美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「うっ……ううっ……」
部屋の中、夜中一人で涙を流す女性がいた。
くぼんだ右胸に手を当てながら、失ったそれに悲しみ、途方に暮れる。
――二階堂恋。二十五歳のモデルだ。
十代の頃からモデルとして活動してきて約十年。
これから結婚し、人の親となってもママ向け雑誌のモデルとしてもやっていける。そのくらいの注目を集めていた人物。
そのはずなのに――二階堂恋が診断された病名。それは『乳がん』だった。
やむなく右胸を全摘出することになり、命に別状はなくなった。
しかし、今後のモデル活動を制限しなくてはならず、水着の撮影だってできなくなる。
今、二階堂恋はモデルとして仕事を継続するかどうかの瀬戸際に立たされていた。
乳房再建手術だってある。しかしそれは長い期間でやっていくもの。
今では綺麗に再建できるとも言われているが、自分の理想通りになるかもわからない。
そして、女性ホルモンの乱れにより卵巣に影響が出て、子供だって望めなくなるかもしれない。それ以上に、胸のない自分と交際してくれる男性だって出てこなくなる可能性も――。
それ故に色々なことを考えてしまい、暗くなる思考。
女性としての命――全てが失われたように、二階堂恋は絶望に打ちひしがれていた。
まだ世間へ病名は公表されていなかった。
長期休暇するとだけ発表されている。
「はあ…………私の人生、これからどうすれば良いんだろ……」
寂しい部屋のなか二階堂恋は虚空へ向かってため息を吐くことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
乳がんの治療を終え、しばらくしてからのことだった。
「二階堂さん――」
「美鳥ちゃん」
この日、冒険者専門の芸能事務所『トレジャーネクスト』の令嬢――宝来美鳥が恋の家に様子を見に訪れていた。
「私からは変なことは言えません。でも……それでも……二階堂さんがいつか戻ってくることを待っています」
「ありがとね……寝て起きたらおっぱいが大きくなってたら、なんて思ったけどそうはいかないみたい」
「…………」
乾いた笑みで二階堂恋はそう呟く。
美鳥はそれに対し、なんと声をかければよいかわからなかった。
ただ、『おっぱいが大きくなってたら』というキーワードを拾い、ハッとしたことがあったのだ。
「あれ…………いや……まさか……」
「どしたん?」
「えっと……まだ言えません。でも――また連絡します! 待っていてください!」
「へ? あ……行っちゃった」
様子を見に来てから約十五分。
ほとんど会話を交わさず美鳥は恋の家を出ていった。
家を出た美鳥は、とある人物に電話をかけた。
その人物は少し前に知り合った人物。
何かを必死になって聞き、できるかどうかを聞いた。
電話の相手の答えは『わからない』だった。
でも、直接本人に聞いてみたほうが早いと聞き、会ってみることになったのだった。
◇ ◇ ◇
十二月を目前に空気が冷たくなってきた頃。
林道ひびきと高梨弘世、井原海莉、それに加え一人の女子中学生が冒険者専門の芸能事務所『トレジャーネクスト』の本社ビルの応接室にいた。
「今日はお時間を作っていただきありがとうございます」
「ううん、大丈夫。でも……凄い、本物の恋ちゃんだ……っ」
「すげえ……」
挨拶したのは宝来美鳥。
そしてひびきと海莉は以前会った女優の椎名折香以上に驚き、手が震えていた。
実はひびきはファッションモデルが大好きなのだ。
美容好きというのもあるが、その容姿や生き方に憧れていたりもする。その中でも二階堂恋は有名で、知らない人がいないほどのモデル。海莉も似たようなものだった。
だからひびきは今日二階堂恋に会えることを楽しみにしていた。
「今日は来てくれてありがとう。二階堂恋です」
挨拶したのは、亜麻色の髪を長く伸ばしたモデル、二階堂恋。
その本物に感情を抑えられなかったのはひびきだけではない。
「わ、わっ。ひびき先輩本物ですよっ」
「わかってるから……っ。ほら、挨拶。私は林道ひびきです。こちらは高梨弘世、そして後輩の涼川葵です」
紹介したのは弘世はもちろんのこと、もう一人とはバスケ部を引退し彼氏と別れた後の葵だった。今日この場所に葵を連れて来たことにはもちろん意味がある。
「早速ですけど、本題に入らせていただきます。こちらの二階堂恋さんが乳がんで右胸を全摘出しました」
「――――っ」
聞いた瞬間、その場に緊張が走る。
美鳥からは事前に病気についてと聞かされていたが、詳細は伝えられていなかった。四人はあまりにも重い話に息を呑む。
この話は、二階堂恋が今後モデルとして活動できるかどうかという話にもなるのだから。
「そんな顔しないで。まあ、私も入院中はずっと落ち込んでいたけどね。まさか二十代でなるとは思っていなかった」
「モデルの活動は……っ」
「わからない、かな。でも、このくぼんだ胸がどうなるのか……もしかしたらって美鳥ちゃんに君たちを紹介されて……」
「弘世……」
「うん」
話はこれからだ。
その前にやることがある。
弘世のスキルについて、広められないように海莉のギフトで、他言無用の『誓約』を結ぶ。
恋もそれを承諾し、『誓約』が結ばれると、弘世のスキルについて説明をした。
「私は弘世先輩の『育乳』のスキルで胸を大きくしてもらいました。元々はAAAカップだったんですけどCカップまで大きくなったんですっ!」
「そう……」
「ただ、摘出したものに有効なのか、俺にもわかりません」
本来『育乳』はワンランクサイズアップさせるだけのもの。
その情報だけでは、できるのかどうかわからなかった。
「もし一つだけ可能性があるとすれば、スキルの同時使用です」
「同時使用?」
「はい。『肌質改善』というスキルがあって、これは過去に『呪い』の火傷を綺麗に治したこともあります」
Aランク冒険者である宍戸亜澄がAランクダンジョンにて竜の魔物にかけられた『呪い』。死の淵にあったほどの『呪い』の火傷を綺麗に治したことは、もう一年前のことではあるが、まだ記憶に新しい。
「『肌質改善』には、肌を再生するような効果があるんです。なので、もしかしたら『育乳』と組み合わせたら……」
弘世のスキルはこれまでにも二つ同時に使用したことはあった。
ただ、二つのスキルを相乗効果を狙って使ったことはなかった。
今回は、『肌質改善』で胸である肌の細胞を再生し、それを『育乳』で元の状態まで膨らます。それが弘世が考えたことだった。
「二階堂さん……どうされますか? 一度時間をとって――」
「やる……私やりたい……少しでも可能性があるなら……」
「恋ちゃん……っ。大丈夫……治るから……治りますから……っ」
美鳥の言葉に対し、恋の返事は早かった。
その言動にひびきが瞳を震わせた。
そうしてこの日は解散。
後日時間を合わせて施術することになった。
「――ねえ、ひびき。なんでスキル使わなかったの?」
『トレジャーネクスト』のビルを出た弘世がひびきにそう聞いた。
いつもならひびきは、スキルを使い弘世のスキルの効果があるかないかを確認したはずだ。憧れている人物だからこそ、そうなったのかもしれない。
「ううん……使ったよ……使ったの……」
つまり、その場では言わなかったということだ。
「そうだったんだ。それで……」
「光ってた……弘世光ってた! でも、なんか言えなかったの! 変なこと言って惑わせたくなくて……!」
逆に言った方が安心させられるとは思うが、もしもということもある。
「そっか……でも良かった……俺がちゃんとやれば治るんだね」
「うん……多分そう。だから――お願い。恋ちゃんを元に戻してあげて」
「任せて。俺にしかできないなら……ちゃんとやる」
弘世はひびきの頭を撫でて慰める。
その様子を見ていた葵と海莉。
体をくねらせ、どこかもじもじしていた。
「弘世先輩……」
「弘世〜〜」
「なに?」
「この後しましょうっ!」「この後しようっ!」
「雰囲気台無しだよ」
ひびきを慰めて穏やかな雰囲気になっていたはずなのに、性欲丸出しの二人の言葉に弘世は嘆息した。