天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
同じ家族でも、対応が違う。まあ平民と、王族ならば無理もないのだろうが。
例えば、妖精国の離宮にて、エレンと二人で歩いていた時のこと。
「お姉さま!」
と弾んだ声が聞こえてきて振り返れば、見目麗しいエルフの少女が立っていた。目をキラキラさせながら、こちらを見つめている。
「どうしたの?」
僕は仕方なくエレンのふりをして応対する。僕にだけ見えるようにぐっと突き出されたサムズアップ。こちらを呼び止めた彼女はぐんぐんと迫ってきたかと思えば、僕の方に抱きついてきた。
「帰ってこられたのですね!やっぱり野蛮人の世界よりも、この妖精国のほうがはるかに快適で素晴らしいと、わかっていただけたのですね!」
僕は少しだけ距離をとって、彼女の耳を見つめる。エレンより少し幼い彼女の耳は、エレンのそれよりかなり長い。
ああなるほど、これがいわゆる純血派なのか、と納得した。実際先ほどから、僕の隣に立っているエレンの方になど、目もくれない。
しかしその発言に少し真顔になったエレンは、僕らの間に割り込んだ。
「エリーズ。そうやって人間を見下すのはやめるように言われなかったかしら。あなたは私よりも偉いのだから、発言の重さには気をつけなさい」
「はぁ?何を言っておりますの、この猿は。私はエレンお姉様とお話しているのです。下がりなさい無礼者」
「無礼なのはどっちかしら。エリーズ」
エリーズは僕に助けを求めるように視線を送って、はたと動きを止める。それから勢いよく、僕とエレンを交互に見つめた。
「ま、ま、まさか」
「なに?」
「噂だけだと思っていたのに、本当に入れ替わっているのですの!?お姉様!?」
悲鳴のような叫びだった。ふふーん、と満面の笑みで、エレンは僕の腕を抱いた。
「そうだよ?この人。マモルが、私の将来のお嫁さん!」
「んなっ……」
はくはくと口を開いていたエリーズは、やがて顔をあげると、僕の方を睨んでくる。
「この猿!いったいどういう方法でお姉様を籠絡したのです!?ええ!?まさかとは思いますけれど、お姉様のこの白魚のような肌に触れるような真似はしていないでしょうね!?」
それどころか肌まで重ねたのだが。
「たっぷりえっちしたよ!」
今度こそ、エリーズは、崩れ落ちた。その後散々僕を罵って別れるべきだというものだから、エレンの苛立ちが頂点に達して、仲違いしたのは言うまでもない。
とまあこんな風に、時に不和を撒き散らしながら、僕とエレンは二人三脚で関係者への根回しを行なっていた。
二件目はエレンの父親と母親だったが、娘に初対面の挨拶をされることに戸惑っていたのを除けば、比較的すぐに打ち解けられた。それは偏見がないと言うよりは、パートナーを通して寛容になったこと、また、己に流れる血の半分が人間であることから、政治的な融和的態度をとっているという感じだった。
とはいえ、父親から向けられた視線を考えるに、愛した相手に対してはものすごい執着を寄せるのは遺伝によるものらしかった。
三件目は、僕の両親である。しばらく拉致同然に妖精国の方に行っていたので、久々の再会となったのだが、
「んー、おかえりー」
という、なんとも間の抜けた挨拶とともに迎えられた。事情はあらかじめ両国から伝えられていたといい、
「こんなにかわいい子を捕まえて……いや、こんなに可愛くなっちゃってー」
といつもの間延びした声で僕らを迎えてくれた。
「なんだか、キミの家の家族が一番、居心地がいいなぁ」
しばらく足を踏み入れなかった僕の部屋で、ぎゅうとクッションを抱きしめながらエレンが言う。
「母さんはあれがデフォだからなぁ」
「うちの国のみんなにも、垢を煎じて飲んでほしいよ。……みんな本当に、偏見だらけなんだから」
しかしそのような状況で、僕らは前に進まねばならない。婚約者として登壇し、盛大な披露宴の主役として挨拶し、そしていずれは、子供も求められる。それが僕らに課せられた義務だ。
「それにしては、エレンが結構、『頑張る』わりになかなか子供が生まれませんよね」
「もともと人間同士だって、そう簡単には妊娠しないでしょうに」
エルフと人間と、異種族間の子供は、もっと授かりにくいのだーーとアンナは説明する。
「そんなものですか」
「そんなものです。そもそもエルフのような長寿族はもともと性欲が少なく、子供を残そうとする本能も弱いとされています。まあ、個人差にもよりますが」
僕らの視線は、一人のもとに向けられる。この部屋の唯一の男子に。
「私はえっちじゃないよ!」
「殿下、嘘はもっと上手についてください」
「ほんとだもん!マモルの体が言うの!『この女を孕ませろ』って!」
「十年来の付き合いですけどそんなこと言われたことなかったですね」
「信じてよぉ!」
「……だそうですが、アンナさん?」
「まあ、殿下はあまりそっちの方面に興味があるように見えませんでしたね。昔は」
微妙なフォロー。僕はなんとなく気まずい気分になる。
その、娘を頼むよ、と申し訳なさそうに言ってきたエレンの父親を思い出す。家柄なんて考えないで、さっさと子供を作っちゃってね、と言っていたのはエレンの母親。
「ガキ作るのは勝手だけどなー、ちゃんと将来のこと考えて計画的になー」
と言っていたのは僕の母親で。
なんというのか、入れ替わりという異常な状況をみんなすんなりと受け入れてしまって、その上子どもを作ることも好きにしろ、と言われているようで。
「なんだかなぁ」
なんというか、僕だけ置いてきぼりにされている気がする。
鏡の前で、改めて今の自分の姿を見る。金髪碧眼の、白い肌をしたエルフの少女。クリクリとした瞳は子供っぽく、クラスメイトとして接していたときは、それこそ宝石のように輝いていた。
今こうしてみると、僕のせいなのかかなり目つきが悪く見える。
視線をさらに下に落とす。学校にいたときは制服姿しか見かけなかったが、エルフの間では普通の衣服、として着せられているのは、ゆったりとしたドレスだ。
本当に僕は、自分の体を失ったのだな、と思ってしまう。でも鏡の中の少女が自分の姿とも思えなくて。
僕はどこにいるんだろう、と思ってしまう。
その一方で、エレンに抱かれているとき。当然のことだが他にそうやって接してくる人間がいないから、体がダイレクトに伝えてくるセックスそのものが実感として伝わってきて、僕は間違いなくここにいる、と感じることができる。
エレンのあどけない面差しを思い出させる男子が、はむっ、とこちらの胸に吸い付く。
男の時より遥かに豊かになった乳房を一心不乱に吸い上げる青年のなり損ないみたいなのが、目を細めてこちらの恥ずかしがる顔を楽しんでいる。とくとく、と心臓の音がする。
「大丈夫。だいじょうぶ」
まるで、自分はすべてわかっていると言わんばかりに、無責任な言葉を繰り返しながら、エレンは体を求めてくる。身を乗り出してきたエレンが覆いかぶさってきて、僕は股を開いて彼女を迎え入れる。
股間と股間が打ち付けられる。穴と言うにはあまりにも血が通いすぎた場所に、棒と言うにはあまりにもグロテスクな肉棒を押し込んで男と女がよがり合う。汗ばんだ肌をぶつけ合って、しっとりとした感覚を楽しむ。金色の髪がさっと手で梳かれる。唇を割り込んで入ってきた舌が、順々に前歯をなぞる。僕の足が、天蓋の方に向けられる。ひっくり返った視界いっぱいに、汗を垂らしてふうふうと荒い息を吐き出す少年がいっぱいに映る。
お腹をそっと撫でる手がある。払いのけようかとも思ったが、予想以上に気持ちが良いのでやめた。目には見えない自分の体が、これが自分だ、と言わんばかりに、されている快楽をダイレクトに脳に叩きつけてくる。額に手を当てて、僕、と呟いてみる。今の僕は、僕、と一人称を改めたエルフの少女、にすぎないのかもしれない。
「一人じゃないよ」
全身を愛撫しながら、エレンが言う。僕の体を奪った少女にして、僕に体を奪われた少女。そして何より、2つの体を共有したことのある、たった一人の理解者でもある。
僕と私をどちらも知っている、自分の共有者。だからこうして一つになって、一緒にならなければならない。
にゅぽっ、と射精を終えたペニスが、僕の体から抜けた。
「マモル?」
エレンの前で、僕は裸体を晒す。いつもはシーツにくるまって眠るだけだが、今日は違う。
月明かりの下で、僕は立ったまま、自分の秘所へと手を落とす。さっきまで男のものが入っていた場所に、ゆっくりと指を滑らせる。くちゅ、くちゅ、と音がするそこを、何度も何度もくいくいと押していく。無意識に、もう片方の手が自分の胸を包みこんでいる。
汚いと思っていたペニスを初めて愛撫して、自慰をした時のように、僕はそうやって、エレンの体に馴染もうとしていた。エレンが、仕方ないなぁ、という顔をして、微笑んでそれを見守ってくれていた。
ぷしゅっ、と小さなくしゃみのように、絶頂した僕は、少量の潮を噴いた。くらっとたたらを踏んだ僕を、エレンがそっと受け止めてくれる。
「本当に嫌なら、元に戻る方法を考えるから」
温かい吐息が、僕の肌をくすぐる。
「今は私の体で。ね。自分を見失わないようにして」
僕は小さく頷いた。それから、エレンの体を跨いだ。両膝で彼女の体を挟み込むようにして、彼女のペニスめがけて、ゆっくりと腰を落とした。
僕たちは、また繋がった。