美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「晶様! おはようございます!」
「おはよう。今日は朝からご苦労様」
「い、いえ……! 晶様の練習を見たくて早起きを……!」
「そっか。嬉しいよ」
「はいぃぃぃ……」
部活の朝練。
走り込みに来た王子こと駿河晶《するがあきら》。
まだ七時前だというのに、こうして晶の姿を一目見ようと集まる女子生徒は後を絶たなかった。
「ふう……今日は二十人超えか……ボクなんかのために申し訳ないな」
晶は明るく誠実で優しい性格をしているが、自己肯定感が高いわけではない。
本人の望みとは裏腹に、いつの間にか「王子」として祭り上げられてしまったのだ。
本来は一人きりで黙々と練習したい。だが、こうなってしまっては仕方がない。
見られている状況でも、自分のペースを崩さずに練習を続けるしかなかった。
部室でトレーニングウェアに着替え、グラウンドに出ると、先に来ていた人物が軽い調子で声をかけてきた。
「やほー! 晶! 今日も朝からファンの数すごいねー!」
「若菜、おはよう。そうだね、彼女たちも自分の時間があるのに……ありがたいことだ」
「ほんとは一人でやりたいくせにー」
「まあ……」
ラフな態度で近づいてきたのは、同級生で陸上部仲間の本庄若菜《ほんじょうわかな》。
幅跳び専門の彼女は、真っ赤な髪をポニーテールに結んだ健康的な少女だ。
二人は準備体操をしながら会話を続けた。
「……若菜はさ、それなりに胸が大きいよね?」
「おうおう、どうしたどうした〜。晶が私の胸気にするなんて」
「ちょっとね。それで、邪魔に思ったことはない?」
「そりゃあるよー。これなかったら男子に凝視されなかったのかなとか、もっと遠くに飛べたのかな……とか。でも私の場合は晶ほどじゃないから、嫌ってわけじゃないかな」
確かに、若菜の胸も大きい。
ぴったりと張り付くウェアは彼女の胸を押し上げ、はっきりと形を浮かび上がらせている。
だが、晶の胸はそれよりさらに大きかった。
「そっか。だよね」
「なんだよー、珍しい」
「ふふ、いつもありがとう。ボクには若菜がいて良かったよ」
「もしかして今の告白? 告白か?」
「そんなわけないだろう。ほら、分かれて練習するよ」
「はいはーい」
若菜の茶化しを軽くいなし、晶は白線の引かれたレーンに並んだ。
まずは軽い流しから。
スターティングブロックに足を固定し、クラウチングスタートの姿勢から――バッと走り出す。
途端に、グラウンド脇から黄色い歓声が響く。
一部の生徒はスマホを構え、晶の走る姿を撮影していた。
盗撮であることは明白だが、大ごとにしたくないため、晶は注意せずにやり過ごす。
そんな晶の対策はただ一つ。
耳栓、もしくはブルートゥースイヤホンで音楽を流し、周囲の声を遮断することだった。
「ふぅ……いい汗かいたな」
朝練を終えると、共用のシャワールームで汗を流していた。
そこへやってきたのはもちろん――若菜。
「おつかれおっぱーいっ!!」
「きゃああああっ!?」
背後からそっと忍び寄った若菜は、いきなり晶の特大おっぱいをむぎゅっと鷲掴みにした。
普段は凛とした口調の晶も、この時ばかりは顔を真っ赤にして、女の子らしい悲鳴を上げてしまう。
「このこのこの〜っ! このおっぱい星人め〜〜!」
「やっ、ダメっ……先っぽは、ダメっ……だって…………バカぁっ!!」
「あ゙だっ!?」
裸のまま絡み合う二人。
若菜の執拗な悪戯に、晶はさすがに怒って手を払い、頭にチョップを食らわせた。
「無防備な状態でやるのはやめてって言ってるのに……」
「無防備じゃなかったらいいんだ?」
「揚げ足とるような発言は嫌いだよ」
「も〜、晶怒らないでよ〜」
若菜の悪ふざけに、晶はしばらくプンスカしていた。
やがて登校時間が近づくと、二人は一緒に校舎へ向かう。
下駄箱に手を伸ばした晶は――そこで手を止めた。
「――あ……これ…………」
「ラブレターじゃんっ!」
ピンク色の封筒を開けると、一枚の手紙が現れる。
二人は玄関の隅へ移動し、晶が内容を読み上げた。
「拝啓、愛しの王子・駿河晶様――一年前にあなたを見てから、ずっと心を奪われ続けています。本日の放課後、部活前の一分だけでいいです。屋上でお待ちしています……」
「“様”……か。女の子かなぁ?」
「そうだろうね。男の子から告白なんてされたことないし」
「行くの?」
「無下にはできないよ」
「優しいんだから〜」
晶はいつも通り、その場に向かうつもりでいた。
今までも同じように告白を受け、そして全て断ってきた。
――今回も、そのはずだった。
迎えた放課後。
晶は一人、静かな校舎を抜けて屋上へと向かった。
若菜には、絶対に来ないよう念を押してある。
だから待ち合わせに現れるのは――手紙の送り主ただ一人のはずだ。
そう思いながら、階段を上りきる。
ギィ、と重たい鉄扉を押し開けると、心地よい春風がふわりと頬を撫でていった。
夕方前の屋上は柔らかい光に包まれ、空には白い雲が流れている。
そんな穏やかさとは裏腹に、晶の胸の奥はわずかにざわついていた。
視線を中央に向けると、そこに――手紙の送り主が立っていた。
晶より小柄で、年下にも見える可愛らしい顔。
どこかおどおどとした雰囲気を漂わせているが、勇気を振り絞ってここに来たのだという決意が、その立ち姿からは伝わってきた。
ただ、晶にとっては完全に予想外の人物で――
「……だ、男子……?」
思わず声が漏れる。
なんと晶を待っていたのは、女子ではなく可愛らしい顔立ちの男子だったのだ。
女装コスプレをさせたら似合うだろう、というほど中性的な美少年。
年下好きの女子なら一発で落ちるに違いない。
しかも晶は顔を知っていた。
同学年であれば名前までは覚えていなくとも、少なくとも見知ってはいるものだ。
「お、王子っ! 来てくださってありがとうございますっ!」
勢いよく頭を下げた美少年は、一歩晶へとにじり寄り、頬を染めながら続けた。
「……僕、木本駆《きもとかける》って言います」
「うん……見たことある」
動揺しながらも、晶は彼の言葉を受け止める。
「ありがとうございます! 覚えていてくれたんですね……! 僕、この学校に入学したばかりの頃、たまたま見かけたグラウンドで――走る王子を見て、一目惚れしたんです。それからずっと……目が離せませんでした」
「……そうか。それは、嬉しいよ」
キラキラとした熱のこもった視線。
男子から向けられることもあるが、女子の視線に比べればずっと稀だ。
「もう一年が経ちました……僕はファンクラブに入っているわけでも、練習を毎日追いかけているわけでもありません。けれど、王子が通り過ぎるだけで胸が高鳴って……どうしようもないんです!」
(……ファンクラブに入ってない子か。それなら、ちょっとは嬉しいけど)
「いつも周りに女子がいて、近づけませんでした。でも……僕はずっと、王子を想っていました!」
駆は息を詰め、もじもじと口ごもる。
顔を赤らめ、やがて勇気を振り絞った。
「それと……王子が……その…………」
「ん、なんだい?」
「えっと……お胸に悩んでらっしゃることも、知ってます……!」
「……え?」
思わず晶は目を見開いた。
「王子は気づいていないかもしれませんが、自分の胸を見下ろしては、小さくため息を吐くことがあります。ここ一年で急に大きくなって……隠すようになって……余計に気にしているんだなって」
「そこまで……バレてたんだ」
「ずっと見ていたから……」
晶は素直に感心する。
いやらしい気持ちがゼロとは言わないが、少なくとも眼前の駆からは純粋さが伝わっていた。
色々な視線を浴びてきた晶だからこそ、わかるものがあった。
――だが。
「それで……僕は……僕はっ!」
駆は顔を真っ赤にし、叫ぶように言った。
「――――王子のおっぱいが、大好きなんです!!」
「…………へ?」
一瞬、耳を疑う。
呆けた声を洩らした晶に、駆はさらに畳みかけた。
「王子が気にしていることでも、僕は寄り添って受け入れます! 胸のことで苦しんでいるなら、僕が全部支えます! 王子を元気にしてみせます!」
放たれたのは、晶最大のコンプレックスそのもの。
近頃、急成長した胸はファンの間でも話題になっていた。駆はそれすら丸ごと受け止めると告げている。
「僕は王子の全部を好きになれます! ――ですから、僕とお付き合いしていただけないでしょうか……!」
深々と頭を下げ、右手を差し出す。
木本駆、渾身の告白だった。
――だが。
晶の心は動かなかった。
むしろ、心の奥で冷めた答えが形を取る。
胸は晶にとって不要なもの。できることならなくしてしまいたい。
今の晶に必要なのは――ただ速く、強く走ることだけだった。
駆は結局、晶の容姿だけを見ていた。
本当に見るべき晶の姿、陸上に全てを懸けてきたその背中を、彼は知らなかった。
「――ごめんね。君と付き合うことはできそうにないよ」
静かに告げ、踵を返す。
膝をつき崩れ落ちる駆を背に、晶は屋上を去った。
部室に向かうと、若菜が待ち構えていた。
「お、晶っ! どうだった?」
「……相手、男子だった」
「はあっ!?」
「木本駆くん」
「えっ、あの可愛らしい顔の子?」
「――でも、断った」
「……初めて男子から告白されたのに?」
「まあね。……彼は私のおっぱいが好きらしい。全部受け入れるってさ」
「……あ〜〜〜〜、そういうことか」
若菜は即座に理解した。
長年そばで見てきたからこそ、晶が今なにを求め、なにを必要としないのかを知っていた。
「ま、そういうこともあるよ。晶のこと、本当にわかってくれる人はどこかにいるはず」
「何言ってんのさ。今の私に男なんて必要ないだろ?」
パシン、と自分の頬を叩いて気合いを入れると、晶は練習へ向かっていった。
◇ ◇ ◇
土曜日。
この日、晶は一人で大型スポーツ用品店を訪れていた。
夕方前。部活を終え、帰宅して着替えたあとで、足を運んだのだ。
理由は単純。スパイクのソールがすり減り、そろそろ新調する必要があったから。
大会に備えて予備も欠かさず用意しているが、定期的にスポーツ店を訪れるのは晶の日常の一部になっていた。
いつものように陸上用スパイクのコーナーへ向かう――その時だった。
前方から三人組が並んで歩いてくる。
その中央にいた人物を目にした瞬間、晶の足がぴたりと止まった。
「……弘世、先輩?」
つい先日、ひびきから紹介されたばかりの相手――ヤリチンハーレム少年・高梨弘世が、まるで当然のように両隣に少女を侍らせ、得意げ(?)に歩いてきたのだった。