美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
「エコア、大丈夫……?」
「な、なんとか……」
麻未の魔力を接種したことで、体に電撃が走るような衝撃を受けていたエコア。
あれから十数分が経ち、ようやく立って動ける程度には回復していた。
「――では、気を取り直してダンジョンの構築に入らせていただきます」
キリッとした表情を見せるエコアだったが、すでに崩れた姿を目の当たりにしていた皆は、どこかで「この子、イッちゃったな」と内心で思っていた。
エコアが右手をかざすと、八枚のホログラムモニターがふわりと浮かび上がり、前回と同様に地面が揺れ始める。
「いけそう?」
「イケっ!? ……あ、いえ。今回は問題なさそうです」
一瞬、別の意味に聞こえてしまったエコアだったが、どうやら構築自体は順調らしい。
「やっぱり麻未ちゃんの魔力って、すごいんですね」
「あ、あばっ……」
霧乃が満足げに麻未を見ながら言うと、麻未はなぜか変な声を漏らした。
それから前回よりも長い時間がかかったものの、およそ一時間ほどでダンジョンの構築が完了した。
「マスター、いかがでしょうか。ひとまず八つの地形に分けて設定しました」
「おおおおおっ……!」
モニターには、洞窟、草原、山、海岸、荒れ地、森林、沼地、砂漠といった様々な地形のフロアが映し出されていた。
「……っていうか、俺のスキルの効果が発動する回数って、調整できたりするの?」
「はい、可能です。今回は、三階層のフロアでは十回、五階層で七回、七階層で三回、十階層で一回と設定してあります」
「へえ、すごいな」
「加えて、各エリアには小部屋のような施設も設置済みです」
すると、モニターが切り替わり、そこには広めの部屋と施術台のようなものが映し出された。
「施術台みたいなのがある!」
その部屋は『マスタールーム』よりも広く、複数の施術台が並んでいた。
どうやら、その上に横になることでスキルが付与される、という仕組みらしい。
「これは一例です。プール、温泉、サウナなど、何らかの行動を条件にしてスキルを付与することも可能です」
エコアの説明によれば、スキルの付与方法にはかなり自由度があるらしい。
「良いこと思いついちゃったー!」
ひびきが大きな声で手を挙げる。
「何かいい案でも?」
「魔物を作って、それに施術させることってできる?」
「もちろん可能です」
「じゃあ、スライムみたいなやつは!?」
「ええ、作成可能です」
エコアが再び手をかざすと、モニターの一つに、小さくて透明なスライムが出現した。
「あ、可愛いかも」
「ひびき、何に使うつもり?」
ひびきの意図を測りかねた弘世が尋ねる。
「私たちってさ、弘世のスキルの恩恵を受けるために、結構恥ずかしい反動を乗り越えたじゃん?」
「まあ、確かに」
「ただ魔物倒して終わりって、つまらなくない? ……ってことで、施術を受ける人たちにも、同じような施術と反動を味わってもらおうってわけ!」
「まじか……」
弘世の施術を受けた者は、裸体をさらされ、直接触れられるという羞恥と、肌が敏感になる反動を乗り越えた。
ひびきはそれを、今後ダンジョンを訪れる冒険者たちにも体験させたいと言い出したのだった。
「エコア、触手って出せる?」
「……このようなものでしょうか?」
「あ、それそれっ!」
スライムが形を変え、体から複数の触手が伸びて空中でうねうねと動き始めた。
「ま、まさか……」
「ふっふっふっ……冒険者には裸になって、弘世の代わりに触手に施術してもらおう! もちろん、反動付きでねっ!」
完全に面白半分での提案だったが、小春も霧乃も沙織も、なぜか頷いていた。
(気持ち悪いとか思わないの!? まあ、自分たちがやるわけじゃないし……)
弘世は、少しだけ女の恐ろしさを垣間見た気がした。
「まあ、あくまで一つの案ってことで。他にも人型の魔物に施術させてもいいし、とにかく反動付きがいいよねっ」
「俺は、スキルがちゃんと付与されるなら何でもいいよ」
「かしこまりました。こちらでも検討しておきます」
弘世の返事に、エコアは丁寧に頷いた。
「あ、もう九時を過ぎていますね。今日はこのくらいにしておきましょう。明日は弘世くんのお家のどこにゲートを設置するか決めて、そこから『マスタールーム』に入りましょう」
「うん、そうだね」
もともと暗くなってから始まったダンジョン制作。学生には遅い時間だった。
こうして、この日はダンジョン制作を切り上げ、皆は帰宅することにした。
「エコアはどうするの?」
「私はダンジョンそのものに近い存在ですので、この体ごと消すことができます。ご心配なく」
「うん……わかった。また明日来るねっ」
「はい、マスター。お待ちしております」
閉じていたゲートを開いてもらい、エコアを残して一同は多摩川の河原へと戻った。
別れの挨拶を交わし、それぞれの帰路につく。
◇ ◇ ◇
――一方その頃。
冒険者ギルド協会の本部『ダンジョンゲート管理局』では、大きな騒動が巻き起こっていた。
「緊急! 緊急! 多摩市多摩川近辺にて、膨大な魔力を感知! 新たなゲートが出現しました!!」
前方の巨大モニターには日本地図が映し出され、東京都がズームインされていく。
職員の一人が、赤く点滅する一つの箇所に注目した。
周囲には他にもゲートの表示がいくつかあったが、その中でも多摩市に表示された赤点の大きさは桁違い。
この赤い点は、ダンジョンに内包されている魔力量を示している。
「会長! 誰か会長を――」
「――よい。もういる」
静かな声に、職員たちが振り向く。そこに立っていたのは、冒険者ギルド協会会長・氷堂源六だった。
「か、会長! こちらをご覧ください!」
「……ああ、わかっておる」
「え……あれ!? ゲート消失! 反応が……なくなりました!」
出現していたはずのゲートが突如として反応を消し、何もなかったかのように画面から姿を消す。
だが、源六は落ち着いた様子のままだった。
「多摩市に決めたか……よし」
「会長……?」
「お前たち。恐らく、再びゲートが出現する。その時点で今後の方針を伝える。それまでは外部への情報伝達を一切禁ずる!」
「は、はいっ!」
源六の命令に、職員たちの間に緊張が走る。
通常ならゲートの出現は、登録冒険者がアクセスできる専用サイトにすぐに掲載されるはずだった。
だが今回は、異例の「情報秘匿」方針。
霧乃から『ダンジョン・コア』の存在を聞いていた源六は、ダンジョンが完成するまでは情報を伏せておくと決めていたのだった。
日本初の『ダンジョン・コア』による特別なダンジョン。
冒険者たちを驚かせるその存在が公になるのは、もう少し先のことになる――。