美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
『状態:ゴールデンタイム』
冬月の眼に視えていたのは、そんな表示だった。
「笑うのを止めやがれっ!」
「竜威《りゅうい》さん、そのナイフは――」
竜威と呼ばれた長髪の男が、笑う冬月の顔にナイフで斬りかかる。
しかし――ガチンと甲高い音がして、ナイフが跳ね返されたように腕ごと吹き飛ばされたのだ。
「なぁっ!?」
「ふふふふ……あははははっ」
笑う冬月。これが笑わずにいられるか。
弘世は冬月に加護を落としたのだ。その効果がこれだ。
今、誰にも彼女を傷つけることはできない。
それが、証明された出来事だった。
『ゴールデンタイム』
これは、弘世が施したスキルの効果が現れた部位――ターンオーバーによる細胞変化が起こり、変化した時から肌に根付くまでの間、強力な魔力で覆われる防護膜。
肌質が変化する時、その部位は新しい細胞に生まれ変わる。しかしそのためなのか、とても外部刺激に弱い。
だからその間、肌を守るためにオート付与されるバフ効果だった。
さらに言えば、肌にはゴールデンタイムと呼ばれる夜十時から深夜二時までの間、成長ホルモンが分泌されて、ターンオーバーがより促進されると言われる時間がある。
主にこの時間に就寝するのが良いとされるが、その効果が常に最大限、限界以上の力を弘世のスキルを通して引き出されたのが、この『ゴールデンタイム』でもあった。
そして、このバフ効果の期間は約一週間。
肌に新しい細胞が定着するまで人それぞれだが、おおよそ一週間となっている。
その期間も冬月の眼には視えていた。
『——女子は『美容』が大好きですから。恐らく私たち女子にとっては最強バフ効果のSランクギフトですよ』
初めて弘世が冒険者ギルドを訪れ、鑑定した時、冬月が彼に送った言葉。
この言葉によって弘世は少なからず救われた気持ちになっていた。
「本当にSランク相当のバフ効果……ふふ……まさか自分の口で言った言葉が別の意味で現実になるなんて……」
冬月は、自分のかけた言葉が巡って、自分に返ってきたことに感動する。
どこでどう縁が繋がるのかわからない。短い時間言葉を交わしただけなのに、紡いだ言葉の強さはバカにならない。
ただ、それでも問題はある。
結局拘束からは逃れられないし、窒息でもさせられたら終わりだ。
傷つけられないだけで、やろうとすればできる拷問はたくさんある。
でも、勇気をもらえた。
こんなに恐怖の視線が自分に降り注ぐ状況であっても、冬月は最後まで希望を捨てなかった。
◇ ◇ ◇
冬月が拉致された翌日の午後二時過ぎ。
カフェの店内で霧乃と麻未の怪しい行動がバレてしまい、現在その二人は弘世たちと一緒の席に座っていた。
「私だってさ、ただバカなだけじゃないよ? 色んな違和感感じてたんだから」
「え、なんのこと?」
ひびきは鋭かった。でも弘世はそのことに全く気づいていなかった。
麻未だって、ただの可愛い妹のような存在で、その強さの一旦さえも知らない。
「弘世は黙って聞いてて。すぐにわかることだから」
「おうふ……」
ひびきは少し怒っていた。
自分たちがもし彼女たちに知らないところで守られていたとしても、危険な場所へ身を置いていたことには変わりないのだから。
「あばばばばばばば…………っ」
強烈な緊張から滝のような汗が流れ、麻未の体は電動マッサージ機のように小刻みに振動していた。
「あ、あのですね……これは少しずつ説明する必要があって……」
同じく霧乃もだった。ひびきの顔が見れない。
唇が震えていた。
「怒ってないから、ゆっくり説明してちょうだい。でも、全部ね。必要とあらば、うみりん呼んで『誓約』使ってもらうから」
「そ、それは大丈夫です……麻未ちゃん、お願いします」
「あばば…………『防音』」
その瞬間、突如他の客の話し声がぱったりと消え、無音になったのだ。
意味がわからず弘世は周囲を見渡す。しかし、何事もなかったかように店内では客たちが話し続けている様子が見えた。
「今のは麻未ちゃんのギフトです。これで、私たちの声は他のお客さんに聞かれることはありません」
瑞希の『魔力視』などがない限り、視覚では捉えられない防音壁が弘世たち五人を箱のように囲んでいた。見えるのは実際に使った麻未だけ。彼女にはうっすらと半透明な膜が見えている。
「麻未ちゃん、良いでしょうか。この皆であれば、大丈夫だってわかっていると思います」
「あ、あば……だいじょう、ぶ……です」
麻未の承諾を取ったことで、話下手な麻未に変わり、霧乃が彼女の能力の一端を話すことになった。
次第に表情が変わっていくひびきたち。
小春も何かあるとは知ってはいたが、説明されたわけではなかった。だから今の説明で驚くことになったのだ。
「――つまり『継承』のギフトで、色々なギフトを持っているんだ……麻未ちゃん……すごいね」
弘世は緊張で死にそうな麻未の頭を撫でてあげた。すると少しばかり表情が和らぐ。
「わかった。怖がらせてごめん。そして、ありがとう……あの時、麻未――それに霧乃と小春も一緒に守ってくれたんだね」
「俺からもありがとう。皆にはいつも助けられてばかりだ」
ダンジョン観光の時、弘世とひびきは意識を失っていたが、地下に落ちた時に助けてくれたのが麻未だとようやく知ることになった。
そして、麻未がくる直前まで頑張っていたのが、霧乃と小春だったということも、今ここで初めて知ったのだ。
「はい。皆さんに何かあった時、私たちに関わる人くらいは助けたいと、そう思って今回も冬月さんを探そうと考えて――」
「麻未ちゃんのスキルに頼ろうと思ったってことか……」
「はい……」
おおよそ理解したひびき。
そしてひびきは霧乃と麻未を抱きしめた。
「良い子たちねっ」
「ん……」
「あばぁ……」
その抱擁に包まれ、二人は安堵した表情になる。
そしてここからが本題。
冬月を探すことについて。
「麻未ちゃんの話では、冬月さんの家に行けば現在地を割り出せるかもしれないとのことです」
「よし、なら行こう。今すぐに――」
霧乃の話を聞き、すぐに行動に出ようと立ち上がったひびき。
弘世が知っている冬月の家のマンションへと、移動することになった。
ただ、それまでには色々と障害があった。
冬月のマンションはオートロックで中に入れない。
鍵なんて持っているはずもない。
とりあえずインターホンを押してみて、不在かどうかを確認してみることになる。
「……反応がない。じゃあ麻未、お願いできる?」
インターホンを鳴らしても反応はなかった。
そうして、弘世の声で麻未の近くに四人が集まると――
「――『転移』」
五人が姿を消し、次の瞬間、冬月の家の前まで移動した。
「うおっ……すご……変な感覚だ」
「これで私たちもダンジョンの最下層から運び出したんですね」
麻未のギフトの効果に驚く一同。
そうして冬月の部屋のインターホンを押すもやはり反応がなかった。
ただ、今回は何かおかしい。
勝手ではあるが、冬月の部屋に入ることにした。
「――『解錠』」
麻未がギフトのスキルを発動させると、ガチャっと冬月の部屋の鍵が開く。
そうしてひびきが先頭で中に入ると――
「いないっぽい?」
靴を脱いで中に入る。
そうして見渡すと、以前弘世が訪れた時のように綺麗に整頓されている部屋のままだった。
誰かがこの部屋に押し入ったようには見えなかった。
「麻未ちゃん、どうですか?」
「んん……何かその人が大事にしてる物とかあれば……」
麻未が欲するものがいまいち何なのかわからないが、とにかく冬月が大事そうにしているものを探すということになった。
「弘世、何か冬月さんが大事そうにしてるものはなかったの?」
「うーん。見た感じ、物に執着してそうな人ではなかったしなぁ……」
しかしそれでも思い当たらない。
部屋に来ても、麻未のギフトでどうにかなるわけではなかった。
しかし――
「あばっ!」
「どうしたの、麻未ちゃん」
「通勤ルート……辿れば……何か、わかるかも……」
ハッとした麻未の言うことを信じて、一同は再び移動。
冬月の家から冒険者ギルド協会への通勤ルートを確かめるように、歩いていった。
そしてそれはすぐのことだった。
マンションから五分ほどの距離だ。
「こ、ここ……っ」
麻未は何か感じたのか、立ち止まり指を差す。
その場所はなんら変哲もない路地だった。ただ、人通りは少なそうな一方通行の細い路地だ。
「ちょっと……待って……」
麻未が考えるようにして目をつむり、集中する。
「――『追想』」
呟くと、立ったままの状態で麻未は十分ほど動かなくなった。
そうして、ギフトの力を使い終わったのか目を開けると――
「わ、わかりました……でも、危険……拉致、されてる……昨日の夜から……だから、高梨先輩たちは行かないほうが……」
「拉致……!? なんで冬月さんが……!」
麻未からの言葉に弘世が怒りを露わにする。
「警察に連絡は?」
「小春ちゃん、警察は信憑性の低い情報では動いてくれません。それに今日は休日ですし冒険者ギルドも午前中のみの営業です」
結局のところ、動くことができるのは自分たちだけ。
であれば、麻未と霧乃だけで行くのが正解だが……。
「俺、この手で冬月さんを助けたいよ」
「私もだよ。こんなこと言うのは変だけど……麻未ちゃんなら私たちのこと、守ってくれるんだよね?」
「も、もちろんですっ……絶対に傷つけさせません……」
「ではこうしましょう。私と小春ちゃんで弘世くんとひびきちゃんを守る。相手はまだよくわかりませんが、戦闘になった場合は麻未ちゃんに任せるということで」
弘世とひびきは顔を見合わせる。
戦闘系のギフトではない二人は、ただのひよこだ。でも、守ってくれるというのであれば、彼女たちの言う事を聞く。
「では、皆さん良いですね。弘世くんとひびきちゃんは絶対に私たちから離れないように」
「うん」
「わかった」
霧乃が最後の確認をし、麻未へと視線を送る。
四人が麻未の傍へと近寄ると、ギフトを発動――
「――『転移』」
その瞬間、路地から五人の姿が消えた。