天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
「ふーっ、今日も疲れたなぁ」
うーん、と伸びをしながらエレンが言う。彼女は重い学ランを不格好にハンガーに引っ掛けて、ぽんぽんと服を脱ぎ散らかしていく。靴下を脱ぎ、Tシャツを脱ぎ、一旦アンダーシャツとボクサーブリーフ姿になってから、思い出したようにスウェットに着替える。それから僕の方を振り向いて、
「じゃ、やろっか!」
と上機嫌に告げた。思わず顔をしかめる僕を、誰が責められるだろう。
「ちょっと、帰ってきたばかりだよ。それに、まだシャワーも浴びてないし……」
「いいじゃん。それに、シャワーなんて浴びないほうが興奮するし」
「やめてよ」
首筋に舌を這わせるエレンを、ぐいっと押し返す。瞬間、まるでスイッチが切り替わったみたいに、エレンの表情が変わった。
「なに?そんなに私と愛しあうのが嫌なの?」
「嫌ってわけじゃないけど、ちょっと休ませてよ。大体、エレンは学校の中でも……」
「ふうん。私に逆らうんだ」
エレンの声色に霜が降りる。じっと、僕とエレンは見つめあう。
「おまんこ」
「え?」
「聞こえなかったの?おまんこって言ったの。君はそうやって男を喜ばせるくらいしかできないんだからさぁ、ちゃんと融通利かせてよね」
なんでそうやって、いちいち醒めるようなことするかなぁ、とエレンは不機嫌そうに腕を組む。僕は思わずぐっと唇を噛みしめる。俯きがちな僕の顔を、エレンがわざわざ上半身を傾けてまで下から見上げる。
「あはっ。怒った?怒ったの?でもほんとのことでしょ?君ってさ、男のくせに毎日毎日私にチンチンぶち込まれて、アン、アンって喘いでるんだよ。赤ちゃんみたいにこう、腕を上げて、バンザーイって感じで。そんなみっともないカッコを私に見せといて、よく文句言えるよね」
「エレン……」
「君は童貞のまま、私に処女を捧げたの。そして今じゃ、チンチンを入れられて喜んでるんだよ。そして毎回毎回、ぶしゃあっておもらししてるんだよ。私のベッドに。そんな君が、私に説教するの?」
「……説教なんか、してないよ」
「そ。よかったぁ。じゃ許してあげるから、ほら、脱いで早く」
エレンは腕を組んだまま、指をトントン、と叩いている。無意識なのか、足で軽く床も蹴っていた。僕は少しだけエレンを睨みながら、セーラー服をゆっくりと脱いだ。ブラジャーを外し、スカートのホックを外した辺りで、エレンがむしゃぶりついてくる。
視界に入ってくる、エレンの体。僕のものになった、という言い方はあまりしたくない。時々は元に戻ったりもするけれど、基本的には僕が使っている彼女の元の体は、信じられないくらい華奢で、それでいて白い。髪の色は金色で、日に透かすと、体全体の産毛がうっすらと透けて見える。エルフの特徴である長い耳は、ハーフというのもあって純血のエルフと比較すると少し短い。着やせするせいもあって、いざブラジャーから解き放たれると、胸がすっと下りてくる感じがある。
結婚している、というのもある。だけども彼女が無造作に僕の体を弄ぶ最大の理由は、やはり元の自分の体、というのがあるのだろう。
二人の体が入れ替わり、僕は彼女の体を、エレンは僕の体を使っている。男女のどちらが偉いかなんて論外な話をするわけではないけれど、エレンのワガママに正当なものを――あるいは、そもそもエレン本人に引け目を――感じてしまうのは、やはり、彼女の大切なものを奪ってしまったとか、彼女の人生そのものを捻じ曲げてしまった、という負い目があるからだ。
二つの乳房を散々にこね回したエレンは、その谷間に顔を埋める。熱い吐息が結露して、汗のように肌にへばりついてくる。
「ううん、やっぱり、サイコー……」
そう言って、エレンが僕を見下ろす。さっき彼女が言ったように、肘のあたりで直角に曲がった腕は、赤ん坊のバンザイのような無防備な姿勢だ。ご丁寧に手首をぐっと掴んでいるから抵抗もできない。
「はむっ」
「んっ、んんんっ」
ちゅ、と啄むような口づけの後に、ゆっくりと舌が滑り込んでくる。のしかかってきた彼女の体重に任せたプレスのような圧が、僕の、重力に反発しなければならない舌の動きを完全に抑え込んでしまっている。つつつっ、とエレンの、男のごつごつとした指が脇腹をなぞり、腰のくびれに到達する。女子なのに、いや、女子だからこそ筋トレで維持しなければならないと常々聞かされてきたプロポーション。
「やめてよ」
「え?いいじゃない。ちょっとぷにっとしてて、面白い」
「やめてったら」
エレンがしつこく脇腹を摘まんでくる。触れる感覚が面白いのかもしれないけれど、僕にとってはあまり愉快ではない。くすぐったいというのもあるけれど、何というか、太っていると無言で責められているようで。
「なに?私の体なんだから、いいでしょ」
「今は、僕の体だよ」
「そうだね。君が私から奪ったんだよね。オトコの体を押し付けて」
「……女の子なら、わかるでしょ。そういう風に触られるのは、その」
「え?なあに?私にはわかんないなあ」
わざとらしい笑み。嘲笑というのがまさにふさわしい毒々しさに、僕は閉口する。でもエレンはようやく静かになったと言わんばかりに、嬉々として体の隅々を触ってから、ルーチンワークのように、ぐっとこちらの太腿を掴んだ。
「ひゃっ」
「なに、その生娘みたいな声。ばかじゃないの」
皮膚が引っ張られて、秘所が少しこじ開けられたような感覚がぴりっと肌の上を走る。熱くなっていた体の中心が、ひやりとした風に晒される。毒々しいまでに赤いペニスが、首をもたげてこちらを狙っていた。
「ほら、入れるよ」
返事をするより早く、エレンはもう、ペニスを押し込んでいる。そんなムードじゃなくても、気分じゃなくても、それなりの愛撫があれば体はすっかり濡れるようになっている。それだけ僕とエレンが体を重ねてきた証と言えるのかもしれない。
でも、今はなんだかそれが、複雑で。
体は体重をかけて押さえつけられて、でもエレンが腰を打ち付けてくるたびに衝撃を殺すことも逃がすこともできなくて、僕の体も一緒になって揺れる。一つになったとはよく言ったもので、エレンの動きが僕の動きになる。
男の体の外にあるペニスが、女の体の穴を塞ぐ。そうして男女が満たされるという古来の解釈は、本当にそうなのだろうか。確かに一つにはなっている。気持ちいいというのも、嘘じゃない。
でも、男が好きな時に、好きなように快楽を貪れるのに対して、女性のそれは、少し時間を要する。
「ふふっ。まったくなんだかんだ言いながら、体は正直だ――ねっ!」
「はうっ」
腰が跳ねる。突きこまれた衝撃に体を震わせる姿を、面白おかしく見下ろしている。自分がとんでもない美少女になった時、思えることが一つだけある。それは、果たして自分に対して好意を寄せてくれる男が、本当に自分に相応しいかという、警戒心にも似た一種身も蓋もない本能のようなものだった。
「うっ、出そう!出す、出すからねっ」
「えっ、ちょっと!」
ぐぐぐっ、とペニスが膨張するのがわかる。それに合わせて僕のお腹も、きゅっと収縮して、意に反するように動こうとしている。
「だ、だめっ、中はっ、中はやめてっ」
「そんなこと言っても!出すから!」
「やだ!やめてよっ!」
悲鳴のような声が出る。でも、エレンは一層指に力を込めた。細い手首に痕がつくくらいぎゅっと握りこまれる。くっ、と彼女の喉仏が上下した。
瞬間、びくっ、と彼女の体が上下に跳ねた。徐々に、彼女の体が脱力していく。体の中で熱い何かが弾けて、それに合わせてまたお腹が蠢いている。やがて彼女は満足げにため息をつきながら、ゆっくりと僕の上から退いた。
「な、中っ?中に出したの!?」
「うるさいなあ。ちょっと出しちゃっただけでしょ」
何がちょっとなものか。ベッドの縁に座ったエレンは、ティッシュをまとめて引き抜いて、ペニスを擦り付けていた。僕の股間からは、ぼとぼとっ、と白い精液が逆流していた。
「中に、中に出さないでって言ったのに……」
「うるさいなぁいちいちいちいち。私たち、世継ぎを作らなきゃいけないんだよ。中出しなんて当たり前でしょ」
「でもっ!この間言われたばっかりでしょ!?学生のうちは、学生の領分をって――」
「あのさぁ、ほんとにうるさい」
エレンはため息をついて、こちらを睨んだ。
「男のくせに、中出しじゃないのが気持ちよくないことくらいもわからないの?」
「な――」
「ああ、そっか。君はもう、オトコじゃないんだっけ。それに、ドーテーだったよね。ごめんね。そりゃ、中出しの気持ちよさも、わかるわけないよね?」
すっと目が細められる。半月のような形の瞳。上品に口元を覆う手が、却って苛立たしい。自分が腰を振っている姿がカッコいいとでも思っているのだろうか。いいや、断じて違う。情けない。間抜けに口を半開きにして、ヘコヘコと腰を振っている、欲望丸出しの姿がカッコいいはずもない。
僕は、こんな男と一生を添い遂げないといけないのか?それも、こんなことを延々と、死ぬまで――
その絶望が、僕から理性を奪っていた。確かにその一瞬僕は、我を忘れていた。
「きゃっ!?」
僕に押し倒されたエレンは、また少しペニスを漲らせながら、それでも女の子のような悲鳴を隠せなかった。僕は彼女の馬乗りになって叫んでいた。
「殺してやる!お前なんか、殺して――!」
息が詰まった。エレンが、軽く片方の眉を上げながら言った。
「なあに?私を、どうするって?」
僕がエレンの首に両手を掛けてやっとのところを、エレンは片腕で、しかも僕に押し倒された状態から喉笛を掴んでいた。
ぱくぱくと力なく口を開閉させる僕を、ぐるっと体勢を変えつつエレンが笑う。改めて馬乗りになったエレンと、押し倒された僕。首に添えられた手が、愛撫するように何度も肌を撫でる。
「あはは。タマがない男の子は大変だね。これが去勢されたって言うのかな?」
「エレンーー」
「この私に、よくもまああんなことを言えたね」
エレンの口が、ゆっくりと耳元に近づいてくる。
「マンコはマンコらしく、黙ってたら?」
「ゆ、許して――」
「うんうん、もちろん。だから、君が嫌がる中出しをまたするけど、いいよね?」
「やだっ。お願いエレン。許してっ。あ、謝る。謝るからあっ」
「だーめ。ぜったいにぜったいに――許すもんか」
そう言ってエレンはまた僕に、のしかかってきた。
「――で。これを見せつけられている私はどんな反応をすれば?」
「アンナさんからも何か言ってください……」
僕は少々、疲れ切っていた。
事の発端は、エレンが体験入部で見たという『演劇』に遡る。余計な知識を吹き込んだのは演劇部で、女の園と化していたその部活は、昼ドラに影響を受けて青春という爽やかな二字熟語からはおよそ縁遠い三角関係の人間ドラマをオリジナル脚本で演じていたわけである。
好奇心旺盛なエレンがそれに反応しないわけがなく、本物の昼ドラを散々鑑賞した後に。
「これをベッドの上で、私達でやりたい!」
と言い出したわけである。
普通、人はそれをプレイと呼ぶ。
「はぁ、話は理解しましたが」
と、さすがのアンナも呆れ顔である。
「それにしても、エレン様が無頼派というか、西村賢太氏もびっくりなDV男になっているのはどういうわけです?」
「演劇部の人がね!『こういうのはクズ男の方が映えますよ』って!」
「ペニスを振りながら近づかないでください汚らわしい」
「ちょ!アンナ!」
「アンナさんに同意見」
僕は逆流してくる精液をティッシュでふき取りながら同意した。
「というかアンナさん、よく無頼派とか知ってますね?」
「ブンガクがいつも訓話や寓話だらけなら窒息してしまいます」
アンナさんは真面目な顔で言う。
「ロックが体制に対する反抗であるという大前提を持ちながら、一方で旅館から鏡台を投げ落とすような単なる示威行為をまさにロックとせざるを得ない、まさしく弁証法的な矛盾に包まれている方が、いかにも不完全な人間らしさに包まれていると言っても過言ではないでしょう」
「つまり、好きなんですか」
「そうですね、エレン様みたいなクズ男でなければ」
「アンナーっ!?」
「間違えました。クズみたいなエレン様じゃなければ」
「アンナっ!」
とうとう涙目になるエレン。僕はやれやれ、とため息をつく。
「一度は同意したけど、さすがに僕の心も痛むからさ、ほどほどにしてくれないかな、エレン?」
「だよね……ごめんね、マモル」
ぎゅっと裸のまま、エレンが抱き着いてくる。そしてそのまま、さりげなくエルフの特徴がよく出た耳をしっかりと食みながら。
「じゃあ次は、『入れ替わったショックでパニックになって、男子側を糾弾しまくって最終的に無理矢理自分の体を貪ろうとする男女』っていう設定で――」
「懲りないね、キミ」
「だって、マモルが大好きだから!」
満面の笑みで言われてしまえば何も言えなくなる辺り、僕も毒されているのかなぁ、と思わないでもない。