美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
――結婚をしたのは、おそらく先見の明というやつだったのだろう。
大学卒業後、既に社長業をしていた今の夫に出会い結婚したのは、『ダンジョン』産業がこの先長く求められるジャンルだと思ったから。
もちろん、ただそれだけで結婚なんてしない。
それなりに彼の情熱や熱さに惹かれた部分があったから。
出会った当初から、会う機会は多いとは言えなかったけど、それでも私の元に会いに来てくれた夫のことは、好きでいた。
ただ、大きく変わったのは、霧乃ちゃんが生まれてから。
当時まで仕事をしていた私は、それを辞めて専業主婦に。
氷堂家の使用人と一緒に霧乃ちゃんを育ててはいったが、その間、夫の会社の業績は伸び続け、以前よりもずっと忙しくなっていった。
夫が社長として経営している『株式会社ダンジョンギルド』は、全国的に展開しているダンジョン関連会社。そのせいか出張がとても多い。
私に会う回数は劇的に減っていき、結局はそれが原因なのか、霧乃ちゃんを産んでからは長い間セックスレス。
そんな中で私の性欲を管理してくれていたのが、ギフト『淫婦召喚』で召喚した『淫婦』ちゃん。手のひらサイズの小さな羽が生えた人型の生物。
ダンジョンなどの異界では魔物と呼ばれるが、彼女自身は自分のことを精霊だと呼んでいる。その精霊は、基本的には人に見えないそうで、召喚者である私としか会話もできない。
彼女を通じて、『催淫』『催眠』の二つのスキルを使うことができる。
『催淫』は、対象者の性欲を上昇させたり、男性であれば下半身の復活を早くしたり、私を求めるようにしたりもできる。
『催眠』は、簡単に言えば記憶改ざんと思考誘導。犯罪者が持ってはいけないとんでもないスキルだ。
このスキルを自分自身に応用し、騙し騙しセックスレスの悶々を殺していった。
夫に使っても良かった。
でも、帰ってきても家に滞在するのは一日。
次の日すぐに、また仕事へと出かけるので、ゆっくりもしていられない。
人の仕事の邪魔をするのは、あまり好きではなかった。だからもう諦めていたのだけど……。
もうセックスレスになってから十年以上が経過した頃のこと。
霧乃ちゃんが高校生になり、初めて男の子を家に連れてきた。
たまたま見かけたその子は、ぺこぺこと私を見るなり挨拶してくれた、優しそうな子だった。
そもそも女子の友達すらいないと思われた霧乃ちゃんが初めて家に連れてきた相手が男子だったことにも驚いたけど、それ以上に驚いたのは、その男子と性行為をしていたこと。
ふわりと香る家のボディソープの匂い。
天気は雨でもないのに、お風呂に入る理由がわからなかった。
霧乃ちゃんとその子の表情から、すぐに私は理解してしまった。
でも、その子は霧乃ちゃんの彼氏ではないという。
つまり……セフレ?
そんな私は安易な考えから、それなら私も……なんて考えてしまった。
夫は愛しているし、言葉では愛されている。でも、体を求められないことだけには愛を感じられなかった。
だから初めて自分の欲望のために、淫婦ちゃんのスキルを使った。
霧乃ちゃんにお願いをして、彼――弘世くんを家に連れてきてもらい、十数年振りに私は性欲を解放した。
でも、『催淫』の効果がここまでだとは思わなかった。
最初に私がお願いをした、『やめてと言ってもやめないで』の言葉に従い、私の体をこれでもかと蹂躙し、失神しかけるまで貪られた。
だから私だけでは、無理だと思い、淫婦ちゃんに霧乃ちゃんを呼んでもらい、一緒にすることになった。
まさか娘と一緒に行為に及ぶことになるとは思わなかったけど、それでも気持ちよかったことは確かだった。彼のスキルを使ってもらったことによるものだとは思うけれど、枯れはじめた体に潤いを取り戻した。
そのまま彼を借り続けようと思った、そのすぐ後のことだった。
『高梨先輩と氷堂先輩にギフトの力を使うの……よくないと思います』
外国のお人形さんみたいに可愛い子だった。
霧乃ちゃんの友達だというその子は、なぜか見えないはずの私の淫婦ちゃんが見えていて、言葉も聞こえていたようだった。
私が霧乃ちゃんと弘世くんにスキルを使っていたことがバレた。
人と話すことが苦手そうな彼女は、淫婦ちゃんがお手上げなところを見ても普通ではなかった。
どうすれば良いかわからず、その小さな女の子に夫とのセックスレスについて吐露してしまった。
『高梨先輩には彼女が……います。氷堂先輩……とは、別の……』
『先輩たちは……優しい、です……だから、ちゃんと話せば……最後には……許して、くれます……多分』
すると彼女は弘世くんには彼女がいることや今なら戻れるとでも言うように、私を諭すような言葉を述べて目の前から去っていった。
「――霧乃ちゃん、ごめんなさい。私、あなたと弘世くんにスキルを使っていたの。許されることではないけど……本当にごめんなさい」
あの小さな女の子の言う通りにした。
倍以上も年の離れた子にスキルを使って無理やりさせたことは、犯罪と言っても良い。
「そう……だからあんな違和感が……」
「あなたたちの記憶を改竄していたから……」
霧乃ちゃんは納得したように、顎に手を当てた。
「だから、私――っ」
「弘世くんたちには言わない」
「ぇ……」
弘世くんとその彼女にも頭を下げようとまずは、霧乃ちゃんに相談したのだけど、そうはならなかった。
「知らなくても良いことってあると思う。全てを話すと、弘世くんもひびきちゃんもどうして良いのかもわからないし、嫌な気持ちになるかもしれない。だから言わない方が良い」
「でも……」
「セックスレスってのは、親から聞きたくなかったワードだったけど、でもお母さんの気持ちもわかるかもしれない。だって、私も弘世くんとずっと会えなくて、そういうこともできないってなったら多分苦しいから」
「霧乃ちゃん……」
複雑な関係であろう霧乃ちゃんと弘世くんとの関係。
あまりそのことは話してくれないけど、大切にしていることは伝わってくる。
「多分、お母さんのスキルなら、弘世くんの反動もコントロールできる。だから、まずは一度お父さんと会話してみることだと思うの」
「でも、お父さんは……」
「私なら呼び戻せる。お父さん、私のこと大好きだから」
「……私は優先してくれないのにね」
「それは言ってもしょうがない。でも、お父さんはちゃんとお母さんのこと好きだよ」
好きなのかどうか、愛してるのかどうか。
最近はわからなくなってきている。
年齢を重ねればセックスレスになるのは当たり前だとは思うけど、それでも私の体はまだ疼いている。
私より十歳近く年上なあの人は、今でも性欲はあるのだろうか。
私を求めることはあるのだろうか。
「だから、待ってて」
「うん」
それからのことだ。
霧乃ちゃんは、私の夫である氷堂五十里を簡単に家に呼び戻した。
大怪我をしたとか、嘘をついたらしい。
霧乃ちゃんもいつの間にか処世術がうまくなったようだ。
「――霞、今まですまん……っ」
私の部屋で土下座して頭を下げていたのは、世間では強面で通っている私の夫だ。
セックスレスで悩んでいたことを初めて彼に話すと、突然土下座して謝罪してきたのだ。
「実は俺もずっと言い出せなかった……しばらく仕事で離れることになってから、誘うタイミングもなく………家に帰ったはいいが、歳をとった私をもう求めていないのではとも思っていて……」
そんなこと、初めて聞いた。
私だってずっと言っていなかったけど、簡単に言えることではない。
それを言って拒否されでもしたら、そこでもう一生体を重ねることができないと確定してしまうから。
私も彼も怖かったのだ。
ちゃんと向き合って対話でもしていたら、もっと早く解決していたかもしれない。
「……今でも、私の体を愛せる?」
「もちろんだ! 俺は全国飛び回ってきたが、お前ほどの美人は一人たりともいなかった」
「若い子だっていたのに?」
「お前はどう見ても二十代にしか見えないじゃないか」
「それは……まあ努力はしているから」
彼がいくら褒めても簡単には受け入れられない。
だから否定から入ってしまう。
「月に三回だ」
「え……?」
「家に戻り、お前との時間を作ることだ」
それは、どういったことだろう。
私のために、仕事の時間を削るということだろうか。
「今の俺の限界……でも、その三回。もしくは四回……必ず時間を作る」
「それで……?」
「こんな俺でも、また、お前のことを愛しても良いだろうか?」
「ぁ…………」
そう言われた瞬間、私の目からは涙が溢れた。
「良かったじゃねーか。まあ、このおっさんはそれなりに性欲はあるほうだぞ。今まではそれを仕事に使ってきたようだけどな」
隣では淫婦ちゃんがそう囁く。夫にはそれは伝わっていないけど、彼の体のこともわかるらしい。
「霞……」
「五十里さん……」
私たちはその場で抱き締め合った。
ちょっと加齢臭がではじめたような体だけど、彼のお父さんと同じく、筋骨隆々な体は男らしく、力強い。
大きな体で抱き締められると、私の内なる性欲が解放されたかのように熱くなる。
「今日は、良いの?」
「ああ。本当は霧乃のために時間をとったつもりだったんだが……だから空いてる」
「あの子は今幸せよ。私もあなたも必要がないくらいにはね」
「心配する必要はあまりないってことか」
「そう……だからもっと私を見てちょうだい」
「わかった……」
対話とは、ここまで大事なものだったのか。
いざ話してしまえば、こうも容易く体を重ねられる。
霧乃ちゃんと弘世くんには本当に悪いことをしてしまった。
伝えない方が良いということだったけど、あとは霧乃ちゃんに任せてみよう。
それと、あの子――麻未ちゃん。
不思議な子だったけど、あの子が言ってくれなければ、私は延々と間違いを犯し続けていたのかもしれない。
霧乃ちゃん。本当に素敵な人たちと出会えたのね。
――ありがとう。