天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
2つの国の外務省は、今回の僕らのケースを、婚約者として報告することにしたらしい。なんと、世論を揺るがすであろう、両者が入れ替わっているという事実も匂わせるという。
もしかしてエルフという種族は、予想以上にガンギマリなんじゃなかろうか。僕は一昔前、そんな話をツイッターで見たことがある。あの頃は妖精国やエルフの存在など、あくまでフィクションの産物に過ぎず、入れ替わりもまたそうだった。
天蓋付きのベッドの上でうっすらと目を開ける。目を覚ますと、エレンに抱かれている自分に気づく。シーツの隙間からは、寝落ちする前にどのように僕らが愛し合ったか、その証拠がたっぷり漂ってくる。劇臭だ。
エレンの腕に抱かれている。肌が少し触れているだけで、心臓がドキドキと高鳴るのが分かる。すこし体を転がして、完全に彼女の胸元に体を預けてみる。ううん、とうめき声をあげたエレンが、もう片方の手で僕の体を抱きしめる。とたんに、この体での心拍数が一気に上がった。
とくん、とくん、とくん……と、二人の鼓動が遅れて聞こえる。僕は少し息づかいをずらして、彼女の鼓動、そのリズムに合わせて、完全に彼女に身を委ねてみたくなる。
とてもえっちで、天真爛漫で、嫌いになれないひと。入れ替わっても、このひとが相手だからよかった、と思える人。
僕はすっかり体のこわばりをほぐすようにしながら、彼女の方に体を預け、再びまどろみの中に落ちていく。
まあ、目を覚ましたら既に彼女がペニスを突っ込んでパンパンやってたので、さすがにイラッとしたのは事実なのだが。
話によれば、エレンというのは偽名と言うよりは通称、というよりも愛称らしく、それは、一応王室の末席にいるという事実を隠すためのフェイクだったのだという。
「次の記者会見の発表次第では、お二人はあの学校に戻れなくなるかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「うーん、せっかく築き上げた人間関係や友達と離れちゃうのは寂しいけど……仕方ないかなぁ」
エレンは思いの外、ドライである。
「マモル様は?」
「僕も異存はありせんけど、どこかに転校できればと思ってます」
「というと?」
「このままエレンとの関係がどうなるにせよ、大学だけは出ておきたいと思っているんですよね」
「ふうーん?」
エレンから向けられる、じとーっとした目。
「なんだよ」
「べつにー。そこでキミが私の体で彼氏を作ろうが彼女を作ろうが私には関係ないことだし?」
「関係ないどころか大スキャンダルだと思うんだけど」
王室の人間が浮き名を流すのかさすがにまずかろう。しかし、ジトーっとした目を向けたまま、エレンは不貞腐れている。
秘書というか、マネージャー職も兼ねているアンナがため息をつく。
「いざとなれば、魔術省の方にコンタクトして、お二人の体をもとに戻せないかどうか検討することもできますが」
「えっ!?」
「戻せるんですか!?」
「少なくとも昔、精霊魔法での入れ替わり研究があったのなら、元に戻るための魔法も研究されていたと考えるべきでしょう。外務省はそのあたりを、可逆として報道するつもりらしいですが」
僕は純粋に驚いていたのだけれど、エレンの方はヤバい、と言わんばかりに焦っている。
「どうしよ……はやく、はやく孕ませないと……」
「いやなんで殿下は僕を孕ませたがってるんですか」
「だって!えっちした後のキミ、ものっすごくえろいもん!」
あの顔が見られなくなるなんて、とエレンは嘆く。
「国宝が失われちゃうレベルだよ」
「殿下、形あるものはいつか崩れ去りますよ」
「そもそも自分の体でしょうに」
「私が引き出せない私の魅力を、キミだけが引き出してるんだよ!」
エレンは豪語するが、僕はイマイチピンとこない。少なくとも分かるのは、この状況でもとに戻ったら、やたらセクハラ発言を繰り返すエルフの姫が一人出来上がることだけだ。それだけは確かなことだろう。
執務室で簡単なレクチャーを受けてから、僕はエレンにお姫様抱っこのまま、寝室へ連れてこられた。うつむきがちの彼女が、いつもより焦った様子で僕の服を脱がそうとする。
「マモルは誰にも渡さないもん」
と、彼女はいう。
「マモルのおかげで、少しだけ心労が楽になって、せっかく理想の一心同体の相手ができたのに。もとに戻ったら、マモルはいなくなっちゃう」
「そんなことないよ、エレン」
「やだ。信じない。信じたくない」
そう言ってエレンが僕の方に覆い被さってくる。不安を押し殺すための口づけに、2人の関係を決定的なものにするためのセックス。
もしかして、ここ数日で一気に事態が進行したのが彼女を焦られているのだろうか。
自分を慕ってくれていた、いとこが、僕のことを猿呼ばわりしてケンカになったこと。入れ替わりの状態を伝えたままの会見。そもそもその入れ替わりという縁を絶やすかのような、魔法省へ行われる問い合わせ。
確かにそれらは、僕とエレンを引き離そうとする動きに見えてもおかしくはない。
おかしくない。
「だから、私たちはえっちして、愛を育まなければならないのです!」
おかしく……ない?
「おかしくない?」
「おかしくない!」
断言されてしまった。巨乳というよりも美乳と呼ぶべき胸を指先ではなく掌の中でしっかりとこねながら、全身に振り回すように揉みしだく。
「お困りのようですね、マモルさま」
「どこから見てたんですか」
というか、この人も護衛だからという理由で神出鬼没すぎるというか、さすがに人様の寝室に入ってくるのはどうかと思う。
「もー、アンナ!私は今マモルとえっちしてるの!出てって!早く出てって!」
「そうはいきません」
「いやそうはいってほしいんですけど」
「魔法省が仮にお二人を戻せなかったときのことも考えておかねばならないのです」
「……というと?」
なんだか嫌な予感がする。
「マモル様が、どれくらいエレン様のように振舞えるか、それを侍従としては知っておきたいと」
「ベッドの中でならカンペキだよ!」
「エレン様」
「殿下は会見で自分の秘め事を堂々公開する気ですか?」
さすがに僕はそっちのケはありませんよ、というのだが、エレンはぶっと頬を膨らませたままこちらの肩を抱くばかり。がるる、とアンナに向かって威嚇する。そんなエレンを気にも留めず、こちらの眼前に人差し指を突き付けるアンナ。
「――なんか、僕ばかり貧乏くじを引いている気がする」
「お気になさらず」
革命でも起こしてやろうか。そんな僕の野心も、一瞬で闇の中に消えた。ぶつん、とゲームの電源が落ちたように。
目を覚ました時、視界には一人の男の子が映っていた。
「マモル!?大丈夫!?」
「ううん……?」
「よかったぁ、目を覚ました……もう、アンナ!マモルに何をしたの!?」
アンナは無言で答えない。じろっとこちらを、いつもより冷たく見下ろしている。
マモル、と言いながら、眼前の男子はこちらに抱き着いてきた。
「ひっ!?ひゃぁあぁっ!」
「えっ、どうしたの!?」
「な、なんで裸の殿方が……!?わ、私まで……!?」
「……アンナ、本当にマモルに何をしたの!?」
「どなたか知りませんが、不敬ですよっ。私を誰だとお思いですか!?」
私はエレン。妖精国の王室の末席に属する姫。
胸に手を当てて名乗る私に、間抜けな顔を晒す男子。どこかで見覚えがあるけれど、思い出せない、でも懐かしい顔だ。
「……アンナ?」
「はい。マモル様に催眠術を掛けて、『エレン』と思わせてます」
「あ、な、た、ねぇっ!」
素の私のような口調で、目の前の男子が激怒した。私の枕を掴むが早いか、それを侍従のアンナに投げつける。
「もう!余計なことをしないで出ていきなさい!出てって!」
「構いませんが、マモル様をそのままにしておくおつもりですか?」
「あ、そうだった……!」
ううう、と頭を抱える殿方と、アンナ。二人が何を言っているかよくわからないけれど、会話の内容がいまいちよく頭に入ってこない。
「まさかとは思うけれど、アンナ、この殿方は……」
「この方はマモル様。殿下の婚約者です」
「ちょ」
「婚約者……ですか」
私は少し目に力を込めて彼を見据える。
「貧相で、品のない。ぬぼーっとした顔」
「えっ」
「大体、意識のない女を力任せに犯そうとすること自体、倫理に悖るはずです。本当にこんなのが、私の婚約者なの?」
「残念ながら……」
「アンナっ!残念ながらって何!?」
顔を真っ赤にして、涙目になり、喚き散らす男。
「お黙りなさい。まったく、騒々しい」
「うぅ……私よりも私らしくお姫様やってるよ、マモル……」
「私の意思はどうあれ、私はこの男と婚約して、その……つ、つまり、子作りを、しなければならないのですね?」
「そうです、殿下」
「なら、仕方ありません。血を残すのも、私に課せられた義務」
マモルとやら、と私は名前を呼んだ。なぜか返事がない。
「あなたの名前でしょう?返事をなさい」
「い、いやー、その名前は私の名前じゃないかなーって……」
「何をわけの分からないことを。ほら、エレンの名において、続きを許します」
「え?」
「したいんでしょう?下半身で物を考える、最低な男。……私の体を好きにして、孕ませたらどうです?」
「えっ……いいの?」
「そのためにあなたはここにいるのでしょう?少しは気持ちよくしてくれるのならいいけれど」
「じゃ、じゃあ、遠慮なく……」
及び腰になっていた男が、男性器の根元を掴んでこちらに矛先を突きつける。先端は少し萎えていて、手は震えている。私ははぁ、とため息をついて、そのペニスを包みこんだ。
「ひゃっ!?」
「何を変な声を上げているの?少し触れただけでしょう?」
なぜかしっくり手に馴染むそれを、優しく手で刺激する。ゆっくりと、時間をかける。唾液を口で溜めて、性器目掛けてゆっくりと滴らせる。ぽた、と濡れる性器を、改めて包み込む。ようやく硬さを取り戻したことに、なぜか安堵しながら、自分でも長い脚を折り曲げるようにして、ゆっくりと股を開いた。
「ほ、ほら……犯して見せなさい」
「う、うん……えっと」
マモルとかいう男は、既に女を知っているのか、予想以上に大胆にこちらの腰を掴んで自分の手に届く位置に引きずり込んできた。
「マモルに……自分のことを私だって思ってるマモルに罵倒されて、私感じちゃってるよぉ。うぅ、おかしくなっちゃいそう」
「はぁ?また訳の分からないことを……んっ。やっ、ちょっと、暴れないでっ」
「恥ずかしいのは私の方なんだからね!?もう、このぉ!」
「あっ、んっ、へんなところを擦られてるっ」
「もお、もお!犯した始めた途端に女の子っぽくなるのは反則でしょ!?」
初めてなのに、初めてのはずなのに、私は気が付けば、マモルという男に応じるように腰を振っていた。にっこりと笑うマモルとかいう男の顔が、妙に優しくて、必死に非情に徹しようとしているこちらの仮面が今にも叩き壊されそうになる。
「こんなっ、こんな性欲まみれの男っ、嫌なはずなのにぃっ」
「もう、アンナ!恥ずかしいから早く解除してあげてっ」
「いいんですか?せっかくマモル様がその気になっているのに」
「そ、そう言われると……むーっ」
「やだぁっ、品のない男に犯されて、私、感じちゃってるっ」
「品のない男って言われたぁ!もう、マモル!?覚えてなさいよ!?」
ぐぽっ、ぐぽっ、と二人が結合した場所から卑猥な音が溢れてくる。体が意志に反してじゅくじゅくに溶けだしている。気が付けば私は、彼の腰に足を回して、彼の背中に手を回していた。お互いの顔に熱い吐息を掛け合って、唇を貪る。何度目かのピストンの後、くっ、と喉を鳴らした男が、こちらをベッドシーツに押し付けた。ぶるぶるっと下半身が震えて、何が起こるのか、わからないのにわかってしまった。
孕ませる、世継ぎを生む――言われてきた言葉がどういう意味なのか、今ようやく実感を伴った。それは、想像するよりは敷居が低く、我を忘れるほど気持ちがいいわけではなかった。でも、二人の距離が少し近づいた気がする。彼になら、もう少しだけ寄り掛かってもいいかもしれない。私は、彼の肩の方に、ゆっくりと体を預けた。
「じゃ、催眠術を解除しますね」
「「え?」」
全部記憶が戻った。
泣きたい。
「マモル滅茶苦茶かわいかったぁ!」
こちらの脚を操縦桿か何かのように掴んで腰を叩きつけてくるエレンだけが、楽しそうだった。僕は腕で顔を隠して、喘ぎ声を殺した。
「マモル様がエレン様を演じると、クールビューティーっぽい感じになるのですね」
勉強になります、と衝立の向こうから、アンナが声をかけてきた。
「もう、お嫁にいけない……」
「ふふー、私もっ。元の体に戻った時は、『責任取って』、って言っちゃお!」
ああ。
僕に味方はいないのか?
こうも人を弄ぶなんて、許されるのか?
泣きたい。