美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「やっほー! 久しぶりに来たよ!」
ひびきが扉を開けると、そこに立っていたのは長い金髪を腰まで伸ばした女性だった。ひびきより少しばかり身長が高く大人っぽい印象。ただ、学校の制服を着ていた。つまり、高校生だった。
「ええっ!? 瑞希《みずき》姉《ね》ぇ!?」
ひびきは相手の名前を出し、目を見開いて驚く。すると瑞希と呼ばれた女性は笑顔を見せた。
「お邪魔しまーす」
「ちょお〜〜〜〜っと!」
「ん、どしたん?」
流れるように中へ入ろうとした瑞希。しかしひびきは腕を伸ばしてそれを止める。
いつもなら何ら問題なく通すのだが——
(今はだめっ。弘世がいる……今日は帰ってもらわないと。それに……これから弘世とするつもりなんだから)
「何するのさ〜。お姉ちゃんが可愛いひびきを可愛がってあげようとここにき——ん?」
「な、なに……?」
ひびきの通せんぼをくぐり抜けようとしていた瑞希。
しかし、途中で何かに気づく。
顔を近づけ、まじまじとひびきの顔を舐め回すように観察しはじめたのだ。
「瑞希姉……?」
「ねえ、ひびき————超綺麗になってない!?」
飛び出たのは、クラスメイトと同じような言葉だった。
ひびきは少し胸を撫で下ろす。
「それ友達にも言われた。スキンケアとかダイエットとか頑張ってるの。だから——」
「私のスキルが反応してる」
「へ?」
ひびきは心臓が止まる思いをした。
まさか、弘世に使ってもらったスキルがバレたのではと、そう思ったからだ。
しかし、変だった。ひびきが知っている瑞希が持っているスキルにそんなものはなくて……。
「最近新しいスキル覚えたんだよね——『魔力視』。これ、対象がスキル使った後の魔力の残滓とか、魔力発動時の流れとかが見えるんだけど……ひびきの体、顔が少しだけ光ってるんだよね。……というか全身?」
最後に弘世にスキルを使ってもらったのは、数日前。
時間が経過すれば通常魔力の残滓は残らないはずだった。スキルとはそういうものだ。
(あ……もしかして、今日効果が出ちゃったから?)
弘世のスキルの効果が実感できたのは今朝だった。
つまりそれは、スキルが発動したと同義ではないのか。
「…………ま、いっか。可愛い妹ちゃんが綺麗になるなら私も嬉しいし。ってことでお邪魔しまーす!」
「あっ! だめぇ!?」
一瞬の隙をついて瑞希は玄関の中へと入ってしまった。
そして、最初に視界に入ったのは玄関に置かれている二つのローファー。
一つはひびきの。そしてもう一つは明らかに女性のものではない大きなサイズのローファーだった。
「あ、ヤバ……」
瑞希が何に視線を送っているのかを見て、つい口にこぼしてしまう。
それが決定打となってしまったのか、瑞希は振り返り、ニヤリとした。
「ひびきに男だ〜〜〜〜!!」
「ちがっ……!」
ダンスパーティが始まったかの如く、瑞希は飛び跳ねて家の中へ上がり込む。
瑞希がリビングのドアを開けるも誰もない。ソファの後ろに隠れていないか確認すると、そのあとすぐに廊下に出て階段を上がろうとした。
「ちょっと、瑞希姉! だめっ!」
「ひびきの彼氏がどんな人か、私が見極めないと」
「彼氏じゃないって…………」
「"まだ"彼氏じゃないってことね」
「そ、そういうのいいから! 今日は帰って……!」
階段前で互いの手を掴み体を押し引きする二人。
しかし、力ではどうやってもひびきは瑞希に勝てなかった。
「諦めなさい?」
「いたたたたっ!?」
ひびきは簡単に負けてしまい、階段を上がられてしまう。
そのままひびきの部屋の扉の前まで来ると、間髪入れずに扉を開け放った。
「——え!?」
テーブルの前に座っていた弘世。
いきなり登場した見知らぬ金髪女性に目を丸くする。
一方の瑞希はじーっと弘世を品定めするように見つめた。
「君が…………ひびきにしては落ち着いた趣味だね」
「ちょっと瑞希姉! 勝手に入らないでよぉ!」
遅れてひびきが到着すると瑞希を引っ張って部屋から出そうとする。できなかったが。
「えっと……こちらの方は?」
「私は法坂瑞希《ほうさかみずき》——ひびきのお姉ちゃん! ……正確に言えば従姉妹かな。小さい時からずっと一緒だったから本当の姉妹みたいなもん!」
「へ、へえ……俺は高梨弘世って言います」
瑞希が自己紹介すると弘世は軽く頭を下げて会釈した。
そのまま瑞希はひびきの意に反してドカドカとテーブルの前に座った。
「も、もう…………こんなはずじゃなかったのにぃ……」
力では止められない。ひびきは諦めて部屋に入り、同じくテーブルの前に座る。
そして弘世に向かって瞼をパチパチさせた。
(弘世、お願い)
(え、何? どういうこと?)
(変なことは言わないでねってこと)
(全然わかんねえ……)
ひびきはウインクで弘世に余計なことは何も話さないでと伝えたが、もちろん弘世には伝わらなかった。
「ふんふん……弘世くんは、ひびきとどういう関係なの?」
「えっと……普通にクラスメイトですけど」
「そんなのわかってるよ〜、ひびきの彼氏なの?」
「あっ……いや、彼氏ではないです」
先ほどひびきには聞いてはいたが、今度は弘世にも聞いた。答えはひびきと同じだった。
「ふうん……」
「あ、あの……!」
最初に瑞希を見た時から弘世は彼女に聞きたいことがあった。なぜなら弘世は瑞希を見たのがこれが初めてではなかったから。
「法坂瑞希さんって……あの<天地ギルド>の……?」
テレビで何度も見ていた人物とよく似ていた——それだけではなく、名前も同じ。だから、震える喉を絞り聞いてみたのだ。
「ん? そうだけど。もしかして私のこと知ってくれてた? 嬉し〜〜っ!」
弘世の考えが的中すると、瑞希は笑顔になり喜びを見せた。
冒険者を目指していた時の憧れのギルド……というわけではなかったが、最近になってよく話題に上がる人物だったため知っていた。というか冒険者関連のニュースを見る人なら知らない人はいないほどの人物。弘世が知っているのも当然だった。
「えっと……はい。有名人ですから……」
「弘世……言ってなかったよね。ごめん」
「ううん、大丈夫」
ひびきは弘世が冒険者を目指していたことを知っている。そして、それを悩んでいたことも知っている。だから自分の親族に冒険者がいることをわざわざ話題に出すことはなかった。
それに<天地ギルド>所属のAランク冒険者ともなれば弘世の憧れかもしれない……傷つけたくなくて話に出さなかったのだ。
「ふむ……弘世くんは冒険者になりたかったのか」
「はい、でも——」
「戦闘系スキルが授からなかったと」
「その通りです」
全ては語らずとも瑞希は当ててみせた。
先ほどまで明るくしていたが、弘世の気持ちを汲んだのか、少しだけ声の音量を落とす。
「ねぇ、今日はもういいでしょ? 帰ってよ〜」
「今まで一度も私にそんなことを言わなかったひびきが……なんて酷い!」
「酷いのは勝手に上がった瑞希姉の方!」
「わーかったって。ひびきが弘世くんのこと大好きだってこと」
「なっ、何言ってるのよバカ! 私が弘世のこと好きなわけないじゃない! …………ぁ」
瑞希に茶化されて、思ってもいないことを言ってしまう。
弘世は苦笑いをしていた。ひびきはそれを見て急いで訂正する。
「ひ、弘世違うの。今のは勢いっていうか……とにかく違うのっ!」
「ありがとう。ちゃんとわかってるから」
「やり過ぎちゃったかな? しゃーないから今日は帰ってあげるよ」
「う〜〜〜〜〜、早く帰って!」
ひびきは瑞希を立たせて、部屋から追いやる。
背中を押しながら階段を下らせて、玄関へとやってきた。
「ひびきが弘世くんのこと好きなことは十分わかったよ」
「もう……弘世がいない時ならいつ来てもいいから、今日みたいなことは絶対にしないで!」
「はいはい。それじゃあまたね〜!」
「うん……ばいばい」
ひびきは瑞希のことが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。
自分の見た目を改善しようとした時、相談に乗ってくれたのが他でもない瑞希だった。だから感謝しているし、これからも仲良くしたい。
でも、弘世を使って茶化されるのは嫌だった。
「弘世……さっきはごめんね。改めて謝るよ」
「大丈夫だって言ったじゃん。気にしないで」
「だってさ————ぁ」
自分のした失言について再度謝ったひびき。
少し前とは違って暗い顔になっていた。
それを見てか、弘世からひびきのことを抱き締めた。
今まであまり弘世からは動かなかったが、居ても立っても居られなくなり、行動を起こしたのだ。
「やっぱり今日もスキル使っておく? あれ、少し使うだけで、気分変わるでしょ」
「……バカ。えっちなことを理由に使っちゃだめ」
「そのせいで襲ってきたのはそっちのくせに」
「あー、もう……弘世のほんとバカ……」
そんな言葉を交わしながら、二人は自然とベッドへと向かった。
そうして再び互いの服に手をかけ、脱がしていく。
脱がしていく途中、ふと目が合った。だから今度こそという気持ちで、顔の距離が近づく。そして——
「あー! ごめんごめん、スマホ忘れちゃったから————ワオ。ひびきやるうっ♪」
唇が重なる寸前。
バタンと部屋の扉を開けて瑞希が入ってきてしまったのだ。
ベッドの上では二人とも半脱ぎ状態になっており、互いの腰を掴んでいた。
誰が見ても致す直前だったとわかるだろう。
「…………」
弘世とひびきが瑞希に視線を送る。
そして、同時だった。
「きゃあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!?」
「ぎゃあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!?」
とんでもなく恥ずかしい瞬間を見られ、叫んでしまったのは。