※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第20話 全てはこの時のために②

 ――氷堂源六(ひょうどうげんろく)は日本中の冒険者やダンジョンを管理・運営する『冒険者ギルド協会』の創設者で現会長である。それぞれの都道府県には『冒険者ギルド協会』の支部が設置されており、その本部が東京都に存在する。

 

 日本で活動する全ての冒険者や各ギルドはこの政府が承認した『冒険者ギルド協会』を通さなければならず、好き勝手ダンジョンに入ることは許されない。

 

 そんな氷堂源六は現在、七十歳を超えているがバリバリの現役で仕事をしている。獣じみた膂力を宿す鍛え抜かれた肉体に加え、鬼のような強面。その威圧的な顔つきだけで、多くの者に恐怖を抱かせている。

 

 一方の氷堂五十里(ひょうどういそり)は、氷堂源六の一人息子であり、大学在学中に起業し、自らの会社を成長させていっていたが、ダンジョンが出現すると同時に方針転換。新たに『株式会社ダンジョンギルド』を創設し、冒険者をサポートするため、ダンジョンで入手できるアイテムの売買や流通経路の確保——『冒険者ギルド協会』や政府と提携し全国展開。今や日本一のダンジョン関連企業に成長している。

 

 同じく氷堂五十里も源六の顔つきを受け継いだのか、こちらもかなりの強面。敏腕社長としても有名であり、彼に口を出せる人はなかなかいない。

 

 氷堂霧乃はそんな二人の血縁者だったのだ。

 

(お、俺……殺される?)

 

 弘世は霧乃と交際せずに最後まで致してしまっていることを考え、恐怖する。

 弘世ですら知っている二人の強面の顔が浮かび、それがバレたらと思うと、自分の命がないのではと思ったのだ。

 

(霧乃の家……その二人の家でもあるってことなんだよな……だからあんなに大きかったのか……)

 

 冬月沙織も本部で仕事をしているため、氷堂源六を何度も見たことがあったが、その顔つきに恐怖していた。だから、霧乃の血縁を知って怯えていたのだ。

 

 ちなみに霧乃の存在をどこで知ったかと言えば、協会本部を歩き回る源六が「うちの孫の霧乃は可愛すぎる」と威圧感ある顔のまま言いふらしていたため、冬月もよく名前を聞いていた。

 

「ごっほんっ! すみません。話が脱線しすぎました……それで、霧乃さんができることとは――」

 

 冬月が会長らと呼び名を区別するためか下の名前で霧乃を呼び、話を戻す。

 

「私のギフトは『氷気』――空気中の水分を瞬間凍結させるほどの冷気を操ることができます。実は小さい頃にこのギフトのせいで体に異変があって、自然と生きるために扱えるようになったんです。ですから、このギフトのコントロールは目を閉じていてもできます」

 

 すると霧乃は人差し指を作り、その先端に小さな氷を生成した。それをみるみるうちに巨大化させていき――弾けるように消滅させた。

 

「凄い……ってことは、霧乃はそれを使って――」

「はい。宍戸さんの火傷、弘世くんの手の両方に冷気を纏わせて温度調節し、熱さに耐えられるようにしたいと思います」

「そんなことまで……」

 

 巨大な氷柱を作り飛ばすこと自体、直接見たひびきと小春は驚いていたが、氷を生成する以前の工程――冷気の温度すら調整し操れるだなんて、開いた口が塞がらないほどだった。

 

「――まとめると、九島さんが宍戸さんの感じる痛みを抑え、霧乃さんが冷気で肌の表面温度の調節をし、高梨さんが宍戸さんの火傷を治療する……ということですね」

 

 冬月がわかりやすいようにこれまでの話をまとめ――そして、これならいけるかもしれないと目を輝かせる。

 

「――私たちって、全てはこの時のために集まった……って、感じだね」

 

 小春がぽつりと呟いた。

 

「凄い、偶然……だけどね」

 

 亜澄の治療は恐らく、この三人の誰が欠けてもうまくいかない。だとしたら、三人が友人となり、この場所へ導かれたのは、まさに宍戸亜澄を助けるためではないのか――そう思っても良いくらいの偶然だった。

 

「皆が役に立とうとしているのに、私だけなんにも……」

 

 ただ、一人だけ顔色が優れない少女がいた。――ひびきだ。

 

 しかし、それは違った。

 ひびきが弘世に声をかけなければ、弘世は小春と出会わなかったし、ひびきが霧乃に声をかけなければ、霧乃は弘世と小春とも出会わなかった。

 

 だからこの四人の出会いは、全てひびきから始まったものなのだ。

 役に立っていないことなど、ありはしないのだ。

 

「ひびきちゃん……それは違うと思います。この治療法が本当に合っているのか。それを確実にするための最後の一押し——ひびきちゃんには、それができるのではないでしょうか」

 

 すると、そんなひびきの気持ちを汲んでか、霧乃がひびきが今役に立てる一番のことをふんわりと告げる。

 

「ぁ――――」

 

 ひびきはすぐに気づいた。

 そして、眠っている亜澄に近づくと瞳に魔力を宿らせるようにスキルを発動し――

 

「…………光ってる……しかも……三人共」

 

 ひびきは振り返る。

 弘世、小春、霧乃の三人が微笑んでいた。

 

「はは……霧乃の言う通りだったみたい」

「ひびきちゃんはいつでも、どんな時でも、役に立っていますよ」

「もう、嬉しいこと言うなぁ……」

 

 小さくひびきの瞳が揺れた。

 

 ただ、今のひびきの行動が理解できない人が、一部この場にはいた。

 

「すみません。どういうことでしょうか?」

 

 冬月沙織だった。

 冬月は『鑑定』のギフトを持ってはいるが、勝手に人を『鑑定』したりはしないし、全ての人のギフト・スキルを把握しているわけではない。

 

 さらに言えば、ひびきが新たに覚えたスキルのことを瑞希も遥も知らなかった。

 

「私の持つギフトのスキルには『叶者探索(きょうしゃたんさく)』というのがあって、これは対象が潜在的に一番求めている相手が強く光るといった効果があります」

「そんなスキルが……」

「そして、今私は亜澄ちゃんを対象にしました。そして彼女の体が潜在的に求めている人――つまり、光った人は弘世、小春、霧乃の三人だったんです」

 

 ひびきも初めてのことだった。

 今までは一人に対して光る相手は一人だけ。しかし今回は三人同時だったのだ。

 

 つまり、亜澄はこの三人が同じレベルで必要だと言っているということになる。

 他にも必要な人がもしいるのであれば気づくことができないが、ひびきは感覚的にこれ以上必要な人はいないと感じていた。

 

「ひびきちゃんのスキルで、宍戸さんを救える人が私含む三人だとわかったんだね」

 

 小春が言った。

 

「ひびき……言葉に、ならない……」

「こんな偶然、本当にあるんだ……っ」

 

 瑞希も遥も、あり得ない状況に声を震わせた。

 

「じゃあ、霧乃――」

 

 弘世がそう言うと霧乃が頷き、一緒になって亜澄の眠るベッドへと近づいた。

 

「皆さん。では、もう一度やります。——左半身だけなら、一時間以内に終わると思います」

「弘世くん。自分のスキルに集中してもらって大丈夫ですからね。私は完璧にあなたと宍戸さんを包みますので」

「霧乃……頼もしくなったなぁ……」

 

 霧乃のあまりにも頼りがいのある言葉に弘世も関心するしかなかった。

 

「二人とも……頼む。亜澄を助けてやってくれ……っ」

「私たちの親友を……お願い、します」

 

 瑞希と遥が、弘世と霧乃の背中に願うように声を飛ばした。

 

「行きます――スキル『肌質改善』」

「冷気よ――包んで」

 

 弘世と霧乃――そして小春のスキルによる、四週間に渡る宍戸亜澄の治療が始まった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「はぁっ……はぁっ……くっ……!」

「弘世……頑張って……!」

 

 眠る亜澄の左半身をさすり、弘世から多くの魔力が失われてゆく。

 床には瑞希が用意した複数の魔力回復ポーションの瓶が転がっており、それを飲まないと継続できないほど魔力が使われていた。

 

 弘世はこれまでに三人に対してスキルを使ってきてはいたが、全身をやるとなると一日に一人が限界だった。部分的にやるのであれば何人もできるが、基本的には一日一人だ。

 

 亜澄だって通常の火傷だったなら、いつも通りに施術できただろう。

 しかし今回の『呪い』は特別で、膨大な魔力を消費することでしか『肌質改善』のスキルを使用できなかったらしい。

 

「今日で……最後だ……やるぞ……っ」

 

 後ろには冬月以外の全員が揃っており、弘世と霧乃がスキルを行使する様子を眺めていた。

 

 ただ、一番大変だったのは弘世でも霧乃でもなかった。

 亜澄の治療を行う上で一番大変だったのは小春だった。

 

 小春のスキル『軽減付与』は自分の持つ多くの魔力を使っても一度に約半日の持続が限界だった。

 

 それ故に朝、学校に行く前に病院に寄り、下校した時また病院に寄ってスキルを使った。ただ、弘世と同じく魔力回復ポーションを使わなければいけなかったので、こちらも瑞希が用意したものを飲ませてもらっていた。

 

 痛みによるショック死をさせないため、小春は四週間毎日、病院へと通っていたのだ。

 

「――終わった…………」

 

 弘世の両手から淡く白い光が消えてゆく。

 

 四週間、計八回。

 クリスマスの日から年を跨ぎ、一月の中旬を過ぎた頃。

 こうして亜澄の治療は全て終了となった。

 

「あとは待つだけです。これで効果が出れば良いんですけど……」

「ありがとう……本当にありがとう……っ」

「弘世くんに霧乃ちゃん……それにひびきと小春ちゃんも……ありがとうっ」

 

 弘世の言葉にその場に控えていた瑞希と遥が声を震わせた。

 

 今までなら、最後の施術を終えてから最低でも一週間以内に効果が出た。

 だから、同じく亜澄もそうなる予定だが、今回は『呪い』のため、どうなるかは弘世にもわからない。

 

 あとはこの場にいる全員が亜澄の火傷が治り、目覚めるのを祈るしかなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ——広い病棟の中でも、高額な入院費を払った人のみが利用できるVIPな個室。

 

 半開きになったカーテンの隙間——冬晴れの空からやわらかな日差しが降り注いでいた。

 

「ん………………」

 

 随分目を開けていなかったのか、なかなか瞼が開かず苦労した。

 なんとか眉に力を入れて瞼を押し上げると最初に見えたのは知らない天井だった。

 

 首を動かす。右手には半開きになったカーテン。左手には仕切りカーテン……腕には点滴が繋がれていた。

 

 

 ――ぐううううううううう。

 

 

 大きなお腹の音が鳴った。

 

 

「…………お肉食べたい」

 

 少しばかり伸びた、切り揃えられた黒い前髪を持つ少女がゆっくりとベッドの上で体を起こした。

 

 

 

 




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