美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「――今よ! 行って瑞希《みずき》!」
「任せて!」
白の法衣を纏った灰髪の魔法使いが、腐臭を放つ巨大な邪炎竜『ヴォルカヘイズ』に杖を掲げて雷撃を放つと、身体が硬直し一瞬の隙ができる。
その隙を見逃さず白銀の甲冑を身に纏い金髪を背に流す流麗な剣士が長剣を握り締めて巨体の首元に肉薄。ギフト『万刃《ばんとう》』のスキル『真空斬り』を以て、『ヴォルカヘイズ』の硬い鱗へと斬撃を放った。
斬撃を受けた『ヴォルカヘイズ』の首から血しぶきが舞うも、その傷はまだ浅い。
「――瑞希、どいて」
「わかったわ!」
すると後方にいた黒いローブに大きな三角帽子を被った少女──前髪が切り揃えられた黒髪の魔法使いが動く。その手には何も持ってはいないが、両手を前に出し、巨大な炎塊《えんかい》を作り出す。
その膨大な魔力エネルギーが目の前でぐんぐん大きくなると、手元から一気に解き放った。
放たれた炎塊が勢いよく『ヴォルカヘイズ』の顔面に直撃――したはずだったが、大きく口を開けた『ヴォルカヘイズ』がそのまま炎塊を飲み込んでしまう。
「なに!?」
金髪の剣士に動揺が走る。
「確実に効くのは瑞希の斬撃——」
「二人でサポートするから削っていって!」
「わかった! 頼んだよ、亜澄《あすみ》! 遥《はるか》!」
体勢を立て直し、三人息を合わせて、再び『ヴォルカヘイズ』へと向かってゆく――。
――そうして戦闘を開始してから約一時間。
『ヴォルカヘイズ』の大きな尻尾が千切れ、左前足が切断され、右目の眼球までもが潰されていた。体中からおびただしいほどの血が流れており、誰が見てもあと少しで討伐できる状態だった。
「もう一踏ん張り!」
——クリスマスのこの日、<天地ギルド>に所属するAランク冒険者の法坂瑞希《ほうさかみずき》、秋瀬遥《あきせはるか》、宍戸亜澄《ししどあすみ》の三人は東京都渋谷区に出現したBランク上位ダンジョンの最奥に佇むボスへと挑んでいた。
彼女らはAランク中位までのダンジョンであれば、危なげなく攻略できる実力を持っている。ただ、今日のBランク上位ダンジョンのボスはいつもと毛色が違っていた。
宍戸亜澄のギフト『炎豪《えんごう》』から放つことができる強力な火魔法がほとんど効かず、ほぼ二人で戦っているようなものだったのだ。ただ、それでも『ヴォルカヘイズ』が口から吐く炎を相殺することはできていたため、壁役としては役に立っていた。
多少苦戦はしたが、瑞希たちは『ヴォルカヘイズ』討伐まで、あと一歩の所まで来ていた。
「遥っ!」
「――行くよ!」
遥が杖を天にかざす。すると『ヴォルカヘイズ』の頭上からギフト『天雷』による雷撃が降り注いだ。既に満身創痍の『ヴォルカヘイズ』はそれを避けることすらできず、直撃を受ける。
繰り返し行ってきたダメージを確実に与えるパターン化された攻撃──『ヴォルカヘイズ』の体が雷撃により硬直するとその隙を狙って瑞希がトドメを刺そうと複数の傷がついている極太の首を狙った。
「やああああああ――っ!!」
瑞希はスキル『真空斬り』を発動させる。空気を切り裂きながらその斬撃が『ヴォルカヘイズ』の首元に突き刺さった。そして――
真っ二つとはいかなかったが、半分ほど首を切断。大量の血が吹き出し、ドスンと『ヴォルカヘイズ』の巨体が地に倒れた。ピクリとも動かず、そのまま沈黙──。
「はぁっ……はぁっ……よし……!」
「やったね瑞希!」
「瑞希、お疲れ様」
トドメを刺した瑞希の下へと遥と亜澄が近寄る。
三人でハイタッチを交わし、この後行う予定のクリスマス祝勝会について頭を巡らせた。
そうして魔力の藻屑へと消えゆく『ヴォルカヘイズ』から入手できる素材を手に入れようと向き直ったのだが——
「…………消えて、いない」
通常、ダンジョンの魔物は討伐するとその姿が魔力の残滓となって空に消え、魔物に応じたアイテムがポップアップするように出現、入手できる。
しかし、倒れて絶命したように見えた『ヴォルカヘイズ』の体がまだ消えていなかったのだ。
「――まさかっ!?」
「瑞希?」
咄嗟に瑞希はスキル『魔力視』を発動。このスキルは相手が身に纏う魔力を目視できるようになるスキル。魔力の流れから弱点すら見抜き、その場所を突くことだってできるのだ。さらに攻撃の予兆まで察知することが可能な優れたスキルだった。
今、瑞希の眼には倒れた『ヴォルカヘイズ』の口元に膨大な魔力が集まっているのが視えていた。
「危ない! みんな避け──」
「――――どいて!」
普段はあまり強い声を出さない亜澄が二人の前に出る。
先程まで『ヴォルカヘイズ』の炎を全て防いでいたのは、この亜澄の火魔法だ。
だから瑞希が防御ではなく避けるべきだと判断したにも関わらず、亜澄は火魔法で防ぎきれると前に出た。
「だめだ亜澄っ! 魔力量が――っ!!」
しかし、瑞希の目には視えていた。
先ほどまでとは違い、消えゆく命全てを注ぎ込んだような膨大な魔力が練り上がっていくのを。
「炎の壁よ――!」
亜澄が地面から大きな火柱を立ち上げる。
その瞬間だった。『ヴォルカヘイズ』の口から今までにない強力な赤黒い炎が吐き出されたのは。
「――――ッッ!!」
歯を食いしばりながら亜澄は『ヴォルカヘイズ』の炎に耐える。Aランク冒険者の意地を見せ、必至になって火柱に魔力を注ぎ込んだ。
しかし――
「ぐあああああああっっ!!」
『ヴォルカヘイズ』の炎の勢いに負け、火柱が掻き消えると、そのまま亜澄の体が赤黒い炎で包まれた。
「「亜澄ぃーーーーっ!!」」
火柱が掻き消えた瞬間、亜澄のとった行動は、後ろの二人を守ることだった。
だからたった一人で前に進み、その炎を全身で浴びたのだった――。
◇ ◇ ◇
「亜澄……亜澄……っ」
『ヴォルカヘイズ』との戦闘から数時間後。
夜の九時。既に辺りは真っ暗になっていた。
ダンジョンから帰還した瑞希、遥の二人は、政府が立ち上げた冒険者御用達の病院にいた。
目の前の寝台には亜澄が横になっており、息はあるが意識がない。全身に包帯が巻かれ、点滴のチューブが繋がれ、ギリギリ命が繋ぎ止められていた。
そして亜澄の左半身、顔から足までぎっしりと赤黒い火傷の跡が残っており、見るも無惨な状態となっていた。さらに言えば、この火傷の跡は熱く、素手で触るとじっとりとこちらまで火傷を起こしそうなほどの熱を帯びていた。
「なんで……こんなことに……」
「瑞希……」
瑞希が涙ながらに呟く。
それを慰めるように遥が瑞希の背中を撫でていた。
『ヴォルカヘイズ』は最後の炎を放ったあと、そのまま息絶え消えていった。
しかし、炎を浴びた亜澄は帽子もローブも焼けてなくなり、半裸状態となって倒れた。
亜澄のお陰で瑞希と遥は事なきを得たが、亜澄自身が危険な状態となってしまったのだ。
急いで病院へ運ぶと、知り合いの高位のヒーラーに治癒魔法をかけてもらった。
しかし、右半身の火傷は綺麗に回復したにもかかわらず、なぜか左半身の火傷は全く回復しなかったのだ。
大抵の傷は火傷であってもヒーラー系のギフトで回復する。欠損を直すほどのギフトは世界ではまだ確認されてはいないが、傷であれば治せるのが冒険者の中では常識だった。
そのはずなのに、なぜか亜澄の左半身の火傷は治らなかったのだ。
「――見せてくださいっ!」
そんな時、病室の扉が開け放たれ、一人の女性が入ってきた。
「ふ、冬月さん!」
ギルド職員の冬月沙織《ふゆつきさおり》――『鑑定』のギフトを持つ女性だった。
「——『鑑定』します!」
「お、お願いします! 亜澄がどんな状態なのか教えて下さいっ!」
瑞希はいつもギルドでお世話になっていた冬月に連絡し、この場所に来てもらっていた。
ギルドの仕事が忙しく、遅い時間になってしまったが、冬月はこれでも急いで来たのだ。
「――スキル『鑑定』」
冬月は"眼"を寝台に横になっている亜澄へと向けた。
「………………」
じっと見つめ、そして眼を一度閉じてから瑞希たちに向き直った。
「冬月さん……亜澄の状態は!」
「……説明します。宍戸さんの状態は――――『呪い』です」
瑞希と遥はぎゅうっと自分の心臓が強く締め付けられた気分になった。
「――――え?」
呆気にとられていた二人。
冬月はゆっくりと説明をはじめた。
「『呪い』は、一種のスキルのようなものです。彼女の肌に付着し、こびりつき、剥がれません。これは治癒魔法でも治せないものです。そして、今は意識はないようですが、とてつもない痛みを感じていると思います」
「そ、それって――」
「この痛みは危険です。今すぐにでもどうにかしないと、ショック死してしまう可能性もあります」
「そ、そんな…………」
瑞希は絶望の表情をした。
遥も口を抑えて目から涙を零す。
「――があああああああっ!?」
そんな時だった。
寝ていたはずの亜澄が目を覚ましたのか、いきなり大きな声を上げて苦しみだしたのだ。
「亜澄! 亜澄っ! ど、どうすれば……!」
「とりあえず先生を呼ぼう!」
数分後、医者が麻酔を施すと、亜澄は再び眠りに落ちた。
ただ、その場の空気は最悪だった。
「魔物から『呪い』をかけられた事例はないわけではありません。ただ、これまで『呪い』を完全に回復できるギフトを持つ存在は一握りで、私の知っている限り、今近くにはいません」
「な、ならその人は今どこに――!」
「イギリスです」
「ぁ…………」
瑞希の口から乾いた空気がこぼれた。
「……もう亜澄は助からないんですか? どうにもならないんでしょうか……っ?」
強く握った拳。瑞希は自分の服の裾を思い切り握り締めているからか、布が千切れそうになっていた。
「………………ちょっと待ってください」
そんな絶望を思わせる状況の中、冬月の脳に一つの考えが過る。
「もう一度、宍戸さんの状態を見させていただきますね」
「な、なにを……」
すると冬月は再びスキル『鑑定』を発動。
じっくりと亜澄の体を視ていった。
「結果から言います。助かる可能性が少しだけあるかもしれません」
「えっ!? それはどんな……!」
「よく視ると彼女の火傷の『呪い』は表面だけのようです。もしこれがもっと体内――深部まで達していたのなら、可能性はゼロだったでしょう。しかし――」
冬月はカバンからタブレットを取り出し、何かを検索しはじめた。
「――表面だけなら……恐らくは……回復する可能性があると言えるかもしれません」
それを聞き、瑞希が立ち上がり冬月に迫る。
「それでっ! どうすれば亜澄を治療できるんですか!?」
一番聞きたいのはそこだった。
「お願いします! 私たち……彼女を失いたくないんです……っ!」
加えて遥も立ち上がり、冬月に近づき懇願する。
「……個人情報を明かせば、私はギルドに処分されるでしょう。しかし、目の前で死ぬ危険性がある相手を見てしまっては、私もその処分を喜んで受け入れるつもりです。ただ、彼には申し訳ないとは思いますが……」
すると冬月は、何かの検索に使っていたタブレットを瑞希たちの方へと向けた。
「私の予想が正しければ、彼なら宍戸さんの『呪い』を回復させることができるかもしれません」
「ぁ……ぁ……っ」
タブレットに表示されていた情報を見て、瑞希は声を震わせた。
そして、冬月は言う。
「宍戸さんの『呪い』を回復させられるかもしれないギフトを持つ、彼の名前は――」
◇ ◇ ◇
「――弘世! ちょっとは手加減してよぉ〜〜っ!」
「俺はゲームでは手加減しない主義だから」
十二月二十五日。
このクリスマスの日にひびきは弘世の家を訪れていた。今、弘世の部屋では格闘系の対戦ゲームをしている真っ最中だった。
「弘世くんだってハンデつけてあげてるんだから、ひびきちゃんが弱すぎるんだよ」
「さすがに十連敗は……ひびきちゃん、そろそろ交代の時間ですよ」
加えて小春と霧乃も弘世の家に一緒にいて、四人でクリスマス会を開いていた。
昨日のクリスマス・イブは弘世とひびきの二人で過ごし、今日のクリスマスは元々四人で一緒に遊ぼうと予定していた。
日中は外に出て遊び回ったのだが、夜はこうして弘世の家にお邪魔して遊ぶことになった。
弘世の母親と父親もいたのだが、まさか美少女三人が一気にやってくるとは思わず腰を抜かした。母親の穂香だけはひびきとは何度か会ったことがあったが、息子がさらに二人の美少女を連れてくるなんてさすがに思ってはいなかったのだ。
そんなこんなで現在、絶賛クリスマス会を楽しんでいた四人。
「う〜〜〜〜。次から勝った人が一枚服脱いで!」
「なにそれ!?」
「脱衣ゲーム!」
「なんで勝った人が脱ぐの!?」
「つまり弘世がわざと負けたら、私が服脱ぐんだよ?」
「いや……それは……って、わざと負けても嬉しいの!? ひびきはそれでいいわけ!?」
「あ、今少し悩んだー。想像したでしょ……弘世のえっち♡」
そんなことをすれば、いずれ流れでその先までしてしまうかもしれない。
しかし、弘世の両親がいる家の中でそんなことはさすがにひびきでもできない。単に弘世をからかっただけであった。
「あ……でも、もう九時過ぎてる。そろそろ帰らないと……」
「あー、私も」
「じゃあ私はこのまま泊まっていってもいいでしょうか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「ひびきちゃんが言うなら……」
小春が時間を気にするとひびきも残念がりながらもそれに同意し、ゲームする手を止める。しかし霧乃だけは泊まる気満々でいたため、それをひびきが阻止。霧乃は渋々了承した。
「なんか……クリスマスの日に一人だけお泊りはずるいじゃんっ! 昨日だって私ちゃんと家に帰ったんだからね」
「昨日、お泊りすればよかったんじゃ?」
「いや……さすがにお泊りは恥ずかしいっていうか……どっちの家になっても親がいるし」
「ああ、私のお家のことを伝えておけばよかったです。私の家なら言付けしておけば、誰も部屋に近寄りませんし、ゆっくりと情事に耽ることができますよ」
以前、弘世が霧乃の家に訪れた時、部屋から風呂場まで裸で行き来しても誰も通ることはなく、霧乃も相当に声を出していたが、何も言われなかった。
「マジ……!? でも霧乃がいるじゃん」
「いますね」
「二人きりになれないじゃん!?」
「大丈夫です。私は見てるだけですから」
「それ絶対途中から突入してくるやつじゃん!?」
本当は別に客室があるが、そうであっても霧乃はマスターキーを使い、突入するだろう。
「もう、霧乃ったら……」
「ふふ、ありがとうございます」
「今、全然褒めてなかったけど!?」
最近のひびきは霧乃がいることで完全にツッコミ役に回っていた。やはり霧乃は少しズレているらしい。
「しょうがないか……。とりあえず今日の所は――――ん?」
立ち上がり、帰る準備をしようとしたひびき。
そんな時、スマホのバイブ音が鳴ったのだ。
「あれ……瑞希姉《みずきねえ》だ」
クリスマスの日になんの用だろうと思いながらも、ひびきは通話ボタンを押した。
「瑞希姉、メリークリスマース!」
出た途端、ひびきはクリスマスの挨拶をした。
しかし、返ってきた返事はメリークリスマスではなかった。
『ひ、ひびきっ! 何でもするから今すぐに助けて欲しい!!』
「え?」
切迫した声にひびきは動揺する。
『亜澄が……亜澄が倒れたんだ! このままだと本当に死んでしまうかもしれない……っ!』
「亜澄……って、瑞希姉とパーティ組んでる亜澄ちゃん……?」
『そうだ! お願いだ……ひびきなら知っているだろ!? ――弘世くんの連絡先を!!』
名前を聞いた瞬間、ひびきは目の前の弘世の顔を見た。
見つめられた弘世は不思議そうな顔をしている。
「知ってる……というか、目の前にいる……」
『っ!! ごめん……今日はクリスマスで、こんなことを頼めるほど私は弘世くんとは仲が良くはない……それに前会った時の印象も良くなかったと思う。でも……お願いだ……今すぐ助けて欲しい……何でも、何でもするからぁ……っ』
電話の向こうから聞こえる啜り泣くような瑞希の声。
「――――わかった。瑞希姉……私が弘世を説得してみせるから、どこに行けばいいかメッセージしておいて」
「ひびきぃ…………あり、がとう……っ」
こんな瑞希の声を聞いたのは初めてだった。
いつも瑞希はお洒落でかっこよくて、強くて、ちょっとうざい。そんな従姉妹の瑞希とはずっと本当の姉妹のように育ってきた。
確かに二人でいちゃいちゃしていた時に突入されて嫌な思いはしたけど、弘世との仲が悪くなったわけではない。だから今は気にしていないも同然だった。
ひびきは通話を切ると弘世に向き直る。
「――弘世……力を貸してほしい。私、弘世の両親にも頭を下げるから……お願い」
いつも何かをお願いする時は、あざとい表情と言い方をするひびき。
しかしこの時だけは、真剣な表情で、かつ真面目なトーンでそう言った。
「ひびき……俺はいつだってひびきの味方だよ。いつでも全力で力になる――だから、俺を使って」
全てを言われずとも、当たり前だよ、と言うように弘世はそう穏やかに答えた。