美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「――良ければ私も会話に加えてもらってもいいですか?」
撮影の合間、休憩室にて六人の会話に加わろうとしたのは今話題沸騰中の若手女優――椎名折香《しいなおりか》だった。
小春とは違うアレンジなしの黒髪――清純派女優のイメージぴったりのストレートな髪型だ。彼女はれっきとした芸能人。なぜこちらに話しかけてきたのか、一同は驚きの顔を見せた。
「私たちでよければ……どうぞ」
「では――」
座ったのは弘世の隣だ。その弘世はすぐ隣に女優が座ることになり、びくびくしている。アイコンタクトで助けてと視線を送るも、誰も助けてはくれない。
「――実は私『聞き耳』というギフトを持っているんです」
誰も聞いていないのに、突然暴露しだした折香。
それを聞き、ひびきたちはびくっと反応した。
つまり、そういうことになる。
「私に、何か反応していたんですよね?」
聞かれていた。
確かに少しコソコソとはしていたが、絶対に聞かれない音量で話していた。
それでも聞かれたということは、折香のギフトで聞かれていたということになる。
(おい、どーすんだよひびき)
(これってスキル名も聞かれてたってことになるよね)
(なら、ここでごまかすのも……)
(一応軽く説明だけしておく?)
(最悪私の『誓約』でなんとかするよ)
そんな会話を目だけでしていた一同。
ひびきから口を開いた。
「――実は私のスキルが椎名折香さんに反応していて、簡単に言えば椎名さんがそこに座ってる弘世のスキルを求めているってことになります」
「私が求めているものをこの子が持ってる……」
目を細めて弘世を見つめる折香。弘世は先程同様に動かないままだ。
「それが――」
「――『感度改善』ってやつなんですよね?」
ひびきの言葉を引き取って折香がそう言った。
やはりスキル名まで聞かれていたのだ。
「はい……その通りです。なんというか、今ここにいるメンバーの一部が悩みを弘世に解決してもらって……だから椎名さんも何か悩みがあるんじゃないかなと」
「…………」
ひびきからそう告げられ、折香は考え込む。
表情は真面目だ。テレビで見かける彼女は色々な表情をするが、このプライベート空間では一度も笑っていない。
「マネージャー」
「はい」
「言ってもいい?」
「…………正直、お勧めしません」
背後に立っていた眼鏡をかけたスーツ姿の女性――マネージャーに確認をとった折香。ただ、完全には否定はしなかった。
「君たち良い子そうだし……外に広めないって誓えますか?」
「えっ、そんな重要なことを言おうとしてます!?」
「重要……まあ私にとっては重要。でも、世間的にはどうだろう……」
「私たちは一般人ですから、あんまり背負えませんよっ!」
ひびきの意見は妥当だ。ぽろっとどこかにでも漏らしてしまえば、ネットでそれが広がってしまうことだってあり得る。折香が何を話すのかはわかっていないが、それを危惧してのことだ。
「まあ……大丈夫でしょう」
すると椎名折香は改めて一呼吸置いて呟く。
「――私、不感症みたいなんです」
それは、一人の女性として、セックスを楽しめないことを示す言葉だった。
「…………マジでこれ、聞いて良かったやつ?」
陽鞠が聞いた内容に少し焦る。額には汗が見えた。
女優の下ネタとも言えるような話だ。しかも結構デリケートな。
「大丈夫ですよ。私が困ってるのはセックスの話ではないです。演技の話なんです」
「椎名折香がセックスって言った! セックス!」
「ちょっと陽鞠うるさい」
女優からまさかそんな言葉を聞くことになるとは思わず陽鞠は居ても立っても居られなかった。しかしひびきがピシャリと怒って止める。
「今まではあまり人と絡むようなシーンはなかったのですが、ついにキスとか、そういうシーンがある映画に出演することになって」
「おめでとうございます」
どんな作品かはわからないが、一応おめでとうと言っておいた一同。
「はい。それ以外の演技なら正直言って自信があります。でも恋愛に関する絡みは私には理解できないんです。昔付き合った彼氏からもマグロと言われたことがありますし」
「ちなみにその人とは好きで付き合いました?」
ひびきが少しだけ疑問を持った。
ほんの小さな違和感だ。
「どうでしょう。告白されたから将来の演技のために役立てはという形で付き合いましたが」
「やっぱり……椎名さん。不感症ってのも多分あると思うんですけど、好きかどうかってのも大事だと思いますよ」
「そう、ですか……でも、人を好きになることは私にとって簡単ではないです。仮面を貼り付ければそういう演技はできないことはないですけど、多分物足りない演技になるでしょう」
俳優は、その役になり切ることで演技をする。入り込みすぎて日常生活にも影響が出る人だっているらしい。クランクイン前から準備し、本番に備えるのだ。
「椎名さんが本当に求めているなら……弘世のギフトを施すということもありますけど、人を好きになる気持ちを改善できるわけではないです」
「でも――心と体のうち、体は改善できるってことなんでしょう?」
「そう、ですね」
椎名折香の話からすると、既に弘世のスキルに興味を持っている。
ただ、彼女にもちゃんと言わないといけない。
「反動があります。それに、彼があなたの体に触れることになります……抵抗ありませんか?」
「彼、ですか……」
じーっと弘世を見つめる椎名折香。
恥ずかしくて弘世は顔を両手で隠していた。
「顔が見えません」
「えっと……勘弁してください」
「面白い人ですね。この業界の俳優は口説いてくる相手ばかりですから」
「それを言ったら弘世は真逆なタイプでしょうね」
ひびきたちを見てある程度美人には慣れているが、本物の芸能人ともなれば、また別だ。実際、椎名折香にはオーラがあった。芸能人特有のオーラだ。
「いいですよ。触れられるのも、反動も……今の私は演技をどうにかすることが一番大事ですから。少しでもその未来に近づけるなら――」
これが女優魂というものなのだろうか。
ひびきたちは、無表情の奥に隠れる瞳の輝きに息を呑む。
これは小春や霧乃。自分の悩みを解決したいと強く思う人の瞳だった。
なら、これ以上引き止めるわけにはいかない。
「弘世、いける?」
「うん……椎名さんが求めてるなら」
「じゃあ、決まりだね」
こうして、椎名折香の『感度改善』の施術が決まったのだった。
◇ ◇ ◇
――そうして一週間後。
弘世と海莉が二人で行動することになり、その場に椎名折香とマネージャーがきたのだが、濃厚なキスシーンを見られることになっていた。
キスを続けてと言われたものの、弘世は海莉を引き剥がしなんとか本題に戻す。
「あなたのスキルを私に使ってくれる――そういう話でしたね」
今日は椎名折香に施術を施す日だった。
ただ、なぜ海莉が必要になったかと言えば――
「前にも説明しましたが私のギフト『誓約』で守秘義務的なことを交わしてもらいます」
「もちろんです。マネージャーさん、出ていってもらえる?」
「わかりました」
するとスーツ姿のマネージャーが部屋から出ていき、部屋には三人が残った。
事前に説明していた弘世のスキルの有用性から、あまり大勢に知られるわけにはいかない。だからこそ、こうして海莉のギフトで喋れないようにするのだ。
テーブルを挟んで向かい合った折香と海莉。
「弘世のギフトについて他人には話さない。話せる時の条件は私、弘世、ひびき、陽鞠、小春、霧乃がいる時だけ。それに加え、反動で弘世を襲いたくなっても、襲わない」
今更ではあるが、弘世のスキルの反動。
海莉のギフトを使えば、恐らくは弘世を襲うことなく、最後まで施術を済ませることができる。ただ、その間の体の悶々は自分でどうにかするしかないが。
「はい。お願いします」
葵の時と同じように海莉の右手に青白い光が灯り、折香の手に重ねる。
そうして意思を確認。
「じゃあ私と椎名折香さんとの間に『誓約』を結びます――」
手の光が二人の手を包む。そして『誓約』を結び終えると粒子となって光が消えていった。
「これで、お終いですね!」
「ありがとうございます。では、早速施術お願いできますか? ベッドがありますので」
三人は立ち上がり、部屋から出る。
向かった先は寝室。
そう。ここは椎名折香のマンションの部屋だったのだ。
芸能人だからか、タワーマンションであり、エントランスも厳重なセキュリティが敷かれていた。
部屋にやってくると、彼女らしいシンプルな造りの部屋。その窓際に置かれていた一台のベッドがあった。
「じゃあ、私は一旦外に出るから。あとは任せたよ弘世」
「えっと……本当に出ていっちゃうの?」
「だって、私がいてもしょうがないじゃん。近くのカフェにでも行くよ」
「椎名さん。僕のこと信じすぎじゃないですか? 男なんですよ?」
「さっきの『誓約』で結んでもいいですよ。私に手を出さないとか。でも、あなたは大丈夫な気がします」
「……マネージャーさんも別の部屋に待機してるんですよね?」
「いいえ、今は出ていってもらいました」
「マジデスカ…………」
つまり、施術が終わるまでの約一時間の間、テレビでも見かける若手女優と二人きりの空間になるのだ。
「じゃあ海莉さん。またあとで」
「はいっ。絶対に気持ちよくなっちゃうと思いますけど、色々我慢してくださいねっ」
最後に余計なことを言って出ていった海莉だった。
残された二人。弘世がもじもじしていると、 折香がゆっくりと服を脱ぎだした。
「えっと、目隠しとかしなくても良いんですか!?」
「そんなのしなくて良いです。恥じらいはないと言えば嘘ですけど……弘世さんを信じてますから」
「そんなに信じられても困ります〜〜〜」
結局は何を言っても弘世は施術が終わるまで逃げられない。
それが綺麗な女優の裸を見ることになってもだ。
バサリと服が地面に落ち、そして下着にまで手をかける。
ブラ、そしてパンツ……。
「やっぱり少し恥ずかしいですね。見てもいいですけど……まあ直視はしないでもらえたら」
ここに来て一気に恥じらいを感じた折香。
テレビでもたまに見せるような表情豊かな彼女の顔だった。
今の今まで無表情だったので、逆に弘世はそんな折香の顔を見て少し安心した。
「こちらに来てください。暑かったらその上着脱いでもいいですからね」
「はい――」
弘世は上着を脱ぎ、Tシャツ一枚になった。そうしてベッドに誘導され、裸の折香は仰向けに寝た。
色白の肌に均整の取れた体型。小ぶりなお尻と脱ぐまでわからなかった思いの外大きい胸。弘世はゴクリを息を呑んだ。
そうして弘世も準備が完了し、折香の顔に近づく。
「全身なので、頭から足の先までになります」
「はい。お願いします」
目をつむり、完全に弘世に体を委ねた折香。
弘世は集中し、スキルを発動した。
「――スキル『感度改善』」
両手に白く淡い光が灯った。