美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
それから約三週間が過ぎた頃。
『肌質改善』『脱毛』『髪質改善』をしてもらった冬月は、出社を控える朝、自分の変化に気づいた。
「――――」
着ていたパジャマを全て脱ぎ、下着姿になると、自分の体をぺたぺたと触れながら等身大の鏡で確認していく。
凹凸のない滑らかな肌が顔から足先まで続いていて、手のひらで滑らせると何か表面に膜が張っているのではないかというほど皮膚がきめ細かく、潤っていた。
元々綺麗にしていた。でも、それ以上綺麗になるとはなかなか思えなかった。
しかし効果を実感すると、それは圧倒的だった。最高よりも上があったのかと。
「弘世くんのギフトとスキルはこんなにも……」
何度も施術を通して会っていく中で、自然と名前呼びになっていた冬月。
そして、もちろん体も会う度に重ねた。
「同僚になんて言われるかしら……楽しみね」
冬月は他の面々と違い、大きな悩みを持っていたわけではない。
でも、綺麗になりたいという気持ちは、一般的な女性の欲求としては正しいものだった。
シャワーやご飯などを済ませたあと、ワクワクしながらスーツに着替えていった冬月はいざ冒険者ギルド本社へと出社した。
◇ ◇ ◇
出社すると、同僚の女性職員から次々と詰め寄られることになった。
どこでも同じなのが、彼氏ができたのではないかと疑われたことだった。
もちろんできていない。でも、見るからに綺麗になった冬月。
色々と突っ込まれて弁明が大変だった。
それに加え、『鑑定』にやってきた冒険者等からのナンパもいつも以上に増えた。元々胸が大きく、顔だって美人。相当にモテる方だが、さらに魅力的になったのだ。声をかける人だって増えていた。
翌日の休日には、弘世やひびきたちに体の変化を見てもらおうと、会う予定だった。
これまでひびきに対しても弘世を借りたお礼を直接できていなかったので、そのことも含んでいる。
翌日を楽しみに、仕事を終えた冬月はいつも通りに冒険者ギルドから家への帰路についていた。
繁華街から離れ、自分が住むマンションの住宅街に差し掛かった所だった。
ぶーんとゆっくり一台の車が冬月の横を通りかかり、抜けていくところだった。
しかし、その黒塗りのワゴンタイプ車は、いつまで経っても冬月を追い抜くことはせず、ついには横付けして停車した。
その瞬間だった。
突然ドアが開くと二人の男が出てきて、突然冬月に掴みかかる。
「きゃあ!? なんです――」
全て言葉を発する前に口を塞がれ、そのまま車内へと引きずり込まれる。
男たちの強い力に冬月は抵抗さえも許されなかった。
そうして車内に連れ込まれるとそのまま手足と口を拘束。さらにアイマスクをされ、何も見えない状態となった。
(どこに連れて行かれるの? 私が何をしたっていうの……? 誰か……弘世くん……っ)
最後、心の中で想ったのは、この三週間で何度も体を重ねた相手。
明日、会って綺麗になった体を見てもらうはずの相手だった。
◇ ◇ ◇
「………………冬月さん、遅いね」
翌日、午後二時。
午後一時を予定に今日はカフェに入って少しお茶をしてから、ホテルにでも行こうかと考えていた。
待ち合わせ場所になかなかこない冬月。
弘世、ひびき、小春、霧乃の四人は待ちぼうけになってしまったので、しょうがなく先にカフェに入って待つことにした。
しかし一時間が経過しても冬月からメッセージ一通の連絡すらなかった。
「昨日は今日の確認メッセージもあったから、忘れてるわけないと思うんだけど……」
「確かにあのタイプは約束事に遅れるような人じゃないよね」
弘世の心配に同調するひびき。
実際冬月は時間は守る人間。今まで一度も電車遅延以外では遅刻などしたことがなかった。
今日だってひびきたちは冬月のプライベートな話や大人の話を聞きたくて集まったところもある。
だから楽しみにしていたのに。
「……私、ちょっと席外しますね」
すると霧乃が立ち上がり、どこかへ向かう。
一人離れた霧乃はトイレ前の通路まで移動すると、その場でスマホを取り出す。
取り出すとそのままとある人物に電話をかけた。
「休日にごめんなさい――今大丈夫ですか?」
『あ、あば……っ! シカ……じゃなくて氷堂先輩……大丈夫、ですっ』
霧乃は通話相手に配慮しながら、連絡した理由を話しだす。
「私たちの知り合いに冒険者ギルド職員の冬月沙織さんという方がいるのですが、今日会う約束をしていたのに、なぜか一時間が経過しても音沙汰なくて」
『あばば……』
「それで、麻未ちゃん。どうにかして冬月さんの居場所を探し出せないでしょうか?」
霧乃は何となく嫌な予感を感じていた。
今日の遅刻は何か普通ではないと、直感ではあるがそう感じていたのだ。
だからこそ、彼女の一番の裏の協力者――八木沼麻未に頼ることにしたのだ。
『ターゲット指定してない人は……わかりません……』
「そう、ですよね……さすがに麻未ちゃんでも」
『で、でも……家に行けばわかる、かも』
「ほ、ホントですか! でしたらぜひお願いしますっ!」
『あ、あば……じゃあ今からそっち行きます』
「え、今ですか!? 今こっちは――」
まだ近くには弘世たちがいる。
その説明をしていなかった霧乃は、少し焦る。
麻未のギフトやスキルについて、そしてできれば弘世やひびきには、あまりこういうことには関わってほしくない。そういうことは自分と麻未で裏で処理し解決するのだと決めていたから。
でも、霧乃の行動自体、弘世たちにどこか不自然さを感じさせていた。
その証拠に――
「霧乃……? 今の話、ちゃんと聞かせてもらえるかな」
「ひっ、ひびきちゃんっ!?」
ちょうどトイレに行こうとしていたひびきが背後に来ていたことに気づかず通話を続けていた霧乃は、霧乃側の会話を全て聞かれていたのだ。
「氷堂せん――あばぁ!?」
さらにカフェ近くに『転移』してきてしまった麻未が、そのまま入店し、まっすぐに霧乃がいる場所へと来てしまったのだ。
「……前々から怪しいとは思っていたけど……全部話してもらうからね」
「あ、これは……なんというか……あはは……」
「あばばばばばばば……」
焦る霧乃のこめかみからたらりと汗が流れる。
そして間違ったタイミングで来てしまったと思い、目がぐるぐるになっていた麻未。
二人は弘世と小春が座る席へと連れられていった。
◇ ◇ ◇
時は昨日の夜へと遡る。
「――あなたたち。これは犯罪ですよ。どこの冒険者かは知りませんけど、この件が明るみに出ればおしまいです」
椅子に拘束されていた冬月は、複数人の男女を前に鋭い目つきで睨んでいた。
ただ、冬月には何もできない。『鑑定』のギフトを持ってはいるが、これは攻撃手段にはなり得ないギフト。
この拘束から一人で脱することができる確率は皆無であった。
「おうおう。ギルド職員サマは威勢がいいなァ」
手に紫色の刀身を持つ禍々しいナイフを持った深いクマを目の下に持つ長髪の男が、そう冬月に言い放つ。
周囲の男女を見ると、服装が見るからに冒険者。
ただ冬月は今までに見た記憶がなかったことから、東京に所属している冒険者ではないと感じていた。
「ま、痛めつけられりゃ、嫌でもこっちに従うことになるけどなァ?」
両腕にはびっしりとタトゥーが刻み込んであり、その右腕で持ったナイフをペロリと舐めた男が下卑た眼差しで冬月を見やる。
「それで、私に何をさせようと言うんですか? まぁ、私を狙ったということはギフト狙いでしょうけど」
「理解が早いじゃねーか。アァ――『鑑定』が狙いだ。でも、複数の『鑑定』持ちがいる中で、お前が選ばれたことには運がなかったと思うんだなァ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「別に『鑑定』持ちなら誰でも良かったさ。でも、どこにいるのか場所が知れてるのは冒険者ギルドの職員だろう?」
長髪の男が言うには、冬月が拉致された理由は『鑑定』狙い。しかし、冬月に限ってということではなかったようだ。つまり、『鑑定』持ちの中でたまたま狙われたのだ。
「そうですか……では、早く要件を言いなさい」
「おい。出せ――」
すると、長髪の男が部下の冒険者に何かを持ってこさせた。
布に包まれた何かを冬月の前まで持ってくると、バッと布を取り去る。
「っ!? それは――」
「アァ……驚いただろう?」
なんとも邪悪な宝玉。水晶玉のようなそれは、中でぐるぐると何かが蠢いており、それが魔力の本流だとすぐにわかった。
おそらく布自体も貴重なもの。魔力を包み隠す効果のある布。
なぜなら布を取り払った瞬間に、圧倒的な魔力をその宝玉から冬月は感じ取ったからだ。
「何なのですか……それは――」
「流石にこの玉を見ただけじゃわからねえか……『ダンジョン・コア』だよ」
「は……今、なんて……ダンジョン……コア?」
思いもしなかった言葉に冬月は動揺する。
名前は知っている。存在も知っている。でも、日本でそれが確認されたという事例はこの三十年間一度もなかった。
「アァ……お前にやってもらうのは、この『ダンジョン・コア』の使い方だ。これでダンジョンを作り、そこで俺がダンジョンマスターとなることで、ダンジョンをコントロールし、大きく稼がせてもらう」
長髪の男が言った『ダンジョン・コア』。
これは、ダンジョンの核というべきもので、この『ダンジョン・コア』があれば、指定した場所に『ゲート』を出現させ、そしてダンジョンを作り出せるものだという。
海外では、数例発見された事例があり、しかも通常ボスを倒せば消えるダンジョンも、消えないようにコントロールできるという。
そのため、ダンジョンマスターとなった者は、魔物を作り出せたり、お宝を設置できたり、ダンジョンの様々なことを一から作り出せる。
そうして、やりようによっては冒険者をダンジョンに挑ませてお金を徴収したりすることで、永遠にお金が入る仕組みだって作れるのだ。
そんな夢のようなアイテムがこの『ダンジョン・コア』だと言われている。
「そ、そんなもの……あなたたちのような相手に使わせるわけがないでしょう!」
冬月の回答はノーだった。
当たり前だ。もし、『ダンジョン・コア』が持っている人が善人であれば、冬月だって協力したかもしれない。
しかし、目の前にいる相手は明らかにそうではない。
ダンジョンは殺人に使われたりもする場所。そんな場所を悪人にコントロールされてしまえば、どうなるか……。
「でもお前は俺たちに従うしかない――嫌だというのなら、お前の指を一本一本もらうことになる。でも、最初は手加減してやる――来い」
「この外道――!」
長髪の男が手をあげる。
すると背後からゆっくりと現れたのは一人の女性。
エナメルのように光沢感のある皮のボンテージスーツを纏った女の手には複数のトゲがついている鞭があった。
今からされることは想像に難しくなかった。
「うふふ。私、あなたのような気の強い女性大好きよ……でも、そんなあなたがいつまで普通を保っていられるかしら?」
SM女王のような女は、化粧が濃く赤いリップが目立つ。
冬月の顎をクイッと掴むと、獲物を見定めるように舌なめずりをした。
「…………っ」
(なぜ……なぜこんなことに……)
冬月は十分に反省し、冒険者ギルドからの謹慎だって解けている。
だから罪を償い、また新たに仕事に励むつもりで復帰してから今まで頑張ってきた。
それなのに、なぜこんな仕打ちをされなくてはいけないのか。
犯罪者はいるとはいえ、事前に取り締まることは難しい。
そして、こうやって直接的行動に出てくる冒険者だって存在する。
力を持つものは、弱者を牛耳る。当たり前の世の中の仕組みではあるが、それでもだ。こんな理不尽許されていいわけがない。
ただ、冬月は『鑑定』は使わない。
そして使ったとしても教えるつもりもない。
もし、『ダンジョン・コア』を扱う人がいるとすれば、そう――高梨弘世のような善人に使ってほしい。そう思うから。
冬月が『鑑定』を使うつもりがないとして、女が鞭を振り上げる。
「あなたの綺麗な顔が傷つくのが楽しみだわ――っ!」
せっかく弘世に施術してもらい、美しく綺麗になった肌。
今傷つけられれば、それが台無しになる。
それが悔しくて、冬月は歯を食いしばった。
(弘世くん……ごめんなさい――っ)
顔に向かってトゲのついた危険な鞭が飛んでくる。
冬月は避けることもできず、そのままバチンと大きな音を立てて顔面に思い切り鞭を喰らった。
「く…………っ」
しかし、違和感はすぐに訪れた。
(痛く……ない?)
女に鞭で叩かれたはずの顔が痛くない。
当たりどころが悪ければ、失明だってしかねない一撃。それなのに痛みがないとはどういったことか。
「おいおい……手加減したんじゃねーだろうな?」
「ま、まさか! 私は思い切り――でも、なぜ……っ!?」
長髪の男と鞭の女は何が起きたのかわからず動揺する。
それもそうだ。思い切り鞭で顔を叩きつけたのに、冬月の顔には一切の傷ができていなかったのだから。
その時、冬月に一つだけ、心当たりがあった。
だから発動した。
(――『鑑定』)
自分に対して、『鑑定』を発動したのだ。
そして、それを視て、冬月は居ても立っても居られなくて、笑ってしまう。
「ふふっ……ふふふふふふっ。あははははっ!」
「てめェ……殺されたいのか?」
突然の冬月の笑いに長髪の男が持っていた禍々しいナイフを握りしめる。
「すごい……すごいよ……っ」
目端に雫を溜めながら、恐怖と感動入り混じった言葉を漏らす冬月。
(弘世くん、君って人は……本当に――)
冬月が『鑑定』で視た、自分の体の状態。
『鑑定』は、今の自分の状態さえ、視ることができる。あの『火傷の呪い』だった亜澄の状態もしっかりと診断したくらいだ。だから自分の今の状態を確認することも容易だった。
そして、今の冬月の眼に表示されていた文字。
それは――
『状態:ゴールデンタイム』
――彼女の体を絶対に傷つけることができない状態を表していた文字だった。