※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第31話 ダンジョン観光③

「――――っ!?」

 

 とある繁華街のファミレスにて。

 

「どうしたの? そんなに驚いた顔して」

「どんな顔しても可愛いのずるい〜」

 

 二人の少女に愛でられていた銀髪の少女。会話の途中なのに突然驚きの表情に変わったのだ。

 

「い、いか……なくちゃ」

「え? どこに?」

「先輩……たちの、ところ……!」

 

 席から立ち上がった銀髪の少女は、ぎゅっと拳を握り、決意を固めた。

 今目の前にいるクラスメイトの友達との時間も大事だが、今は緊急事態。

 

「……どういうこと?」

「本当に、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

「えっ! なんでそんなに謝るの!?」

「ごめんなさい〜〜〜〜っ!!」

 

 言葉足らずな銀髪の少女は多めのお金をテーブルの上に置いて、その場から立ち去った。そうして駆け込んだ先はトイレだ。

 

「あ、あばっ……先輩先輩先輩先輩……どこどこ……! ぁ――見つ、けた」

 

 トイレの個室であたふたしながら自分の思考を巡らせていた銀髪の少女は、何かを見つけたのかハッとする。

 そして――

 

 

「――『転移』」

 

 

 呟いた瞬間、銀髪の少女の体は持ち物ごとトイレの個室から消え去った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「あーあ。簡単な仕事だったなぁ」

 

 ダンジョン観光の参加者と冒険者を湖の底へ落とした黒髪の男は、ゆっくりと帰路についていた。

 

 丘の側面から湖側に二本のナイフを使って穴を開けながらロッククライミングの要領でゆっくりと降り、湖の氷が割れていない部分を渡った。そうして雪崩で積み上がった雪道を迂回して元の道へ戻ることに成功していた。

 

「切原との入れ替わりにゲート管理職員のすり替え、強力な阻害魔法が閉じ込められた指輪型の聖遺物《レリック》に突風を起こすスクロール。そして雪山と湖への爆弾設置……」

 

 どれも単独で為せる技ではない。

 特にゲート職員のすり替えなど、冒険者ギルドから派遣された職員が交代勤務で立っているために簡単ではない。綿密な計画の元、職員を仲間と共に殴り倒し拉致したりしない限りは――。

 

「あとはボスに報告と――――んあ?」

 

 もうすぐゲートの出口。

 

 男は外に出てから事故が起きたと喚き散らす予定だった。事故によって参加者が湖の底に落ちてしまったと。

 そしてCのランク中位ダンジョンだったはずが、誰かの策略でAランク上位ダンジョンに連れ込まれたのだと――。

 

 そんなことを考えていたのだが、なぜか前から魔物――一瞬そう見えた人物がこちらに向けて歩いてくるのが見えた。

 

 すり替えた職員には、誰にも入らせないように言いつけてある。

 緊急時など冒険者ギルドの許可を正式に得た人以外は誰もダンジョンには入ってこれないはずだった。

 

 それなのに――

 

「――おい。てめーは誰だ」

 

 黒いヤギのような禍々しい被り物に、首から下はなぜか真っ白の可愛いワンピース。手には何も持っていない。

 

 何のために、なぜこんなところにいるのか、男には意味がわからなかった。

 

「あ、ばぁ………………」

「はあ?」

「先輩は……皆は、どこ……?」

 

 黒ヤギの被り物のせいで、本人の声がこもっていて本当の声が聞こえない。

 ただ、見た目から女性だとわかる。

 

「どうやってここに入ってきた」

「どこ……?」

 

 会話が通じない。

 男がイライラしていていたが、次の瞬間、目を見開くことになる。

 

「『収納』――」

 

 黒ヤギの少女がそう呟いた瞬間、突然手元に斧が出現したのだ。

 少女が持つにはかなり大きめ。<黒狼ギルド>の重戦士・牧が背中に背負っているサイズとほぼ同じ――見るからに重そうな大斧を軽々と片手で持っていた。

 

「てめぇ……空間系のギフト持ちか……ものすげえ珍しいじゃねえか。――ああ、だから中に入れたのか」

「どこ……?」

「でもな――」

 

 黒髪の男は黒ヤギの少女の言葉を無視して右手を前に突き出す。中指に嵌められた赤い宝石が装飾された金色の指輪。それが赤く光り――

 

「――『阻害魔法』」

 

 男は唱えた。

 

 ごっそりと自分の魔力を持っていかれるが、ギフトの効果を一定範囲一定時間打ち消すことができる聖遺物《レリック》。

 

 聖遺物とは、ダンジョン内で入手できる何らかの能力が付与されたアイテムのことだ。物によっては相当な効果が期待できる。実際に先ほど帰還のスクロールの発動だって阻害した。した、はずなのだが――

 

「……もう、いいや――『転移』」

「は…………ボブヘェッ!?」

 

 目の前から突然消えた黒ヤギの少女がいつの間にか背後に回っており、円を描くように放たれた斧で男の脇腹を削ったのだ。

 

 男はその衝撃で血しぶきを撒き散らしながら雪の地面へと吹っ飛び、顔から突っ込んだ。

 

「『感知』――ターゲット……高梨先輩……いない……いない……下、か……?」

 

 黒ヤギの少女は血がついた斧を振り払い、倒れた男に近づく。

 

「ぐっ……はっ…………」

「まだ……生きてるよね。手加減したから。どこまで落ちたのか教えてくれたら……命だけは助ける」

 

 黒ヤギの少女は圧倒的な力を見せつけ、満身創痍の男を見下ろした。

 このままでは出血多量で男は死亡する。それほどの流血だった。

 

「…………へへっ、喋ってやるかよ。バーカ」

 

 すると男は寝転がりながら腰のナイフを黒ヤギの少女に投擲。

 これは本物の切原を動けなくした麻痺毒が塗ってあるナイフ。その刃先が黒ヤギの少女のお腹に当たりに直撃したのだが――

 

「な、なぜ…………」

「あ、あばばっ…………と、友達に選んでもらった、ワンピース! 汚さないでっ!!」

「ゴヘァッ!?」

 

 斧の柄で男の腹を叩きつけた。すると口から血反吐を吐いた男は白目を剝き、そのまま気を失った。

 

「………………」

 

 黒ヤギの少女は男のナイフを拾う。

 

「『鑑定』――麻痺、毒…………それに……『変顔変声』」

 

 呟いたあと、持ったナイフを男の腹にブスリと刺した。瞬間、電撃を受けたような痺れにより気絶していた男の体がビクッと動いた。

 それを見届けると――

 

「――『ハイヒール』」

 

 黒ヤギの少女は手をかざして男に治癒魔法を施す。すると出血が止まり、傷が癒えていくのが見えた。そうしてどこからか取り出した縄を男に巻き付けていく。ただ、手慣れていないのか、とにかく適当なぐるぐる巻きとなった。

 

 拘束した男を木陰に移動させると、黒ヤギの少女は移動をはじめた。

 

「湖…………」

 

 凍った湖の手前に立った黒ヤギの少女。

 そこに大斧を振り下ろすと一気にひび割れが起き、巨大な大穴が空いた。

 

「待ってて――」

 

 黒ヤギの少女はジャンプして大穴へと吸い込まれていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ん、んん…………」

 

 参加者たちは深い深い穴の底に落とされたが、全員が生きていた。

 ただ、元々意識を失っていた人、落下中に意識を失った人もいたため、現在意識を保っている人は十名ほどだ。

 

 周りを見渡すと、だだっ広い洞窟のような空間になっていた。

 深く落ちた影響なのか、それともダンジョンの仕様なのか、見上げても空は見えない。しかしなぜか洞窟の中にはほんのりと明るさがあった。

 

 そして、参加者たちの目の前には雪で作られた巨大なU字型の物体がある。スノーボードのハーフパイプで使用するコースのようだ。

 

「はぁ……なんとか間に合いました……」

 

 それをしたのはもちろん霧乃だった。

 さすがに魔力を消費したのか若干疲れ気味になっていた。

 

 あまりの高さからの落下。ただ雪を作っても落ちた勢いで地面に激突する可能性があった。そこで霧乃が咄嗟に思いついたのが、冬季オリンピックで見たスノーボード競技だった。

 

 急斜面を作り、参加者たちをそこに落下させると、滑るようにして逆斜面へと駆け上がる。終わるともう反対側に滑っていき、最終的には落ち着いた形で停止することができた。

 

「目覚めてるのは、冒険者の皆さんと小春ちゃん」

「弘世くんとひびきちゃんは……」

 

 すぐ傍でその二人は互いを抱きしめ合う状態で気を失っていた。

 ただ、ちゃんと呼吸をしているのが確認できたため、無事なようだ。

 

「霧乃ちゃん、ありがとう。感謝しかない」

 

 するとやってきたのは瑞希たち<天地ギルド>の三人。

 霧乃に感謝を述べると、さらに人が加わる。

 

「助かった……まさか一般人がこんな力を持っているとは……あの高さからだと落ちただけで死んでしまう可能性があった」

「私からもお礼を申し上げます」

「いえ……」

 

<黒狼ギルド>の牧と平川もやってくると霧乃に感謝の言葉を述べた。

 見た感じ怪我もなさそうだ。

 

「ここは何階層だろうか。あれほどの高さだ。もしかすると最下層ということもあり得る」

「湖から落下しただけで最下層って簡単過ぎない?」

「いや……落下したら普通は死ぬだろう。難易度的にはかなり高いショートカットのルートだと思う」

「それに、落ちていく時に男の声が聞こえた。ここはCランクダンジョンではない。恐らくB……いやAランク……中位はあるかもしれない」

 

 瑞希や遥、牧が率先して会話をし、現状を把握していく。

 瑞希は最初から疑っていた。Cランクにしては気温が高いのに雪があったりと不可思議な点があったこと。これは上位ダンジョンの特徴でもあったから。

 

 そしてこれからどう帰るのか、作戦会議が行われる。

 

「ふむ……とりあえず参加者たちと近くに集めて、もう一度脱出用のスクロールを使えるか試してみよう。もしそれができなければ――」

「上への道を探すしかない……だね」

 

 結局、会議をしても最初からそれしかないという意見に落ち着いた。

 そこでまずは散らばって意識を失っている参加者を一箇所に集めることになった。

 

「おいしょ……おいしょ……っ」

 

 小春と霧乃が参加者の一人を二人で運んでいたが、元々力はないためかなり苦労していた。一人運ぶだけでも相当に体力を使っていた。

 

「あれ、この子……」

「霧乃ちゃん知ってるの?」

 

 二人が一緒に運んでいたのは綺麗な薄緑の髪を持った女性で自分たちと似た年齢に見えた。霧乃はその子に反応し、じっと顔を見ていた。

 すると――

 

「ん…………」

 

 その子が目覚めた。

 小春と霧乃が地面に下ろすと目をぱちくりとさせ、周囲を見渡した。

 

「ここは……」

「凍った湖の下だよ。大丈夫?」

「あ、はい……私と一緒に来たお友達は――あ、いました」

 

 思いの外落ち着いてたので、小春と霧乃は顔を見合わせた。

 

「運んでいただきありがとうございます」

 

 すると起き上がった彼女は礼儀正しく頭を下げてから目覚めていた友人のところに向かった。

 友人は怖がっていたが、その子は冷静になって慰めていた。

 

「さっきの子知ってるの?」

「ん…………すみません。思い出せなくて……どこかで見たような気がしますが」

「いずれ思い出すよ」

 

 結局霧乃は思い出すことができなかった。

 

「ふう……あと少し」

「そうですね。頑張りま――」

 

 そうしてもう少しで全員が一箇所に運び終わるという時だった。

 

 ――ブモォォォォォォ。

 

 洞窟の奥から獣が発するような唸り声が聞こえた。

 

「――亜澄、遥! <黒狼ギルド>の二人も!」

 

 声を聞いた瞬間、瑞希が即座に反応し腰の剣を抜く。他の冒険者たちも身構えた。

 

「皆さん、後ろにいてください!」

 

 構えた瑞希は起きている参加者たちに声をかける。

 ただ、数人がまだ一箇所に集められていない。

 

「そう簡単にこんな下層から逃がしちゃくれねーか」

「ですが――あの男にやり返さなくては死んでも死にきれませんっ」

 

 牧と平川は仲間と入れ替わっていた男に対して内なる炎を燃やしていた。

 そう、ここで死ぬなんて許されるわけもない。必ず生き残ってあいつを捕まえて警察に突き出すのだ。

 

 すると唸り声と共にドスンドスンという重たい足音までもが近づいてきていた。

 

「――おいおい……嘘だろ」

 

 その姿が露わになる。

 体調十メートルはあるかという巨体に牛のような面に頭部には二本の角。大木のような腕に手には神殿の柱のように太い棍棒。

 

「――ミノタウロスロード…………しかも五体」

 

 ミノタウロスロードとは、Cランクダンジョンに現れる牛頭の魔物であるミノタウロスの進化個体。その名の通り王と呼ばれるほどの強力な個体であり、一体相手でもソロで討伐することは困難。

 

 通常はAランク冒険者でも一体相手に最低でも二人は必要になる。

 単純計算で五体相手にするとなれば、十人のAランク冒険者が必要だ。

 

 今ここにいるAランク冒険者は五人。とてもじゃないが、全ての相手をすることは不可能だった。

 

 そして、ミノタウロスロードが出現したことでわかったことがある。

 

「Aランク上位ダンジョン……そういうことか」

 

 瑞希たちはAランク冒険者だ。しかしAランクだからと言って三種類のダンジョン

ランクに分けられた下位、中位、上位の全てを踏破しなくても実績の数からAランクと呼ばれる。

 

 Aランク中位ダンジョンまでは踏破してきた。ただ、Aランク上位ダンジョンはまだ踏破したことがなかったのだ。

 

「それでも……やるしか――」

 

 瑞希がぎゅっと剣を握った。

 

 そのタイミングでミノタウロスロードが一斉にこちらへと向かってくる。

 

「――きゃああああああ!?」

 

 起きている参加者数名が叫び声を上げた。

 

「最初から全力だっ!!」

「おうっ!!」

 

 瑞希と牧の合図で戦闘が始まった。

 

 

 

 ――五分後。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

 四体はなんとか抑えきれていた。

 しかし最後の一体は難しい。冒険者の他に誰か相手をしなくてはいけなかった。

 

「氷よ――っ!!」

 

 霧乃だ。

 

 霧乃が初めての戦闘に参加していた。

 あの看板落下事件の日から、霧乃はずっと訓練を行ってきた。その成果がついに発揮される場面がやってきたのだ。

 

 複数の氷柱がミノタウロスロードの体を穿ち、次々と突き刺さる。

 しかし相手はAランク上位。その程度では止まらない。

 

「霧乃ちゃん……ひびき……弘世くん……っ!」

 

 後方では何もすることができない小春がぶるぶると体が震わせていた。

 

「何か……何か……私にも…………っ」

 

 ただ、小春は既に役割を果たしていた。

 全員にかけていた『軽減付与』。短時間に限定はしたが、現在でも冒険者たちにかかっているため、痛みはさほど感じていないはずだ。それに<黒狼ギルド>にはヒーラーもいて、後方でサポートしている。

 小春はこれ以上できることはなく、見守ることしかできなかった。

 

 そんな時だった。

 

「くぅっ――」

 

 大斧を持つ牧が押され始めていた。

 理由は明白だ。

 

「足りていないんです――私たちは真司がいて完成するパーティーですからっ」

 

 ヒーラーの平川がここにはいない本物の切原の話をする。

 補助系魔法を使うのであれば、小春とは逆でパワーアップなどができるような魔法が使えたのかもしれない。

 

 だから次第に牧は崩れて――

 

「ぐは――っ!?」

「亮吾さんっ!!」

 

 ミノタウロスロードの棍棒に押し切られ、そのまま壁際まで吹き飛ばされた。

 

「瑞希! やばい! 牧さんが!」

「クソっ! クソっ!」

 

 遥が雷撃で一体を相手にしながら瑞希に状況を伝える。しかしここから離れるわけにはいかない。もう一人、亜澄も火炎で一体対処することが精一杯だった。

 

 牧を吹っ飛ばしたミノタウロスロードが参加者に近づく。

 この世の終わりを告げるかのような悲鳴が参加者から上がり、その場にいた小春も恐怖に打ちひしがれた。

 

「誰か、誰か…………!」

 

 大木にような棍棒が振り上がったのが見える。一度でも喰らえば全て終わりだ。

 例え小春の『痛覚軽減』があったとしても、体はバラバラになる。

 

 でも、諦めたくない。

 この四人で過ごした時間と関係はまだまだ続くのだと、そう信じて――。

 

「小春ちゃんっ!!」

 

 霧乃の声が聞こえた。

 隣には未だ意識を失っている弘世とひびき。

 

 その顔を見たからか、小春は自然と立ち上がった。

 何ができるでもないが、立ち上がった。

 

 棍棒を振り下ろさんとするミノタウロスロード。

 

(私は――)

 

 履いてきたズボンの裾をぎゅっと握り締めた。

 

「ぁ……………」

 

 そんな時ポケットに何か入っていたことに気づく。

 それを手に取り、強く握り締めた。

 

 瞬間、小春の中の何かが急激に変化した。

 

「――――ッッ!!」

 

 唸り声と共に死を予感させる一撃が迫る。

 

「――『軽減結界』」

 

 小春が呟いた瞬間、目の前に不可視の防御壁が展開。ミノタウロスロードの棍棒を受け止めていた。

 

 ――『魔魂《まこん》の黒玉《こくぎょく》』。

 

 亜澄がAランク中位ダンジョンで入手した聖遺物《レリック》だ。

 退院したあと亜澄が小春に個人的に渡していたもので、いつも持っていてとしか言っていなかったもの。

 

 ピンポン玉サイズの『魔魂の黒玉』の効果はその人の『ギフト』の力を一段階引き上げるもの。

 

 ただ、その効果がいつ現れるのかは誰にもわからず、『鑑定』を行っても詳細にはわからなかった。

 しかし、ここにきて小春に呼応したのは確かだった。

 

「小春ちゃんっ!!」

「でも――長くは続かない……っ」

 

 手を前に突き出し、ぷるぷると震える体。

 小春の新スキル『軽減結界』は、魔力が続く限り結界を作り出すものだが、小春は所詮一般人。冒険者として圧倒的に足りていない。ただ、父親からのDVにより積み上がった経験値が、ギリギリでミノタウロスロードの攻撃を抑えていた。

 

 そして、この小春が作り出した刹那の時間が全てだった。

 

 

 ――ドゴンッッ!!!

 

 

 突如物凄い衝撃波が上空から降り注ぎ、小春を攻撃していたミノタウロスロードが左右真っ二つになった。

 

「ぇ――――」

 

 呆気にとられる小春。何が起きたのか理解できない。

 衝撃で舞い上がった土埃が徐々に晴れていく。

 

「黒……ヤギ?」

 

 小春の眼前にいたのは、黒いヤギのような被り物をした謎の生命体。ただ、首から下は白いワンピースを着ていため女の子だと理解する。

 しかし、そのアンバランスさに拍車をかけるものがあった。牧の持つ斧と同じくらい大きな血まみれの斧を片手で持っていたことだ。

 

「あ……ばぁ………………」

 

 黒ヤギは振り返り、後方を確認した。

 するとすぐに前を向き、その場から一瞬にしていなくなった。

 

 いなくなったというのは言葉通りで、そっくりそのまま姿が消えたのだ。

 

「――――ッッ!?」

 

「何!?」

 

 一体。

 

「なんだ!?」

 

 また一体。

 

「これは――っ!?」

 

 さらにまた一体。

 

 そして――最後の一体。

 

「あばぁぁぁぁぁ…………」

 

 十秒にも満たない時間――それぞれ斧一振りの攻撃で、黒ヤギの少女は全てのミノタウロスロードを屠ったのだった。

 

 

「き、君は誰な――」

 

 その場の冒険者たちが呆気にとられ、動きが固まっていた。視線の先は黒ヤギの少女。

 

 瑞希は突然現れてミノタウロスロードを一人で殲滅した黒ヤギの少女に、誰なのかを聞こうとした。

 

 しかし、その機会は訪れなかった。

 

 

「――――『安眠《グッドスリープ》』」

 

 

 瞬間、その場にいた参加者、冒険者全員が意識を失い、バタリと地面に倒れ――眠りに落ちた。

 

 

 

 




あばちゃんのギフトに関しては、エピローグで解説しています。
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