※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第107話 病院にて

 

 約十分後。校舎の外から救急車のサイレンが近づいてくる。

 

 外傷はできる限り処置した。

 だが、あの衝撃だ。他の骨や脳への影響がないとは限らない。

 

 保健室で様子を見るという選択もあったが、精密検査を受けさせるべきだと判断し、弘世は救急車を呼ばせていた。

 

 救急車が到着すると、校内は一気にざわつく。

 何があったのかと、生徒たちが不安げに見守る中、救急隊員が担架を運び込み、綾を慎重に乗せていく。

 

 弘世も付き添いとして救急車に乗り込んだ。

 

「早瀬さん、部活あるよね? あとは俺に任せて行ってきなよ」

「それはそうだけど……でも、私だって現場を見た一人だし。委員長はクラスメイトだよ? やれることはしたいの!」

「本当に大丈夫?」

「うん。顧問には電話で伝えるから。私にも手伝わせて!」

「わかった。じゃあさ、校内で事情を説明しなきゃいけない人たちに、起きたことを伝えてもらえる?」

「任せて!」

 

 後部ドアが閉まり、救急車はサイレンを鳴らして走り出す。

 

 学校に残った美咲は、すぐに職員室へ向かった。

 保健室の先生だけでは伝えきれなかった経緯を、改めて自分の口で説明するために。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ん……んん……」

「委員長っ!」

 

 綾がゆっくりと目を覚ました。

 視界に映ったのは、ベッド脇に座る弘世の顔。自分がどこにいるのか、なぜ横になっているのか、すぐには理解できない様子だった。

 

「……いたっ」

 

 回復魔法で傷は塞いだはずだが、口元に鈍い痛みが残っている。

 本来歯があった場所の違和感。残った歯もぐらついていた。

 

「……委員長、俺のせいで……ごめん」

「…………ああ、そっか。私……」

 

 少しずつ記憶が繋がり、何が起きたのかを思い出していく。

 

 綾は眠っている間に精密検査を終えていた。

 医師の説明によれば、脳や顎の骨に異常はなし。幸い、折れたのは歯だけで、他に大きな損傷は見られないという。

 その言葉に、綾は小さく息を吐いた。

 

「私、高梨くんのこと……助けられたのかな?」

「うん。委員長が庇ってくれたから、俺は無事だよ」

「そっか……それなら、よかった……」

 

 天井を見上げ、力を抜いてベッドに身を預ける。

 

「それで……その……」

「歯、だよね」

「うん」

 

 弘世が言い淀むと、綾が先に口にした。

 

「まだ、ちゃんと実感がなくて。落ち着いてはいるけど……少し混乱してる」

 

 弘世の胸に、強い責任感が込み上げる。

 今の自分にできること――それは一つだった。

 

「俺は、委員長の力になりたい。……もし悩むことがあったら、俺を頼ってほしい」

「高梨くんを? よくわからないけど……うん、わかった」

 

 言葉の真意までは伝わっていない。

 それでも綾は素直に頷いてくれた。

 

 やがて病室に駆けつけた両親。

 弘世は怒られる覚悟をしていた。自分が原因で綾の歯が失われる事態になったのだから。

 

 しかし、両親は弘世を責めなかった。

 綾は昔から正義感が強く、困っている人を放っておけない性格だという。特に小さい頃は怪我をして帰ることが何度もあったらしい。

 

 今回は確かに大きな出来事だった。

 だが助けに入ったのは綾自身の意思。だから弘世が必要以上に責任を感じることはない、と穏やかに告げてくれた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 綾は体に大きな異常がなかったため、その日のうちに帰宅できることになった。

 学校も大事をとって、一日だけ休むことになる。

 

 ――その夜。

 

 綾はひとり洗面台の前に立ち、静かに水を溜めた。

 そして、そっと顔を水面へ近づける。

 

「っ……これじゃ、しばらく部活は無理……だよね」

 

 歯茎に鈍い痛みが走る。

 水がしみて、思わず顔を上げた。

 

 見た目の傷はなぜか綺麗に塞がっている。

 それでも痛みは残り、思うように口を動かせない。

 

 これでは、満足に泳げない。

 

「ははっ……ははは…………はぁ……」

 

 力なく笑ったあと、ため息がこぼれる。

 にじんだ涙がぽたりと水面に落ち、小さな波紋を広げた。

 

 次の大会は四週間後。

 練習を重ねなければ勝てる世界ではない。

 しかも三年生。出場できる大会はもう数えるほどしか残っていなかった。

 

 

 ――そして翌日。

 

 思いもよらない出来事が起きる。

 

 岡田陸哉が昨日から帰宅していない。

 その連絡が、彼の両親から学校へ入ったのだった。

 

 

 

 

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