美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「わー! ひっろーい!」
「豪華〜」
「俺たち場違いじゃない?」
「ふふ、大丈夫ですよ。皆さん、今日の格好とても似合ってますから」
「あばっ……あばばばぁ……っ」
三月下旬。
とある高級ホテルの宴会場にて。
この日、弘世たち五人はいつもはしない正装で宴会場を訪れていた。
宝来美鳥に誘われた冒険者専門の芸能事務所『トレジャーネクスト』。
今日は所属する冒険者や関係者が集まった年度末の慰労会が行われることになっていた。
「今日の弘世、ちょっとカッコいいね」
「そうかな……いつもしない髪型と服だからかな。慣れないけど……」
弘世の服装はビシッとした新品の黒スーツ。そして前髪は全て上げワックスとスプレーで固めていた。
「そ・れ・よ・り! 私たちはどうなの?」
弘世がスーツで決めているのなら、ひびきたちも同じ。
それぞれがドレスを纏い、きらびやかに着飾っていた。
「うん。皆可愛い。似合い過ぎてびっくりしたよ。でも……露出が少し多い気がするけど」
ひびきが着ていたのは大人っぽいノースリーブのドレス。その豊満な胸が横から零れていた。横乳である。
「ありがとっ! まあ、露出が高いのは私も思うけど……でもこのドレス可愛いんだもんっ」
普段は着ないドレス。こういった場に来ることはないため、ひびきだってテンションが上がっていた。
小春や霧乃、麻未だって同様。特に麻未なんて外国人の血が入っているからか、着させられたドレスによってお姫様のように見えた。
ちなみにこのドレスはどれも霧乃が家の人に手配してもらって、用意してくれたもの。弘世のスーツも同様だ。
「あ、皆さん。本日はご参加いただきありがとうございます!」
するとやってきたのは弘世たちを慰労会に招待した宝来美鳥だった。
彼女もドレスで着飾っており、とても美しかった。
「こちらこそっ! ありがとねっ」
「いえいえ。美味しい料理も用意しているので、そちらも楽しめると思います」
「わ、ほんとだ。ビュッフェみたいになってる」
美鳥の視線の先には壁際に並べられた数々の料理。
ビュッフェスタイルで取れるようになっていた。
「それと、後ほどお父様のご紹介もしますので、よければ簡単な挨拶だけでもしていただけたら」
「色々とありがとうっ」
「はい。ではまた後ほど」
慰労会が始まるまでまだ少し時間がある。
美鳥は挨拶を終えると、他の参加者へと声をかけていった。
「それにしても――」
弘世は当たりを見回して、ゴクリと息を呑んだ。
その理由は明白だ。
「本当に冒険者ばかりだ……」
テレビで見たことのある冒険者ばかりが参加していることがわかり、弘世は興奮を隠せないでいた。
その中にはよく見知った人物もいて――
「おーい! 皆久しぶり〜っ!」
「あ、瑞希姉っ!」
手を振りながらやってきたのは、<天地ギルド>に所属するAランク冒険者――法坂瑞希、秋瀬遥、宍戸亜澄の三人だった。
彼女たち三人もこの『トレジャーネクスト』に所属する冒険者モデルだった。
「こんにちは。久しぶりだね」
「やっほー、元気にしてた〜?」
遥と亜澄とも挨拶を交わすと、三人は一人の少女へと目を移す。
「え、この子めっちゃ可愛いじゃん! お人形さんみたいっ!」
「あ、あばぁっ!?」
瑞希が目を見張った少女。それは麻未だった。
ダンジョン観光の時、まさか麻未に助けられたとは知らない瑞希たちは、彼女を囲み揉みくちゃにした。
「ほんとに可愛い〜」
「小学生……じゃないよね?」
「一応高校一年生ですよ」
「あ、ごめんね。でも小さくて可愛いから……」
「あばばばばばっ!?」
遥が指摘した麻未は童顔で身長が低い。確かに年齢よりも若く見えてもおかしくなかった。
三人に囲まれた麻未は人見知りが発動し、顔を真っ赤にしていた。
と、そんな時だった。
会場の雰囲気が一気に変わる。ざわざわとしはじめたのだ。
「むわぁぁぁぁぁぁ…………」
冒険者ではないにも関わらず、強者のオーラを放ちながら会場へと入ってきたのは、とても老齢には見えない大柄の男だった。
ぱつぱつのスーツに身を包んだ筋骨隆々の男が、秘書と思しき男性を従えてドカドカと足音高く近づいてきた。
「ん……?」
「あ……」
反応したのは霧乃だった。
すると霧乃と目が合った老齢の男性が恐ろしい形相のまま近づく。
「えっ、えっ……!?」
「なんか怖い人がこっちに近づいて来るけど!?」
弘世とひびきがその男性の威圧感に押され、後退りする。
そして――
「きりのぉぉぉぉぉ〜〜〜っ!!」
「おじいちゃんっ!? きゃああっ!?」
近づくと霧乃を軽々と両手で抱き上げたのだった。
「霧乃〜〜っ! こんなに綺麗に……! おじいちゃんは嬉しいぞおっ!」
「ちょっ、皆がいるからやめて!?」
「何を言ってる! おじいちゃんずっと霧乃に会いたかったんだぞ!」
「だから……やめてって……言ってるでしょ!!」
「ぶへぇあっ!?」
嫌がる霧乃を抱き上げ続けた男性。しかし霧乃は本当に嫌だったようで、作り出した氷のグローブで男性の顔面を殴り倒した。
「き、霧乃……この人って、まさか……」
「ええ。お見苦しいところをお見せしてしまいました。この人は私の祖父――氷堂源六です」
「ええええええっ!?」
霧乃を抱き上げた男性は、冒険者ギルド協会を立ち上げた日本でも知らない人がいないほどの人物。齢七十歳を超える彼は、霧乃の祖父だった。
「てか、おじいちゃんなのにそんなことして大丈夫なの?」
「こんな大勢が見ている場所で私を抱き上げたおじいちゃんが悪いんです……それに、おじいちゃんはこのくらいでは傷一つつきませんから」
「え……?」
すると霧乃の言葉通りになった。
地面に倒れた源六だったが、ゆっくりと起き上がってきたのだ。
「ぐ……霧乃の攻撃は痛いなぁ。でも、素晴らしい愛情パンチだったぞ」
「今のパンチに愛情は欠片もないよ」
「霧乃ぉぉぉぉっ!?」
「源六様、そのくらいにしておいてください。ほら、皆さんも見ていますから」
隣にいた男性秘書に言われ、源六はハッとする。
周囲を見渡すと、全ての参加者がこちらに注目してしまっていたのだ。
「ぬううう……しょうがない。まさか霧乃が参加しているとは思わなかったからつい……」
「私だって知らなかったよ」
「霧乃様、皆様。大変失礼しました。私が責任を持ってこの後は源六様を見守るので、ひとまずはこれにて――」
すると源六は秘書に連れられて、業界関係者と思われる人物の元へと歩いていった。
霧乃は源六の姿を見送ったあと、ふうっと息を吐いた。
「もう、おじいちゃんったら……」
「なんか凄い人だったね。お父さんかと思うくらい若かったね」
「弘世くん……多分ギフトの影響もあるんだと思うんだけど、おじいちゃんは『カンガルー』ってギフトを持ってるの」
「なにそれ。動物の名前じゃん」
霧乃の説明にひびきがつっこみを入れる。
「そういうギフトもあるんです。カンガルーって上半身ムキムキじゃないですか。あの見た目からどちらかと言えばゴリラなんですけど、実際は『カンガルー』なんです。それで筋肉が付きやすくて、パワー系の人になったらしいですよ」
「へ、へえ……」
「『カンガルー』ってことはジャンプ力もあったり?」
弘世は気になっていることを霧乃に聞いた。
一般的にはカンガルーは脚力が凄いというのが有名だ。
「ええ。実は冒険者の人でもあまり知らないのですが、ダンジョンが出現した当時は、おじいちゃん自身ダンジョンの中に入って魔物討伐とかしていたみたいですから。その時にパワーとかジャンプが役立ったみたいです」
「てことは冒険者みたいなことをしてたんだ」
「みたいですね。私が生まれる前のことなので、よく知りませんけど、そうだったみたいです」
初めて聞く話に弘世も頷いていた。
冒険者ギルド協会を立ち上げた源六は、授かったギフトの恩恵で、その力を遺憾なく発揮した。
その力があったからこそ、実際にダンジョンの中を自分の目で見て、冒険者ギルド協会を発展させられたと言っても過言ではなかった。
「それにしても今日は色々な人がくるね」
「うん。まさか冒険者ギルドのトップまで来るなんて……」
小春の発言に弘世が同意する。
ただ、弘世が待ち望んでいた相手はまだ到着していなかった。
それが目的で今日は参加したといって良いくらいだったのだから。
と、そんな時だった。
両開きの扉が開き、静かに会場へと足を踏み入れた人物がいた。
ダークブロンドの長い髪を背中に流した綺麗な女性。
颯爽と歩く姿は、それだけで芸能人顔負けのモデルウォーク。
次第に会場の参加者もその女性へと視線を送りはじめて――
「あ……」
すると弘世もその姿に目を奪われる。
その女性こそ、弘世が待ち望んだ人物でもあり、昔から憧れていた人物の一人でもあった。
「紅林渚《くればやしなぎさ》……!」
日本全国でも十人に満たない数しか存在しないと言われているSランク冒険者の一人だった。