美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
『マスタールーム』のテーブルの上には、弘世の家から持ち込んだお菓子や飲み物が広げられていた。
それらを口にしながらダンジョン会議は続けられていた。
施術室で果てた陽鞠と海莉については女性陣が体を拭き、現在は施術台の上で就寝中だ。二人のなけなしの名誉のため弘世の部屋にあった毛布をかけている。
「では、入場料ですが……まずは安い金額からはじめて、利用客が多すぎるようなら金額を上げていっても良いのではないでしょうか」
「うん……サービスって低価格であればあるほど、顧客の質も悪くなるって言うしね……」
「悩みを解決したいけど、お金がないって人はいないかな?」
「さすがに高くても千円程度なら用意できると思うけど……最初はワンコイン五百円にするとか」
冬月沙織は当初から入場料を取る形でこの『美容ダンジョン』の運営を考えていた。
もちろん自分がもらうのではなく、弘世に還元する形でのお金稼ぎではあるが、ここは最奥のボスを倒しても『消えないダンジョン』だ。
何度でも入ることができるため、今までのダンジョンではできないことができる。
「そもそも冒険者は十六歳以上。高校生になればバイトくらいできるだろうし、五百円ならちょうど良いんじゃないかな?」
「うん。沙織さんが言った通り、様子を見て金額は変えていけるから、最初は五百円にしよっか」
「そーしよー!」
「あばっ」
満場一致で最初の入場料は五百円と決定した。
どれだけの人が集まるかわからないが、一人が何度も繰り返し訪れてくれるだけでも倍々になってお金が入ってくることになる。
「あ!」
「どうしたの弘世」
入場料を決めたタイミングで弘世がハッとしたように声を出した。
「できれば、冒険者には死んでほしくないんだけど、そういうことってできるかな……?」
弘世が口に出したのは冒険者の生死について。
ダンジョンに入る冒険者は、少なからず命の危険に晒される。
故にこれまでも大勢の冒険者がその命を散らした。
家族がいた人もいただろう。夢を見てパーティと挑んだ人もいただろう。
もちろんそうではない悪巧みをする人だって――。
「自分のダンジョンで人が死ぬのを見たくないなぁ……」
「弘世……」
「弘世くん……」
弘世の発言にしんみりとした空気になる。
「あ、いや……ダンジョンってのはそういう場所だからしょうがないけどね。だからできな――」
「できますよ」
「へ?」
「できます」
弘世の背後に立ったまま控えていたメイド服姿のエコア。
彼女は冒険者を死なないようにできるというのだ。
「これはダンジョンに入る冒険者との『契約』になります。契約者にはこちらで決めた一定のダメージが体に入った瞬間、入口へ転移させ治癒魔法を行使する――これで安全が保証されるでしょう」
「おお……」
エコアが説明した内容を聞き、弘世は言葉が続かなかった。
自分の想像以上に完璧な冒険者の死亡対策だったからだ。
「――ただその場合、膨大な魔力量が必要になります。麻未様の魔力があるので、正直十分過ぎるのですが、大量に消費されるのはダンジョンの維持において弊害であると言わざるを得ません」
「それってどういうこと?」
「ダンジョンを維持するには魔力が必要です。その魔力が枯渇してしまえば、ダンジョンが崩壊してしまいます」
「ええ!?」
重要すぎる話に開いた口が塞がらない。
『ダンジョン・コア』は運用次第でゴミにもなり得るような話だった。
「ダンジョンというのは一般的にマスターの魔力量にも依存します。麻未様の膨大な魔力がありますので、ダンジョンが崩壊する危険性はないかと思いますが、維持に消費する魔力は通常、ダンジョンを訪れた人から徴収します」
「つまり、冒険者からもらって維持するのか」
「はい。ですので冒険者が訪れないというのは、ダンジョンの崩壊に繋がります」
となれば、入場料を上げすぎて冒険者が訪れないようにするといった方法は基本的には取れないということになる。
ある程度の金額まで上げたら打ち止めにしたほうが良さそうだ。
今のところは五百円ということになっているが、この先どうなるかはまだわからない。
「崩壊の危険性はわかった。でも、今のところは麻未ちゃんのお陰で問題なさそうだね」
「あばっ」
「そうなります」
エコアが作り出した陶器のようなコップに入った水をぐいっと飲み込むと次の話題へと移行する。
「じゃあ次だ。ダンジョンに入る条件だけど、前に少し話した時は色々な人に悩みを改善してほしいから、冒険者じゃない人も入っていい、といった条件にするって言ってたと思う」
これは弘世の願いだ。
冒険者だけが願いを叶えるのは範囲が狭すぎる。
「冒険者を雇って一緒にダンジョンに潜ることを良しとするってことだね」
「うん。『ダンジョン観光』に近いね」
『ダンジョン観光』も冒険者ではない一般客が低ランクダンジョンを用心棒として冒険者付きで観光するといった内容だ。
それを考えると『美容ダンジョン』は『ダンジョン観光』の利用条件に近いことになる。
「死なないって話だから、最低でも一人の冒険者が同行すれば問題ないって考えてるけどどう?」
「うん。それは良いと思う。ただ、お金を持ってる人が強い冒険者を雇って、あまり強くない冒険者を押しのけてダンジョンを攻略しようとしたらどうする?」
小春の意見だった。
彼女はダンジョンに入った経験はあの『ダンジョン観光』が初めてだったが、あれから自分でも色々と調べていた。
小春のギフト『軽減』は補助魔法使いとして冒険者になれる資格のあるギフトだった。冒険者になる気はないとはいえ、『ダンジョン観光』で起きたトラブルに巻き込まれないとも限らない。
あれから小春は色々とダンジョンについての勉強をしていたのだ。
「それに近い話はよく一般的なダンジョンでも起きていますね。高ランクの冒険者が低ランクの冒険者を無下にして、お宝や討伐する魔物を奪ったり」
ダンジョンに詳しい沙織が一言。
「うーん。一番は本当に悩みを改善してほしい人に挑んでもらうことだからなぁ。ダンジョンを知ってもらうという点なら、施術以外にも宝箱とかを設置してもいいけどね」
「これもまずは今の条件でやってみて、そのあと考えてみてはどうでしょうか? もしダンジョン内で低ランクの冒険者が高ランクの冒険者に酷いことをされた場合、エコアさんや麻未さんに介入してもらうとか」
「あ……それは良いね。麻未ちゃんにはちょっと苦労かけちゃうけど……エコアって強かったりするの?」
ダンジョンの調停者や仲裁者といったところだろうか。
トラブルが起きた時には放置するのではなく、対処してそれを収める。
ダンジョンでは人同士の殺人事件が行われる場合もある。
『美容ダンジョン』ではそんなことはさせたくなかった。
「そうですね。麻未様の次には強いと思います」
「ええ!?」
「私はマスター、そして麻未様を登録し、魔力の繋がりを得ました。得に麻未様の魔力はとてつもなく、私に力を与えてくれましたから――見てください」
するとエコアはホログラムモニターの一つに手をかざし、何かを発動した。
「うおっ」
モニター内では、土の地面が盛り上がり壁が出現――言わば『アースウォール』と言ったところだろうか。
「わ、私……あんなことできない……っ」
呟いたのは麻未だった。
可能性としてはエコアはマスターである弘世とサブマスターの麻未のギフトが使えるだけだと思っていた。しかし、麻未が言うには自分ができないことをしているというのだ。
「私はこのダンジョンを実際に構築しているのですよ。具現化できることは何でもできます」
「麻未ちゃんくらい強いなら大丈夫そうですね!」
霧乃は手を叩いて笑顔になった。
彼女は麻未の強さをよく知り、そして一番の信者だ。
「じゃあトラブルは麻未ちゃんじゃなくて、エコアに任せれば良いね」
「お任せくださいマスター。私がいる限りこのダンジョンでは好き勝手はさせません。ふんす」
「はは。任せたよ」
エコアは無表情の顔を少し動かし、眉をキリッとさせた。
弘世たちもそれに頷き、トラブルについてはエコアに一任することになった。
◇ ◇ ◇
本日の会議が終わり、目覚めた陽鞠や海莉と共にゲートを通って弘世の部屋に出ていく一同。
しかし、『マスタールーム』の中にはまだ三人が残っていた。
時間は午後三時。
日没までまだ少し早かった。
「――高梨、先輩……」
名前を呼んだのは外国のお人形さんのように可愛い八木沼麻未だった。