※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第109話 綾の願い

「あ、あばっ……これで、いいですか?」

「ありがとう。昼休み中にごめんね。黒ヤギさん、えらいえらい」

「え、えへへへ……」

「私もぜひ」

「青ジカさんはまだ何もしてないでしょ?」

「そうですけど……むぅぅ」

 

 黒ヤギの被り物をした少女の横には、青い鹿の被り物をした少女。

 そしてその二人の間で、見覚えのある人物が少女の頭を撫でていた。

 

「たか、なし……?」

 

 あり得ない。

 冒険者ではないはずの弘世がなぜ。

 しかも、あのフロアボスを一撃で倒した少女と一緒に。

 陸哉は思考が追いつかなかった。

 

「「グルゥゥゥゥゥゥ!!」」

「あ、また二体出ました!」

「頼める?」

「はいっ!」

 

 どうやらこのフロアは、一体目を倒すと追加で二体出現する仕組みらしい。

 青ジカの少女が前へ出る。

 軽く手をかざした、その瞬間――

 

「は……?」

 

 二体のダガーウルウェンが一瞬で凍りついた。

 続けざまに巨大な氷柱が生成され、射出。

 凍りついた魔物ごと粉砕され、砕け散った。

 

「はい、えらいえらい」

「えへへ……ありがとうございます」

 

 弘世が青ジカの少女の頭を撫でる。

 

 呆然とする陸哉は、口を開けたまま動けない。

 自分が三十分かけても倒せなかった相手を、まるで雑魚のように処理した。

 しかも続けて二体も。

 

 そして、その中心にいるのは弘世だ。

 その弘世が座り込んでいる陸哉の前まで来て告げる。

 

「岡田くん。まずやるべきことは、委員長に謝ることだ。そのあとで、ちゃんと罪を償う。それだけだよ」

「高梨、お前……っ」

「俺のこと、憎いんだよね? なんで周りに女の子がいるんだって。正直、俺もこうなって戸惑ってるよ。……多分、ちやほやされて、少し浮かれてたんだと思う。そういう態度が、岡田くんをイライラさせたんだよね」

 

 温厚で受け身だったはずの弘世も、ちやほやされすぎて環境に流されていた。

 昨日の陸哉の罵倒でそれを自覚した。

 

「わかってるなら……わかってるなら……っ」

「いいよ。本当は俺を殴りたかったんだよね。ほら――」

 

 腰が抜けたままの陸哉の腕を掴み、強引に立たせる。

 そして無防備に立ち、拳を受ける構えを取った。

 

「何なんだよ……何なんだよ、おまえええええっ!!」

 

 なぜ助けたのか。

 なぜここにいるのか。

 なぜ、殴られようとするのか。

 

 理解できないまま、陸哉は拳にギフトの光を宿す。

 渾身の力で――弘世の左頬を打ち抜いた。

 

 シュウウ……と、弘世の頬と拳の間から白い煙が立ちのぼる。

 だが――弘世は一歩も動かなかった。

 吹き飛びもせず、傷ひとつ負っていない。

 

「お、おま――ぶへぁっ!?」

 

 渾身の一撃が通らず呆然とした次の瞬間。

 弘世の右拳が、陸哉の頬をまっすぐ打ち抜いた。

 

 本来なら吹き飛ぶほどの威力ではない。

 だが脚がぐらつき腰が抜けていた陸哉は、あっさりと地面に転がる。

 

 弘世の体には、麻未のギフト『保護』による防護膜が張られていた。

 その事実を陸哉が知るはずもない。

 

「バカヤロウっ!! 勝手に逃げるな! 勝手にダンジョンに潜るな! 勝手に死のうとするな!」

「あ……う……っ」

 

 弘世がここまで露骨に怒りをぶつけるのは、ほとんど初めてだった。

 

「俺が少しでも関わったことで、誰かが死ぬなんて絶対に嫌だ! まずは委員長に心から謝れ! 許されないかもしれない! それでも謝り続けろ!!」

 

 怒涛の叱責に、陸哉は言葉を返せない。

 

「ああ……手、痛いな。やっぱり冒険者ってすごいよ。俺には無理だ。岡田くんのこと、正直ちょっと羨ましい」

「何、言って……」

 

『保護』は自分から攻撃した時には効果を発揮しない仕様だった。

 だからこそ、弘世の拳はきちんと痛んでいた。

 

「あ……そうだ。ダンジョンの外に、岡田くんのパーティーの二人がいたよ。冒険者ギルドの職員に封鎖されて中には入れなかったけど、仲間がいるんだって、必死に叫んでた」

「あいつら……っ」

「暴力を振るった君にも、心配してくれる仲間がいる。ならさ――その相手にも、大事に思ってる仲間や友達がいるって、想像できなかった?」

「…………」

 

 和樹や悠斗が傷つくのが嫌なように。

 弘世にも、綾にも、友達や仲間がいるのだ。

 傷ついていい人間なんて、誰一人いない。

 

 その当たり前を、ようやく実感したのか。

 陸哉は唇を震わせ、小さく呟いた。

 

「ごめん…………」

「その言葉、俺じゃなくて委員長に言ってあげてね」

「……あぁ」

 

 陸哉は力なくうなだれ、壁に背を預けた。

 

「――『ハイヒール』」

「これ、は……」

 

 黒ヤギの少女が放った回復魔法の光が、陸哉の身体を包む。

 裂けた傷がふさがり、痛みが引いていく。

 

 だが――まだ終わりではない。

 

「ここで見た三人のことは、絶対に口外しない。――私と岡田陸哉の間に『誓約』を結ぶ」

「……ああ?」

 

 意味を理解する暇もなく、ギフトは即座に発動された。

 有無を言わせぬ圧に、陸哉は従うしかなかった。

 

「よし、これで終わり。上に戻ろう」

「は? どうやって――」

「いいから、こっち」

 

 弘世が陸哉を引き寄せる。

 四人が身を寄せた瞬間――

 

「――『転移』」

 

 黒ヤギの少女の声とともに、視界が歪んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「岡田くん。わかってるよね?」

「……わかってる」

 

 気づけばダンジョン入口、ゲート前だった。

 

 もはや陸哉は驚かなかった。

 先ほどまでに見た出来事が、現実味を失わせていた。

 

 弘世は逃げないよう念を押す。

 陸哉は一人、ゲートへ向かって歩き出した。

 

 一度だけ振り返る。

 そこにはもう弘世たちの姿はなかった。

 

「――岡田陸哉だな。ギフト不正使用の容疑で逮捕状が出ている」

「……はい」

 

 ゲートの外で待っていたのは警官たち。

 周囲には冒険者ギルドの職員が立ち、入口は封鎖されている。

 

 ギフトは、本来人が持つには過ぎた力。

 未成年であっても、罪は罪だ。

 

 綾の口元に残っていた魔力の痕跡。周囲の証言。そして学校からダンジョンへ向かう防犯カメラ映像。

 わずか一日で、すべては揃っていた。

 

 陸哉は抵抗せず、警官に手錠をかけられた。

 そのまま近くのパトカーへ向かい、乗り込もうとした――その時だった。

 

「おい! 陸哉! お前、俺たちをバカにしてんのか!」

「 『わるい。バカやった』ってメッセージだけで分かるかよ!!」

 

 警官に制止されながらも叫んでいるのは、<豪拳ギルド>の仲間、石田和樹と飯田悠斗だった。

 

「お前ら……」

「まず俺たちに相談しろよ! クソバカ!」

「……俺たち仲間だろうが!」

 

(なんでだよ……こんなクズみたいな俺に、どうしてそこまで……)

 

 パーティーとして、それなりに上手くやってきた自覚はある。

 だが、ここまで必死に叫び、自分を思う言葉をぶつけてくるとは思っていなかった。

 

「一緒に上を目指すって言ったじゃねえか!」

「夢を語ったのはお前だろ! なのに……っ!!」

「悪い……悪ぃ……っ」

 

 涙声で謝る陸哉は、警官に促されるままパトカーに乗り込む。

 そして、窓越しに二人の姿が遠ざかっていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 岡田陸哉が逮捕された、その日の夕方。

 

 放課後のプールサイドに、一人の少女が立っていた。

 水泳部の練習はすでに終わり、辺りに人影はない。

 

 競泳用水着に身を包み、水泳帽をかぶった少女はスタート台へ立つと、勢いよく水面へ飛び込んだ。

 左右交互に水をかき、淀みのない美しいフォームで泳いでいく――だが。

 

「ぐっ……」

 

 半分も進まないうちに、少女は顔を上げた。

 やがてプールサイドへと上がる。

 

「やっぱり……無理、か……」

 

 塩素を含んだ水が、容赦なく口内にある歯に染みる。

 

「委員長……」

 

 呼びかける声に、水泳帽を外し、ゴーグル越しに振り向いた。

 

「あはは……高梨くんか。今日は休めって言われてたのに、来ちゃった」

「あれだけ泳ぎたいって言ってたから……もしかしてって」

「余計な心配、かけちゃったね……」

 

 弘世だと気づき、委員長――溝辺綾は度付きのゴーグルを外して歩み寄る。

 その瞬間だ。

 

「きゃっ!?」

「委員長!?」

 

 視力が悪いせいか、何もない場所で足をもつれさせる。

 とっさに弘世が滑り込むように支え、綾を受け止めた。

 

「委員長、大丈夫……?」

「あ、う……高梨くん……ごめん……制服、濡らしちゃった」

 

 水着に付着していた水が弘世の制服を、あっという間に濡らしていた。

 

「それはいいんだけど……って、委員長?」

 

 綾は弘世の上にまたがったまま、動こうとしない。

 

「うっ……うぅ……あぁ……泳ぎたいよぉ……っ」

 

 次の瞬間、弘世にしがみついたまま、綾の感情が堰を切ったように溢れ出した。

 弘世は彼女を支え、なんとか体を起こさせる。

 プールサイドにぺたりと座り込み、綾は子どものように泣き続けた。

 

「高梨くん……助けてぇぇ……っ」

 

 綾は覚えていた。

 昨日、病室で弘世が言った言葉を。

 

 ――俺を頼ってほしい。

 

 その綾の姿を見て、弘世は覚悟を決めた。

 

 反動の強さゆえに、はっきり伝えられなかったこと。

 それを説明するために、静かに口を開いた。

 

 

 

 

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