美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「――あ…………授かった」
十歳くらいの時だったろうか。
人見知りでなかなか友達もできなかった私が、ふと気付いた時にギフトを授かったと感じたのは。
――イギリスのひいおじいちゃんが亡くなった。
授かったと同時にイギリスハーフの母から告げられたのは曽祖父の死だった。
『ひつじみたいな髪だなぁ〜! はっはっは! お前は優しい子になるんだぞ』
「あ……あば…………っ!」
あまり覚えていないけど、わざわざ日本に足を運んで可愛がってくれたという記憶は少しだけ残っている。私のコンプレックスだった羊毛のようなぐるぐるの髪のことも真っ向から愛でてくれた。そのお陰で髪にコンプレックスを持っていても家に閉じこもったりせずにちゃんと学校に通えたのかもしれない。
そんな曽祖父は高齢にも関わらず、イギリスで『英雄』と呼ばれていた冒険者だったらしい。
三十年前、世界同時多発的にダンジョンが出現し、一部の国のダンジョンでは魔物がゲートから溢れ出てきたという話もある。日本では今まで一度もそんなことはないが、魔物が溢れた国では大きな被害が出たという話だ。
その国の一つがイギリスだったらしい。
当時、ただの農夫だった曽祖父は発現したギフトを駆使して魔物たちを殲滅。その功績により英雄と呼ばれ、叙勲までされたらしい。
――『継承』。
『英雄』と呼ばれた曽祖父が持っていたギフトだ。
そうして、その曽祖父が亡くなった瞬間、なぜかそのギフトを受け継いだのが、私だった。
ギフトはどんなものを授かったのかわかる人とわからない人がいるらしい。
私はわかる人だった。
なぜか。私の場合、その時授かったのは『継承』のギフトだけではなかったから。
曽祖父のギフトについては、秘匿性が高い関係だったからか、誰にも話してはいけないというのが、イギリス国内で決まったことらしい。日本にいる私は対象外ではあるが、私のギフトを知っているのはつい最近まで家族に留まっていた。
『継承』のギフトを授かったとわかった瞬間、私に流れ込んできた複数のギフト。
『鑑定』『感知』『擬態』『反射』『転移』『物理耐性』『気絶耐性』『健康』『貸与』などなど……その時点で数え切れないほどのギフトを授かっていた。
その影響かわからないが、私は授かったと気付いたのだ。
そして最初に使ったのは『鑑定』。自分が持つギフトを『鑑定』し、その能力を理解していった。
『継承』のギフトは、親族が亡くなった時、持っていたギフトを自動的に継承するギフトだった。最初は五親等まで。
そして、十六歳になった今の私は、十親等までその効果範囲が広まっていた。
親族が無くなる度に増えていくギフト。
『断空』『重力操作』『安眠』『狂戦士』『魔力強化』『誘導』『魔力収集』『拝借』『保護』『跳躍』『勇者』……六年間でさらに増えていったギフトは、私の手に余るようなものばかりだった。
中学三年生の時、私は初めて禁忌を犯した。
何もなかった私に、なぜか授けられたギフトの数々。
どこかで曽祖父のように誰かを守ることができたなら、人とはあまりコミュニケーションをとれない私でもヒーローになれるのではないかと、そう思ったのかもしれない。
だから興味本位で、ダンジョンに入ることにした。
通常ダンジョンは冒険者ギルドに認められた十六歳以上の人しか入れない。でも私は『擬態』のギフトで自然に溶け込み姿を隠し、ゲートを管理する職員の前を堂々と素通りした。
初めて見る魔物は巨大なトカゲだった。
自分の体よりも数十倍大きく、見つめられた瞬間に殺されると思った。
しかし、自動的に私のギフトが発動したのか、なぜか急に恐れを感じなくなったのだ。
――倒せる。
そう思った私は『跳躍』し、トカゲの吐いた炎を『転移』で躱し、『魔力強化』で右手の拳に魔力を集め、『狂戦士』になって頭を素手で殴った。
巨大なトカゲは一瞬にして頭が潰れて、地面に倒れ込み、次第に魔力の塵となって消えていった。
後で調べると私が入ったダンジョンはAランク下位ダンジョンだったらしい。
当時はランクの概要はまだ理解していなかったけど、私にとっては準備運動にすらならない相手だった。
両親にギフトのことを話すと、お前にはひいおじいちゃんの血が濃く流れてるんだろうと言われた。もちろんダンジョンに入ったことなど言えるわけもない。
ひとまず、何かあった時のために家族だけは守りたいと思い、『感知』でターゲット指定をし、『保護』で私の魔力を体に纏わせた。
それからというもの、度々私は一人でダンジョンに入り、ボスを倒さないように立ち回っていった。次第に獲得していく、聖遺物《レリック》やアイテム。それを『収納』による異空間に溜め込んでいった。
曽祖父の死がきっかけで手に入れてしまった自分にそぐわない力。
ただ、そんなギフトを持っていても、私のコンプレックスは解消されるわけでもなかった。
母はサラサラ。父はもじゃもじゃ。
私は髪質だけは父の影響を大きく受けたようで、小さな頃からずっと頭が爆発したような髪質だった。
――そんな私も高校生になった。
思いの外、クラスメイトが優しくて、特に女子生徒は積極的に私と会話してくれて、髪型をバカにする人は少なかった。友達と言ってくれる人もできたけど、彼女たちの髪質は綺麗でサラサラ。羨ましかった。
『もじゃもじゃ』『アフロ』『ボンバー』『大◯洋』……たまに聞こえてくる声。
真正面からいじめられたわけではないけど、私が女子として生きていくには、この髪は不要でしかなかった。
そんなある時、髪がとっても綺麗な先輩を見かけた。
思わず、『綺麗』と口にしてみると、その先輩がこちらを向いてしまった。
恥ずかしくなった私は、その場から逃げるようにして立ち去った。
クラスにまで来て、私を呼び出した。
先輩からの呼び出し。これがたまに聞く後輩いじめなのかと思ったが、全くそうではなかった。
屋上のベンチで林道ひびき先輩から『髪質改善』のスキルを持っている人がいると聞かされた。
私は勝手に『鑑定』を発動させ、林道先輩がなぜ声をかけてくれたのか、高梨先輩のギフトがどんなものなのか、把握していった。
だからこそ、すぐにその効果を信じることができ、私は長年悩んできたこの髪を先輩たちに託すことにした。
「あばばばばばばばばっ♡ あばばばばばばばばっ♡」
色々なものに対して耐性のギフトを持っている私でも、高梨先輩の施術中はおかしくなりそうだった。
『気絶耐性』を持っているため、気絶はしなかったが、気絶した方が良いのではないかと後になって思ってしまった。
なぜなら、私の下半身はいつの間にかびしょ濡れになっていたのだから。
私は『勇者』のギフトで、なんとか恥ずかしさを抑え込み、正気を保った。
それから合計六回、施術を受けて、ある日の朝のこと。
劇的な変化をした自分の髪に驚き、自然と涙が流れた。
どんな強力なギフトをいくつ持っていても、自分のコンプレックスは改善されなかった。それを改善してくれた先輩たちに感謝し、これからは彼女たちを優先に守ろうと思った。
その日のうちに母に美容室に連れて行かれると、美容師の人が驚いていた。
くるくるだった髪質が突然ストレートになったことで、私は顔を隠すほどの前髪により幽霊のような髪型になっていたのだから。
「これが……私……っ」
とてもじゃないが、自分だとは思えない人物が、鏡の前に座っていたのだ。
後に母も私を眺めるとぎゅっと抱きしめて、喜んでくれた。
クラスでの扱いも髪が変わってから劇的に改善した。
なぜか女子たちはお姫様のように扱ってくれて、男子たちは積極的に用事を
手伝ってくれるようになった。
それでも、元々仲良くしてくれていた友達は、変わりなく私と接してくれた。
だから、遊んでいる時に私が突然いなくなっても、本気で怒ったりはしなかった。
ある日のことだ。
先輩たちに指定した『感知』のギフトが反応した。
『感知』のギフトの能力の一つに、ターゲット指定した相手の身の危険を知らせてくれるものがあった。それが四人同時に発動したのだ。
私は友達と遊んでいたのだが、先輩たちの窮地に行かなくてはと思い、その場に友達を置いて、『感知』で感じた場所へと転移した。
それはダンジョンの中だった。
異様な雪が降り積もるエリアで、前から一人の男が歩いてきていた。
黒ヤギの被り物を頭に被り、Sランクダンジョンで入手した『ラブリュス』と呼ばれる両刃の巨斧を取り出した。
男を倒したあとは拘束し、凍った湖を割って先輩たちの元へと降りていった。
経験からその場所はダンジョンの最下層に思えた。
見るとかなりギリギリの場面に私は到着できたようで、背後に確認できた先輩たちの姿を見て、一安心をした。
後はザコの殲滅だった。
『転移』で魔物の近くに瞬間移動し、『魔力強化』『狂戦士』『断空』を同時に使い、残りの魔物を一掃した。
被り物をしている時の私は、少しだけ人に見られているという羞恥心から解放される。
人前でこれだけ力を見せたのは初めてだった。
でも、これ以上は見せるわけにはいかないと思い、『安眠』のギフトでその場にいた全員を心地よい眠りへと誘った。
その後、ゲート入口にいたギルド職員ではない人を気絶させ、ダンジョンの中にいた怪しい男と一緒に拘束。
最下層にいた人々は『転移』によりダンジョンの外へと移動させた。
ただ、私の正体はなぜか見破られていたらしい。
氷堂先輩が私を呼び出して、これからの協力をお願いされた。
それは高梨先輩たちを守るための、秘密の協力関係だった。
結局はバレてしまった私のギフト。
でも、先輩たちはとっても良い人たちだから、私も教えることに承諾したのだ。
「あばっ……あばばぁ…………」
陰で先輩たちを守る私が、今一番幸せなことと言えば、高梨先輩に頭を撫でられること。
『髪質改善』をされた影響か、私の頭は彼に引き寄せられていて、とても気持ちいい。だからこうして、定期的になでなでされるようになった。
たまに膝で眠ってしまうが、高梨先輩は優しくて絶対に怒らない。
その優しさに浸かってしまっているけど、だからこそこの人たちをずっと守っていきたいと、そう思った。
そんなある日のことだ。
高梨先輩と氷堂先輩の体に異様な魔力が纏っているのが視えてしまった。
『状態:催眠』
話を聞くと、氷堂先輩の家に行ったという話を聞いた。
その流れで氷堂先輩の家に一度招待してもらうことになったのだが――
「――あら、霧乃ちゃん。また友達が増えたの? 今日は本当に可愛い女の子を連れてきたのね」
氷堂先輩の母を見た瞬間、私は理解してしまった。
ギフトを使い、何をどうしようとしているのか、よくわからない。
でも、私は居ても立っても居られなかった。
家族に対して、悪意だけで動くような人には見えなかったから。
トイレを借りるというテイで、私は勝手にある部屋を訪れた。
「あら、どうしたのかしら? 麻未ちゃん、だったかしら」
「あばっ……そう、です」
口下手が発動し、しどろもどろになってしまったが、話さなくてはいけなかった。
「高梨先輩と氷堂先輩にギフトの力を使うの……よくないと思います」
「――っ!?」
そんなことを言われると思っていなかったのか、劇的に表情が変化した氷堂先輩のお母さん。
「――い、淫婦ちゃんっ!?」
そう口にすると、突然目の前に小さな魔物が出現した。
「なんだなんだ。今日は用事はないって話じゃ――わっ!? なんでこの子、私の姿が視えてるの!?」
「えっ!?」
通常は見えないらしい羽の生えた小さな魔物。私の目にははっきりとその姿が視えていた。
そして、『鑑定』をしたことにより、はっきりと彼女のギフトの能力を把握した。
「あばばっ……先輩たちが好き、です。だから……ケジメは……ちゃんと……」
「っ! ……わ、私は……っ!」
氷堂先輩のお母さんが悲痛な表情をしながら自分の胸をぎゅっと掴む。
「ずっと……ずっと……私は女を捨てて……っ……でも、我慢して我慢して……だから……! あの人は仕事が忙しくて家にもあまり帰ってこない……だからギフトの力を使う以前の話で――」
「高梨先輩には彼女が……います。氷堂先輩……とは、別の……」
「えっ…………」
知らなかった。そんな反応に見えた。
私も細かい事情は知らない。でも、自分に視えたもの、知っていることだけでも伝えなくてはいけない。
それが最終的に先輩たちを幸せにすることに繋がると思っているから。
「私……には、どうすれば良いのかは、わかりません……で、でも……先輩たちには……ちゃんとケジメを……あばぁ……」
「おー、霞。一応言っとくけど、この子には私の能力は効かないみたいだぞ。まあ、諦めることだな」
「…………」
ふわふわと宙に浮かぶ魔物は、私を観察するなり勝てないと思ったらしい。
その通りで催淫や催眠のような精神系や毒や麻痺などの状態異常系の能力は私には全く効かない。
「先輩たちは……優しい、です……だから、ちゃんと話せば……最後には……許して、くれます……多分」
「あぁ……あぁ……っ」
「あ、あばぁっ!?」
氷堂先輩のお母さんを泣かせてしまった。
さすがにここまでするつもりはなかったけど、少し罪悪感がある。
私はどうすれば良いのかわからず、でも、これだけは言っておきたいと思い、一言告げた。
「悩みは……人に……相談する、ものです」
私の悩みを解決してくれたように、先輩たちにはその力がある。
だから、良くないことをしたとしても、先輩たちなら最後には彼女のことを許してくれるだろう。
言ったあと、私は静かにその部屋から出ていった。
「――麻未ちゃん。遅かったですね」
「あ、あば……すみません」
「いえ。怒っているわけではありません。それで今後の話なんですけど――」
氷堂先輩の部屋に戻ると、二人きりで話したかったことを話題だす。
つい最近起こった冒険者ギルド職員の誘拐事件。
その功績が氷堂先輩のものになり、先輩はこの機会に冒険者登録をするという話だった。
「麻未ちゃんも一緒に冒険者になりませんか? そのために私、お祖父様にお話をつけてきたんです」
「あば……」
「本名は公表しない。ギフトも鑑定しない。麻未ちゃんの正体を知るのは私とお祖父様だけ」
私のギフトが大勢に知られるととても大変なことになるかもしれない。
冒険者になれば知名度だって上がり、注目されてしまう。それによって、安らかな生活ができなくなる可能性だったあるのだから。
「弘世くんたちを守るためです。私たちが強いと見せつけることで、一種の抑止力になるはずです」
私は冒険者登録をせずともダンジョンに入れる。
でもそのせいで、いきなりボスが倒されダンジョンが消えてしまうという事象も起こしてしまったこともあった。
それなら、冒険者登録をして正しくダンジョンに挑む……そして氷堂先輩の訓練も兼ねる。私の正体も知られることはほとんどない。
それなら――
「あばっ……わかり、ました」
「ありがとうございますっ! なら、ギルドを作りましょう! 今日は名前を一緒に考えましょう!」
「あばばばっ……」
氷堂先輩とギルドを作ることになり、話がどんどん進むことに驚く私だったけど、それが先輩たちを守れることに繋がるなら、それで良かった。
この身に余る『継承』のギフトが役に立つのであれば、ずっとずっと先輩たちの傍で見守って――。