理由でノンストップで入ってこられるような場所ではないのだ。
「アンタたちが脳みそピンク色だから……いやっ、アンタが色々とおかしなことしてくれているせいで!あたしもうめちゃくちゃなんだからね!」
責任を取りなさいよ!と主張する、エレンそっくりな少女。外見はエレンに似ていても、完全に同じというわけではもちろんないらしい。しかも言ってる内容は、昔エレンが冗談のタネにしたやつだ。
エレンにそっくりで、しかも奇妙に体に影が差している少女。しかもよくよく見たら、彼女自身の、影がない。
「……エレン?」
「えっと、これは、その……そう!双子のカレン!」
「彼女は殿下の影とでも呼ぶべき存在です」
通報があったのか、執務室に音もなく入ってきたのはアンナだった。エレンが説明を拒んだときは、彼女が解説の役回りをする。なんだか最近、そんな風にしてエレンの周りは動いているような気がする。
「影といっても、影武者とか、そういう意味ではないんですよね?」
「ご明察です。あえて呼び名を付けるなら、シャドー・エルフとでも呼ぶべき種族でしょうか」
「あ、アンナ!私ちょっとアイスが食べたくなったから、今すぐお使いに……!」
「一般に」
何とかアンナの説明を止めようとする誰かさんが無駄なあがきをするのだが、アンナはそれを熟年の関係で完全に黙殺して、話を続ける。
「ーー抑圧されている個体が発現させてしまう、もう一人の自分、とでも呼ぶべき存在ですね」
「はい?」
「もっと言えば、欲求不満なエルフが生み出した、自分のドッペルゲンガー、とでも言いましょうか」
「ーーエレン?」
振り返る。
欲求不満らしいどこぞのお姫様は、声にならない悲鳴とともに悶絶していた。
「欲求不満と言っても、カラダ入れ替えて毎日子作りに励んでるアンタたちの性欲について、ってわけじゃないわよ」
ひらり、とスカートを少し翻しながら、シャドーエルフと呼ばれたエレンのそっくりさんが足を組む。エレンに似た顔の少女と顔を突き合わせるのは、これが二度目で二人目だった。
一人は文字通りの影武者で、もう一人は抑圧によって生み出されたもう一人の自分ーーすなわち、エレン自身とでも呼ぶべき存在。
なんというか、まさにファンタジーという感じの存在だ。
「そこのおバカさんは昔から鬱憤というか不満を溜め込むたちでね。そんな状態である日王族の宝物庫で、なんかの宝物に触って、あたしの存在を物理的に生み出しちゃったのよ」
「……えっ?エルフならみんな、もう一人の自分がいるとかじゃなくて?」
「そんなわけないでしょうが」
ふん、と呆れた様子でエレンの影が鼻を鳴らす。彼女は水のようにグビグビとコーヒーを飲み干していた。同じコーヒー党である僕としてはかなり親近感がある。
「アンナとかカリーナとかの話を聞けばわかるでしょうけど、王族の義務だとか、まだ見ぬ相手に体を委ねないといけないプレッシャーとか、ハーフエルフであることー、だとか、まあ色々と追い詰められた結果、あたしが生まれたってわけ」
「なんだか、今のエレンからは想像できないな」
「まあ、ある程度はあたしが引き受けたし、この子も成長するうちに折り合いをつけたんでしょうよ」
と言って、影の少女がぎろり、とエレンを睨む。エレンは顔に手を当てて、視線から逃れようとしていた。少女がため息をつく。
「でもねぇ、アンタたちのせいで、あたしは、あたしはっ……」
と、プルプルと手を震わせる影の少女。エレンの顔で語られる蓮っ葉な口ぶり。くわっ、と彼女が吠えた。
「あたしとこの子は魂的に繋がってるっていうのに、魂はありもしない男の快楽を送って寄越すわ、なんかピンク色の感情が垂れ流されてくるわ、かと思えばカラダ側は女子の快楽を送りつけてくるわで、もうあたしアンタたちにめちゃくちゃにされてんの!」
「いや、それは僕のせいではないかと……」
「だとしても毎日毎日ヤリ過ぎなのよ!猿か!アンタたちは盛りのついた猿か!」
ビシッと指を突きつけて、ぜえはあと肩で息をするエレンの影。エレンに面と向かって、エロいことを非難されるのは新鮮というか、本来は当然なはずなのに強烈な違和感がある。
「だってさ、エレン」
「なんでそこで、私に振るのかなっ?」
「いや……もう一人の君の意見だし。それに、肉欲に溺れてるのはどちらかといえば君の方かなって」
「あっ傷ついた!私すっごく傷ついた!マモルがそんな失礼な事言うなんて思わなかった!」
「だそうですが」
「当然顔で元男に振るんじゃないわよ!チンコでものを考えてる元女が!」
「も……元女」
自分自身に批判されて露骨にショックを受けているエレン。これが二人、純粋なエレンの顔同士ならさぞ面白い光景が見られたんだろうなぁと思う。しかしながら、今は僕の顔だ。言うまでもなく。
「で、でもでもっ、この前は元の体に戻ったよ!少しの間だったけど」
「カップラーメン作ってる間に元に戻るレベルだったでしょうが」
洗濯機に放り込まれたような感覚だったわよ、とため息をつくエレンの影。ことごとくもう一人の自分に看破されて論破されて、エレンが撃沈する。
ところでやはり、当事者の僕たちも目まぐるしいなあと思っていたけれど、感覚で繋がっているらしい彼女もそうだったのか。
「あー、えっと。君がエレン自身の意志でもあるんなら、パートナーの意見として尊重させていただくけれども」
「なーんか優柔不断ね、アンタ。優しさとそれを履き違えてるんじゃないの?」
「うぐっ」
鋭いご意見に、僕も胸を押さえる。押さえたあとで、自分の胸を揉むような形になったことに気づく。気まずさに、ゆっくりと手を離した。
「カリーナあたりが言ったでしょうし、あたしからいちいち補足したりしないけど、この子もこの子で結構繊細だから、体ごと預けられるアンタみたいな人のおかげで、少しは楽になったわけよ。だからまあ、ヘンタイじみたセックスをしない範囲で仲良くやってほしいわね。変にため込んだら、ボカンって爆発するわよ、この子」
「もうっ!もうっ!」
エレンが羞恥に涙目になる。エレン本人の顔ならそれも色っぽいのだろうが、これも残念ながら僕の顔である。中性的な顔立ちと言われた自分の体に感謝すべきだろうか。ちょっと変な色気が出ている程度で済んでいた。
と、こんな感じの珍妙な来客が来ていて、僕は新鮮な気分に浸れたのだが。
「今からマモルをお仕置きします」
その夜はもう一人のエレンの意志はどこへやら、エレンはこちらの手をタオルで縛ってから、こう宣言した。
「だいたい心当たりは分かるからいいんだけど、僕は何をされるか聞いたほうがいいのかな」
「お仕置きです」
「とかいいながら、単にエレンがしたいだけじゃないのかな」
「ぎくっ」
「で、ん、か?」
「もうっ、うるさいうるさいうるさあいっ私ばっかり恥ずかしい目に遭うのはおかしいでしょっ」
僕は四つん這いにさせられて、ズボンとショーツをずり下ろされている。食い込むショーツとパジャマのズボンが、拘束具の役割を果たしている。そのむき出しの尻に、エレンの腕が振り下ろされる。
すぱんっ、と自分でも小気味がいいと思う音がした。
でも実際、やられるとかなり痛い。
「痛ったぁ!」
「悪いのはマモルだもん!私悪くないもん!」
すぱん、すぱんっ、と平手が尻に叩きつけられる。ぷるっと揺れている尻が自分でもイメージできた。
こんなことをしていると、あの人間と結婚した姫君は夜な夜なヘンタイプレイに勤しんでいるのでは、と噂されてしまいそうだ。おおよそ間違っていないのが困る。
「マモルのばかっ、おばかっ」
「いてっ、痛いってばっ」
「マモルは私の言うことだけ聞いて、私だけ甘やかしていればいいの!そうしないから、これはお仕置きで、罰なのっ」
「んんんっ?」
息も絶え絶えになりながら、僕は振り返る。なぜか尻をぶっ叩いてる方が息を切らせていたが、それはともかく。
「……エレン。もしかして、もう一人の自分に嫉妬してた?」
「し、してないしっ」
エレンはわかりやすいくらい動揺して、視線をそらす。
「ちょっとイラァっとして二人まとめておちんちんでお仕置きしようかなって思ったぐらいだし!」
「……さすがにそれは、変態が過ぎるよ……」
「うるさあいっ」
すぱん、すぱん、すぱんっ。と。
理不尽だけれども、まあ僕ららしい日常だ。
ヘンタイという中傷からは、逃れられそうもない。