美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「弘世〜っ!」
「ひびき!」
午後二時頃。
人々が賑わう繁華街。商業ビルが立ち並び、若者たちが交差点を行き交う。
そんな街で二人は待ち合わせをしていた。
もう二人が出会ってから三ヶ月近くが過ぎ、恋人にもなったのに、これが外での初デートだった。
会う時は必ずどちらかの家だったし、二人ともそれで満足していた。ほとんどが互いの体を絡め合うために会ってはいたが、今日は違う。
ひびきは可愛い白のコートを身に纏い、弘世はダウンジャケットを着ていた。
クリスマスを目前に控え、今日二人は初めての外デートを楽しむのだ。
「わっ……」
「ふふ、良いでしょ?」
「いいけど」
待ち合わせ場所に来ると、ひびきはすぐに弘世の腕に絡みつき寄り添った。
その時にふわっと香ったひびきの匂い。今日のひびきはいつもより良い匂いがした。外用の香水なのか、それが特別感を演出しているように感じた。
向かった先は服屋さん。前々からひびきは弘世の服装をどうにかしたいと思っていた。なので、今日はまず彼に似合う服を選びに行くのだ。
「てかさ……弘世の顔、綺麗になってるよね?」
「あ、気付いた?」
商業施設のとあるショップで服選びをしている途中、ひびきが弘世の顔をじっと見ながら聞いた。
「なんかツルツルだし、吹き出物もないし……男子でここまで綺麗な人見たことないよ」
「そこまで気づいてるなら、俺が何したかもわかるよね?」
「スキル、だよね?」
「正解」
弘世は自分の顔にもスキルを使っていた。
正直、自分の顔や美容には無頓着だったのだが、最近になってやっとひびきのような可愛い子と並んで歩くには自分のこともどうにかしなきゃいけないと思いはじめたのだ。
そこで、まず試したのが『肌質改善』だった。
「うん……良い! すごく良いよ! だって肌が綺麗になっただけで清潔感凄いし、かっこよくなったと思うもん! スリスリしたい〜っ」
「ほんと? 嬉しいなぁ……ひびきのためにもっとかっこよくなりたい」
「えー、どうしよっかなぁ。弘世がかっこよくなったら女の子にモテちゃう」
「それ以前にひびきとか小春とか、霧乃がいるから手一杯なんですけど……」
「あはは〜、そっか!」
もし、弘世がこれからモテたとしても、他の女子には目移りしない。
そんなふうな話を聞けて、ひびきは上機嫌になった。
ひびきが選んだ服を買い終えると良い時間になったので、二人はカフェに入ることにした。
やってきたのは、同じく商業施設の中にあるカフェ。
美味しそうなスイーツがメニューに並ぶ中、ひびきと弘世はそれぞれパンケーキを頼んだ。
そうしてパンケーキがやってくると、ひびきは目を輝かせながらフォークとナイフをとった。
「おいしーい!」
「ほんとだ……あんまりこういうの食べないから新鮮だよ」
「陰キャ〜」
「うるさい。でも、ひびきがいなかったらずっと来なかったんだろうなぁ」
「なら、してないことたくさんしよっ?」
するとひびきは切り分けたパンケーキをフォークで持ち、それを弘世の口元へと運んだ。
「弘世、あーん」
「あーん……ありがと」
周囲に他のお客さんがいるので、弘世は顔を赤くして恥ずかしがったが、ひびきはそれを気にせずにあーんをさせた。
「私にも!」
すると、ひびきもあーんをねだる。
弘世は「わかったよ」と嘆息しながらも、自分の切り分けたパンケーキを口元へと運んだ。
「はい、あーん」
「あーーーーーーんんっ!?」
そんな時だった。
あーんをしているひびきの目線にとある二人組の女子が映り込んだのだ。
ちょうど左斜め前の席だ。
しかも、その二人組の女子がひびきを驚きの目で見つめていた。
だからひびきはパンケーキを口に入れた瞬間に咳き込んでしまった。
「ご、ゴホッゴホッ……」
「「ひびき……?」」
その二人組の女子とは――
「ひまにうみりん!?」
ひびきの仲の良いクラスメイト――元矢陽鞠《もとやひまり》と井原海莉《いはらうみり》だったのだ。
「あ…………」
遅れて弘世も気づき、そして陽鞠と海莉と目が合ってしまう。
「ま、まじか……高梨じゃん」
「ほんとだ、高梨」
「えっと……こんにちは」
弘世の顔を見て、二人はすぐに誰なのかを言い当てる。
一方の弘世は気まずそうに軽く会釈をした。
「うみりん!」
「だよねぇっ!」
すると全て言わずとも二人の中で意見が合致した。
二人は立ち上がり、ズンズンと弘世とひびきの元へ近づいてくる。
「ひびき〜? さすがに話聞かせてもらうかんね?」
「ちょ、ひまっ!」
「高梨〜、とりあえず奥に詰めてもらって〜」
「えっ、あ……」
陽鞠はひびきの隣へ。海莉は弘世の隣へと移動し、一緒のソファへと座ることになった。
元矢陽鞠は三人の中では一番身長が高く、橙色の髪を背中に流し、顔つきがキリッとした大人っぽい美少女。ギャル風ではあるが本人曰くギャルではない。
もう一人の井原海莉は薄青の髪をショートスタイルにしており、形の良い耳にはピアスが見える。こちらも美少女であり、男子からは屈託のない笑顔が可愛いと言われている。
ひびき含めたこの三人がクラスではカーストトップ。陰キャでは近づけない美少女三人組である。
(ひびき、ひびきっ! どうするの!?)
(もう、言い逃れはできない。スキルのことは言わないから! 安心して?)
(わかった……)
そうアイコンタクトで二人が会話すると、それを見ていた陽鞠と海莉が「何二人で通じあってんのよ〜」と言う。
「――結局、二人は恋人ってことで良いの?」
「うん。そうだよ。今まで言えなくてごめんね」
「いやいや、謝ることないって! でも、やっぱり彼氏いたんだってなった」
「違うの。彼氏になったのは最近……きっかけは言えないけど、仲良くなり始めたのが三ヶ月くらい前」
「ひびきの付き合いが悪くなりだした頃だっ」
「うん……それで、会っていくうちに好きになって、やっと付き合うようになったんだ」
その話を聞き、陽鞠と海莉が顔を見合わせる。
説明するひびきが恥ずかしそうに女の顔をしていたからだ。二人ともこれはマジだ、と思った。
「あれ……よく見たら高梨もちょっとイケメンになってる?」
「あ、ホントだ。何が変わったんだろ。普段見てないから違いがわかんないや」
海莉の指摘に陽鞠が首を傾げる。
弘世は陰キャというほどでもないが、陽キャでもない。ただ、普通なのだ。だから特徴がないし、見た目で女子に好かれる要素はなかった。
「俺は別に何か変わったわけじゃないよ。ひびきと仲良くなれたのだって、ホントたまたまだったから」
「へえ、普通に喋れるんだ」
「もごもごして私らとは喋れないかと思ってた」
(美少女たちと関わるようになって、耐性がついたのかな……)
三ヶ月前までは弘世だってひびきにすら物怖じしていた。でも、それは仲良くなっていくうちに自然と慣れていった。それに小春や霧乃のことだってある。弘世は明らかに美少女に対して耐性がついていた。
「じゃあ、高梨がひびきを脅して手籠めにしてるわけじゃないんだ?」
「ちょっとひま! 言って良いことと悪いことあるよ。弘世はそんな人じゃないっ」
陽鞠の言動にひびきが怒る。
「ひびきごめん〜っ。……だってさ、ひびきがあたしらの立場だったらそう思うでしょ?」
「それは……でも、私と弘世はちゃんと交際してるの! そこに脅しがどうだとかはないの!」
「ほんとにひびきは高梨のことが好きなんだね」
「だから付き合ってるの〜っ!」
陽鞠と海莉は二人の交際についてまだ信じきれていなかった。ひびきからの好きオーラは出ているが、それでも疑いの域を出ない。
こんなに可愛いひびきが弘世を好きになる要素がどこにあるのか、と。
優しいだけの男ならどこにでもいるし、弘世レベルの顔などどこにでもいる。
それなのに、ひびきは数ある男の中から弘世を選んだのだ。
でも、ここまでくれば、二人だってひびきの言葉を信じるしかなかったのだ。
「そりゃー綺麗にもなるか〜。メスの匂いがぷんぷんしてるもん!」
「…………もうヤッた?」
「ちょっと言い方!」
(もうヤッたというより、ヤリまくってるんだけどね……)
ひびきは思う。
しょっぱなから関係が進みすぎて、二人の想像を超えることをしている。
だから夜の情事の話はしない方が良いと決めたのだった。
「でも良いな〜最近のひびきさ、なんだか幸せオーラでてたもん」
「……あ、いつも教室に入ってくる時、本当は高梨に挨拶したかったんだ!」
「それで……! 毎回中途半端な顔してたもんね」
「だって好きな人が同じクラスにいたら、おはよー! って挨拶したいじゃん!」
「じゃあすれば?」
「え?」
「明日からすればいいじゃん」
ひびきは今まで弘世に気を使って挨拶はしなかった。弘世にひびきと仲良くなったことを公にしようという考えはなかったし、ただ、今回交際したことで仲の良い二人には話しても良いのではないかと思っていたのだ。
「弘世……どう?」
ひびきは目をうるうるさせて、あざとく見つめた。
「ひびきがそこまで言うなら俺も良いけど。でも……恥ずかしいな」
「別に付き合ってることを公にしろって話じゃなくてさ、挨拶とか普通に喋ることくらいしても良いんじゃねって話」
「それなら……いっか。ひびきにも我慢してたんだよね。気づかなくてごめんね」
「ひろせぇ〜〜〜っ」
そう言ってくれたことが嬉しくて、ひびきは甘えた声を出した。
隣に座っていたら、ぎゅっと抱き締めていただろう。
「うわお」
「こういう感じになるのか」
そんなひびきの姿を見た陽鞠と海莉は本当に二人は仲が良いのだと感じたのだった。
そして、弘世とひびきはギフトやスキルのことを疑われなくて良かったと胸を撫で下ろした。
◇ ◇ ◇
――翌日、学校にて。
「ねえねえ、私も弘世って呼んでいい? あ、私のことは陽鞠とかひまとかで呼んでいいよー」
「じゃあ私も弘世って呼ぶー。私のことはうみりんでよろっ」
「……そっちは良くても、俺がいきなり名前呼びするのはさすがに抵抗あるよ」
朝、ホームルーム前の教室で、弘世は陽鞠と海莉に囲まれていた。
まだ登校していない生徒の机を勝手に借り、弘世の右側と後ろ側に座っていたのだ。
そして、その前の席に座る弘世の友人、葛原大和《くずはらやまと》は今何が起きているのかと口をわなわな震わせていた。
「おい弘世! お前何したんだよ! どうなってるんだ!?」
「色々あったんだよ……」
「それに、お前最近変わったよな。少しかっこよくなったっていうか……雰囲気はあんま変わってないように見えるんだけど」
大和はまじまじと弘世を見つめるが、いつも一緒にいる彼にとっては、弘世の変化はそこまでわからなかった。確かに肌はかなり綺麗になったが、言うならばそれだけだ。
「葛原だっけ。あんたも私たちと喋るー?」
「はぁ!?」
「役得ってやつ〜? あははっ」
と、大和が話していると、陽鞠と海莉が少し茶化す。
そして大和がキョドっている反応に笑っていた。
「あー! 何してるの!!」
と、そんな時だった。登校してきたひびきが、開け放たれていた教室の扉から弘世が友人二人に囲まれている姿を発見。
ひびきは今日、登校したらすぐに弘世に挨拶をして喋ろうと思っていたのだ。
なのに、自分より先にそれをしているなんて――
「ちょっとひまとうみりん! なんで先に弘世と喋ってるのよ!」
と、教室の誰もが聞こえる音量で喋った結果、その場にいたクラスメイトがざわざわしはじめた。
「え、高梨……?」
「高梨と林道が? それに、なんて元矢と井原まで……」
「あいつ何したんだ? 先週までこんなんじゃなかったはずじゃん」
明らかな異変にクラスメイトたちはこぞって弘世がいる席に視線を向けた。
ただ、ひびきはそのことを気にしない。
「え、だって喋るって言ってたじゃん」
「ね。ひびきが喋るなら私らも喋るに決まってるし」
「決まってるしじゃなーい! 私が最初に喋りたかったのにぃ〜〜〜っ!」
カバンを持ったままひびきは、そのまま弘世の席までやってきた。
「葛原くん!」
「はい!?」
「席代わって!」
「は!? え……はい」
「ありがと!」
有無を言わせないひびきの圧に大和は負け、席を明け渡した。
これで窓際の席である弘世は完全に女子三人に囲まれることとなった。
「――弘世。この二人とは喋らなくても大丈夫だからね? 私と話そっ」
「ちょっとひびき〜、同じクラスメイトなんだから独占は良くないんじゃないかー?」
「そうだよ〜。私らにも喋る権利くらいはあるじゃん?」
「良いから二人は席に戻ってよ。私がどれだけ教室で弘世と話すのが楽しみだったと思ってるの!」
「あははは…………」
三人の言い合いに苦笑いする弘世。
この後、ひびきと弘世が交際していることは、すぐにクラスメイトに知れ渡ることとなった。
皆こぞって「なんで高梨が」と口にしたが、その経緯を知る者はこの教室には誰もいない。交際に至った本当の経緯は陽鞠や海莉だって知らないのだから。
この出来事が皮切りとなり、弘世はクラス内で突如としてカーストトップまで駆け上がることとなった。