天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
警備というのは色々と難しい。僕の出自は元華族でも何でもない、ただの平民なのだが、とあるハーフエルフの姫に見初められ(見る、という感じが適切かどうかも甚だ疑問だ)、ロイヤルファミリーの一員となってしまった。
一般人でさえ王家に婿入りすれば王族ということで、本人がどんなに大した価値を持たなくとも、暗殺できてしまえば暗殺者の名声は高まってしまうという。
名声や政治的価値というのは庶民にはよく分からないのだが、僕の場合、さらにややこしいことに、借り物でも使わせてもらっている体が由緒正しきエルフのお姫様の肉体というわけで、これが棄損されようものなら一大事である。
そんなわけで、ただの里帰りもいちいちある程度の警備を敷いてお忍びだろうとかなりの難度を極めるのだが、そこはファンタジーの世界、一人や二人こっそり別の場所に移動させる転移魔法なんてものがないはずもなく、僕らはちょくちょく、ほとんどの人間に知られることなく、ドア・トゥ・ドアの感覚で本来の僕の家に帰ることができていた。さすがに長期の滞在は難しいので、精々が夕飯を共にする程度だったりする。
他にもエレンが手を回した結果、そこにいる人間を移動させることは無理でも、そこに「あった」ものを持ってくることは可能で、エレンの寝室の横に、一切合切を複製して再現した僕の部屋があったりする。
執務室はもちろんのこと、最低限のものと機能美優先の調度品に彩られた離宮とは異なり、僕の部屋は、逃げ出すようにして休学した高校の、あるいはどうかしたら中学校時代のプリントや、古本屋で買って雪崩れた未読の本、または教科書、パソコンの部品、自分でも文字にしたくないのだが脱いだまま洗濯を忘れた服だったりがそのままの状態になっていた。
当然ながらメイドは眦を吊り上げて、この美術的価値がないどころか衛生面、肉体的にも精神的にもよろしくない雑然とした部屋を複製したことを非難し、少なくとも、ただちに「最低限度の文化的な生活」環境にするべくそうじを申し出たのだが、我らが殿下はこれを却下した。
理由はズバリ、
「私の部屋と違って生活感があるもん!空気の缶詰みたいでいいじゃない!」と。
そんなわけで、エレンが首を縦に振らない限り、僕の部屋は栄光あるエルフの王室にタイムカプセルとして保管されてしまうという事態に陥っているのだった。
そんな殿下は、たまにコスプレし、僕にコスプレさせ、それから僕を抱くのが一種のルーチンワークになっていた。
例えば僕の中学時代の制服を含めた学ランとブレザーを着てみたり、逆に僕にそれらを着せて、『エレン』を男装させてみたり。いつの間にか買い足したレディースの、グレイ一色のスウェットを僕に着せて、脱がして、それから抱くという手間を惜しまなかったりする。
「それ!このゴミゴミとした部屋の中で、無造作にボリボリ脇腹を掻いて、欠伸するのすっごく似合ってる!生活感ある!」
「バカにしてる?バカにしてますか殿下?」
「大真面目だもんっ」
むー、と頬を膨らませた彼女はそのまま僕を再現した僕のベッドに押し倒して、スウェットのズボンとショーツを脱がし、一方で胸のあたりまで肌着を押し上げて半裸にし、腰を振り始める。僕の足は無理矢理に開かれ、叩きつけられる腰が一緒に風を送り込んできて秘所をすうすうと撫でる。僕の足を抱え込んでいる張本人はふっふっ、と小刻みに息を吐き出しながら、飽きもせず肉体に肉体を叩きつけていた。
なんというか、普通思春期の男子でもこれだけ毎日ヤリまくっていたら飽きるものだと思うのだが、エレンはそのあたり、本当に無縁だった。どうかしたらベッドの中で僕に腕枕を提供しながら、元自分の髪に顔を埋めただけで、すぐにこちらの尻を撫で回したかと思えば、そのままこちらの股間にペニスを押し付けてぬるぬると素股を始めるという有様で、潔癖症だとか、肉欲がまるでない、というエルフとはまったく話が違った。
一時期はそれも義務感、世継ぎをというプレッシャーによるものではないかと疑っていたものだが、それにしてはあまりにもこの性生活を満喫しすぎていた。鼻歌を歌いながらこちらに抱きついてきて、時にはこっちが抱きついてくることも要求して、こちらを押し倒してくると思えば、押し倒されることも楽しんでいる。頬は紅潮し、目はきらきらと輝き、何度大好きっ、と言っても言い足りないとばかりに公言し、僕はその言葉の裏を探るのも馬鹿馬鹿しくなって、時に流されるように押し倒され、時に本来の性を取り戻すように押し倒し、彼女の思いと行為を受け止め、張り合うように貪り合うという、カップルじゃなければ淫乱だと言われても反論できないレベルで互いの体をまさぐり合っていた。
たぶん僕はエレンより艶のある声で喘げたし、エレンはエレンで僕よりも上手く、惰性でなくちゃんと勃起した状態で精を放つことができた。アンナは僕らを倒錯カップルと言って憚らなかった。
そんな倒錯カップルの元に、一通の手紙が届いたのは秋が深まりつつある頃だった。風が起こると熟れた色の紅葉や鮮やかな色のイチョウの葉が、さんさんと風に舞って、僕らの肩や服にそっと寄り添う、どこか懐かしい光景。たぶん十数年前の気候を、ちゃんと再現している異世界は、涙が出るほどに僕に離愁の思いを抱かせた。
「魔術省が開発した魔法を使えば、殿下とマモル様が、学園生活を過ごすことができるのではないか、というお話です」
手紙に目を通したアンナがいう。
「すでに該当の学園にはカリーナとマモル様の影武者が先行して転校しており、注目を集めております。そこに、魔術省の技術を組み合わせることで、一般生徒に擬態して学園生活を送り、あわよくば卒業することも可能なのではないか、と」
「いいね!」
目をキラキラと輝かせるのはエレンである。まったく、お近づきになる前はそんな姿を見せてくれなかったのに、僕の顔ではそういう表情をするのだから、僕はなんとなく損をしたような気分になる。
「って、ちょっと待ってください。僕の影武者?僕のそっくりさんも見つけることができたんですか?」
「いえ、こちらはあくまでも魔法による認識の改変でしょう」
アンナは真面目な顔で解説する。
「カリーナと、マモル様に似ている男子、という認識の生徒を送り込み、耳目を集め、一方で本物の殿下とマモル様は、目立たなくなるほうに特化した認識阻害の魔法を用いて一般生徒に紛れ込む、というかたちになると思われます」
「そして、真相を知っているものはごく一部、と?」
その通り、とアンナは頷く。
「一般的な高校のセキュリティの下で通うのは大丈夫なんですか?」
「その点につきましては、いざとなったら魔法で何とかします」
「つくづく便利ですね」
一方のエレンは完全に舞い上がっていて、マモルとまた学校に通える!と、僕と共に過ごしたという学園生活を、記憶のどこかから引っ張り出してうっとりとしている。
「僕、エレンと同じクラスメイトだったけど、お互い相手のことを空気程度にしか考えてなかったと思うんですよね」
「いいの!今はもうマモルなしの生活は考えられないんだから!」
「僕は必須家電か何かかな」
「そんなことばっかり言うなら、今日のエッチはお預けにするからね!」
「……ほう?」
僕は少し暑くなってきたので、コスプレ同然に着せられていた制服のスカートをたくし上げ、ショーツを片足に引っ掛けるようにして脱いで、ああ暑い、と胸元をパタパタさせながら行儀悪くガバっと足を開いた。
「もーっ!マモルのバカぁ!」
言うなりエレンが飛びかかってきて、股間を叩きつけてきたのは言うまでもない。
「エロい女の子にはお仕置きしないとね!お仕置き!そう、マモルが悪いんだから!」
僕とアンナは揃ってため息をつくのだった。