美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
第44話 宝来美鳥からの誘い
「まさか弘世と二人で行動することになるとはね〜」
「それは俺のセリフ……いつもはひびきと陽鞠がいたから」
十月に入り、既に夏服が終わりブレザーを上着として着る季節。
この日、弘世と海莉は二人で行動していた。
薄青の髪をショートにした彼女の耳にはピアスが見える。
いつも同行しているひびきも今日はいない。二人一緒なことにもちゃんとした理由があるのだ。
そんな二人はとある部屋で待たされていた。
目的の人物がやってくるまでは少し時間がある。
だからなのか、ソファに座る海莉が弘世に近づき――
「ねえ、良いでしょ?」
「え、は……二人だからって――ちょっ」
普段は笑顔が可愛い海莉。その瞳が少しとろけて弘世の顔に近づいた。
彼を逃さないように両腕を掴むと、そのまま口づけをする。
「んっ……うみ……ここは……だめな、場所……っ」
「いいじゃん……誰もっ……んっ……いない……んちゅっ……んぅ……」
舌を絡ませ、柔らかな唇を押し付ける。
こうして海莉と二人きりになるのは初めてだった。だからなのか、彼女はいつもより積極的になっていて――
――ガチャリ。
そう熱いキスを交わしていたところ、部屋の扉が開き、二人の女性が室内に入ってきてしまう。
「ぁ……これは……っ」
とろとろになっていた海莉の顔は紅潮し、離した口からは透明な唾液の糸がたらりと見えた。
「――続けてください。演技ではない本物のキス、興味深いです」
そう話したのは黒髪ストレートの美人。濃厚なキス真っ最中にも関わらず淡々とした声音で、まっすぐにこちらを見ていた。
「ほら、折香《おりか》さんも言ってる! だから――」
「ちょ、海莉ばか――んっ、だめ……だめだって!!」
弘世は海莉を突き飛ばし、なんとかキスをやめさせる。
「ああん」と言いながら海莉は名残惜しそうに指を口元に当てた。
「もう終わりですか? こう間近で見る機会はないので、もっと見ていたかったのですが――」
「ええと……さすがに今日の趣旨はそれとはまた違うので」
「ああ、そうでしたね。あなたのスキルを私に使ってくれる――そういう話でしたね」
弘世をじっと見つめた若手女優――椎名折香《しいなおりか》が表情を変えずにそう呟いたのだった。
なぜ、このような状況になっているのか。
それは二週間ほど前に巻き戻る。
「――『感度改善』」
弘世が新たに覚えたスキルの名前。
冬月を含めた五人全員がシャワーを浴びて、身綺麗にした一同。
落ち着いてから改めて新スキルの話をすることになった。
<感度改善>
方法:全身をさする
効果:感度の改善(ただし、一定以上の感度には上がらない)
反動:一定時間体が火照る、敏感になる
『感度改善』の能力はこのようになっていた。
ひびきたちに共有すると、ふーん、という反応しかなかった。この中には誰一人として感度が悪い人はいなかったからだ。
そもそも感度が悪いという人は探してもなかなかいない。
それ故にこのスキルは役に立つのだろうかという意見が散見された。
ただ、弘世の運命は得てしてか、
「――え……あ……」
「小春、どうしたの?」
「えっと……前に海に行った時にね、ある人と連絡先を交換したんだけど……」
「え、ナンパ!?」
「いやいや、女の子だよ。あのダンジョン観光にもいた子なんだ」
小春は思い出しながら説明を始める。
隣にいる霧乃もそういえば、と思いながら小春の話に耳を傾けた。
「私たちと同い年の宝来美鳥って子なんだけど、その子、冒険者専門の芸能事務所『トレジャーネクスト』の娘さんなんだって。だから霧乃ちゃんの事も知ってたみたい」
「『トレジャーネクスト』ですか……最大手じゃないですか」
「沙織ちゃん知ってるんだ?」
「冒険者界隈では有名ですからね」
小春の説明に沙織が反応。それに対してひびきが興味を示した。
ただ、話はここからだった。
「その美鳥ちゃんが、週末に撮影予定だったモデルたちが一斉に出られなくなっちゃったみたいなの。だから別案で雑誌のページを埋めなきゃいけなくなったとかで……」
「それってつまり」
「私たちに出ないかってオファーが今きたの」
「ええっ!? 私冒険者じゃないけど!?」
『トレジャーネクスト』は芸能事務所だけあって、雑誌を発行している会社とも提携している。その雑誌社からの依頼で冒険者をモデルとして貸し出したりもするのだが、今回はその話とは少しちがったようだった。
「それについては問題ないみたい。今回は冒険者が関係ない一般的なファッション雑誌。だから冒険者をしていなくても大丈夫って」
「へ、へえ……」
「それで人数は五人欲しいって話らしいんだけど……」
小春が目の前にいる人たちを見回す。
ただ一人、沙織だけはブンブンと首を横に振っていた。
「私は仕事があるのでダメですよ」
冒険者ギルドに就職していても、副業が禁止されているわけではない。
沙織は歳の離れた子たちと一緒に撮影することを忌避していただけだった。
「そうですよね〜……ってことは、あの二人に声かけてみる?」
「小春、それ私と霧乃が出るってことになってない?」
「ひびきちゃん出るでしょ? 顔が出るって言ってるよ」
「あはは〜。私なんかが出ても良いのかな? ねえ弘世」
「ひびきは可愛いからモデルになれるくらいの容姿持ってると思う。それに小春が言った二人って陽鞠と海莉のことでしょ? 聞かなくてもオーケーだしそう」
「……弘世が言うなら。あいつらにも声かけてやるか」
ひびきは最初からまんざらではなさそうな表情をしていた。
「霧乃ちゃんはどう?」
「私は皆さんが出るのであれば……ちょっと恥ずかしいですが」
「なら決まりだね。美鳥ちゃんに返信するね」
そうして、五人はモデル撮影と相成ったのである。
◇ ◇ ◇
――一週間後。
訪れた撮影スタジオでは、カメラマンやメイク、数人のスタッフが待機しており、ひびきたちを出迎えた。
「すっげー! まさか私らがモデルデビューするなんて!」
「だねっ! 確かに私たちは可愛いけど……ね!」
スタジオとスタッフたちを見て、陽鞠と海莉が目を輝かせていた。
案の定、この二人は話を持ちかけた瞬間に承諾の返事が返ってきたのだ。
「――皆さん今日は突然のことながら本当にありがとうございます。私のことを知らない人のために自己紹介をしておきます。宝来美鳥――高校二年生ですが、こうして会社の仕事にも携わっています。今日はマネージャーとして皆さんをサポートしますので、よろしくお願いします」
その場にいた薄緑色の髪を背中に流した美少女が丁寧に挨拶をしてくれた。
本来、美鳥自身もモデルになれる容姿を持っているはずだが、基本的には会社の仕事優先。故に高校生ながら、こうしてマネージャーや仲介なども行っている。
スタジオにはクリスマス系の衣装が用意されていた。
まだ十月ではあるが、何事も先取りだ。雑誌が出版されるのは先のため今から撮影しておかないと間に合わない。
ということで、スタジオも時間が決まっているため、五人はそれぞれ着替えに入った。
「あの……あなたは……」
「あ、えっと……付き添いに来て欲しいと言われて来たんですけど……邪魔ですよね。すみません」
「いいえ、いいえ。ただ、どのようなご関係かなと思っただけです」
その場には弘世も同行していた。
着替えやメイクをする間、美鳥が弘世のことを不思議に思い声をかけてみたのだ。
「俺はあのひびきって子の彼氏なんです。他の子は皆クラスメイトですね」
「そういう関係でしたか。全員と仲が良さそうでしたので……女性に恵まれているんですね」
「いいえ……皆との関係も棚からぼた餅みたいな感じですから」
「……?」
基本的には自分のギフトのことについては隠しているため、直接的なことは言わない。その表現として弘世はぼんやりと美鳥に伝えたが、もちろんその意味は伝わらなかった。
「あの……気になってたんですけど、隣でも撮影行われてるんですね」
「ああ、このスタジオは広いですからね。区画は分かれてますけど、こうして他の方と一緒になることもあるんです」
弘世の目線は隣の区画。区画と言っても地面に線が引かれているだけ。
ホワイトバックとグリーンバック二種類のスクリーンが並んであり、そこに立って撮影をするらしい。
既に撮影を始めている隣の区画では、次々とポーズを変えている一人の女性が目に入った。
「あの人……どこかで見た気がするんですけど」
「あら、ご存じないんですか? あの方は椎名折香――話題沸騰中の若手女優ですよ」
「ええっ!?」
椎名折香、二十二歳。
十代の頃に道端でスカウトされてから、小さなドラマなどに出演。そこから徐々に脚光を浴び、今では有名ドラマにも出演をし始めている。
弘世のように冒険者の知識ばかりある人は知らないかもしれないが、ミーハーな陽鞠などであれば、知っている人物だった。ただ、先程は自分が撮影される興奮であまり周囲が見えていなかっただけで――。
「女優さんだったんですね……」
「ふふ。見劣りしないくらい綺麗なクラスメイトと一緒ですもんね。知らなくても当然かもしれません」
「そんな……でも、あの椎名さんも表情豊かですっごい綺麗な人ですね」
「巷では『百面相』なんて言われているらしいですよ。『五秒で涙を流せる』という話もありますね」
「すごい……女優ってやっぱりすごいんですね」
弘世は関心しながら、ひびきたちが準備する間、椎名折香の撮影に見入っていた。
着替えとメイクが完了すると、ひびきたちが揃って登場。
それぞれサンタやトナカイ、雪だるまなど少しだけ露出が多い可愛い衣装を着ていた。
「弘世〜! どう?」
「可愛い……でも、これ雑誌見る人に見られるんだよね?」
「なに、嫉妬してくれるの?」
「そりゃあ……」
この可愛い彼女を自分の目にだけ焼き付けたい。
えっちで可愛い衣装を見るのは自分だけ。できればそうしたい弘世だった。
「ちょっとひびきだけじゃなくてこっちも見ろよー」
「そうだそうだ〜」
陽鞠と海莉が口を尖らせて弘世に迫る。
弘世ははいはい、と嘆息しながらも可愛いと言ってあげた。
「小春も霧乃も可愛いよ」
「ありがとう」
「ありがとうございますっ」
小春の場合、ちょっと胸が目立つため、よりエロく見えてしまうが衣装のせいもあるだろうか。普通のクリスマス衣装ではないので、目のやり場に困るというやつだ。
そうして、撮影が開始され、しばらくして一旦休憩となった。
弘世を含めた六人で休憩室に向かうと、そこには椎名折香とマネージャーらしき人もいて――
「あっ! 椎名折香〜っ!?」
「嘘!? すごい! 可愛い!」
案の定、陽鞠と海莉が飛び跳ねるようにして驚くのだった。
「あ、あの! 握手してください!」
「私もー!」
「私で良ければ」
すると椎名折香は、優しい物腰で二人と握手をした。
先ほどまでの撮影をずっと見ていた弘世からしたら、今の椎名折香は少しばかり落ち着きすぎているように見えた。
さすがは女優。オンオフの切り替えがすごいらしい。
――ガタっ。
すると、休憩室に用意されていたテーブル前の椅子に座ろうとしていたひびきが椅子に足をぶつけていた。
そして目を見開いていたその先には――
「まさか……女優さんも……?」
独り言のように呟くひびき。
驚きながらも自分の椅子に座ったひびきは、他の五人を集めてコソコソと話を始めた。
「ひびきちゃんどうしたの?」
小春が小声で聞いた。
「――端的に言うと……椎名折香。あの子、弘世に反応してる」
ひびきがそう話すと、一同がゴクリと息を呑んだ。
「っ!? マジかよ。あの椎名折香が!? 今バリバリ活躍してる女優だぞ!?」
「でもやっぱ女優でも悩みとかあるのかな……でも弘世のスキル考えると……なんだ?」
陽鞠と海莉が驚くと、弘世の話に。
弘世の持つどれかのスキルに反応しているのだ。だからこそ、それがどのスキルなのか気になる。
弘世が『美容』のギフトで持っているのは『肌質改善』『脂肪燃焼』『脱毛』『髪質改善』『育乳』『感度改善』のスキルだ。
「肌も綺麗だし、痩せてるし、多分脱毛済みだし、髪だって綺麗……胸もそれなり……まさか、だよね?」
「いやいや……でも……あり得なくはない?」
まさかと思いつつも一同はその答えに至ってしまう。
「――『感度改善』?」
ひびきが呟いた。
その瞬間だった。椎名折香が椅子から立ち上がり、こちらに近づく。
そして――
「――良ければ私も会話に加えてもらってもいいですか?」
ただの一般人に椎名折香が興味を示すように隣の席に座ったのだった。