美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「ようっ、お疲れ様〜」
「って、なんでひまがいるのよ」
「私だけのけ者はなしだ〜っ!」
この日、弘世との顔合わせとして集まることになっていたひびき、海莉。そしてひびきの後輩である葵。しかしなぜか呼んでいない陽鞠まで顔を出してきたのだ。
「まあ、ひまならいても良いけどさ……じゃあ、入ろっか」
「はいっ!」
既に合流していたひびきの言葉に反応した葵は元気に返事をした。
そうして四人で向かった先はカラオケ屋だった。
「誰にも話を聞かれない場所って考えたらここだよな〜」
ひびきの家でも良かったのだが、今日はせっかくの休日なので遊びも兼ねてカラオケに行くことにしていた。
そして、弘世を呼ぶのは一時間後。
既に了承を取っている弘世のスキルについて話したあと、葵に会わせる流れだ。
「よっしゃ! 歌うぞー!」
「バカ」
「あいたっ」
まずは真面目な話をするという話だったのにいきなり歌いだそうとする陽鞠。ひびきがぺしっと頭をチョップした。
「茶化しにきたなら怒るよ〜」
「わかったってぇ……」
陽鞠は難しい顔をしながらカラオケルームのソファにどっかりと座った。
そうして、それぞれドリンクを頼んでから話が始まった。
「――葵ちゃん。早速だけど、今日呼んだのは、言った通り胸を大きくできるかもしれない話をするため。しかも、確実に」
「はい……っ」
正直、中学三年生にはにわかには信じられない内容。
ここで葵の頭を過ったのは豊胸手術だ。
確実と言われて想像できるのは、それくらいしか思いつかなかった。
中学生といえども、整形の知識は多少なりあった。だから豊胸手術に直結したのだ。しかし、先輩であるひびきは高校生。そんなことを後輩にさせるわけがないとも思っていた。
「ちゃんと説明するね。私の彼氏なんだけど、とあるギフトを持っているの。その中のスキルの一つに…………胸を大きくするものがあるのよ」
「へ…………そ、そんなものが?」
葵が驚くのも無理はない。
胸を大きくするなど、豊胸手術で胸に異物を入れなければ叶わないもの。
しかも当然莫大なお金だってかかるし、自分の胸をメスで傷つけることだってするだろう。
「あるのよ。そんな夢のようなスキルが」
「っ! 世の中全ての貧乳女性の希望じゃないですか!」
食い入るようにひびきに近づく葵。
ずっと悩んできた自分の小さい胸。それが今解決するかもしれないのだ。正常ではいられないだろう。
葵は小学校四年生辺りまでは胸の大きさについてほとんど気にしてこなかった。
しかしそこから年齢を重ねるにつれて周りとは差がついていく胸囲。中学に上がるとそれが顕著になった。
恵まれた容姿を持つ一方、体だけは女の子らしさが全くと言っていいほどなかったのだ。だからこそ、好きな相手に積極的になれなかったということもあっただろう。
大好きなバスケに打ち込み、そこで見つけた同級生の好きな相手。
葵がバスケを頑張る一つの理由でもあった。だからこそ、もっと彼に近づきたい。彼に女性として見てもらえるようになりたい、そう思うのは当然だった。
「うん……でも、ここからが問題なの」
「はい」
「そのためにまずは約束してほしい。このスキルのことは他に人に話さないこと。ううん、話さないと『誓約』すること」
「『誓約』ですか?」
突然持ち出した、葵にとって難しい言葉。
なんのことなのかよくわからない葵は不思議な顔をした。
「弘世のスキルは多分、特別なもの。だからこそ不特定多数の人に喋るべきではないと思ってるの。まあ、私が言えることではないんだけど……それでも、簡単に広められると困るものだから――ね、うみりん」
するとひびきはずっと陽鞠の隣で静かにしていた海莉の名前を呼ぶ。
海莉はジンジャエールが入ったコップを一口飲んでから話しだした。
「——私の持ってるギフトは『誓約』っていうんだ。これは相手との約束事を強制的に守らせるもの。もちろん相手の承諾あってこそだけど」
「つまり、それだけこの話は他の人には話してはいけないってことですね」
「そう」
海莉のギフト『誓約』は、海莉本人と取り決めた条件・約束を相手に守らせるもの。自分と相手双方が承諾することによって成立する。その条件にハマった時、喋ろうとしても喋れなかったり、行動できなくなったりするのだ。使い方によってはとんでもないギフトではあるが、海莉はこれまで家族にしか使ったことがなかった。
このギフトを授かった経緯は、海莉の父親に関係するのだが、これはまた別の話だ。
「だから、詳しいことを話す前にここで『誓約』を交わしてほしいの。葵ちゃんのことは良い子だと思ってる。でも、念には念を入れておきたいから」
ひびきからの真剣な言葉。
親身になって話を聞いてくれただけでも嬉しかったのに、されたのは胸を大きくできるかもしれない話。葵はひびきの意思に従うことは最初から決めていた。
「わかりました! その『誓約』をします!」
「葵ちゃん。ありがとう。じゃあ――うみりん」
「はーい」
すると海莉がカラオケルームのテーブルを挟んで向かい側に座る葵に右手を出させる。その右手に海莉は自分の右手を重ねた。
「――弘世のギフトについて他人には話さない。話せる時の条件は、私たちがいる時や弘世本人がいる時。その中に部外者がいる時は話せない。良い?」
「はい。大丈夫です」
葵の意思を確認し、そして海莉の手に青白い光が灯りはじめた。
「じゃあ、私と葵ちゃんとの間に『誓約』を結ぶ——」
そう呟くと海莉の手の光が葵の手まで広がり、二人の手を一緒に包んだ。
すると光がぱっと粒子になって消えていく。
「はい。これで終わりっ」
「ありがとうございます!」
準備は整った。
あとはひびきによる弘世のスキルの説明だった。
とりあえず今回は『育乳』のスキルに留めて話をすることにした。
「――直接触れて……それに反動……ですか…………っ」
一通り葵に説明したひびき。予想通りの反応ではあった。
葵には好きな人がいる。その為に胸を大きくしたいと思っているのだ。
しかし、弘世に直接胸を触らせないといけない——これはとてつもなくハードルが高いこと。
今まで施術してきた相手は運良く好きな相手はいなかった。今回の葵は初めてのパターンだった。
「弘世は私の彼氏なんだけど、そのためにはスキル発動中、胸を触らせないといけない。弘世は真面目だから、変なことを考えないように必死に我慢してるんだけどね」
「そう、ですか…………」
ほぼ初対面の異性相手に自分の胸を触らせること。簡単な話ではない。いくら胸を大きくしたいからと言って、すぐに決められるはずもない。
「それに、こんなこと聞くことすら恥ずかしいかもしれないけど……反動のせいで、気持ちよくなっちゃうのよ」
「き、気持ちよく……っ」
葵の顔が紅潮しはじめる。
中学三年生、部活ばかりしてきた葵はそっちの知識は乏しい。でも、知らないといえば嘘になる。速人のことを想って一人でしたことはあるのだから、気持ち良いという感覚は持っている。
「だから心配なの。弘世の手で満足しちゃって、好きな男の子のことが好きじゃなくなっちゃうことに」
「ひびき先輩…………それは、大丈夫だと思います」
ただ、葵の返事はひびきの思った内容ではなかった。
「もしそれで、速人のことが好きじゃなくなるなら、私の想いなんてそれくらいだってことになるんですから。逆にきっぱりできて良いのかも」
「葵ちゃん、すごっ! そんな大人な考え私絶対できないわー」
弘世の手に堕とされた一人として、葵の大人の考えに陽鞠は目を見張った。
あれは抗えない気持ちよさ。誰しも弘世の手の虜になってしまう。だから葵も同じようになる可能性が高いのだ。
「で、でも……胸を触られるのは……正直恥ずかしすぎて……」
「そうだよね。そこは葵ちゃん次第。大きくなるまでに時間もかかるし、回数も重ねないといけない。とりあえず、これからその弘世が来る。で、会ってみてまた一週間後くらいにどうするかお話聞かせてくれる?」
「わかりました」
するとちょうどよくひびきのスマホに弘世からの連絡が入った。
数分待つとガチャリとカラオケルームのドアが開く。
「お疲れ様、皆」
「おつかー!」
入ってきた弘世はいつものテンションで挨拶をした。陽鞠が元気に挨拶を返すとそのままひびきの横に腰を下ろす。
(これがひびき先輩の彼氏さん……思ったよりも普通の人だ……でも、イケイケの人じゃなくて安心したかも)
ひびきは可愛い。だからこそ、彼氏となる相手はもっと陽キャでイケメンだと思っていた。しかし現れた相手は想像とは全く違う相手だった。
「はじめまして。葵ちゃん、だよね? ごめん名字聞いてなかったからそう呼んだけど、嫌だったら言ってね」
「はじめましてっ! その呼び方で大丈夫です。私は弘世先輩って呼ばせていただきますっ」
緊張した面持ちで葵は挨拶した。
弘世もどちらかといえば、年下の方が緊張しないでいられた。最近はよく妹っぽい子と絡んでいるからかもしれない。
(この人が私の胸を……)
そして葵は想像した。弘世が自分の胸を揉んでスキルを使っている様子を。
(っ……やっぱり恥ずかしい……)
でも葵は気持ち悪いとは想像しなかった。恥ずかしいと思ったのだ。
それはなぜだろう。ひびきの彼氏だということがわかっているからか、そして目の前の三人の美少女に囲まれている男性だから、自分にがっついてくる心配がないと思ったのか。
「俺もドリンク頼んでいいかな?」
「弘世はだめ」
「なんでぇ!? ワンオーダー制でしょ?」
「うそうそ。私のこれ飲んで? あんまり進まなかったから」
「いや……絶対ぬるいじゃん……まあいいけど……」
「やっさしい〜〜っ」
何気ないひびきと弘世のやり取り。それをすぐ横で見ていた葵は、羨ましいと思ってしまった。
もし自分がこんな感じで速人と過ごすことができたなら、と……。
胸が大きくなっても速人と付き合える可能性があるわけもない。
でも、それがきっかけで、この想いを告げることができるのであれば――
「ひびき先輩っ! 弘世先輩っ!」
「葵ちゃん?」
「わっ、私やります! 『育乳』したいです! 私の胸、おっきくしてくださいっ!」
ぺったんこな胸の前に両手を出して、葵は二人にそう伝えた。
◇ ◇ ◇
葵がすぐに決断したことで、時間が十分に余った。
そこで残りの時間は、皆でカラオケをすることに。
一時間ほどカラオケをしてからは葵と解散。
施術は一週間後ということに決まった。
そうして残ったのは同じクラスの四人。
「ねえ、ひびき〜」
陽鞠の様子がどこかおかしい。
腰をくねくねと動かし、美人系の彼女にはそぐわない動きをしている。
「ひま、あんたそれが目的だったんでしょ……」
「バレた? だってさ〜」
「それなら今日の功労者は私じゃない? ギフト使ったんだからさ」
「功労者って表現は変だけど、確かにうみりんには活躍してもらったね。私の後輩のことだし」
「ねえ、皆何の話をしてるの?」
弘世だけ何の話をしているのか全く見当がつかなかった。
するとひびきがはぁ、と嘆息し、
「ひまの顔見ればわかるでしょ。発情してる獣だよあれ」
「あ〜〜〜〜。あはは…………」
つまりだ。
陽鞠は今日、セックスに期待して呼ばれてもいないこの場所に来たのだ。
そして現在葵が帰って、体を重ねた人だけが残っている。
となれば、向かう先は自然と絞られてくる。
「ねえ! ラブホ行ってみない!? 私行ったことないんだよね!」
「弘世、どうする?」
「どうするって言っても……俺たちも行ったことないし……高校生って入れるんだっけ?」
「年齢確認されない場所なら、入れないこともないと思うけど……」
「じゃあ行こうよ! レッツゴー!」
ヤる気マンマンな陽鞠が勝手に決めて前に歩き出した。
それを見てか、海莉も「私もその気になってきたも」と言い出し、陽鞠に続いて歩き出す。
弘世とひびきはアイコンタクトを交わした。
そして、互いにやれやれという表情をしながら二人について行くことにしたのだ。