美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「はっ、はっ……」
弘世たち四人は夜の街を走っていた。
クリスマスがほぼ終わりを告げ、カップルたちは家へと帰ってゆく。
駅へ向かう人々を横目に弘世たちだけは逆方向に走っていた。
クリスマスだからかタクシーがなかなか捕まらず、結局、電車を乗り継ぎ、徒歩で病院へと向かうことになった。
ひびきからの話を聞き、三人はおおよその内容を把握。
だからこそ急いでいた。どれほど切迫しているのかはわからない。でも、早い方が良いと考えるのが普通だった。
本当であれはひびきと弘世二人が行けば良いのかもしれない。しかし、話を聞いてしまっては、小春も霧乃も黙ってはいられなかった。
皆、運動経験などないし、体力もない。だから走るだけでもつらかった。
「ひ、弘世……早いよ……っ!」
「ごめんっ! でも、急がなきゃって……」
それでも男である弘世の足は、女子三人よりは早かった。
既に目的地の病院は見えている。あと少しなのだ。
だから逸る気持ちが先行し、弘世も必死になっていた。
「ちょ、ちょっと休憩……だめ、かも……っ」
「わ、私もです……息が……持ちませんっ」
小春も霧乃も膝に手をついて息を切らしていた。
「なら……弘世だけでも先に行って! 弘世が一番必要なんだから!」
「わ、わかった!」
ひびきにそう言われ、弘世は三人を置いて病院へと一人駆けた。
しかし、そんな時だった。
「――なんか変な音しねーか?」
「……あ、ホントだ。何の音だろ」
そんな声が周囲から続々と聞こえてきたのだ。
「え、なになに。どうしたっていうの?」
「なんだろう……ギギ、ギギっていう音、かな」
同じく異変に気づきはじめるひびきと小春。そして耳を澄ますと、何か鉄が擦れるような音が聞こえてきていた。ただ、それが何なのか誰にもわからなかった。
「――おい! あれじゃないか!?」
一人の通行人が叫んだ。
真っ暗な空に向かって指を差していた。その指先にあったのは――
「かん、ばん?」
ビルの屋上に設置されていた照明付きの看板。その看板が徐々に歩道側に倒れてきていたのだ。
「おい! 逃げろ! 看板が倒れてくるぞっ!!」
真下にいた男性が声を上げた。
すると周囲の人から悲鳴が上がりはじめ、そこから離れるように落下地点の歩道に空間ができたのだ。
しかし、一人だけそのことに気づいていない人物がいた。
「――――弘世?」
ひびきがそう呟いた瞬間、巨大な看板の足がへし折れ、真っ逆さまに弘世が走る歩道へと落下してきたのだ。
彼は気づかない。ただ、いち早く病院に向かうことだけを考え、それ以外のことが考えられなかったのだ。だから、周囲がおかしな反応をしていることにも気付かず――
「きゃああああああああっ!?」
看板が弘世のいる場所へ落ちていくのがわかったひびきは悲鳴を上げた。
もう、だめだと。あの大きさは避けられないと。
――ぐしゃり。
その場にいる誰もが、看板下にいる少年の命が終わったと、そう思っただろう。
看板が地面に激突する直前、ひびきの後方から巨大な氷柱がとてつもないスピードで飛んで行くまでは――。
◇ ◇ ◇
「――ここですか!?」
病室のスライドドアを思いきり開けて、目的の場所へやってきた弘世。
息を切らしながらも大きな声でそう言い放った。
「弘世くん……!」
「法坂さん……に、あれ……冬月さん!?」
「お久しぶりですね。お元気そうでなによりです」
その場にいたのは、ひびきの従姉妹である
「えっと……それは良いんですけど……俺にやれることは……!」
「弘世くんって言ったね。来てくれてありがとう。こっちに来てもらっても良い?」
「あ……
「私のことも知っていたんだね」
弘世は遅れて気づく。知らないわけがない。瑞希と遥と亜澄の三人は冒険者の中でも有名人――もちろん顔を見ただけで誰なのかすぐに理解していた。
弘世は言われた通りに遥の誘導で、一つのベッドへと近づく。
目張りされていたカーテンを開けると、ベッドに寝ている一人の女性を確認できた。
「……………… 宍戸、亜澄さん……」
「『呪い』——通常の火傷ではない『呪い』によるものだそうだ」
病院着で一部隠されてはいるが、左半身が顔から足まで赤黒い火傷で埋め尽くされ、包帯が巻かれていた。見るに耐えないほど酷い有様だった。
ただ、現在は眠っているのか、比較的落ち着いているように見えた。
「高梨さん、先に謝罪しておきます。私はあなたのギフトがそちらの宍戸さんの『呪い』を回復できるのではないかと思い、勝手に二人に対して情報を共有させていただきました。……この度は私の勝手な判断で情報を漏洩させてしまい、大変申し訳ございません」
冬月が深く頭を下げて謝罪した。
「いやいやっ! 謝らないでください! 俺は自分の意思でちゃんとここに来ました! ですからそんなことしなくても……!」
「いいえ。冒険者ギルドの規定にて決まっておりますので、私は何らかの処分または犯罪者として罰されなければなりません」
「俺はそんなこと望んでないので、処分なんてだめです! それに、最初に『鑑定』してもらった時にかけられた言葉……あの時は戦闘系のギフトじゃなくてショックでしたけど、ほんの少しだけ気持ちが楽になったんです。ですからいつかちゃんとお礼をしたいとも思っていましたし……」
「高梨さん……」
胸元がパツパツなスーツ姿の冬月。弘世の言葉が嬉しくて握った拳がふるふると震えていた。ただ、勝手に情報公開したことは許されることではない。
「と、とにかくです! 僕のギフトが宍戸さんを助けられるかもしれないんですよね?」
「はい。高梨さんの持つギフト『美容』の中のスキル『肌質改善』にその可能性があると思っています」
「俺の『肌質改善』ですか……」
スキル名まで言い当てられ、本当に『鑑定』のギフトは凄いものだと弘世は感じた。ただ、冒険者ギルド側が知っているのは、初期に『鑑定』した時の情報だけ。『肌質改善』と『脂肪燃焼』のみ冒険者ギルド側は知っているのだった。
「それでお聞きしたいのですが、最近そのスキルで効果が出た事例はありますか?」
「そうですね……例はまだ少ないですが、肌が赤ちゃんみたいに綺麗になったり、あとは痣が綺麗に消えました」
「痣……。今の宍戸さんの状態ですが、『呪い』が肌の表面にかかっているようなんです。ですから肌の表面なら……」
「消せるかもしれない——か……」
弘世もここまで聞かされてやっと腑に落ちた。
現在の『肌質改善』のスキル内容はこうだ。
<肌質改善>
方法:対象の部位をさする
効果:若返り、肌再生、シワ消し、潤い、ハリ、クマ取り、毛穴収縮、血流促進、老廃物の排出
反動:一定時間体が火照る、敏感になる
これまでの実践経験から肌の細胞を消し、生まれ変わらせ再生させた、という気もするし、若返りで肌の時間を巻き戻っているのではないかとも感じていた。ただ、本当の所は対象の肌がどう変化したのかまではよくわかっていない。
火傷を治癒できるのか。
父親に殴られてできた小春の痣は綺麗に消えた。火傷が痣と同じ傷の一種だとするならば、もしかすると……。
「でも、この火傷は『呪い』なんですよね。正直、俺にも治せるのかはわかりません。でも——ここでやらない選択肢はありませんから……やらせてください」
「弘世くん……ありがとうっ」
「私からもありがとう。亜澄を救ってほしいっ」
弘世の言葉に眉を寄せ瞳をうるうるさせる二人。
「あれ、そういえばひびきはどうしたんだ?」
「多分もうちょっとしたら来ると思いますよ」
「……? そうか。ならよかった」
弘世と一緒に来るはずのひびきがこの場にいないことに疑問を浮かべた瑞希だったが、弘世の話を聞き、一安心した。
「ただ、俺のスキルは効果が出るまでに四週間、そして、実際に肌に手を触れなければいけません。彼女の肌に触れることになりますが、その点は大丈夫でしょうか?」
男性がAEDを女性に使うと訴えられる、なんてことが世間ではよく聞く話だ。意識を失っているとはいえ、弘世にもリスクがある話。
「私と遥が許可する。亜澄の親にも既に連絡はとっている。亜澄の性格上、その点は問題ないと思ってくれていい。体力の面はわからない……でも希望が少しでもあるのならやってもらいたい……」
「——わかりました。では、服を脱がして、包帯も解いてもらってもいいですか?」
「わかった」
すると瑞希がナースコールをし、すぐにやって来た看護師によって亜澄は裸の状態にされた。
「あ、あの!」
「何か問題があるか?」
「いえっ! 右半身は服で隠してもらえると……」
「あっ、気が回らなかった。今隠すから待ってくれ」
左半身の全てが露出すると直視するのがきついほど酷い状態の体が見えた。しかし右半身は綺麗な状態なので、亜澄の大きすぎる乳房が見えてしまっていたのだ。
ただ、隠してもらったことで、余計な邪念がなくなった。
既に看護師は退出し、部屋にいるのは四人。
弘世のスキルについて理解した人のみとなった。
「——では、いきます。スキル『肌質改善』」
弘世の両手に淡く白い光が宿った。
そして、亜澄の焼けた顔から手を当てていった。
「ぐっ……なんだこれ……っ。今までになく全身から魔力が吸い取られていく感覚……っ!」
「高梨さん! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫ですっ! 感覚的に呪いがこっちに移ってくるとかはないから……でも、凄い……吸われる……っ」
恐らく今までとは比較にならない『肌質改善』。『呪い』という強力な負荷が弘世の体にのしかかっていたのだ。
「あれ……」
「どうした?」
「……肌が熱いです……熱くて……このままだと僕まで火傷しちゃうかもしれません……」
「——っ」
包帯や病院着が焼けるほどではなかったが、しばらく手で触れていると低温火傷しそうなほどの温度だった。
亜澄がこのままの状態で生きているのが不思議なくらいだ。彼女が火魔法のギフトを持っているから熱さに耐性があり、生き延びているのかもしれない。弘世はそう思うしかなかった。
そして、タイミング悪くそれが起きてしまう。
「があああああああっ!?」
「わぁっ!?」
突如、亜澄が目をつむったまま、暴れるようにして体をその場で捻ったりして苦しみ出したのだ。
それに驚いた弘世は、肌の温度のこともあったが、亜澄の顔から手を離してしまう。
「っ!? 亜澄……っ! でも麻酔はさっき打ったばかりで……そんなに次々には打てない——っ」
「どうしよう、どうしよう……!」
瑞希も遥も焦り、慌てふためく。その姿は冒険者たちから尊敬されるAランク冒険者とは思えないほどだった。そこにいたのはただの十八歳の女子高生――普通の女の子として、大切な友達を心配しているだけ……誰だってこうなってしまう可能性がある。
「——『軽減付与』」
そんな時だった。
突如病室の扉が開くと、入ってきた黒髪の少女が手をかざし、スキルを発動したのだ。
「あ、あぁ………………」
すると亜澄が落ち着きを取り戻したのか、暴れるようなことはなくなり、また眠りについた。
「小春…………! それに、ひびきと霧乃……!」
少し遅れて到着したのは三人の美少女だった。
「あ、あなたは……」
冬月が目をぱちくりさせて驚く。
「私はひびきちゃんと弘世くんのお友達です。名前は九島小春と言います。ひびきちゃんから今回のことを聞いて、居ても立っても居られなくてここまできました。お邪魔じゃなければ、私にできること、させてください……!」
「いや……こちらこそだ! 私は法坂瑞希、そしてこっちが秋瀬遥で——」
「もちろん知っています。有名ですから」
「それと、小春ちゃんの今のスキルは……」
皆気になっていた小春のスキル。
このスキルは弘世もひびきも知らなかった。
「実は最近覚えたスキルで『軽減付与』と言います。これは痛みを軽減させる私のスキル『痛覚軽減』を他者にかけられるものになります」
「小春……! すごいっ!」
後ろでひびきが喜ぶようにジャンプする。
「あ、ひびき……突然ごめん、こんな時間に……」
「瑞希姉……大丈夫だよ。私、遥ちゃんにも亜澄ちゃんにもお世話になってたし。それに、私ができることはここに弘世を連れてくることだけだったから」
「ありがとう。ひびきには頭が上がらないよ」
「もう、そんなこと良いって。とにかく亜澄ちゃんのことの方が大事。そっちの話し進めよう? 今の感じを見ると何かトラブルが起きてるんだよね?」
ひびきと瑞希とのやりとりを経て、一旦話をまとめ、亜澄の治療法をどうするのか会議することになった。
弘世は『肌質改善』のスキルを使ったが、魔力消費が多い上に亜澄の火傷跡が熱くて長く接触できない。
さらに亜澄は相当な痛みを感じており、このままでは痛みによってショック死する可能性だってある。
まずはこの二点をどうにかしないといけなかった。
「私が『軽減付与』で宍戸さんの痛みを抑えます。今も数時間であれば、スキルの効果は切れないでしょう。思い切り魔力を使えば一度に半日は持つと思いますから、こちらに通い続けたいと思います」
「それは……助かる……。本当に君がここに来てくれて良かった……」
確かにこのタイミングで小春が来なければ、亜澄は治療すらままならなかったかもしれない。
「でも、火傷の熱さは…………」
弘世の手は長く接触させられない。しかも直に触れなければ『肌質改善』は効果を発揮できないため、この件についてはどうしようもなかったのだ。
「——それ、私がどうにかします」
「え?」
ふと、手を挙げたのはこの女所帯の中でも圧倒的に美しい少女——氷堂霧乃だった。病室に入ってからは軽く会釈をしただけで、瑞希たちも気になってはいたが、ひびきの友達なのだろうと思い特に言及はしないでいた。
「霧乃ちゃん……もしかして、さっきのが関係ある?」
「はい……ずっと私のギフト、隠しててごめんなさい。弘世くんが冒険者を目指していた話を聞いていたので、なかなか話せなくて……」
「霧乃……」
それは霧乃の気遣いだった。
戦闘系のギフトを授かってしまった霧乃は別に冒険者など目指してはいなかった。使わずとも生きていけたし、必要ないものだとすら思っていたから。
しかし、つい先ほど必要なギフトとして、彼女の中で意識が変わった。
「——てことは、やっぱりあの氷柱は霧乃の……」
「はい、私がやりました」
◇ ◇ ◇
時は三十分ほど前に遡る。
巨大な看板がビルの屋上から落下し、真下にいた弘世に当たる直前。
ひびきが悲鳴を上げ、もうだめだと思ったその時のことだ。
「——貫いて!!」
霧乃が手を前にかざすと、瞬時に巨大な氷柱が目の前に生成される。それを落下する看板目掛けて勢いよく放ったのだ。
一直線に猛スピードで飛んでいった氷柱は見事弘世の頭上で看板に命中。
ぶつかった衝撃で空高く打ち上がった看板が氷柱からの絶対零度の侵食により瞬間凍結。
「——散りなさい」
最後に霧乃がそう言い放つと、宙に浮かぶ凍った看板が氷の結晶となり爆散——超微細の粒子となって空から降り注いだのだ。
「——雪だ」
空を見上げていた誰かがぽつりとそう呟いた。
その通りで、浮力を得るほどに細かく小さくなった氷がキラキラと空から舞い落ち、まるで雪の降らなかった東京のクリスマスを祝福するかのように幻想的な光景が広がっていたのだった。
その様子を何人もの人がスマホで撮影し、『東京に雪が降った!』とSNSに投稿していた。
「霧乃……あんた……」
「霧乃ちゃん……凄い」
衝撃的な出来事に呆然としていたひびきと小春。ただ、霧乃の視線はずっとその先にあった。
「弘世くん! 行って!!」
大声で叫び、手を振り、走る彼の背中を押したのだ。
弘世が看板に潰されず、命が助かった理由は霧乃のギフト『氷気』によるものだった——。
◇ ◇ ◇
「霧乃……ありがとう」
「こんなところで弘世くんを失うわけにはいきませんから。私、これからは弘世くんのこと、絶対に守ります」
霧乃の強い決意の眼差しだった。
「あ、あの……大変水を差して申し訳ないのですが……霧乃さんと言いましたよね」
「はい」
「もしかして、名字は氷堂、ではありませんか?」
「ええ、そうですけど」
それを聞いた冬月の顔色が寒気を催すように一気に青ざめ、震えた。
「ちょっと待ってください……っ。氷堂霧乃さんと言えば、三十年前――日本に最初のダンジョンが出現した後、冒険者やダンジョンを管理する政府公認の冒険者ギルド——正式名称『冒険者ギルド協会』を立ち上げた
「祖父です」
「っ! 今、日本で一番有名なダンジョン関連企業『株式会社日本ダンジョンギルド』の社長で、アイテムの流通や売買を一般化させた立役者と言われる
「父です」
「……………………」
時間が止まったかのように病室に沈黙が流れる。
「「ええええええええええ〜〜〜〜っ!?」」
次の瞬間、その場にいた全員が驚きの声を上げたのだった。