天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
何から話せばいいだろうか。たぶん、出来事を順番に語ってみるのが一番良いのだろう。
あのスピーチのあと、僕らはそのまま結婚披露宴のようなパーティの主賓として移行した。人間界と妖精国の要人が大勢集まっていて、僕らは未成年というのを盾になんとか来客を捌いていた。
スピーチで、僕らの出会いは入れ替わりによって始まった、と語った。今頃人間界では、僕らのどちらがエレンで、どちらがマモルなのか、喧々諤々議論を戦わせているかもしれない。
一方でエルフたちの反応は冷ややかだ。魔法に優れた者や、精霊魔法に詳しい者、特に魔術省に勤めているエルフは、僕らの正体をほとんど見破っていて、政治的な評価、演技的な評価に忙しかった。遠回しな嫌味こそあれ、とりあえず、ハーフエルフ、ひいてはエルフ全体のイメージを損なわない僕のスピーチは、わりと褒められることが多かった。
かくして僕らは結婚というか、婚約と言うか、自分でもよくわからない状況にいた。そのうち人間界でも式をあげる、とエレンが言って聞かなかったからだ。
「女の子のファッションは面倒だけれど、同時に飾り方の奥が深いから、ちょっぴり残念かな」
とエレンが少し寂しそうに笑っていたのが印象的だった。
さて。結婚披露宴から経つことしばし。
僕の目の前には、エレンが立っていた。お揃いの服を着て、こちらを挑むように見つめている。碧い瞳は糸のように細められ、顎には手が当てられている。僕はそんなポーズをとっていないのに。
「あの……この方は?」
「ああ、彼女は……」
「紹介が遅れました。エレン様の影武者を務めております、カリーナと申します」
エレンそっくりの、つまるところ、今の僕そっくりのカリーナは、そう言って一礼した。
「すごいでしょ、カリーナ。小さい頃から私にそっくりで、そのまま私そっくりになっちゃったんだから!」
いつの間にか二人の執務室に変わった部屋で、エレンが胸を張る。いつものように壁側にアンナがいて、向かいのソファにカリーナが座っている。
「影武者って、普通そこまでそっくりな人を連れてこられるものなんですか?」
「多くは親戚筋が、雰囲気を似せるというやり方で本物に合わせる形になります。あとは魔法や、メイク、ちょっとした手品。演技力も問われますね」
あなたが殿下を演じきったように、とカリーナが付け加える。なんだか視線が鋭い。
……というか、僕、嫌われているんだろうか。
「カリーナはカリーナなりに後悔しているのですよ。結果的に良縁となりましたけれど、主の危険を引き受けられず、しかも実質的に、生涯を通して殿下の替え玉を務めるようなマモル様に、あのように見事に演じられてしまって」
「あれは私に対する挑戦と見ました」
「どうしてそうなる」
僕が頭を抱えるのを、無神経にエレンがケラケラ笑う。
「覚悟したほうがいいよ?カリーナは任務一筋だから!」
「でも影武者が用意されるなんて、本当にエレンは王家の一員なんですね」
入れ替わった自分達を確認できるように据えられた鏡を見ながら、僕は言う。少し見慣れた自分の姿、かわいい女の子が映っていて、相対するのは真面目一辺倒の双子の姉、のような雰囲気を醸し出す影武者のカリーナだ。
「いえ、もともと殿下は王位継承もありえませんし、本当に、王室の末席に過ぎませんよ」
「え、じゃあなんで影武者が?」
「志願しました」
カリーナが、眼鏡を取り出しながら言った。少しだけ眉間のシワが消える。
「生まれて初めて忠を捧げるべき相手を見つけ、私のすべてを殿下に捧げたのです」
「私はね、そんな命を狙われるような立場じゃないんだけどね」
エレンの照れ笑いに、微かに自虐と諦めのような色がある。彼女にしては珍しい。
「私が忠誠を捧げるのはエレン様だけですが、今その体を使っているのはマモル様です。私が用いられる場合は、どちらに寄せるべきか、一度アンナも交えて話し合おうと思ったのです」
「寄せるも何も僕はあくまでも一般人で……」
言いかけて、変な想像が頭をよぎった。僕は恐る恐る、カリーナに尋ねる。
「あの、もしかして僕の替え玉も準備するとか、そういう予定は……?」
「やはり入り用ですか?」
「結構です」
「マモルー、それって、私の体に入っていれば安全だから、私自身の安全はどうでもいいってこと?」
「僕は一般人として、野郎と顔を突き合わせるのは嫌なんだよ……」
「でしたら、早く殿下に元の体に戻っていただくしかありませんね」
「えー、私、このままマモルを孕ませたい」
「エレン?」
「私は誓ったの!このか弱い女の子を独り占めにしてパコパコして、その人と赤ちゃんを授かって、立派なパパになるって!」
ふふん、とどや顔を披露するエレンである。
「わりと正しい誓いではあるんですが、そこはかとなくゲスい言い回しですね」
「ですよね……誰だろうエレンにそういう言い方吹き込んでるやつ……」
僕とアンナがため息をつく一方で、少し違った反応を見せたのがカリーナだった。
「殿下……?」
と目を丸くして、僕とエレンを交互に見返している。
「あの、どうかしました?」
「……殿下は、いつもこんな調子なのですか?」
「ええまあ……」
「少なくとも、マモル様と出会ってからは、こうですね」
アンナがそうつけ足す。再び顎に手を当てたカリーナは、僕を睨みつけるように見つめていたが、やがて、
「マモル様。少々お時間をいただけますか?」
と、僕を指名してきた。
部屋のメンバーは、相変わらず変わらない。少し離れたところにアンナとエレンがいる。僕はエレンの体で、エレンそっくりの少女と正面から向き合っていた。
「正直、驚きました。私が知っているエレン様は、もう少しピリピリとした感じで、いつも己の義務を確かめていらっしゃるような方で……こんな風に、のびのびとしている姿を見たのは、初めてです」
「いや、それは……留学の経験から変わったんじゃないですか?」
少なくともその時からすでに彼女は、天真爛漫なお嬢様だった。まさか、王室の末席とは思わなかったが。
「むしろ留学で追い詰められていましたよ」
「アンナさん?」
予想外の人物が、僕の言葉を否定する。
「自由なのは今だけ、と限られた時間を、楽しまなければならないと。殿下はいつも必死でした」
部屋中の視線が、エレンの方に集中する。しかし、彼女は上に立つ者だった。ちょっとやそっとじゃ内心を探らせない、笑みを浮かべたまま無言を貫く。
「殿下を変えたのは、間違いなくマモル様ですよ」
「そう……ですかね」
なんの接点もない男の体を押し付けて、可愛い体も、それどころか立場さえ奪ってしまって。
さらには下町の下品な言い回しやら男の性欲やらを教え込んでしまったのではないかと後悔していたが、それだけではなかった、ということだろうか。
「私が留学の手続きに遅れて、ようやく許可が下りた頃には殿下を取り巻く状況が変わっていて。すべては限られた人間にしか教えられないという状況で、勝手に影武者を名乗る人間などには、とても情報を共有してもらえませんでした」
カリーナの瞳が、僕を射抜く。生まれつきなのか、それとも染めたのか、エレンと全く同じ髪をさらさらと流しながら、カリーナは言う。
「私は……貴方に嫉妬してしまいます。マモル様」
「そう、ですか?」
「ええ。あれほど追い詰められていた殿下に安らぎを与えて、信頼されるパートナーとなって」
カリーナが、アンナの方に視線を向ける。
「しばらくお二人のそばにおいてください。今の私には、エレン様も、マモル様も、そのどちらも……どちらにも演じることができそうにありません」
「分かりました。よろしいですか?殿下」
「まあ、自分がエレンの体だったときは気恥ずかしい感じだったけど、マモルとカリーナを傍から見てるぶんには、かなり眼福だよね」
「殿下?」
「ちょちょ、大丈夫だから!私はマモル一筋だってばっ」
はあ、とため息をつく僕を、目を丸くして見つめるカリーナ。
「まあ、それはおいおい……ね、マモル」
「……なんですか、殿下?」
「そろそろ落ち着いたことだし、エッチしよっか」
言うなりエレンがソファの背もたれ越しに、こちらの胸元をぐいと引っ張った。着物のように重ねていた箇所がほどけて、乳房がまろび出る。お椀のような乳房を、エレンが後ろからゆっくりと円を描くように揉み始める。
カリーナがポカンとしていた。ややあって、急に仕事モードに入ったように、真剣な顔つきになる。その一方で、顔はどんどん赤らんでいって、とうとう顔を指で覆い隠した。声にならない悶絶が聞こえてくる。
後ろから抱きしめられる。抗議の一つでも入れてやろうかと振り返れば、格好の餌食になって唇を奪われる。
「なんて破廉恥なっ」
勢いよく立ち上がるエレン、ではなくカリーナ。しかし彼女の肩に手が置かれる。諦めたように首を振るアンナ。
「そのハレンチを実行しているのは殿下の方で、マモル様は被害者であることをお忘れなく」
「なっ、しかしっ」
「マモルー、ちゅーしよー、ちゅー」
「とか言いながらもうやってるじゃないですか」
エレンは露出狂と言うか、そういう癖でもあるんじゃないかと思わせるほど、他人の目を気にしなかった。もう一人のエレンとでも呼ぶべきカリーナは、比較的まともな感性をしているらしい。アンナにいたっては諦めているフシがあるけど。
「こ、こんなエレン様の姿っ……で、でもこれほど我を出しておられる姿は見たことが……ああでもやっぱり破廉恥だっ」
「エレン。カリーナさんがかわいそうだからそろそろやめない?」
「うーん、でもカリーナが私たちを演じるって言うなら、こういう感じで普段接してるってことを伝えておいたほうがいいかなって思ったんだけど」
「はあ」
人の胸をぐにぐに揉みながら、エレンが言う。その言葉にハッとしたカリーナが、
「べ、勉強させていただきますっ」
と顔を真っ赤にしてこちらを熱心に観察し始めた。エレンは言うまでもないが、カリーナは、なんだかムッツリな気がする。
エレンの手がさらに下半身に伸びてくる。おへそのあたりを、ゆっくりと撫で回す。どうにでもなれ、と僕は体をソファに預けてため息をつく。
「ほらマモル、足上げて」
赤ん坊のように足だけを持ち上げられ、その間にエレンが割って入る。パンパンと腰が叩きつけられ、さすがに喘ぎ声を殺せなくなった。エレンはカリーナに尻を向けて、僕を見下ろすのに精一杯だ。じゅくじゅく、と体の芯が崩れていくような錯覚を覚える。吐息が意味もなく熱くなり、自分の肌にかかった瞬間、きゅん、とする。ばたつかせた足を難なくいなされて、僕はいつものようにエレンに弄ばれる。本当に、たまには僕の方から手を出さないと、飽きられてしまうんじゃなかろうか、と思ってしまうほどに。
「カリーナも、こーんな感じで愛してほしい?」
「はっ、あっ、いえ私はっ」
「殿下。マモル様に対して失礼では?」
「マモルに嫉妬してほしい!」
「もうちょっと穏便にされたらどうですか」
僕はだらんと垂らした足と、その付け根に垂れる放たれた精を見守っていた。身体に収まりきらなかったそれは、床に垂れて小さな水たまりになりつつある。
エレンは僕を放置して、もう一人の自分とでも呼ぶべき影武者のカリーナに絡んでいる。一応服を着た状態なのだが(その常識があることにさえ驚いた)、カリーナは顔を覆ったままである。
ふくれっ面で、でもころころと笑うエレン。恥ずかしがって、顔を隠したままエレンに揺さぶられるもう一人のエレン。マモルとエレンの二人が僕の前で、笑い合っている。
その光景を第三者のように見つめながらも僕は、久々に、自分の好きな人の姿を、鏡以外で見られたような気がして、なんだか嬉しかった。
……なんて言うと、僕も十分倒錯している。やれやれだ。
僕らはこんな風にドタバタと、政治の中枢からは離れて、その日その日を楽しんで生きていくのだ。もとに戻るか戻らないか、それさえも分からないけれど、でも、ありのままでいい。そう思わせてくれるパートナーがいるから。
股間をティッシュで拭う。服を手早くなおして、立ち上がる。エレンとエレン、二人のエレンの中に飛び込んでいく。
「マモル?」
僕の名を呼ぶエレンにしがみつくように、口づける。エレンが目を細めて、ちゅーっ、と音を立てて唾液を吸い上げる。お互いに淫靡な顔をしているのだろう。アワアワと慌てているうぶなエレン、カリーナの姿が見える。僕はエレンにじゃれつくようにしてしがみついた。
その時の僕は思っても見なかったのである。
「ふん、売女。誰にでも股を開くつもりのくせに」
私の体で、と憎々しげに僕を睨んでくるエレン。言われた僕も、いつもより、怒りのタガが外れているようだった。
「だったらカリーナでも抱いてたらいいじゃないですか。ヤリチンのくせに。ナルシストのエレン殿下にはお似合いですよ」
「私がそんな変態に見える?」
犯すよ、というエレンに、どうぞ、と挑発して股を開く僕。
「どうせいつも通りでしょ。あなたが何か言って欲望のままにしがみついてきて、チンポをハメて、僕を犯すーーほうら、いつも通り」
「うるさいっ」
そう言って押し倒してくるエレン。テーブルの上のティーポットがひっくり返って琥珀色の液体を流していく。
「うっさいなあ、品もない……なんでこんなのと結婚したんだろ、私」
僕とエレンはいつものように額をコツンとぶつけ合いながら、お互いの憎悪をむき出しにしてにらんでいた。
その時の僕は思っても見なかったのである。
あんな風な、事が起きて、エレンに、ひどいことを言ってしまうなんて。