美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「――皆、ちょっといいかな」
八木沼と呼ばれた女子生徒にスキルを使い、弘世が光っていたことを確認した後、ひびきは昼食の時間に三人にそのことを話した。
「弘世くんの持っているスキルのどれかに反応したってことだよね。一体どれなんだろう」
「今覚えているのは『肌質改善』『脂肪燃焼』『脱毛』『髪質改善』の四つですから、そのどれかということでしょうか」
屋上で弁当箱を広げながら、小春と霧乃が考える。
「私……多分わかるよ」
この時点でまだひびきは相手の女子がどんな人物なのかを話していなかった。
「その子の髪、くるくるパーマだったの。多分天然……さすがに好きであんな髪型をしている女子なんて、芸人を目指してるとかじゃない限りは考えられないから――」
「――『髪質改善』……ってことか」
ひびきの言葉で弘世が答えにたどり着く。
「でも、どうする? 話かけてみる?」
「小春と霧乃の場合は良い結果にはなったけど……でも、話さないことにはわからないよね」
「うん。とりあえず話せるところから話してみようよ」
ひびきのスキルで光ったということは、もう確定でその人が弘世を求めていることはわかっているのだ。それなら、話さないという選択肢はなかった。
お節介だとしても、そのスキルで大きな悩みが改善したのだから、反動を除けばメリットしかないのだから。
◇ ◇ ◇
その日、掃除当番だった
しかし背が低いせいか全く届かない。そこで椅子を用意してその上に乗って少しずつ黒板を綺麗にしていったのだが――
「あばっ!?」
上を見ていたせいかバランスを崩してしまい、黒板消しが手元から離れ宙へ舞う。
そのまま椅子から転げ落ちそうになると――
「麻未ちゃん危ない!」
麻未が落ちる瞬間をちょうど目にしていたクラスメイトの女子が箒を床に投げ捨て助けようと近づく。
――間に合わない。
そんな時だった。
頭から転げ落ちたはずの麻未がくるっと一回転し、奇跡的に両足で着地できたのだ。
(ふう、危なかった)
「麻未ちゃん大丈夫!?」
着地したとはいえ、心配だったクラスメイトが近寄ると麻未の状態を確認する。
「……だいじょう、ぶ……」
「そう……? 危ないって思ったら手伝うからちゃんと言ってね? それに、前髪で視界が悪そうだから……個人的にはもうちょっと切ったらいいのになーって思ってるけど……余計なお世話だよねっ」
女子生徒は麻未のボンバーヘッドを見て、少しだけ善意でアドバイスをする。
「あばぁ……考えておく」
「うんっ! じゃあ掃除の続きしよう!」
そうして二人は掃除に戻るのだが――
「――麻未ちゃーん! お客さんが来てるよー。二年生の人みたいだけど」
もう一人の掃除当番の女子生徒が、教室の後方の入口から麻未の名前を呼んだのだ。
「あば……?」
「もう掃除は終わりだし、黒板は私がやっておくから行きなよー!」
「あ、ありがとう……」
麻未は頭にはてなマークをつけながら、教室の入口へと向かった。
「――はじめまして八木沼さんっ!」
「あばぁっ!?」
(お昼休みにすれ違った髪が綺麗な人だ……)
麻未は自分を呼んだ相手を見て驚きの顔を見せた。
「えっと……いきなりごめんね。ちょっとだけお話聞きたくて……このあと十分くらいでいいから、時間もらえないかな? ただお話するだけだからさ」
「あばばば……わ、私ですか? なんのご用なのかわかりませんけど……十分くらいなら」
麻未はこの学校に入学してから先輩に話しかけられるのは初めてだった。
ぷるぷると体を震わせて緊張しながらも、元々お願い事を断れるような性格ではないため、先輩のお願いを聞くことにした。
◇ ◇ ◇
放課後の屋上。今回はベンチが立ち並ぶ場所で、林道ひびきと八木沼麻未は二人きりで座っていた。
別のベンチには弘世と小春、霧乃が座っており、ひびきたちの様子を遠目で見ている。いきなり四人がかりで取り囲むのは怖いだろうということで、このような配置となった。
「自己紹介してなかったよね。私、二年の林道ひびき! よろしくねっ!」
(ま、まぶしい……可愛い……綺麗……あばぁ……)
ひびきのとびきりの笑顔を近距離で見ることになった麻未は、直視できず、前を向くばかりだった。
「わ、私は……八木沼麻未……です」
「ありがとう。麻未ちゃんって呼んでも大丈夫かな?」
「クラスでもそう呼ばれるので、大丈夫、です……」
視線はともかく、辿々しいが麻未はちゃんと受け答えをしていた。
「じゃあ本題に入るね。私、『願望』ってギフトを持ってて、その中に他者の願望を叶えてくれる人を見つけるスキルがあるんだ」
「『願望』……凄いギフト」
「それでね。勝手に見ちゃったのはごめんなさいなんだけど……麻未ちゃんって何か悩みがあったりしない?」
「悩み……」
ひびきに言われて、麻未は考えるようにしばらく無言になった。
そうして、口からこぼれた言葉は——
「——身長が低いことでしょうか」
「ズコーーーッ!!」
ひびきはベンチの上でズッコケた。
「た、確かに身長は低めに見えるけど……そんなに困ってるの?」
「さっきも黒板の掃除をしている時に上に届かなくて椅子を使ってたら転んでしまったので……」
(そういう面では困るっちゃ困ると思うけど……弘世のスキルには骨延長とか身長を伸ばすスキルはないし……)
ひびきは考えた。
ここで直接デリケートな話題をこちらから持ちかけるのはどうかとは思う。
なので、弘世にアイコンタクトをしてから彼のスキルを伝えることにした。
「あのね。あっちに座ってる男子がいるでしょ?」
「あ……はい」
「弘世って言うんだけど、あの人がギフトから派生するスキルをいくつか持ってて……それが『肌質改善』『脂肪燃焼』『脱毛』……そして『髪質改善』なんだ」
「――――っ!?」
最後聞いた瞬間、麻未はガタッとベンチから立ち上がった。
それを見て、ひびきは彼女の心に響くキーワードがあったのだと理解した。
「もう、ここまできたら言っちゃうけど……麻未ちゃん、髪で悩んでる?」
「あっ、あっ……あばぁ……はい」
自分の頭を抑えながら麻未は再びベンチへと座り込んだ。
「弘世のスキルなら、毛量から次から生えてくる髪質まで調整できるの。ねえ、私のこの髪見てみて?」
「ぁ…………」
目の前で麻未はひびきの綺麗な髪を見た。
ひびきは自分の髪を手で櫛のように梳いてその滑らかさを見せた。
「綺麗でしょ?」
「はい……綺麗過ぎて……」
「元からある程度は綺麗ではあったんだけど、それ以上――自分の希望通りの髪にしてもらったんだ」
「凄い……です」
麻未は羨望の眼差しでひびきの髪を見ていた。
「もし、麻未ちゃんが悩んでいるなら、私たち協力したいんだ。だから麻未ちゃんの意見を聞かせて欲しい――」
すると麻未は再び視線を前にして、小さい声で語りはじめた。
「――私の髪……生まれた時からこんな髪質で……幼稚園に行く頃には、今みたいな形になってたんです」
つまり、くるくるで形の丸いボンバーヘッドだということだ。
「他の女の子は皆綺麗な髪をしていて、いっつも羨ましいなって思っていて……でも、どうしようもなくて……」
「縮毛矯正とかは?」
「結局元に戻るならって……やったことないです」
縮毛矯正は基本的には一時的な効果だ。
なので通い続けなければいけないし、麻未のような癖が強すぎる髪質であれば、本当に大変だろう。
「そっか……」
「でも……それが根本から治るのなら……毛量も減るなら……気になります」
ひびきは微笑んだ。
「髪とは関係ないんだけどね。ほら、弘世の隣にいる二人の女の子見てよ」
「はい――」
「二人とも別の悩みを持っていてね。でも弘世のスキルで解決してもらったんだ。それからはすっごい人生が楽しいって言うんだよ」
視線に気づいた小春と霧乃が麻未の方へ手を振った。
麻未が軽く会釈を返す。
「もう一度言うね。麻未ちゃんが望んでるなら……その髪質、改善しよう!」
「……………………はい」
そう麻未が答えた時だった。
屋上だったからか、春風がビュウっと吹いて、麻未の髪を巻き上げ、額が晒される。
「あばぁっ!?」
「――――ぇ」
見られるのが恥ずかしかったのか、麻未はすぐに両手で前髪を抑えて元に戻した。
しかし、ひびきはそれを見ていた。
(目が……目が……とっても綺麗……)
ひびきが見た麻未の目。
それは、ぱっちり二重で目のサイズも大きくて……そして、瞳の色が綺麗なターコイズブルーだったのだ。
「麻未ちゃんって……外国の血、入ってたりする?」
「あばっ…………おじいちゃんがイギリス人なので……クォーターです」
「そう……なんだっ!!」
(これは……髪質改善したらお人形さんみたいな美少女になりそうっ!)
ひびきは心の中でワクワクした気持ちになった。
「じゃあやるってことで良いとして――実はね、スキル発動には反動があるんだけど……」
そう言いながら、自分が体験したことを麻未に伝えはじめた。
◇ ◇ ◇
時は三週間ほど前に遡る。
「――じゃあひびき、行くよ」
「うん」
「――『髪質改善』」
ひびきの家の自室のベッドに横になっていたひびき。
弘世の膝の上に頭を乗せた状態でスキルを発動した。
白く淡い光が宿った両手がひびきの頭皮へと触れる。
「あっ、あっ、あっ……♡」
すると、すぐに反動が現れたのか、ひびきが声を漏らしはじめていた。
弘世の両手の五指がひびきの綺麗な髪を掻き分けて頭皮に直接触れる。ゆっくりと指の腹で刺激を与え、毛根に届くように揉み込んでいく。
「きっ、きもぢい゙い……♡」
ひびきの声を聞きながら、前髪の生え際、側頭部に後頭部。もみあげやうなじに至るまで満遍なく。頭皮への刺激はいつしか全体に全波し、ひびきの体を熱く敏感にしていった。
しかし、一分ほど時間が経過した頃だった。
「お゙っ!?」
先ほどまでとは打って変わり、あらぬ声を出しはじめたひびき。
白目になりそうなほど瞳は上の方を向いていて、酷い顔になっていた。体のほうもびくびくと痙攣しはじめている。
「これ……大丈夫なのかな」
「ひびきちゃん、凄い顔してます……」
隣ではどんな施術になるのか、小春と霧乃も一緒に様子を見ていたのだが、これまでの施術とは少し違った反動になっていた。
頭部に直接触れているからだろうか。
脳を掻き回されているかのようにひびきの頭が震え、目がひん剥いている。
そして、施術時間がまだまだ残されているというのに、それが起きてしまった。
「お゙っ……お゙っ――――お゙ぅ゙っ!?♡」
最後、大きな声を出した後、ひびきがぱったりと動かなくなってしまったのだ。
「――――」
三人が顔を見合わせる。
「――ひびきちゃん、気を失ってる?」
「そうみたい……」
ひびきは口から涎を垂らし、目を開けたまま気を失っていた。
弘世は途中で施術を止めても良いかと思ったが、目覚めたあと『なんで止めたの!?』とひびきに言われそうだったので、施術を続けることにした。
感覚的にこの反動は頭部への刺激が強いだけで、体に影響はないと理解していた。
だから、そうしたのだが――
「……酷い顔のままだね」
白目を剥いたままひびきは気を失ってしまった結果、酷いアへ顔が目の前に晒されていた。
「私がやる時は、最初から顔に布を被せてやってもらおうかな。美容室でシャンプーしてもらう時みたいに」
「そ、そうですね……」
笑うことはできない。
できないのだが、あまりにも酷い顔だったので、このままだと三人は我慢できそうもなかった。
なので、ひびきの名誉のためにも、小春が彼女の顔にハンカチを乗せることにした。