美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「ん、ん…………ここ……どこ?」
重たい瞼を開くと、見知らぬ天井を見上げていたのは弘世だ。
まだ記憶が曖昧でいつ、なぜ寝ていたのかも覚えていない。
ただ、カーテンから差し込む光は明るく、朝ということだけは認識できた。
「ん……頭いたい……」
「へ?」
するとすぐ隣で甘い声がした。
右に顔を傾けると、まだ化粧を落としていない女神のような顔があった。
ひびきではない。その人物とは――
「二階堂さん!?」
「あ、おはよ〜」
「はは、裸ぁ!?」
「あ〜、やっちゃったみたいだねぇ」
右隣で一緒に寝ていたのは超人気モデルの二階堂恋だった。しかも全裸であり、二日酔いなのか頭が痛い素振りをするが、それでも顔面は良かった。
「ん〜〜〜なぁに〜」
「まだ眠たぁい……」
「…………朝ぁ?」
「え…………」
すると今度は左と毛布の中がもぞもぞして、三つの声が聞こえた。
弘世はその全てを確認すると、左には淡島彩、毛布の中には木戸サーラとひびきがいた。全員全裸で。
「うぎゃあああ!?」
「うるさい〜。静かにしてぇ」
「…………あったかい。もっとくっつく……」
「弘世……おはよ」
「おはよじゃないが!?」
弘世も同様に全裸だった。
そして彩にぎゅうっと左腕を掴まれ彼女の胸の間に挟まると、サーラとひびきも毛布の中からひょこっと顔を出した。
「マジでヤッちゃってる……」
弘世は男として喜ばしい状況ではあるはずなのに、嘆息しながら天を仰いだ。
◇ ◇ ◇
「あ、ぐーみんだ」
弘世とひびきは今日はちょうど休みだったため、学校へ行かずにそのまま恋の家に泊まってしまっていた。記憶は曖昧だが、乱れた夜だったことは覚えている。
朝、起きた五人はシャワーを浴びるなり朝食を準備して、テレビを前に一緒にご飯を食べていた。
ちょうどテレビで流れていたのは、『
『『SPICE MIX』のリーダーの南雲美波《なぐもみなみ》さんがヘルニア悪化により、長期離脱するとのことです』
「は!? え!? ぐーみんが!?」
そう驚きの顔を見せたのは南雲美波を『ぐーみん』と愛称で呼んだ恋だった。
「あのニュース気になるんですか?」
「えっと……ぐーみんは事務所同じで、数年前から頑張ってるところ見てきたから……」
「恋ちゃんはそうだよねー、ここに呼んだこともあったっけ」
ひびきの問いに答えた恋。
『SPICE MIX』は五年前に結成された十代の少女三人組のアイドルグループで、今や日本でも有名な部類に入るほど有名になっている。
話から恋は南雲美波と仲が良いように思えた。
「確かにたまに腰痛そうにはしてたけど、ヘルニア持ちだったんだ……ダンス激しそうだったもんなぁ……」
「『スパミ』の持ち味はダンスですもんね」
ひびきも『SPICE MIX』のことを知っているようだった。
『SPICE MIX』は歌唱力もさることながら一番は特徴的なダンスだった。その激しいダンスによりヘルニアが悪化したとするなら、このままグループを脱退ということも考えられるのだが――
「ぐーみん、『スパミ』はこれからだって言ってたのに……腰って相当ヤバいよね……」
「腰ってどのスポーツでも芸能活動でもヤバいやつだよね〜。モデルだって綺麗に歩けなくなりそう」
恋の呟きにサーラがご飯を頬張りながら同意する。
すると恋が隣にいた弘世の耳元に近づいた。
「――ねぇ、弘世。腰とか治せない? そういうスキル持ってない?」
「えっと……ない、です。すみません」
「いやいや。そんな申し訳無さそうにしないでよ。聞いてみただけだからさ」
恋は仲良くしている南雲美波を救えないかと弘世に聞いたが、今の弘世には腰をどうにかできるスキルなど持っていなかった。
朝食を終えると、弘世とひびきは一足先に恋の家を出ることになった。
「また、遊ぼうね、二人共」
「ばいばーい!」
「ひびきたんまたね〜」
玄関で三人が見送ってくれる。
「はいっ!」
「お邪魔しました」
二人は軽くお辞儀をして恋の家を出た。
◇ ◇ ◇
「怒涛の一日だったね……」
今は冬。クリスマスの時期ということもあり、雪は降ってはいないが気温はかなり低い。弘世はダウンジャケット、ひびきはコートを着ていた。
「まさか泊まることになるなんて思わなかったよ。帰るつもりだったのに、ひびきが酔っちゃうんだもん」
「恋ちゃんの母乳吸ってたくせに何いってるのさ〜」
「いや……あれは飲んじゃうでしょ。多分ああいうスキルなんだよ」
「確かに……一度吸ったら、離したくない何かがあったけど……」
恋の乳を一緒に吸った弘世とひびき。
衝撃的な出来事だったために、その部分はしっかりと覚えていた。
その後のことは未だに記憶が曖昧だが……。
「でも、恋ちゃん元気になって良かったな……」
「うん。胸のサイズもあとワンランクだしね。これでモデルの活動も再開できそうだね」
「はぁ……嬉しいなぁ。早くまたテレビで恋ちゃん見たいなっ」
ひびきはニコニコしながら、弘世の腕を掴み、最寄り駅へと向かっていった。
と、そんな時だった。
「――あ……覚えた」
「え?」
突然そう呟くと、弘世はいつもとは違う反応を見せた。
「こ、これ……!」
「弘世?」
「腰! 骨!」
「え?」
「あのアイドルの子! もしかしたらいけるかもしれないっ!! ヘルニア!」
「ええ〜〜っ!」
少し前に恋が話題にしていた南雲美波。
彼女のヘルニアが治るかもしれないスキルを覚えたとして、弘世は大きく声したのだった。
◇ ◇ ◇
「――いたたたた……」
ここはとあるマンションの一室。
ベッドの上で横になっていた一人の少女が腰に手を当てながら上半身を起こしていた。
「ぐーみん大丈夫? ベッド変えた方いいんじゃ? あの電動式みたいなのあるじゃん」
「そうだよ〜。できるだけ腰使わない方いいって〜」
ぐーみん。南雲美波。
アイドルグループ『SPICE MIX』のリーダーである少女は、二人の少女に囲まれ心配されていた。一人は『きーよん』こと本堂清与《ほんどうきよ》で、もう一人が『るいるい』こと緒方瑠依《おがたるい》だ。
「うん……考えてみる。ずっと付き合っていかなくちゃいけないんだもんね」
椎間板ヘルニア。
ダンスを主体とするアイドルグループとしては致命的な病気だった。
腰がおかしいと感じはじめたのは、二年前。だましだましやってきたが、激しいダンスの連続でついに限界を迎えていた。
「クリスマスライブも止めたほうが良いって言ったのに、ぐーみん強情なんだもん」
「チケット取ってくれたファンに申し訳ないよ。途中で止める選択肢は私にはなかったよ」
「それが今後復帰できるかどうかもわからない状況になっちゃおしまいだよぉ〜」
クリスマスのドームライブ。痛みを抱えながら長時間のライブをやりきったが、そのすぐ後に痛みで倒れてしまった。
病院で診てもらったあとは、家でまずは安静にするということになったのだが、誰かの補助がないと歩くのが大変ほどになっていた。
「うん……ほんっとにね。私は今を全力で生きたいから……でも、二人に迷惑かけたからそれはごめん」
「もう、それは良いって〜。この天然バカとこれから二人でどうやっていけば良いのかは悩みどころだけど……」
「なぁに〜!? 聞き捨てなりませんがぁ!?」
瑠依はファンの間でも天然で通っているが本当に天然。一方でリーダーの美波が突っ走る猪みたいな役目で、その二人をうまいバランスで整えているのが清与だった。
だからその中で一人でも欠けると『SPICE MIX』は活動にかなり支障が出る。
「まぁまぁ。とりあえず年越しはここで一緒にしよ」
「さんせー!」
「気を遣わせてごめんね。でも、嬉しい」
迫る年越し。
新たな抱負を掲げて次のステップへ進む。そのはずが、少し暗い年越しになることは見えていた。だからこうして二人は美波と一緒に過ごそうと決めたのだった。
「ぐーみんのギフトでなんとかならないのかなぁ〜」
「私の『軟体』は骨がどうなるって話じゃないからね。体が人よりも柔らかいってだけで」
「逆に言えば、それがあってこそのあの誰にも真似できないダンスだよね」
『SPICE MIX』の中でも美波のダンスはとんでもないものだった。
それは彼女の持つギフト『軟体』によるものが大きい。体操選手のような華麗な動きに加え、圧倒的な体の柔らかさ。それが美波の武器だったのだ。
しかし、その『軟体』に骨がついてこなかった。ギフトを持っていても、限界はあったのだ。
「ギフトか……これで有名になれたようなものだけど、逆にアイドル人生を短命にもしたってことなのかな」
「私がぐーみんを治せるギフトを持ってればぁ〜っ!」
「冒険者でも治癒系はあるけど、骨をどうにかできるギフトってあんまり聞いたことないもんね。地道にまずはリハビリしていくしか……」
「だよね……ん?」
そんな時だった。美波のスマホが鳴り、電話の着信を知らせた。
美波は二人にアイコンタクトをしてから、スマホを取って電話に出た。
「――恋ちゃん先輩!? 久しぶりですっ!」
電話に出て早々、元気に挨拶する美波。
美波に電話をかけてきた相手――それは同じ事務所に所属するモデルの二階堂恋だった。