美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃあああああっ!?」
約三週間が過ぎた頃だ。
陽鞠と海莉の体に大きな変化が訪れていた。
「「私……すっごい綺麗……っ」」
それぞれの家で朝起きると自分の肌質が、がらっと変わっていたことに感動した二人。鏡に映る自分を見てうっとりとしていた。
「弘世のこと……」
「ひびきが好きになる気持ちもわかるわぁ……」
女性の夢を叶えてくれるスーパーパワーを持った男性。
弘世のスキルの絶大な効果に加え、反動の影響は凄まじく、クラスカーストトップの二人でさえも虜にしていた。
最近はずっと二人の頭の中はピンク色だった。
施術をしてはヤッて。施術をしてはヤッて。それが六回繰り返されたのだから、弘世も相当に大変だった。しかもその場にはひびきもいる。
小春と霧乃と三人とする機会はそう多くはない。しかし今回のように三週連続となれば、さすがに弘世の体も堪えていた。
◇ ◇ ◇
それから数日後のことだ。
「ひ、弘世くんがげっそりしてる……」
「大丈夫ですか?」
「うん。なんとか……」
教室で小春と霧乃に心配されていた弘世。その頬はげっそりとしていた。
弘世は見るからに精力を奪われたような顔つきになっていたが、一方で弘世以外にも思いも寄らない変化が訪れていた。
「ちょっとくっつき過ぎじゃない……?」
「別にいーじゃん。学校では目立って弘世とくっつけないんだから」
「じゃあ私も〜」
学校ではひびきの近くにはいつも陽鞠と海莉がいるのだが、弘世との施術以降、二人はひびきにべったりになっていた。そしてその肌質はつやつやぷるぷるだ。
我慢ならずひびきに襲いかかっていた陽鞠。次の週では、逆に海莉が先に施術をすることになると、反動の影響を解放する場所を求めて今度は海莉もひびきに襲いかかっていた。
その結果、元々仲の良かった三人の距離感はさらに縮まっていたのだ。ただ、ひびきは襲われた側であるからか、少しばかり嫌そうな顔をしている。
そして艶っぽい三人を見て、周りの男子生徒たちはかなりムラムラしていた。
それもそうだ。元々容姿が良い三人が女の子同士でただきゃっきゃしているわけでもなく、ガチ目にレズっぽい雰囲気を出しているのだから、それは下半身にもくるというものだ。
「そう言えば、明日だね」
「ん?」
「ダンジョン観光」
「ああ、そう言えばもうそんな日か」
弘世は『ダンジョン観光』に行くことに決めていた。
ひびきに誘われ、そして麻未に背中を押されたから。
今のギフトを持ってひびきたちと出会えたのだから、それはそれで幸せだと思える人生を送れている。ただ、冒険者に対する羨望と、ダンジョンへの憧れは消えてはいなかった。
同時にできるだけ冒険者関連のキーワードを避けたり、テレビのニュースもあまり見れなくなっていたため、弘世はどこかで心の痛みを抱えていた。
だから今回、自分がどんな気持ちになるのかわからないが、トラウマにも似たその気持ちが少しでも前に進めれば良いという考えで、『ダンジョン観光』に行くことに決めたのだ。
「確かCランク中位ダンジョンでしたよね」
「そうだね」
「もし何かあっても私が守るから安心していてくださいね」
「霧乃は心強いなぁ」
霧乃のギフトはとんでもない力を秘めている。
彼女が一緒にいれば、もし何かあったとしても問題ないはず。それに今回の引率は二組のAランク冒険者とのことだ。霧乃の出番はないだろう。
「あ、お弁当準備して行かないとだねっ」
「私も手伝ってもいいですか?」
「うん。ならひびきちゃんの家に朝早めに行ってお昼前に出られるようにしよう」
「わかりましたっ!」
ダンジョン観光では、そういった昼休憩もプランに含まれている。
一般人をただ歩かせるだけではない。ダンジョンキャンプの場合は食材を用意しなくても良いが、一般的なダンジョン観光では、自分たちで弁当を持参することになっている。
「楽しみだね」
「うん。今日は早めに寝て、奪われた体力回復させないと……」
弘世は自分の体調面だけが心配だった。
◇ ◇ ◇
――『ダンジョン観光』とは、株式会社JTD(ジャパン・トラベル・ダンジョン)というダンジョン専門旅行会社が主催している旅行プランの一種である。
冒険者ギルド協会が設立され、全国の冒険者やダンジョンの管理が一通りできるようになってから十年。今から約二十年前ほどに作られた会社で、引率する冒険者は冒険者ギルドを通してJTDに派遣される仕組みだ。
しかし、ダンジョンには大きな問題点があった。
それは犯罪が起きても表沙汰にはなりにくいことだった。
ダンジョン内は電波が届かず、もし中で死んだ場合、魔物に殺された事故として扱われることが多い。しかし真実はその場にいた人にしかわからない。スマホなどの記憶媒体に動画や写真として残していた場合は証拠とはなり得るが、その本人が死んでしまっては元も子もないのだ。
過去には犯罪だって行われている。そして、ダンジョンだけに迷宮入りした事件だって存在した。
だからこそ、ダンジョン観光であっても一番信頼できるのは引率してくれる冒険者。ただ、その冒険者が信頼できる存在ではなかったとしたら――
暗い暗いとある倉庫の中、一人の男が短刀を片手に口や手足を縄で拘束された男を見下ろしていた。
「――クヒヒヒッ、悪いな。こっちも仕事なもんで……ああ、大丈夫だ。これは麻痺毒だからな。一日は動けないだろうが……」
「んーっ! んー!」
男は笑いながら説明をしたあと、短刀を腰の鞘に仕舞う。
拘束されている男は声を出そうとするも口を塞がれているため、声を出すことができないでいた。
すると男は右手を拘束されている男の顔に伸ばした。
「――お前の顔と声、借りるぜ」
手元が赤く光ると拘束された男の頬に触れた。
ただ、それだけで何か起こるわけではなかった。
しかし男は満足そうに微笑み手を離すと赤い光が消えていく。
「じゃあな」
「んー!!」
男はそのまま倉庫から出ていった。
拘束された男は一人残され、縄と麻痺によりしばらく動けない状態で過ごすことになった。
◇ ◇ ◇
そうして迎えたダンジョン観光の日。
ひびきの家の前で待ち合わせした弘世たち四人は、駅を乗り継いで集合場所へとやってきた。
――新宿御苑。
今日はその公園のとある場所に出現したというゲートからダンジョンに入ることになっていた。
集合場所には弘世たち以外にも既に約二十人近くの一般客が集まっていた。
ワイワイガヤガヤとダンジョンに入ることを心待ちにしている人が楽しそうに出発時間を待っていた。
すると――
「えっ! 瑞希姉!?」
「なんだ、ひびきじゃないか」
「ってことは今日の引率は――」
「私たち<天地ギルド>の三人が一組だ」
なんと、そこにいたのは、法坂瑞希、宍戸亜澄、秋瀬遥の三人だった。
「やっほー皆」
「今日はよろしくね」
亜澄と遥かが挨拶をした。
「よろしくお願いします!」
「まさかこんな所で一緒になるだなんて……」
「はは。私たちは名簿をもらった時からわかっていたけどね」
今日の三人はいつもとは違い冒険者の装いだった。
瑞希は白を貴重とした鎧に腰には剣を携え、亜澄は黒いローブに三角帽子、遥は白の法衣に杖を手に持っている。
制服や私服姿しか見たことのなかった弘世たちは、三人の装いに目を見張った。
「かっこいいです」
「弘世くん、ありがとねっ」
「……本当に似合ってます」
テレビでよく見かけていた三人の姿。実際にこうして間近で見ると、弘世の心の奥底からワクワクした気持ちが湧いてきていた。
「てか、こういった仕事もするんだね」
「まあね。ちょっとしたアルバイトみたいなもの。ほとんどはBランク以下の人がやるんだけど、今回は亜澄の運動も兼ねてね」
「心配しないで。私は調子いい」
ひびきは亜澄が少し前から冒険者に復帰したと聞いていた。だから今回は久しぶりということではない。それほど心配は必要ないだろう。
そして瑞希たちの後方――他の一般客から写真撮影をせがまれていた冒険者がいた。
「――<黒狼ギルド>だ……」
弘世がそう呟く。
男三人組のパーティーで、彼らの防具の一部には黒い狼をモチーフとしてロゴが入っている。それが<黒狼ギルド>の証だ。
目立つ赤い鎧を纏った茶髪ショートの筋肉質の男性。彼は背中に大きな斧を持っており重戦士だとわかる。次に青いローブに金髪、男性にしては長い髪。杖を持ちメガネをかけた痩身の彼は恐らくヒーラーだ。そして最後。灰色のマントに赤毛ミディアム。糸目が特徴的な彼はサポーター系の冒険者だろう。
「瑞希さん、<黒狼ギルド>のことは知ってますか?」
「ん? 私はあんまりだな……それに、<黒狼ギルド>は東京じゃなくて愛知とかそっち方面のギルドだったはずだ。遠征にでも来てるのかもしれないな」
「俺もあんまり知らなくて……そうでしたか」
弘世はこれでも冒険者について詳しい。最近は見れていなかったが、全国にはどんな冒険者ギルドが存在するか、どんな冒険者がいるのか、メディアに露出しているくらい有名な冒険者はある程度調べてきたつもりだ。
ただ、<黒狼ギルド>はそんな弘世でも名前だけしか知らない存在だった。
Aランクともなれば全国的にも有名にはなるが、それでも全て把握できるわけではない。ましてや関東が活動拠点でないのであれば尚更だった。
「Aランクだ。それなりに強いんだろうさ」
「ですよね」
ぱっと見た印象は、人当たりの良さそうなパーティーだと弘世は感じた。
時間になると一般人の点呼が行われたあと、引率する冒険者の自己紹介が行われた。
「俺は牧亮吾《まきりょうご》だ。見てわかる通り武器は斧。今日はよろしくな」
「私は平川諭《ひらかわさとし》です。ヒーラーをしているので、もし怪我をするようなことがあれば、私に任せてください」
「最後に、僕は切原真司《きりはらしんじ》や。防御系の補助魔法を使えるさかい、諭が言うたみたいな怪我はまずせえへん。僕に任せときぃ」
<黒狼ギルド>のメンバーが挨拶したが、最後の一人――赤髪の切原だけは関西弁のような話し方だった。それぞれ喋り慣れており、ダンジョンにも何度も入っている雰囲気だ。
自己紹介が終わると、スケジュールの説明が行われた後に、ゲートへ向かうこととなった。
「わぁ……」
ゲートを目の前にした弘世たち。ひびきはその異様さに声を漏らした。
白と黒が入り交じり、ゆっくりくるくると回転するように異次元への入口が佇んでいた。
近くには冒険者ギルドのダンジョン管理担当者が二人立っており、瑞希たちと何やら話していた。それが終わると――
「私たちが先に入ります。続いて皆さんも順番に入っていってください」
<天地ギルド>の三人が先頭に立ち参加者を先導。<黒狼ギルド>の三人は後方を担当するようだ。
「――では、行きます」
瑞希がゲートに足を踏み入れると、水の中に入ったかのように体が異次元に飲み込まれていった。
「消えた……!」
ひびきも自分の従姉妹が消えた様子に驚いていた。
小春も霧乃も初めてみたようで目を丸くしていた。
続いて亜澄、遥……そして参加者たちが次々とゲートを通ってダンジョンに入っていった。
「弘世……!」
「うん……!」
弘世は胸がドキドキしていた。心臓の鼓動が早まり、手汗がじっとりと浮き上がってきていた。初めてダンジョンに入ることに興奮を抑えきれないでいたのだ。
「弘世くん」
「行きましょう」
小春と霧乃に声をかけられ、弘世はひびきと手を繋ぎながらゲートへと一歩踏み出した。
「――クヒヒヒッ、楽しい楽しいダンジョン観光のはじまりだぁ……」
後方、誰にも聞こえない小さな声で呟いた人物がいた。