美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
――美しさは姿勢から、という言葉がある。
正しい姿勢でいれば、体の歪みや負担を軽減したり、お腹が引き締まったり、猫背が治ったり、内臓機能が向上したり、頭痛の予防ができたり、体の至る箇所の凝りが和らいだり……様々な効果があるとされている。
「——『姿勢改善』」
弘世が新たに覚えたスキルは曲がった姿勢を正すことのできる『姿勢改善』だった。
内容はこうだ。
<姿勢改善>
方法:全身を揉み込む
効果:姿勢改善、首・肩・腰痛等の凝り痛み改善、骨格矯正
反動:一定時間体が火照る、敏感になる
「もし、このスキルを通じて姿勢だけじゃなく、根本から骨格を改善してくれるとなれば、もしくは――」
「ぐーみんのアイドル人生を助けられるかもしれない、か……」
人気モデルである二階堂恋の家を出た弘世とひびき。
帰宅途中に新たなスキルを覚えた弘世は、その内容をひびきに説明していた。
ニュースで流れていた三人組のアイドルグループ『SPICE MIX』のリーダー南雲美波《なぐもみなみ》こと、ぐーみんのヘルニア悪化による長期離脱。
恋からどうにかできないかと相談されていたが、その時の弘世には彼女を癒やすスキルなど持っていなかった。
しかし、今回覚えた『姿勢改善』で、ヘルニアの早期的な治療――そして、根本的な原因を改善ができるかもしれない。そうすれば、南雲美波がアイドルとして復帰し、今後も激しいダンスを続けられる可能性があった。
「――私、恋ちゃんに電話してみるっ!」
「お願い」
そうして、ひびきが恋に連絡を取ったことで、恋から美波に連絡が行くことになる――。
◇ ◇ ◇
「――恋ちゃん先輩!? 久しぶりですっ!」
『SPICE MIX』のメンバーである本堂清与《ほんどうきよ》と緒方瑠依《おがたるい》がいる自室で電話をとったのは、リーダーである南雲美波。
『ぐーみん、久しぶり。ニュース見たよ。腰やっちゃったみたいだね』
「はい……でも、恋ちゃん先輩の声聞いて元気が出ましたっ! ……というか恋ちゃん先輩こそ、確か長期で休業するって話じゃ!?」
世間では、まだ恋の乳がんは公表されておらず、事務所内でもそれはごく一部の人のみ知る事実だった。しかし胸を取り戻した今、恋は活動の再開に動いている。しかしなぜ胸を取り戻せたのかは、海莉のギフト『誓約』によって、話すことはできない。
それ故に事務所側は不思議に思いつつも、ともかく回復したのだと、その事実だけど信じることにしたのだ。
『あ〜、それも関係ある話なんだけど……私はすぐに復帰できると思う』
「そうなんですかっ! それは良かったですっ!」
『それで、ここからが本題。ぐーみんに会わせたい人がいるんだけど、よければ会ってほしい。詳しいことは電話じゃ言えないんだけど、ともかく――』
「――会います! 恋ちゃん先輩が言うならそうします!」
『判断早いなぁ……』
「事務所ではずっと優しくしてもらってたので!」
『そっか。私は良い後輩を持ったなぁ』
「それはこっちのセリフですよ〜っ」
電話口で笑いながら話す美波は腰の痛みなどないように振る舞った。本当は痛いが大好きな先輩との電話、あまり暗い気持ちにはさせたくなかった。
こうして美波は恋によって弘世と会うことになるのだが、この時の美波は自分のヘルニア治療のために呼ばれるとは微塵も思っていなかった。
◇ ◇ ◇
「――こんにちは」
「あ、ぐーみんっ! それにきーよんとるいるいまで! 今日は時間とらせてごめんね」
ここは二階堂恋や『SPICE MIX』が所属する事務所のある自社ビル――その会議室だ。長テーブルを囲んで複数の椅子が置かれていたその場には、恋と弘世、そしてひびきと海莉が座っていた。
「わー! 恋ちゃん先輩っ!」
「うお〜、やっぱ美人オーラ凄いなー!」
「ふわぁ。久しぶりだぁ〜」
会議室にやってきたのは『SPICE MIX』の三人。恋を見るなりそれぞれ挨拶をした。青髪の本堂清与と金髪の緒方瑠依が赤髪の南雲美波の歩行の補助をするように寄り添っていた。
「ほんとだね。ま、挨拶はそこそこにとりあえず座ってよ」
すると『SPICE MIX』の視線は奥に座っていた弘世たちに。
不思議な顔をしながらも、まずは席に座ることにした。
「恋ちゃん先輩……こちらの可愛い子たちは……もしかしてファン、とか?」
「いや、今日はそういうのじゃ――」
「――ファンですっ! めっちゃファンです!! ダンスとか真似してSNSに投稿したこともあります! もちろんライブにも行ったことあります!」
海莉が鼻息荒くそう告げた。本来の目的ではないが、抑えきれなかったのだ。
ひびきや陽鞠は多少なりアイドルに知見はあるがライブに行くほどではない。しかし海莉は違った。ライブにも行ったことがあるくらいアイドル好きで、もちろん『SPICE MIX』についてもファンと言えるほど好きだった。
「そうなの?」
「はいっ! だから今日は――あいたっ。ひびき何するのさ〜?」
「今日はそういうのじゃないって言ったじゃん」
ひびきが海莉の頭をチョップして暴走を止めた。
そうして襟を正し、弘世から自己紹介をはじめた。
「――僕は高梨弘世と言います。そしてこっちが林道ひびきと井原海莉です。――今日は南雲美波さんのヘルニアの話でここに来ました」
「え、私の……?」
思いも寄らぬ話だったのか、美波の他、清与と瑠依も不思議な顔をした。
それもそうだ。目の前にいるのは自分と同じくらいの年齢の相手。普通に考えたら一般人のファンだと思うだろう。
「それが今日ぐーみんを呼んだ理由。詳しいことは話せないけど、実は私、乳がんで右胸を全摘出したんだ」
「――え? え、ええっ……いや、そんなっ」
「ぐーみん、落ち着いて。電話でもすぐに復帰できるって言ったでしょ。……私の女性としての命を救ってくれたのが、この弘世くんなんだ」
「そ、そうなんですか……凄い……でも、なんだか情報がいっぱいで頭パンクしそうです」
「とりあえず私のことは軽く流してもらって……今日はぐーみんの話だからさ」
乳がんと右胸全摘出という衝撃的な言葉に驚きを隠せない美波だったが、恋の言う通りに弘世に意識を向けた。
「簡単に言えば、弘世くんがぐーみん――君のヘルニアを根本的に治せるかもしれないんだ」
「えっ……」
「さっき私が彼に救われたって言ったでしょ? だから、同じくぐーみんを救えるかもしれないってこと」
「ほ、ほんとですか……」
にわかには信じがたい話。
でも、信頼している恋がわざわざこのような場所を用意してくれたのだ。それだけで信じられる話だった。
「ひびき――」
「うん…………光ってる。それもかなり強く……今までにないくらい。多分、ぐーみんが今までの人よりも強く望んでるんだと思う」
今までも多少なり光の大小はあった。しかし今、美波を対象にした時の弘世の体の光は、相当に強い光だったのだ。このままアイドルを諦めるという道は絶対にないと告げているくらい、美波の強い意思を反映していた。
「本当にぐーみんがヘルニアの治癒を望んでいるのなら、だけど……」
「望んでます! 私、まだまだアイドルやりたいですからっ! こんなんで終わって溜まるかって……辛い時も悔しい時もたくさんあったけど、私はファンにもきーよんとるいるいにもまだ恩返してないからっ!! ――つぅ……っ」
「ちょっと無理しないで」
「そうだよ、大声だめぇ〜」
ひびきの言葉に続くように美波は大きな声でそう告げた。
それが理由なのか、腰の痛みが増した美波だった。
「――よし。じゃあここからは、海莉ちゃんの出番。このあとの話を聞いて、やるかやらないか、ぐーみんが決めてほしい」
「……はい」
そうして、海莉が自分のギフトの説明をし、事前に『SPICE MIX』の三人と『誓約』を結び、弘世のギフトを口外しないようにした。
それが終わると、弘世の口から『姿勢改善』のスキルについての説明が行われる。
するとみるみるうちに顔色が変わっていく美波。希望を見出したのか、どこか瞳が揺れている気がした。
「――よく考えてください。施術と反動の影響は……女性にとって簡単に決められることではないですから――」
「――やる! やります! やらせてくださいっ! このヘルニアがいち早く治ってアイドルを続けられるというのなら、私の体くらい全部差し出しますっ!!」
「そういう意味で言ったんじゃないですよ!?」
「え、えっちなことだって、私は……覚悟……うう、恥ずかしい……」
「無理しないで。私だってぐーみんのためなら覚悟できてる……!」
「そうだよぉ。私たちも一肌脱ぐからぁ……」
なんだか変な方向に話が向かっているが、今までのことを考えると反動のせいでほぼえっちな状況になっている。でも、最初から体を差し出すことを前提にする相手は『SPICE MIX』が初めてだった。
「えっと……別に僕はそういうことは求めていないので……はい」
「わ、私の体はそんなに魅力がないってことですか!?」
バンっとテーブルを叩く美波。腰が痛いのか少し顔を歪めた。
「だからそういうことじゃないんですがっ!?」
「弘世……彼女たちがそう言ってる。十人も百人も変わらないよ」
するとポンっと弘世の肩を叩きながらひびきが菩薩のような優しい表情を浮かべていた。順調に経験人数を伸ばしている弘世も、さすがに百人規模じゃ全然違うだろ、と思ったがそれは口に出さなかった。
「――ちょっと待って……ということは、恋ちゃん先輩も既に?」
あることに気づいてしまった美波。
弘世のスキルを受けるとえっちしなくてはいけないのなら、それを既に受けている恋はえっちをしているのでは、という答えに至ったのだった。
「…………まあね」
「きゃあ〜〜っ!?」
「命と引き換えに体を差し出す……まさに悪魔との契約。にひひっ」
「海莉がそれ言うなっ」
その事実に騒ぐ『SPICE MIX』の三人に対し、海莉が勘違いさせるような話をする。ただ、恋の時だって、恋が胸を差し出し母乳を飲ませるところから始まったので、弘世から手を出したわけではない。
「あ、あの! 僕から手を出すとかはないのでっ! ただ、施術には直接肌に触れる必要があって、その反動で体が熱くなったり敏感になったりするだけです! 要望があれば目隠しとかもするので安心してくださいっ!」
「…………配慮までありがとうございます。まだ半信半疑なところはありますけど、高梨さんのお話を信じてみようと思います。ですから――お願いします」
「「お願いします」」
信号機のような髪色の並びをしている『SPICE MIX』の三人は深く頭を下げた。
こうして、弘世が人気アイドルグループ 『SPICE MIX』のリーダー南雲美波の施術をすることになった。
「――あ、あの! 握手してもらえませんか!?」
「確か、海莉さんと言いましたね。もちろんですよ」
「ぎゃーっ! やったぁ〜〜!!」
海莉はこの後、『SPICE MIX』の三人と握手どころかハグまでしてもらい、しばらくアヘ顔で昇天したまま帰ることになった。