※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第32話 ダンジョン観光④

「ん……ここは…………」

 

 高梨弘世はゆっくりと瞼を開けると、そこには青空が広がっていた。

 しかし、少し前に見ていた異空間の青空ではない。ここは――日本の青空だ。

 

「弘世っ……弘世っ!!」

「わ…………」

 

 状況が把握できていない混乱状態にあったが、突然の衝撃にはっとする。

 ぎゅっと抱きしめてきた相手は彼女である林道ひびきだった。

 

「よかったぁ……」

「ひびき……おはよう」

 

 涙ながらに安心したひびき。弘世は無事を確かめるように軽く抱きしめ返してあげた。

 

 周囲を見渡すと近くには小春や霧乃――冒険者や参加者たちの姿も見えた。

 

 ――新宿御苑。

 

 ダンジョンの入口――ゲートがあった場所だ。

 そのゲートはなぜかもう消失しており、跡形もなくなっていた。

 

 徐々に思い出していく、少し前の出来事。

 

 ダンジョン観光で雪の世界へ入って楽しみ、最後に不思議な樹の前で写真撮影をして、丘から下っていく時だった。雪崩が起きて帰り道が塞がれ、脱出用アイテムであるスクロールで外に出る予定だった。

 しかしスクロールが発動せず、そのあと突風が吹いて――

 

「そうだった……」

「弘世、大丈夫だよ。私も途中から覚えてないけど皆無事だから」

「そうか……良かった」

 

 ひびきから説明され、おおよその状況を把握した。

 

 ただ、それだけではないように思えた。

 なぜなら、冒険者と参加者以外の人がわらわらと周囲には集まっていたのだから――。

 

 

「——私たちが目覚めた時には外にいて……そして三人の男性が拘束されてこちらに転がっていたんです。意識を失った状態で」

「そうでしたか……まさかこんなことが起きるだなんて……この男たちには細かく事情を聞かなければいけませんね」

 

 金髪の美人――法坂瑞希がスーツ姿の男性ら三人と会話していた。さらにその後方近くにはよく見かける制服姿の集団も一緒で……。

 

「冒険者ギルドの職員と警察?」

「あそこで拘束されてる三人が犯人で――」

「今回のことについて法坂さんが代表してお話しているみたいです」

 

 弘世が口ずさむと小春と霧乃が答えてくれた。

 体を見る限り二人共怪我をした様子はなかった。

 

「小春と霧乃も無事で良かった……」

「まず私たちの体の心配をしてくれるところが弘世くんぽいね」

「ありがとうございます。無事ですよ」

 

 小春と霧乃は言わない。

 知らなくて良いことは言わない。弘世とひびきよりも先に目覚めた二人は、話し合ってそう決めたのだ。

 

 ただ、なんとなくだ。弘世は感じていた。

 

「多分、二人が俺たちを助けてくれたんだよね。――ありがとう」

「弘世くん……」

「…………はい」

 

 二人はなんと答えれば良いかわからなかった。

 

 霧乃がいなければミノタウロスロードを相手できなかったし、小春の結界がなければ参加者たちは全員死んでいた。

 

 あの絶体絶命の死の恐怖は知らなくても良い。

 だから詳細は語らないが、弘世の感謝だけは心の中で受け止めることにした。

 

 瑞希たちが話し終わると、冒険者ギルド職員と警察による参加者の名簿確認が行われた。

 

「――ひょ、氷堂霧乃さん!?」

「はい」

 

 いつぞやの冬月のような反応になったのは二十代から三十代のギルド職員の三人だ。

 霧乃の名前は祖父である氷堂源六がいつも呪文のように可愛い可愛いと言いまわっているため、相当に有名だ。

 

「心臓が止まるかと思いました。もしここで霧乃さんに何かあれば…………」

「で、ですが、これで会長自ら動き、犯罪者集団を率先して捕らえようとする動きも」

「――いえ。祖父には言わないでいてほしいんです」

 

 しかし、霧乃はそれを止める。

 

「なぜですか! これは霧乃さんだけの問題だけではありません。冒険者全体の問題です」

「それはわかっています。ただ、そうなれば、祖父はそればっかりになるでしょう。冒険者ギルドには他の仕事だってあるはずです。それを疎かにしてほしくないんです」

「それは…………」

 

 霧乃の意見は確かだが、今回は事が事だ。そうも言っていられない。

 それに足る言い分がなければ。

 

「それに、その犯罪者集団はなんとかなるかもしれません」

「え…………」

「一週間だけ待ってください。それで解決しなかったら、私の名前を出しても良いです」

「………………わかりました」

 

 霧乃の事情聴取が行われたあと、弘世たち全員は帰路につくことができた。

 

 帰り際、瑞希たちは何度も『黒ヤギ』というキーワードを呟いていたが、弘世とひびきにはなんのことなのか全くわからなかった。

 

 そして今日ひびきは家に着くまでずっと弘世にべったりだった。

 何度もごめんと謝ったが、あれはひびきの責任ではない。ダンジョン観光は楽しかったと、弘世は彼女を慰めた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――すみません。こちらに八木沼麻未さんという方はいますか?」

 

 ダンジョン観光から数日。

 氷堂霧乃はこの日の放課後、一年生のとあるクラスに一人で訪れていた。

 目的は八木沼麻未だった。

 

「き、綺麗…………」

「あれは噂の氷堂先輩……」

「ちょ、ちょっと待ってください! あ、麻未ちゃん! 呼ばれてるよー!」

 

 突然現れた学年一の美少女。

 そのことに驚いた一年生たちだったが、目的の相手が麻未だと知り、さらに驚くこととなった。

 

「あっ、あばぁ…………」

 

 霧乃の前までやってくると麻未は顔を赤くしながらもじもじした。

 そして美少女と美少女の邂逅にクラス中がハッと息を呑んだ。

 

「ふつくしい……」

「なんて神々しいの」

「女神と女神の共演……っ」

 

 そんな言葉が飛んでいた。

 

「いきなり呼び出してごめんなさい。ここじゃ話ができないから、ちょっと移動しましょう」

「わか、りました……!」

 

 二人は教室前から移動した。

 

 やってきた場所は屋上。

 今の時間は誰もいなかった。

 

「あ、あば……ど、どのようなご用で……」

 

 弘世ならまだしも霧乃と二人きりでは緊張してしまう麻未。

 眩しすぎて、あわあわとどこに視線を向けて良いのかわからなくなる。

 

「麻未ちゃん。単刀直入に聞きます――――あなたが先日私たちを助けてくれた"黒ヤギ"さんですね?」

「あばっ!?」

 

 バレると思っていなかったのか、麻未は驚愕の表情を見せた。

 逆に言えば今の反応でバレたと言っても良い。

 

「言わずもがな……ですね」

「ちち、ちがいます。黒ヤギさんなんて知りません」

「大丈夫です。私は誰にも言うつもりはありません。ただ、少しだけ協力してほしいんです」

 

 あたふたする姿も可愛い麻未。しかし霧乃の言葉でおかしな動きが静止した。

 今になってやっと霧乃の顔を見上げたのだ。

 

「きょう、りょく?」

「細谷とかいう男のことです。拘束したのは麻未ちゃんですよね」

「…………」

「組織ごと潰さないと、今後もどこかで私たちに影響があると思います」

「で、でも……別に先輩たちを狙ったわけじゃ……」

 

 麻未は認めたのか、自分で得た情報をぼそりと吐き出しはじめた。

 

「それでもです。……お願いです、麻未ちゃん。私たちの――麻未ちゃん含む私たちの未来の平穏のために、お願いします」

 

 霧乃は頭を下げた。

 それを見た麻未はまたあわあわしだし、周囲に目線を走らせる。

 自分が謝らせているように見えないか気になったのだ。

 

 ただ、屋上には誰もいなかった。

 

「人、殺しはしません」

「拘束して警察と冒険者ギルドに突き出すだけです」

「…………」

「麻未ちゃん……」

「あばっ………………わかり、ました」

「あ、ありがとうございます!」

 

 霧乃の必死のお願いに、ついに折れた麻未。

 ここに二人の協力関係が成立した。

 

「じゃ、じゃあ――これ、被って」

「へ? こ、これって…………」

 

『収納』による異空間から取り出したのは、鹿の被り物だった。

 とてもじゃないが、芸人がネタで使うような被り物にしか見えなかった。

 実際にそうだった。効果も何も無いただの被り物だ。

 

 不思議に思いながらも霧乃は鹿の被り物を頭から被った。

 すると、内部にはちゃんと目がくり抜かれている部分があり、一応視界は良好だった。

 

 そうしているうちに麻未も黒ヤギの被り物を被る。

 瞬間、どこか雰囲気が変わった。

 

「――今から行く」

 

 準備が整ったと言わんばかりに麻未は霧乃に手を伸ばす。

 

「い、今からですか!? ――きゃあ!?」

 

 そして霧乃の手を取った瞬間、『転移』により、二人の姿は屋上から消えた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――細谷の報告が遅え」

 

 薄暗い無機質な建物。ドンっと、机を叩いて憤りを見せた男がいた。

 ツーブロックで剃り込みが入ってる。まさにボスのような風格でその場では男だけが椅子に座っていた。他の数名は全員立っている。

 

「もう何日経過してる」

「三日になります」

 

 近くに立っていた部下の男がボスに報告する。

 

「完全に失敗じゃねーか。あそこまで準備してやって、どうやったら失敗するってんだよ」

 

 苛立ちを隠せないボスは貧乏ゆすりが止まらない。

 すると、左腕に蛇のタトゥーが見えた。

 

 ――<蛇空ギルド>。

 

 それが、彼ら犯罪者集団のギルドの名前だった。

 

<蛇空ギルド>は、Bランク冒険者を多く抱えるギルドで、ボスだけはAランク。

 表では真面目に冒険者活動をしている。しかし裏ルートで受けた依頼をこなし、人殺しだって行うギルドだった。ただ、裏の依頼を受けていることを知っているのは、ごく一部。カモフラージュのため、それを知らせずに所属させている冒険者だっていた。

 

 今回だって裏ルートからの依頼。

 主に実行するのはダンジョン内。理由をつけるか、ターゲットがダンジョンに入る機会を狙って行動を起こす。

 

 今回はとある令嬢を狙ってのことだった。そして失敗した今、依頼者に顔向けができなくなっていた。

 

「クソっ……」

 

 と、ボスが薄緑色の髪を持つターゲットの写真を見ながら唾を飛ばす。

 そんな時だった。

 

 建物の入口の扉がガチャリと開き、室内に光が入ってきた。

 

「まさか、細谷が帰って――」

 

 部下の男が扉の方に顔を向けた。

 しかし――

 

「はぁ……?」

 

 そこに立っていたのは黒ヤギと鹿の被り物をした身長差のある二人の人物だった。

 そして、なぜか首から下は制服姿。

 

「あれが<蛇空ギルド>のボスですか」

「そう。氷堂先輩は何もしなくていい、です。見守ってて」

「……わかりました」

 

 黒ヤギの少女が一人前に出る。

 

「おいおい。お前ら誰なんだ? 誰の許可を得て入ってきてる」

「…………ターゲット指定『感知』……『鑑定』」

 

 部下の男が前に出ると、その場にいた男たち全員にギフトを使う。

 

 そうして部下の男が仁王立ちして、黒ヤギの少女をそれ以上前に進ませないようにした。

 しかし、何も意味はなかった。

 

 ――ドゴンッッ!!

 

「――――は」

 

 部下の男がいつの間にか壁際にめり込んでいた。

 

 それを見てただ事じゃないとそれぞれ武器を構えた男たち。

 約十人ほどだろうか。徐々に黒ヤギの少女に距離を詰めていく。

 

「ボス! どうしますか!」

「お前ら、やっちまえっ!!」

 

 戦闘が始まった――そして、五秒後には終わった。

 

 黒ヤギの手には何も持っていなかった。

 つまり、素手で戦ったというわけだ。

 

「お前……身体強化のギフト持ちか? 相当な凄腕らしいが……相性が悪かったな」

 

 次の瞬間、ボスの姿が掻き消えた。

 

「――これでいっか」

 

 しかし黒ヤギの少女はそれを気にしない。

 マイペースに倒した部下の男の短剣を拾ったのだ。

 

「バカめ――」

 

 姿が消えた男はいつの間にか黒ヤギの背後に回っており、手に装着していた鉤爪のような武器で背中を切り裂こうとしていた。

 

「――――」

 

 黒ヤギが消えていた。そのためボスの爪はスカッと空振りをしてしまう。

 

「――――ぁ?」

 

 ボスの背中からたらりと血が流れた。

 黒ヤギの少女だ。

 

「て、てめ――」

 

 しかし、言葉は続かなかった。黒ヤギに素手で頭を殴られると、そのままノックダウンし床にバタリと倒れた。

 

「…………終わった」

 

 戦闘を開始してから一分未満。

 霧乃は呆気にとられた。

 

「あ、ありがとうございます。では、書類を漁り、切原さんを探して……あとは冒険者ギルドに引き継ぎましょう」

「あ、あば…………」

 

 

 

 ――翌日、ニュースが流れた。

 

 東京でも有名だった<蛇空ギルド>が解体し、関係者は全員逮捕。

 

 理由は裏ルートから犯罪や殺人などの依頼を受けていたから。そして、その証拠となるものが見つかり、公になったからだ。

 

<蛇空ギルド>所有の倉庫に拘束されていた<黒狼ギルド>の補助系魔法使い・切原真司も衰弱していた状態で発見されたが無事に生還。牧と平川は結局何もできなかったが、切原の帰還を泣いて喜んだ。

 

 この世に冒険者による犯罪はないと言えば嘘になる。

 ギフトを授かり、その異能によって悪いことをする人間だって存在するのだ。そしてダンジョンという場所を使って事件の隠蔽だって行われる。

 

 しかし今回、悪事を働いていたギルドの正体が一つ表沙汰になったことで、業界に激震が走った。

 

 この逮捕劇は、誰もが冒険者ギルドや警察の力だと考えただろう。

 その裏に二人の存在がいることを知っているのはごくごく一部だ。

 

 後に黒ヤギと青ジカと呼ばれる二人組の冒険者。

 彗星の如く現れ、一瞬のうちにSランクまで駆け上がることになる冒険者パーティーだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――霧乃ちゃん」

「…………」

 

 ある日の昼休みのことだ。

 スマホの情報サイトでニュースを見た小春は霧乃に何かを聞こうとした。

 しかし霧乃は唇に人差し指を当てて、弘世とひびきに気づかれないように無言を貫いた。

 

 小春も薄々気づいていた。

 あの黒ヤギの少女には、特徴的な口癖があったから。

 

 その黒ヤギの少女――八木沼麻未は現在、屋上の入口裏の死角に集まり、弘世たちと一緒にお昼休みを過ごしていた。

 

 そして弁当を食べ終わったあと、弘世の膝の上に頭を乗せ、気持ちよさそうな顔で眠っていた。

 麻未が撫でて欲しいとお願いをしたので、弘世が優しく頭を撫でてあげると、スヤスヤと眠ってしまったのだ。

 

「あばぁ……」

「寝言でも言ってるよ……はは」

「ほんとだ。可愛い」

 

 まるで夫婦のように麻未を愛でる弘世とひびき。

 それを見て小春はこれ以上霧乃には何も聞かなかった。

 

 と、そんな時だった。

 

 弘世が突然ハッとして、一言呟いた。

 

「――覚えた」

 

「――――!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ひびき、小春、霧乃が一斉に弘世を見つめる。

 

 この『覚えた』というキーワード。

 それだけでどういう意味なのか理解していたから。

 

「ひ、弘世何覚えたの!!」

「弘世くんっ!!」

「早く知りたいですっ!!」

 

 三人同時に大声を出した。

 

「あばぁっ!?」

 

 しかしその声で驚き目覚めてしまった麻未は、弘世の膝から転げ落ちてしまい、地面に頭をぶつけた。頭を抱えた麻未がゴロゴロとのたうち回り、涙目になっていた。

 

 しかし、今は緊急事態。

 誰も麻未のことなど、目に入っていなかった。

 

 待っていたのは、弘世からの一言。

 そして、放たれた言葉は――

 

 

「――――『育乳』」

 

 

 




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